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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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58-VSニコライ

翌朝。

ドールの家で目を覚ますと、俺の目に映ったのは静かに佇むヴィニーの姿だ。どうやら一睡もしなかったらしい。

油断しないといっても、再戦に影響出したら意味ないだろうに……


「おはよう」


そんな彼は、俺が起きたのに気づくといつも通りに挨拶してくる。

寝ていないとは思えないような、神経が研ぎ澄まされたしっかりとした顔つきだ。寝てない……よな?


「寝なかったのか?

全員寝るのが駄目でも、言えば代わってくれるだろ」

「んー‥まぁ2人はよく寝ていたからね。

お嬢達は夕食に起きたけど、2人が起きないならお嬢達も同じくらい疲れてる。もちろん休ませるよ」


プロだ……

ローズは敬っているにしても、それ以外は普通に仲良くしているのにそれでも身を引いている。

労りのプロ……すげぇ。


「朝食食べちゃいな」


と差し出してくるのはオムレツ。

卵料理強化週間か……? 別に好きだけどさ。


そんなことを考えていると、ヴィニーは他のみんなも起こし始める。……母親?


寝なかった上に朝食作り、仲間を起こすことまでやるとか半端ないな……




俺とヴィニーが起こすと、仲間達は速やかに朝食を食べ外出の支度を始めた。

俺は少し面食らったのだが、どうやらヴィニーが夕食の時に話していたらしい。まぁヴィニーだもんな……当たり前か。


すぐに納得して、俺も支度を始める。

甘い香りを漂わせるオムレツを口に運び、寝具を片付け、武器を腰に……


「そういえばドールのことはどうするんだ?」


ふとそう思ったので聞いてみる。

今の彼女は落ち着いているようだが、やはりその無表情で生気もない。無表情は最初からだけど……


まぁそれはともかく、取り乱してはいないが1人にはさせたくないし、かと言って戦いに参加させる訳にもいかないし……

正直扱いに困るな。


すると、ローズが言いにくそうに口を開く。


「そうだね……できれば誰か残したい……かな」

「いえ、ドールは1人で大丈夫です」


うーん、本人はこう言うけど……


「悪いけど、やっぱり残したいよな」


ライアンがいれば、ニコライと互角の戦いはできるだろう。

そこに俺やロロの掩護、ローズの搦め手があればかなり安定感もある。

うん、1人くらいなら残せそうだ。


「なら、俺が残りましょうか?」

「ちょっと待て。お前寝てないんだよな?」

「そうだね」


慌ててそう言うと、彼はしれっとそれを肯定する。

さっきも聞いたが、それは疲れが溜まりすぎているんじゃないか?


昨日のローズだって様子を見てるだけで大分疲れていたし、今の状況でヴィニーに任せてしまうのは気が引ける。

また警戒続きになるだろう。


かと言って、再戦もつらいだろうし……


「なら俺も残るぜー。そしたらヴィニーは寝れるし、何かあったら起きればいいだろ?」

「それがいいね」

「お嬢がそう言うならそれでいいですけど……勝てます?」

「俺に任せとけって〜」

「それじゃあ……」


そう言うと、ヴィニーはあっさり引き下がる。

これなら心配事もないな。


俺達はヴィニーが横になるのを確認すると、吹雪の中研究塔に向かった。




~~~~~~~~~~




俺達がなんとか研究塔に着くと、入り口で待っていたのはつなぎ服の男、アレクだった。

俺達は歩くどころか立っているのすら大変だったというのに、彼は例の機械を周囲に置いているため影響は少ないようだ。

それ貸してくれても良かったんじゃないか……?


「よう。今日はヘーロンさんじゃないんだな」

「おいーっす。今日は僕っすよ。

彼女はブライスなんかと一緒に国中駆け回ってるんす」


みんな我が強そうだったけど、国の問題にはちゃんと出るんだな……こんな吹雪の中なのに大変だ。


「なんで君はいるのー?」

「僕はそういうのには向いてないっすからね。

案内役くらいが丁度良いんす」


ロロにそう答えると、アレクは俺達を促して中に入っていった。




