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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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53-ニコライの話

「おのれ‥人間共……我の血族が‥許さ‥」


ヘルが燃え尽きたのを確認すると、ロロが念動力で火をかき消す。

これで後始末は完璧だが……


「全部燃えちまったな……」

「そうだね、ぜんぶなくなっちゃったー」

「ご、ごめん……でもあれは仕方ないよね? 体が残ってる限り倒せなかったよ」


ローズの言う通り、ヘルは燃えてからもしばらく暴れ続けていた。

俺は火を避けるのに必死だったから何もしていないが、ロロやローズが足止めしていなかったら逃げていたかもしれない。


改めて念動力も茨も……一応広範囲の炎も便利だ。

死ぬかと思ったけど……


「責めてるわけじゃないよ。けど、ライアンが取り込めてたらもっとよかったとは思ってな」

「そうだけど、あの人がヘルになるのはな〜」

「オイラもそんなの見たくないよー」


2人がそう言うので、少しそれを想像してみる。

腐った肉の臭いを漂わせて、不気味なローブの巨体をしたライアン……うん、見たくない。

けど多分……


「多分能力だけ使うこともできるぞ。

それだけでも不死身になれるだろ」

「確かに……」


まぁもう手遅れっていうか……この場にライアンがいなかった時点で取り込む選択肢はなかっただろう。

あんな死なないやつを、どうやって大人しくさせればいいっていう話だ。


けどもしライアンが不死身になったら、きっと頼りになるどころの話じゃなくなってた……

仕方ないことだけど、マジで惜しい。


「まぁ‥もう無理だし帰ろうか」

「そうだね。ヴィニー達はどうなったかな?」

「あの2人なら、見つけられさえすれば倒せるさ」


俺達は乗ってきた馬を回収し、降りしきる雪の中帰路についた。




~~~~~~~~~~




俺達がメトロに帰ってくる頃には、雪はかなり小降りになっていた。

とても静かな……寂れたような雰囲気と相まって、幻想的な光景だ。


「やっぱりガルズェンスは、都市より村がいいね」

「そうだな」


バースやグレードレスの雪は、煩わしいだけだったし不自然さもあった。

こういい村の方が自然で美しい。


「オイラは寒いからいやだよ」

「でも、室内は温かいから大丈夫でしょ?」

「うん、あのきかいはすごいよ」


そんなことを話しながらギルドへ向かっていると、丁度向かい側からも歩いてくる人影が見えた。

逆光でよく見えないが、少し足を引きずっているようだ。

小柄で白衣を羽織っているような……


「……ニコライ?」

「む? おお、クロウくんか」


試しに聞いてみると、本当にニコライだったらしい。

彼は少し足を早めると、俺達の元へとやってくる。


「随分久しぶりだな」

「そうか? あれからまだ5日程しか経っていないはずだが」


一週間のほとんどなんだけど?

頭には思わずハテナマークが浮かぶ。


「その間俺達の誰とも会ってないんだぞ? 久しぶりだろ」

「そういうものか? 科学者なら、一ヶ月以上見ていない者もいるのだが……」

「そんなのを基準にするな」


科学者ってのはどいつもこいつも非常識なやつだな……

どういう状況になればそんなことが起こるんだよ。


俺がそんな風にげんなりしている内に、ローズが要件を聞く。


「あはは……それで、ニコライさんは何しにきたの?」

「なに、マックスが調査で手が離せないのでね。

私の用は終わったので、明日の依頼は私が渡そうと思ったのだよ。ちなみに君達2人は検査だ」


ニコライがそんなことをにこやかに言うので、俺はつい顔をしかめてぼやいてしまう。


「あるのかよ……」

「私が立ち会うだけマシだろう?」

「え、今まではいなかったの?」

「マキナ様達だけだな」


ライアンから聞いた感じ、まともな検査だったはずだよな……

血液検査だとか。


てっきりニコライがいたからだとと思っていたが、そうではなかったらしい。

さらにニコライがいるなら、これ以上安心なことはない。

明日は気楽だな。


「あれ、リュー達は?」

「私は検査の場にいなかった」


……あいつのことだし、遊んでんのかな?

すぐには帰ってこないと思い、俺達はギルドの扉をくぐった。




~~~~~~~~~~




ギルドは相変わらず人がいなかった。

まだ昼過ぎなのにこれとは……狩人ってのはそもそも少ないのかな?

そう思いニコライに聞いてみる。


「そうだな……何と言うか、彼らも役割的には衛兵みたいなものなのだ。昔から国を守っていた者達だからな。

だから、ここにはあまりこない。

たまに呼ばれて依頼を受けているが、基本的には好きに狩りをしているだけだ」

「なるほどー。だからマックスは外から来たんだね」


なるほど、初対面の時あいつは外から来てた。

けどまぁ確かに、脅威がなければ集まる必要はないよな。

今は俺達に依頼が来ているしなおさら。

……この建物いらなくね?


「だが、それでも食事は摂れるぞ」


俺が不思議に思っていると、ニコライはそう言い奥へと歩いていく。

どうやら受け付けは、食事を提供する場でもあるらしい。

依頼が少ないならむしろそっちがメインか……?


そんなことを考えていると、受け付けとも料理人とも言えない服装の女性がでてくる。

どちらかというと……ウエイトレス?

