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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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54-検査

翌日。

俺とローズは、昨日予告されていた通りニコライに連れられてバースへと向かっていた。

今日はブライスの案内ではないので、安定の電気自動車だ。


「今日は討伐依頼じゃないんだな」


俺は、ギルドで手渡されていた依頼を思い出してそう聞く。

依頼の内容は、とある鉱石の採集とのことだった。

今までの、魔獣狩りのような殺伐としたものではない依頼……新鮮だ。

俺が受けられないのが少し惜しいくらい。


「そうだね。神馬は……メンバーが欠けていないほうがいいだろう?」

「まぁな。見つけるのが大変なんだろ?」

「ああ、目撃談は大抵が一般人のもの。狩人でも、マックスなんかは見つけたことがないからね」

「そりゃ大変だ」


……ん? マックスも無理って俺らも無理じゃね?

あいつは最初嫌味で言ってたけど、本当に無理な気がする。


「……やっぱそれ、不可能な依頼なんじゃないか?」


そう正直に伝えると、ニコライはマキナに頼んでみろと言う。

昨日は渋っていたはずなのに、今日は迷う素振りもない。

……不思議だ。


「昨日能力は秘密だっていってなかった?」

「手を煩わせたくない、と言ったんだ。

どうせ今日会うことだし、交渉してみるといい」


あの人今日いるのかよ……憂鬱だな。

しかも、直接交渉しろとか鬼か!!辛すぎる。


「……話が通じなかったら仲立ち頼むぞ」

「了解した」




~~~~~~~~~~




数時間車に揺られ、俺達はバースへと連れて行かれる。

車が止まったのは、マキナに会うために行った研究塔だ。


振り返って街を見てみると、混乱も火事も随分抑え込まれているようで、全くそんな様子は感じられない。

だけど、マックスはまだいないんだよな……水面下だってことか?


全然聞かされないので分からないな。

あとは……前回よりも心なしか雪が積もっているくらい。


だがそんなことよりも、今の俺には車酔いというやつの方が重要だ。

ニコライの助言で前の景色を見てはいたのだが、流石に長過ぎて疲れたし気持ち悪い。


かかった時間も、前回はグレードレスからだったので2時間程だったが、今日はメトロからなので4時間程だ。


時間はたっぷりあったのに、そのせいで話もろくに聞けなかった……

そんな風に俺が顔を青くしていると、ニコライが錠剤を手渡してくる。


「これを飲むといい」

「うぷっ‥何だこれ?」

「もちろん薬だとも。簡単に言えば、平衡感覚を治すものだよ」

「ありがとう」


素直に受け取り、口に放り込む。

どうやら水はいらないようで、固形だったはずなのにするりと喉に吸い込まれる。


さらに、飲み込んだ瞬間に頭がスーッと冴え渡り、気持ち悪さもかき消えた。

不思議だ……


「すごいなこれ」

「科学と神秘を合わせて使っているからね」

「……同時に使えたら何か違うの?」

「科学自体も種類が多いし説明は難しいが、そうだな……」


そう言ってニコライ始めた説明は、珍しく分かりやすいと思えるもの。


磁石は、金属の類のみを引き寄せたり反発させたりできる。

だがそしてそれに神秘を使えば、本来その影響を受けない木や土にもその影響を与えられる、という感じらしい。

俺も科学に慣れてきたかな。


それでも完璧に理解した、とは言わないけど……

多分本来よりも性能が上がるってことだよな。

すごいことだ。


その説明が終わると、ニコライは塔に入っていく。

そのまま歩いていく先は右側……北塔だ。

違いはよく分からないが、ひとまず俺達はニコライについて塔を登った。




~~~~~~~~~~




前回と同じように箱……エレベーターというものに運ばれ、上階に進む。

窓の景色から察するに、今回は前回よりも低い階に止まったようだ。


通路に置いてある物も、どうやら発明品ではなく検査機器の類らしい。いたる所でランプが光っていて不気味だ。

部屋の作りもまるで違って、横開きのドアになっている。

いくつかは開きっぱなしなので、開放感も感じるくらいだ。


そんな階だが、案内されるのはやはり一番奥の部屋だった。

他と違い、検査機器が神経質なほど整理されている。

学者らしいな……


「マキナ様、連れてきましたよ」

「うん……検体の採取を頼むよ……」

「分かりました」


そう答えると、ニコライは手前にある棚へと歩いていく。

そこから取り出したのは、ゴムや細い針、ペラペラの袋、はさみ、小型のナイフなどだ。


「あんまり痛くするなよ……」

「そんなことを言われてもね。血は刺さないと採れないだろう?」

「分かってはいるけどさ」

「座りたまえ」


自分から血を提供するなんて恐ろしいが、契約だから仕方がない。……抜かれるのは常識の範囲内だよな?