~~~~~~~~~~




俺達がアレクに案内されて行ったのは、北塔の頂上。

空に向かって筒が伸びている不思議な場所だ。

今までの機械とは、雰囲気も間のとり方もまるで違っていて違和感を覚える。

マキナもニコライもいないし……


「ここって何の場所何だ?」


一応最初の会場のように、丸い仮想空間に入るための機械が並べられているが最初から置いてあるものではなさそうだ。

備え付けは……巨大な筒、小さめで歯車付きの筒、白塗りの立派な建物くらい。

あとは、何故か暗いのが気になるな。


「ここは天文台っすね。マキナさんの研究室は狭いし、ニコライ様の研究室は少し危ないんで借りたんす」

「へー……じゃあ、普通にこの丸いのに入ればいいんだね」

「そうっす。

今回はニコライ様だけなんすけど、健闘を祈るっすよ」


ローズが確認すると、アレクは軽い調子でそう答えた。


密入国者として出国禁止になったはずなんだけどな……

アレクの様子を見る限り、特にどうも思っていないように感じる。


気になってそう聞いて見ると、どうやらもう出国禁止にしておくつもりはないらしい。


氷を溶かすマシンはほぼ完成している。

討伐に検査、氷煌結晶の採集と色々貢献したので解放は決まっているのだと。

だが契約はしたので、これは一応のけじめ。


でも外国への警戒心はいいのか……?

