表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
67/432

61-氷獣

氷の怪物達と戦闘を開始して数分後。

俺達は、既に彼らの特徴を理解しつつあった。


まず、こいつらを生み出したヒマリがいないと、そこまで頭を使った戦い方ができないということ。

これは、そもそも生物じゃないのだから当たり前だ。


彼らはただ単純にその体の兇器を振りかざすだけ。

厳しい相手であることに変わりはないが、討伐依頼の魔獣達よりははるかにマシだった。


そして次に、硬い……硬すぎる。

ニーズヘッグの鱗や巨人の筋肉も相当な防御力を持っていたのだが、彼らはそれでも生物だった。


それに対して、目の前の怪物は氷という無機物。

この国には鉱石として存在するものもあるようなので、魔獣よりも硬いというのもしょうがない。


一応ライアンの攻撃で、少しずつ削れてはいるんだけど……


"獣の王(カルノノス)"


今のライアンは、獣の王(カルノノス)でフェンリルの体にニーズヘッグの口の尻尾、そしてレグルスの光を纏うという最強の形態だ。

彼の相手は氷狼だし、同じような見た目だと不利になることはない。


ほぼ必中で繰り出される光速の牙や爪での攻撃、躱されているが炎を吹き出す蛇の尾などなど。

存分にその力を振るっていた。


それでも砕けないんだよなぁ。

俺は、氷獣達の硬さに辟易しながら剣で斬りかかる。

正直近づきたくないし弓で戦いたいんだけど、流石にライアンが手こずる相手に矢はちょっと……

通用する気がしない。


"行雲流水"


氷や瓦礫のせいで足場が悪いため、俺の力で一撃は難しい。

そのため流れるような動きで、悪路も攻撃も避けて剣を蛇の怪物にぶつけた。

斬る、と言えないのがもどかしいな……


攻撃の後、俺は当たり前のように弾かれて瓦礫に突っ込む。

……痛ぇ。


「すぐ立たないと危ねぇぞ〜」

「分かってる」


ライアンの言う通り、すぐに氷蛇は俺に向かって這ってくる。けど、避ける場所ねぇよ……


俺の周囲は氷と瓦礫に囲まれている。

流石に今からその壁に登っても間に合わないだろう。

それなら……



「しゃーねー、来い」


俺は覚悟を決めて、蛇に向き合う。

行雲流水で流されるか、水禍霧散で真っ向勝負をするか……はたまた霧雪残光で数うちゃ斬れるで行くか……迷う。


だが呑気にそんなことを考えていると、頭上から声がかけられた。

ないすだーチルー。


「いや逃げなさいよ!!」

「ハハッ助かったぜ」


空を見上げると、そこにいたのはもちろんローズ。

茨を道にしてやってきたらしく、チルと共にだいぶ上空にいる。

あれ……? 間に合うよな……?


一瞬、間に合わずに噛み砕かれる光景が頭をよぎったが、流石に杞憂だったようだ。

ローズは妖火を勢いよく下に飛ばし、氷の蛇に攻撃を仕掛ける。


"妖火-蛍火"


それを受けた蛇は、完全には溶けないまでも表面はドロドロ。その硬度をほとんど感じさせない見た目になった。


しかも、俺に向かってきていた勢いは止まるどころかよりスピードが上がっている。

これ以上のチャンスはねぇな。


"霧雪残光"


ナイフも取り出し、両手の武器を一心不乱に振りまくる。

まだ中心部分は硬いが、あとはもう勢いだ。

もうピクリとも動けないように粉々に切り刻む。


「ふぅ、助かった。ありがとな」

「はぁ……肝を冷やしたよ」

「運いいから死にはしねぇよ」

「そういう問題じゃないでしょう!?」


俺はいつものように運がいいことを主張するが、どうやらローズはそれも踏まえて怒っているらしい。

……これは後で絞られるか?


これ以上は神経を逆なでしないようにしよう。

だが今はもう一体の怪物退治だ。フーとロロも心配だけど……


見たところ彼女は1人だったが、一応見かけていないかは聞いてみるか。


「ロロ達は見かけたか?」

「あれ、運よく見つけてたりしないの?」


どうやらローズもそれを当てにしてきたらしい。

自分がチルと一緒なのに心配そうにしている。


「チルそこだろ」

「そっか……じゃあ私探そうか?」


ローズはチルに目を向けると、すぐにそう提案してきた。


うーん……

ここに氷獣は二体いるし、あと一体の巨人は流石にヒマリと一緒にいるような気がする。

暴動なんかでやられることもないだろうし、優先順位はヒマリかな。


「いや、あの2人なら大丈夫だろ」

「そう? ロロちゃん心配だけどな……」


そう結論付けて空に呼びかけると、彼女はしばらくして下に降りてくる。

どうやら相当後ろ髪を引かれる思いだったようだ。


まさか死ぬなんてことはない……よな?

