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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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56-白銀の神馬

翌日の早朝。

俺達は大雪の中、怪我を無理矢理治したヴィニーも含めて全員で揃ってアトリエに向かった。


だが残念ながら、マックスはギルドにいなかったので一緒に来ていない。

マスターが言うには、まだ不穏な空気が漂っているとのこと。討伐完了したらバースの研究塔に行けばいいらしい。


首尾よく行けば、明日は再戦かねぇ……

出国禁止になったけど、意外と早く出られそうだ。


そんな展望もあって、俺達は気楽にアトリエに足を踏み入れる。


「おはようございまーす」


流石にまだ絵は描き始めていないようで、室内に人影はない。

イーゼルや壁に立てかけられた絵画は美しいが、人もおらず明かりも消えているとどことなく寂しい雰囲気だ。

それに……何故だろう? 少しカビ臭い気もする。


「ドールいるか?」


俺は階段前に歩いていき、二階にむかって声をかけてみる。

階段は、アトリエと同じように暗く寒々しい。


もし寝てたら、ドール抜きで行くことになるかな……

画家は彼女に色々見てほしいらしかったけど。

そんなことを考えながら数分待ったが、誰も出てこない。

……どうしよう?


「いないの?」

「うーん……気配はないな」


隣にやってきたローズが、そう言いながら階上を覗き込む。

まず俺達が会った方がいいかと前に出ていたが、そもそも会えないんじゃな……


そう思い引き返そうとすると、ローズに抱かれたロロがこんなことを言い出した。


「えー? 2階だれかいるとおもうよー?」

「え、マジで?」


いるのに出てこないって何だ……?

不思議に思って聞いてみると、どうやら上にいるのは1人だけらしい。

魔人とのことなので、十中八九ドールだ。


画家はいないがドールはいるのか……

確かにあの人は、ずっと籠もってるような人ではなさそうだった。けど朝っぱらから出歩く人でもないよな?

あの子のことを大事にしている風だったし。


「様子を見た方がいいよな?」

「そうだね。私とフーで行ってみるよ」


呼んでも出てこないなら、あまり男がズカズカ入って行くべきではない。

様子を見るのは2人に任せ、俺達はしばらく待つことにした。




~~~~~~~~~~




ローズ達は、ほんの数分でアトリエに降りてきた。


彼女達はちゃんとドールと一緒だったが、どうやら何かあったらしい。

無表情ながらも蒼白で、うわ言のようにごめんなさい、すみませんと繰り返している。


「すみません……ドールは、ドールは‥」

「どうしたんだ?」

「分からない。

今はパニックになってて話せないみたいなの。

私はこの子の様子を見てるから、みんなは依頼に行ってくれないかな?」


確かに今のドールは目が離せない雰囲気だ。

ローズが抜けるのは痛いが、心配だしそうした方がよさそうだな。


「分かった。けど1人は‥」

「そうだね。もう1人残ってくれるとありがたいかも」


ロロとライアンは依頼に必須。

リューは騒がしいし、フーは喋れないからやり取りが不安だ。

……うん、俺かヴィニーだな。


「ヴィニー、俺かお前のどっちかが残れるといいんだけど、どう思う?」

「……」

「ヴィニー?」

「え……? あっすみませんお嬢」


ヴィニーに視線を向けると、彼はアトリエの一部分を凝視していた。

それも、ローズが声をかけるまで微動だにしないで。


何を見ているのだろう? とその視線を追うと、その先にあったのは例の偽装されたドアだ。

よく気がついたな……


「アレがどうかしたか?」

「ん〜? アレって何のことだ〜?」

「ここの主人に入るなって言われたドアだよ。

見つけられてないなら探さないでくれ」


アレが何かは知らないが、あの表情はただごとではない。

バレたヴィニーはともかく、気づいてないやつには教えない方がいいだろう。


「いや、偽装されてるなと思ってね……

それで、残る人だよね? 俺が残るよ」

「そうか? じゃあよろしく頼むな」

「うん、任せてよ」


ヴィニーの方が強いと思うが、戦闘より見つけるのが大変そうだから丁度いい。

俺達は2人に見送られ、ウプサラ神殿へと向かった。