恐々と腕をつきだす。


するとニコライは俺の腕を抑え、手早く採血を済ませる。

一瞬冷たさを感じたが、針の痕も残らないくらいに楽だ。


その後もはさみで髪を切ったり、腕に四角い機械を巻き付けたりといくつかの検体を提供し、最後に大きい箱の前に連れて行かれる。


「これは……何をしたらいいの?」

「入るだけだよ。採取よりも時間はかかるがね。

退屈だろうから本を貸そう」

「ありがとう」


俺とローズは本を手渡され、大人しく中に入る。

中は明かりはあるが窓はなく、長時間いるのはつらいなと思えるようなものだ。

検査に使うらしいレンズが四方に付いているが、それしかない。


……確かに退屈だな。本貸してくれるのがありがたい。




~~~~~~~~~~




時計がないためどれほどの時間が経ったのかは分からないが、体感では1時間後くらいにようやくドアが開いた。

結局本も物語の類ではなかったので、本当に暇だった……


内容は、タイレン、クター、ルルイエという国の説明のようなもので、全く面白くない。

ルルイエはやけに上手い絵もついていたので、綺麗な景色だなぁとは思ったが面白さとは違うしな。


しかも、タイレンとクターは治安が悪いということが書いてあって気も滅入る。というかそれしか書いてない。

……絶対に行きたくないな。


「何でこんな本渡したんだ?」

「いや何、忙しくて外国の話をすると言った約束があまり果たせていないと思ってね。面白かったかい?」

「憂鬱な気分になったぞ……」


真面目な顔でで面白い、なんて単語言われてもな……

そう思いつつ本を突き返す。


だが、彼は本気で面白がると思っていたらしい。

ほんの少し……ほんっとうに少しだけ、残念そうな顔をされた。

なんか悪いことしたみたいだからやめてくれ……


「そうか……それはすまないことをした」

「ためにはなったよ。ありがとう」


そう言うと、彼はまた無表情に戻ってローズの入った箱を開ける。

ローズもすぐに出てきたが、どうやら彼女も面白くない本を渡されたらしくしかめっ面だ。

ローズにも外国の情勢本を貸したのか……?


「ニコライさん……この本、何……?」

「国中のサンドイッチを網羅した雑誌だが」

「これ、箱に押し込まれて読むのは苦痛だったよ……」

「それは……すまないことをした」


……うん、デジャヴだな。俺と全く同じやり取りをしている。

本を受け取るニコライは実に悲しげだ。


「それはもういいけどよ。もう検査は終わりか?」

「まぁそうだね。ところで、疲れはないかい?」

「あんなところに押し込められてたら疲れるだろ……」

「ふむ……なら次は交渉をするかい?」

「ああ。マキナは……」


箱に入る前にマキナがいた場所を見ると、彼は相変わらずモニターに向かっていた。

入る前よりも真剣な表情だけど、ただ血なんかの提供と箱に入っただけで何ができるんだ……?


そんな疑問を抱きながら歩み寄る。

前回と同じく、ブツブツ呟いていてとても不気味だ。


「幸運……神秘……2つの苦悩……」

「マキナ様、彼らの話を聞いていただけますか?」

「具現化……概念……茨……獣……なぜ?」

「神馬の居場所を探すためにですね」

「……神馬……氷煌結晶は?」

「彼らの仲間が探していますよ」


なんか普通に交渉してくれたな……


それを聞くと、マキナは視線を辺りに向けた。

すると、部屋中の機械という機械がカタカタと動き出す。


"奇怪な機械(ラプラス)"


しばらく待つと、マキナは青白い顔を俺達に向けてこう告げる。


「現在地はウプサラ神殿……ニコライが近寄らなければ、明日もいるだろう……出会えるかは知らないが」


……この場ですぐにわかるのかよ。

ヘズみたいな能力か?


「ありがとうございます。

ということだ。場所は分かるかな?」

「ああ、ヴィニー達が昨日行ってたはずだ」

「それは重畳。では、今日はもう自由にするといい」


最後にそう言うと、彼らはモニターを凝視し始める。

自由にしろって……


「……どうする?」

「取り敢えず外行こうか」

「だな」


そう決めると、俺達は速やかに研究塔を後にした。