ローズがそんな表情をしていると、こっちまで不安になってくる。

けど……


「どうしたの?」


ローズは俺の顔を見ると、さらに心配そうな表情で聞いてきた。

ライアンと違って、彼女はヒマリに会ったことがあるんだよな……少し話しにくい。

話さない訳にはいかないけど。


「……あの氷獣さ。ヒマリが作ったんだよ」

「ヒマリちゃんが?」

「ああ。だから、ロロ達には悪いけどこっちを優先したい」

「それってさ……大厄災ってこと?」

「そうだ」


ここまで話すと、流石にローズも迷いを消す。

消えた妖火を、再び周囲に生み出した。


「ライアン、妖火が行くから気をつけてね」

「オッケー」


"茨海"


"妖火-蛍火"


ローズは氷蛇にやったように、妖火を氷狼に向かって飛ばす。

その動きは大したスピードではないが、茨が周囲を囲むので回避はそうそうされないだろう。


だが決め手にはならないので、すぐに止めを刺せるように俺も急いで接近する。

茨が動きやすい足場になってくれているので、瓦礫も氷も気にならない。


「ライアンは後ろを頼む」

「任せな〜」


俺達は、連携を取りながら氷狼を包囲する。

茨は既にやつを覆っているので、あとは妖火が当たるだけ……


ガシャン!!


だが、氷狼は唐突に空高く飛び跳ねて回避行動を取った。

さっきまではライアンとじゃれ合っていたのに、妖火は危険だと判断するくらいはできたのか?

氷蛇が溶けているから、無理もないかもしれないが……


それは、空に漂っていた茨を足場にさらに妖火からの逃走を始める。

これを自由に走らせる訳にはいかねぇぞ……!!


「茨って空でも包囲できるか?」

「た、多分……」


かなり不安になる答えだが、今は信じるしかない。

俺は、氷狼が走っていく方向を見上げて後を追う。

囲ってくれないと、サイズ的に追いつける気がしないな……


しかもあれは、茨という小さな足場でも軽やかな動きを見せている。

捉えようとする茨まで使った大脱走で、あそこから下に向かえば今にも視界から消えてしまうだろう。

端的に言って逃げられそう。


逃げられそうなのに……何故かライアンが動かない。

しかも人型になってるし……なんで?


「ライアンどうかしたか!?」

「ん〜‥」


俺は焦って声をかけるが、彼はそれでもその場に立ち続けている。何なんだ?


だがなんにせよ構っていられない。

もう見失いかけているが、そのまま氷狼を追って運がよければ……


"獣化-スレイプニル"


「は?」


俺が今まさに見失うというところで、ライアンは急に能力を使った。

彼が今回使ったのは、能力としては初めてのスレイプニル。

当たり前だけど、俺達が討伐したやつと全く同じ姿だ。


そして、彼は気がつくと氷狼を追って遥か上空にいる。

いつだかのケット・シーの能力だと思うけど……

スレイプニルの瞬発力も相まって、ただ跳ねていただけの力なのに恐ろしい効果だ。

もう見えねぇ……


それを見ると、俺とローズも茨に運ばれて空を移動する。

正直走っていくのとそう変わらないが、上から探さないと場所も分からないからな……


「私達、蛇倒したけどさ……」

「うん?」

「ライアンだけで良かった気もするね」


その視線を追うと、丁度ライアンが氷狼を殴り飛ばしているところだった。

……確かに。


よく見るまでもなく、彼は全身が炎に包まれている。

その範囲は広くはないが、時間をかければ1人で倒せそうだ。

……時間をかければ。


「あの規模の炎じゃ2体は無理だろ」

「そうなんだけど〜……何か無力感がありすぎてさ〜」


気持ちはよーく分かる。

俺は、呪い的にほぼ全員に対して思っているし。


「けど、ローズはあいつ以上の火力を出せるだろ。

今回はライアンが消火できそうだし」

「そうだね。範囲は絞るけど……」


そう言うと、ローズは下に向かって妖火を放つ。


"妖火-送り火"


今回は、言葉通りちゃんと範囲を調整してくれたらしい。

そもそも気づかれないように茨が囲っているのもあるが、ヘルの時のような全てを燃やすほどの範囲ではない。


それでも中にいたら普通に死ねそう……

ライアンは自分で燃えてたし問題はない……か?


「ライアン大丈夫かー?」

「問題ねぇよ〜」


今更だが念の為聞いてみると、彼は煙すら意に介さずそう答える。

よく見えないが、どうやらまだ殴り続けているようだ。

丈夫すぎる……




数分後。

氷狼を倒しきったライアンが、炎のサークルから外に出てきた。

服も体もまるで燃えた跡がない。

まぁ纏っているものに燃やされる訳もないか。


「思ったより時間かかったな」

「そうなんだよな〜。光り方も蛇より強かったし」


理由は分からないが……倒せたならいいか。

どうせ大した事でもないし、それよりは次だ。


「俺はヒマリのところに行くけど2人はどうする?」

「もちろん行くぜ〜。心配だしな〜」

「私の炎は必須でしょ?」


一応確認してみると、2人共俺の目をまっすぐ見てそう言う。

ローズからは、私だってヒマリを放っておけないという意識も感じる。

頼もしいな。


「なら急ごう」

「お〜う……あっそうだ、俺に乗れよ〜」


急に何を言い出すんだ? とライアンを見つめていると、彼はさっきのようにスレイプニルに変身始める。

確かに2人でも3人でも乗れそうなほどに大きい……

それに馬は乗るものか。


"獣化-スレイプニル"


「でも場所が分かんねぇぞ」

「少しの間なら、空を走れるからよ〜」


本当に便利……というかずるい。

俺達は、ライアンに乗ってヒマリとニコライを探し始めた。





よければブックマーク、評価、感想などお願いします。

気になった点も助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