~~~~~~~~~~




街を出て一時間ほど経った頃。

俺達はようやくウプサラ神殿へと辿り着いた。


その神殿は雪に隠れるように純白。

だが金細工が施されていることで、その存在を主張をしている建造物だった。

隠したいのか見つけられたいのかはっきりしないな……


それから、何故かその周囲の木々は他より厚く木の葉を生い茂らせている。

雪を被っているので結局は白いが、よく見るとその重みが違うのだ。違和感しかない。


だが、もし木々の異変と金の輝きがなかったら見つけられなかったと思う。

言葉にできない気持ち悪さはあるが、感謝だな。


「仔猫〜馬いるか〜?」

「オイラは……むん!!」

「ライアン、あんまりロロをいじめるなって」


ライアンが神馬の感知を頼むが、からかいも混じっていたせいでロロはむくれてそっぽを向いてしまった。

……困る。


「頼むから感知してくれって。

コートに入れてやってるだろ?」


少し卑怯かもしれないが、ここで逃げられたらまたマキナに会わないといけない。

速く出国禁止を取り消させたいので、俺は心を鬼にしてそう告げる。


すると彼は数秒の沈黙の後、感知結果を教えてくれた。

帰ったらまた何か美味いもの食べさせてやるか……


「いるよ。あのへんな建物のうらあたり」


俺達はその言葉に従い、神殿を回り込んで進んでいった。




~~~~~~~~~~




神殿の裏側。

やけに暖かくまばらながら雑草が生えている場所に、神馬は寝転んでいた。


見た目は雪国らしく純白の毛並み。

しかも、体長も4メートルはあるし普通ではありえないことに脚が八本もある。

綺麗ではあるが……


「これが神馬ってやつか? 何か不気味じゃね?」

「そうだな……神馬スレイプニル。八本脚の怪馬。

神秘的で、だからこそ恐ろしいな」


あの脚で走ってきたら、いつだかの鹿とは比べ物にならないような突進になるだろうな……

リューだけに負担がいかないようにしないと。


「ロロとフーは後衛で‥」

「そんなの頷く訳ないじゃないか。

あたしは前線で好きに暴れるよ」

「……」


でも、フーの技って遠距離ばっかだよな……?

最初に会った時のナイフも、結局あれは近づく必要はない。

それ以降に増えたものだって、風圧で吹き飛ばすサージブリーズやそれを槍状にしたシールパラム・パラッセム。


前に出る必要、全くねぇ……

けど説得できる気もしないんだよな。

そう思っていると、ライアンが軽い調子でこう諭し始める。


「でもよ〜。遠くからでもバンバン倒す方が楽しいだろ〜」

「……それもそうかもねぇ。じゃあ今回はそうするよ」


ライアン、ナイス……


「よし、それじゃあ後衛は2人な。ロロを頼む」

「おっけー、任せときな」


あとは……ライアンは前衛確定。

リューは前回ボロボロになっちまってるし、俺が前に出たいな。


「リューはいつでも2人を守れるように中衛でいいか?

俺は遠距離攻撃できないし」

「……」


リューはやはり返事をしないが、頷いてくれるたので決定だ。

俺達は配置を終えると、すぐに神馬へと攻撃を開始した。




戦闘開始の合図は、フーの飛ばすナイフだ。

俺達前衛が身構える中、そのさらに後方から様子見のナイフがスレイプニルに飛んでいく。


それは彼の周囲数メートルを覆い、逃げ場を与えない。

……普通なら。


予想外だったのは、そのスピードだ。

寝転がっていたはずのスレイプニルは、瞬きの合間ほどのスピードで体を起こし、数メートル後ろへといきなり現れた。


ニコライが見つけられないだけあって、その瞬発力は想像を遥かに超えたレベルのようだ。

下手したらすぐに逃げられるな……


「フー、ナイフとかそよ風で辺り一帯を塞げないか?」

「おっけーやったげるよ」


試しに聞いて見ると、彼女はナイフを適度に散らして退路を塞ぐ。