~~~~~~~~~~




俺達が外に出ると、相変わらず空を機械と雪が舞っていた。

大雪ではないけど、鉱石探しっていうのは大変そうだな……

俺達は、少しライアン達に申し訳なく思いながら散策を始める。


「で、どうする?」

「そうだねー……少し早いけど、取り敢えず何か食べる?」

「そうするかー‥」


歩きながら街を見ていると、ふと一つの看板が目に入った。

とある飲食店と、その場所への道のりが書かれているものだ。

これは……運がいいな。


「俺いい場所知ってるぜ」


俺はそう言うと、意気揚々と案内を始めた。




~~~~~~~~~~




俺が案内したのは、もちろんパンケーキの店だ。

ヒマリが教えてくれたのはグレードレスの店だったが、ここも同じようにカラフルな建物だし、名前も同じ。

支店、というやつだろう。


「よく知ってたね」

「一昨日友達に教えてもらったんだ」

「へ〜、この国で友達ができたんだ?」

「ああ、やたら馴れ馴れしいやつで‥‥」


俺がこの店を知った経緯の話をしながら店に入ると、店内にはその教えてくれた本人……ヒマリがいた。


相変わらずどこぞの制服っぽい服を身にまとい、一昨日もたらふく食べていたパンケーキを山のように注文している。

……何あいつ? まだ食べるのかよ。


「どうしたの?」


ローズは、急にフリーズした俺を不思議そうに見つめてくる。


「悪い。その教えてくれた友達がいて驚いた」

「おおー、クロウの友達!!」

「え、何そのテンションの上げ方」

「いいからいいから。紹介してよ」


さっきまではパンケーキ屋を興味津々に見ていたのに、今はヒマリにその視線を向けている。


俺はその目に押され、仕方なくヒマリの席に近づいた。

今日の彼女はシンプルな練乳のものやチョコなど、計5種類ものパンケーキを前にご満悦の様子だ。


「よう、ヒマリ」

「んぐっ‥」

「お、おいバカ、水飲め水」


何にそんなに驚いたのか、ヒマリはパンケーキを喉につまらせ苦しみだしたので、慌てて水を差し出す。

すぐ横に置いてあって助かったな……


そして彼女は、一息に水を飲み干すと呑気な声をあげる。


「ぷはぁ、死ぬかと思ったー」

「それならもっと危機感のある言い方にしろよ」

「むぅ」

「ローズ、この人が友達のヒマリだ」

「こんにちは」


ヒマリは頬を膨らませていたが、ローズを紹介すると途端に表情を輝かせる。


「こんにちは!! シラユキヒマリです。よろしくね」

「ローズマリー・リー・フォードです。よろしくお願いします」


2人は笑顔で挨拶を交わす。

っていうか、シラユキって俺聞いてねぇんだけど……

普通教えないならファーストネームだよな? 不思議だ。


……いや、どこかでは聞いた気もするな?

彼女の口からは聞いてないはずだけど……うーん?


「リー・フォードか……あなたもいいね、とてもいい。

何かあったらおねーさんに任せなさい!!」

「え、いいんですか!?やったー」


俺が少しぼんやりしていると、2人はそんなやり取りを始めた。うーん、デジャヴ。

ヒマリって年上ぶりたい年頃なのか……?


そんなことを考えていると、ヒマリはまたしてもよく分からない質問を始めた。

表情がコロコロ変わるやつだな……


「ところで、2人はデート?」

「あはは、違う違う。検査に行っててね」

「検査ね……でもまぁいっか」


そう言うとヒマリは、再び笑顔でパンケーキを食べ始める。

幸せそうな彼女には言えないけど、サンドイッチに対してのニコライみたいだな……


でもニコライの時と違って、それを見ているととてつもなくパンケーキを食べたくなってくる。

俺はローズと顔を見合わせると、注文カウンターに向かった。




数分後、俺達はそれぞれみかんといちごのパンケーキを持って、ヒマリのいるテーブルに着いた。

さて食べよう。って、あれ……


「ふぁ〜幸せ〜」

「少しくらい待っててくれよ……」


なんとヒマリはもう完食していた。

確かに少しずつ切り分けて食べていたので、一気に消えた訳ではない。

けど、せっかく一緒に食べようとしたのにマジかよ……


「大丈夫!! もう一皿頼むから」


そう言うと、ヒマリは早足でパンケーキを注文しにいった。

……あいつの胃はおかしい。


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