すると、ヴィニーも同じことを思ったのか探るように聞く。

それに答えるアレクは屈託のない笑顔だ。


「案外信頼してくれてるんだね」

「マキナさんが観察した結果、信用できると結論付けたんすよね。だから大丈夫っす」


……確かに観測するような能力だったな。

ずっと見られていたとしたらアレだけど、ヘズも何かに反応するとか言ってたし……

流石に四六時中ではないだろう。


取り敢えず負けても解放は嬉しい。

……いや、負けっぱなしは悔しいし勝ちには行くけども。


「わはー、出れるんだぁ。よかったね、クロー」

「そうだな。だとしても勝つけどな」

「俺も強くなったからな〜」


俺達は決意を新たに、仮想空間に入るためのポッドに身を沈めた。




~~~~~~~~~~




俺達が仮想空間に降り立つと、その場所はこの国にある森のようになっていた。

一本一本が太く10メートル近くの樹高を持つ、巨大樹の森……


うっすらとだが雪まで積もっているので、おそらくは俺達が狩りで慣れている場所にしてくれたのだろう。

手厚いことだ。


そんな場所に彼……ニコライは立っていた。

いつものように白衣を羽織り、腕を組んだまま身じろぎもせずに堂々と。

膨大なオーラも相まって、王者の風格すら感じる。


「来たね」

「おう。けじめ……なんだろ?」

「その通り。だが、ヴィニーくんはいないのだね」

「ヴィニーはアトリエだ」

「けど〜俺がいれば申し分ないだろ〜?」

「そうだね……では、始めよう」


"伝導"


そう言うとニコライは、電気を纏う。

ウォーゲームの時に、俺達全員を圧倒したスピードと破壊力を兼ね備えた能力……


「掩護は任せるぜ〜」


"半獣化-レグルス"


そう言ってライアンが変身したのは、二足歩行のまま立つ光獅子。


といっても、四足獣がそのまま立ったようなものではない。

同じようにたてがみがある。強靭な四肢がある。

だがサイズは人型に収まっているので、より洗練された肉体だ。


完全な獣化は的になるし、ただ纏うだけなら力不足。

それなら1種類だけでも人型で獣化してしまおう、ということだろう。

この感じだと部分ごともできそうだし……うん、便利すぎる。


「ああ、任せろ」

「あたしもだよねぇ?」

「いやお前こそだろ」


俺ができるのは、少し運を良くすることだけ。

フーの遠距離攻撃こそ掩護だってのに……


俺は少し呆れつつ能力をかける。


"幸運を運ぶ両翼"


「踊れ、ナイフ!!」


"そよ風の妖精(ゼプュロス)"

"茨海"


フーがそよ風でナイフを飛ばし、ローズが茨のフィールドを作り出す。これで掩護の準備は万端だ。

それを見ると、ライアンは笑みを深めて走り出す。


「じゃ〜行くぜ〜」


その姿はすぐに光となり、視界から消える。


「こい」


そんなライアンに答えるように、ニコライもまだ電磁場を出さないようだ。

同じようにその場でかき消え、そのちょうど中間辺りで閃光が走る。


お互いに電気、光と目で追えないけど……


「念動力でライアンにはナイフも茨も当たらないよ」

「おっけー‥」


フーが降らせるナイフの雨は、そんなことはお構いなしだ。

範囲内にいさえすればいいのだから、やたらめったらに飛ばしまくる。


"赤茨鎖錠"


そして茨も、逃げ場を奪うように彼らの周囲に突き刺さっていく。

何でまだ無事なのか不思議なレベルで地獄絵図なんだけど……


「燃えてくるぜ〜!!」

「ヒヤヒヤするよ……!!」


俺達にはよく見えないがどうやら互角に戦っているようで、どの方向にも等分に茨の海が弾け飛んでいる。

それはナイフも同じ。


というか、前回と違って獣化なのに張り合えるのかよ……

幸運かけただけなのが悔しい。

いや、まだできることはあるな……


「なぁローズ、弓作れねぇか?」

「弓?」

「ああ。俺は昔、弓を使って狩りしてた時がある。

あれに近づける気はしないけど、弓で突くくらいなら……な」

「なるほどね……いいよ」


そう言うとローズは、槍を出した時と同じように手のひらを下に向ける。

茨のままという訳にはいかないので、まず出てくるのは太い茨。そこから徐々に裂けていき……


"妖火-蛍火"


その隙間に妖火で熱が加えられ、赤々と光り輝く。

植物なので鍛冶とは違うが、そう言いたくなるくらいの熱量だ。


「雷……光……獅子……風……妖火……あの泥よりは弱いかもだけど、それでもこの場の神秘を存分に吸収して……」


"災いを穿つ茨弓(ボルソルン)"


完成したのは、淡く発光する弓だ。

槍の時のような禍々しさはないが、それに負けないくらいに存在感がある。

俺にはもったいないくらいだな……


俺がそれを割れた茨の中から取り出すと、ローズはその外周部から矢を作って渡してくれる。

弓本体に比べると弱めだが、それでも十分すぎる神秘だ。


「ふぅ……矢もどうぞ」

「ありがとう」

「出来たなら速く撃ってほしいねぇ。

あの2人、なんだか戦い方が変わってるよ」


そう言われて目を向けると、いつの間にかニコライは電磁場を出していた。


ライアンも"ケット・シー"の氷を飛ばしたり、腕に"メガロケロス"の角がついていたりしているようだ。

それだけでなく、見えにくいが蛇の尻尾も出ている気がするし、足元には"スリュム"のサークルがある。


あれを出されちゃ、そりゃあニコライも戦法を変えるよな。

……ていうか掩護いるか?


「スリュム……死してなお忌々しい……」

「今じゃあ俺の力だぜ〜」


"渦電流"


氷、角、弱体化に蛇の牙と炎。

悪態をつく割には、その手数をニコライは目を疑うほど綺麗に避けている。

ヴィニーや俺の行雲流水のように、流れるような動きだ。


"ヤールングレイプル"


しかも、その合間に放つのはヴィニーを倒した電撃の拳。

掠っただけでも危うくなるんじゃないか……?

うん、確かにのんびりと弓を見てる場合じゃないかもな。


「ああ、俺の必中を見せてやる」


俺はフーにそう答えると、新しい武器を構える。

両肩を水平に、顔のすぐそばまで矢を引き……放つ。


"必中の矢(ゴヴニュ)"


それは一直線に飛んでいき、電気の膜を突き破る。

ナイフや茨も全てすり抜け、その圧倒的な運命力はニコライの左肩へと……


「ぐっ‥なん……だと……!?」


俺の弓矢は、何故かナイフや茨のように逸れることはなかった。……運がいい。


ダメージは少ないが、生まれた隙は致命的だ。

ニコライのむき出しの胴体に光速の拳が襲いかかる。


「隙あり〜」


"レグルスインパクト"


「がぁっ‥!!」


さらに追撃。追撃。追撃。

目にも留まらぬラッシュを受け、ニコライの体は吹き飛ばされていった。


しかも意識がないので、宙を舞うナイフや乱立する茨にも全身を引き裂かれている。

たった一本の弓矢で散々だなニコライ……


そして彼が倒れたことで、この仮想空間も徐々に薄れていく。どうやら勝った場合は消えるように現実に戻るようだ。


俺は、この弓も消えるのか? とぼんやりと考えながら暗いポッドへと戻されていった。

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