これで戦いはできそうだ。


「ヒヒィーン!!」


どうやら随分とご立腹の様子。

目を爛々と輝かせていて、今にも突撃してきそうだ。

けど、目で追えるものじゃないな……


"幸運を運ぶ両翼"


"ラッキーダイス"


運頼りになるけど、これで防げるか?

と思っていると、すぐにスレイプニルの鼻面が目の前に……


「うおっ‥」


運……かは分からないが、どうにか防ぐことはできた。

剣での防御なのでカウンターにもなったが、同時に俺自身も森まで吹き飛ばされる。

一瞬が命取りってやつだな……


"そよ風の導き"


「悪い、助かった」

「気にすんなって……そうれっ!!」


そよ風で一気に前線に戻る。

周りにはナイフもあるし、取り敢えずは戻れそうだ。

さらにライアンも……


"獣化-レグルス"


少し出遅れながらも、光速の獅子に変身する。

スレイプニルに負けず劣らずの輝きだ。


そして、そのままスレイプニルに向かって腕を振るう。


「ブルルン……」


どうやらスレイプニルは瞬発力しかないようで、彼はその場でその腕を受け止めた。

八本脚を活かしているので、微動だにしない。


「え〜? タフなやつだな〜あが‥」


しかも、腕を止めると同時に獅子の巨体も吹き飛ばしている。馬力が半端じゃない……


だがそれもまたフーが回収し、その隙にリューが重い一撃を入れようと踏み込む。

俺ももう攻撃態勢に入るし、交互に押さえれば倒すのはそこまで難しくなさそうだな。


"恵みの強風(ノトス)"


強風を纏う大剣は、スレイプニルの胴体に直撃……しない。

こいつ、また俺に突進してきやがった……

ふざけてる。


「ぐあ‥」


今度もそよ風で強制的に送還されるが、少し目が回るな……

これで幸運とかおかしいだろ。

しかもフーは楽しげだ。腹立つ。


「アハッおもしろ〜い」

「遊ぶな‥ウプッ」

「オイラがなおすよ」


ロロが俺の手の甲を舐めると、スーッと気が楽になる。

よし、次……って‥


「ヒヒィーン!!」

「何なんだお前ー!!がっ」


何故か俺ばかりを狙うスレイプニルに、俺は再び吹き飛ばされる。

しかも今回は腹に直撃だ。運、どうした……?


だがどうやらライアンも狙われていたらしく、今度は戻ってきた彼に向かっていく。

フーやリュー、ロロは見向きもしない。


「いや〜、流石に俺は2度目はねぇよ〜?」


"獣化-ニーズヘッグ"


……俺バカにされてる?

そんなことを考えながらそよ風に運ばれていると、スレイプニルと激突する寸前、ライアンの姿が黒蛇に変化した。

煙も伴っているので、初めて会った時のように一瞬の変身だ。……少し敵が見えにくい。


「ブルン!?」

「もう逃さねぇぞ〜」


ライアンは赤く発光する巨体を絡みつけ、スレイプニルの動きを封じる。

口からも炎を噴出しているので、ダメージは大きそうだ。


「ブルルン……!!」

「俺ごと攻撃していいぜ〜」

「え、ほんとー!?」


ライアンの言葉に、フーが顔を輝かせる。

そして彼女は、すぐさま回収する時に廻していたそよ風を集めて攻撃を始めた。


"シールパラム・シュタッヘム"


"魔弾-フーガ"


リューもそれに追い打ちをかける。

俺も戻ってきたし、貢献しないとな。

風撃の嵐だから連撃でいくか……


"行雲流水"


風の槍、弾丸を掻い潜り、スレイプニルの胴体に刃を這わせる。

止まっていれば当たりもいい。

彼の胴体からは、鮮血が勢いよくほとばしる。


『輩……よ……』


炎、風、剣に蛇の締付け。

スレイプニルはそれを受け続けてそのタフさを示したが、数分後、遂には力強い嘶きと共に地に伏した。


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