まぁ黒い制服というのは万能だ。多分受付嬢かな。


「サンドイッチを頼めるかい?」

「すみません。ここでは……そのー‥嫌われておりまして……」

「何? あれほど完成された食べ物はないだろう!?」

「ええ、私自身は同意したいところです。

ですが、狩人の方達には不評なんですよ」

「信じられない……人によっては失神するぞ……」


どいやらニコライは相当ショックだったようで、数歩後退りながら頭を抱えている。

失神するってどんなやつなんだ?

ヘーロンさんもブライスもそんな人じゃなさそうだけど……


「サンドイッチ以外ならあるの?」

「ええ、ありますよ」


サンドイッチにだけ当たりが強すぎる……

別に俺は中毒じゃないからいいけど。


「じゃあ俺はシチューで」

「私カルボナーラ」

「おさかな!!」

「私は……私は……」


俺達がさっさと決めた後も、ニコライはブツブツと悩み続ける。

これだけみると、ニコライとマキナも似てると思えるな……


俺達が呆れながら見ていると、彼は5分ほどしてようやく顔を上げた。


「よし、薄切り肉とサラダと食パンを頼む」

「……まさか挟むのか?」

「当然だ」


まさか自分で作るわけはないよな……と思いながら聞いてみると、まさにその通りだったようで、彼はそう断言した。

末期だな……


注文を終えると、俺達は席に座る。

テーブル席で、俺の前にニコライ、隣にローズだ。


「そういえば、暇な時には外国のことを教えてくれるっていってたよな」

「ふむ……確かに言ったね。聞くかい?」

「ああ、聞いてみたい」

「ならば最北の国、エリュシオンの話から‥」


彼が語ったのは、エリュシオンの成り立ち。

なんでもアークレイという現人神が、魔獣から人類を守るために造った国なのだと。


自身を神として教会を開き、人々をまとめ、騎士という勢力にて人類を守る。

聖導教会の教祖にして、信仰対象。

聖人が導く教会だから聖導教会か……とんでもない人だ。


だが、それが守るのはあくまでも人類。

決して人間の味方ではないので、特に東の国は教会が庇護することはないのだと。

そしてマキナも、一度見捨てられているため聖導教会を信用していないらしい。


もしかして、マキナってすごい人なのか……?

話を聞く限り、アークレイは随分昔に生まれていそうだ。

それこそ、シル以上……3500歳超えているくらい。


それに一度見捨てられたってことは……多分そういうことなんだよな。


そこまで聞いたところで、受付嬢が料理を持ってくる。


「お待ち遠様。こちら、ご注文の品になります」

「ありがとう」


それぞれの前に料理が置かれる。

……ニコライのは食材と言ったほうがよさそうだが。


彼の注文した薄切り肉は焼肉のようなものだったが、サラダは何もかかっていないので千切った葉野菜と変わらない。

そもそも今からサンドイッチにするなら、料理というのも違和感が……

別にいいけど。


「何でもある割には美味そうだな」

「そうだね」


ニコライはもう会話には入ってこず、いそいそと具材を挟み始めている。末期だ……


気を取り直して皿に目を向ける。

シチューは雪国らしく、ホクホクのじゃがいもがたくさん入ったクリームシチューだ。

多分村で作ったじゃがいもだろうな……


そして狩人ギルドらしく、肉もブロック状に入れられているので食欲をそそる。

寒さに引き締まった獣肉は絶品だろう。


うん、よく煮込まれていて解けるような食感が……


「サンドイッチこそ至高だ!!」

「お、おう……」


俺がゆっくり味わっていると、ニコライが大きな声を上げた。

科学者は聖導教会よりサンドイッチを信仰対象としているんじゃないか? っていいたくなるな。

最初の印象では変人ってほどでもなかったのに、今ではすっかり変人認定だ。




食べ終わると、再びニコライの外国講座だ。


「さて、次はヤタという国について話そうか……」


食事と同時にいつも通りになり、ニコライはそう切り出す。

だけどその前に、少し気になるところがあるんだけど……


「ニコライさん、口にソースがついてますよ」

「おっと失礼」


ローズが教えると、彼は白衣からハンカチを取り出しサッと口を拭う。

それからかれは話し始めた……


彼が語ったのは、ヤタという国の風景。

極東にあるというその地域は、どうやら島らしい。

といっても泳いで行ける程近いらしいので、少し深い湿地帯とも言えそうだ。……流石に言い過ぎか。


それはともかくだ。

ヤタこの国とは違い、四季がはっきりと分かれていて美しいのだそう。

春は色とりどりの花に麗らかな空気、夏は滴る雨粒と眩しい太陽、秋は赤く染まる山々と食べ物、冬はここと同じ雪に包まれる、と。

何でも揃っていていいな……行ってみたい。


だが、この国以上に魔獣が活発であるとも言っていた。

この国が氷雪という神秘と戦っている国だとすると、ヤタは魔獣という神秘と戦っている国らしい。

もし行ったら、また狩りでもやらされるのだろうか……


「物騒なんだな」

「そうだな……あの国の問題はそれだけではないようだが」

「他にもあるの?」

「マキナ様が観測したところによると、な。

私が行ったのは大昔なので詳しくない」

「ふーん……ところで、マキナの能力って何なんだ?」


たまたま名前が出てきたので聞いてみると、彼はうつむき少し考え込む様子を見せる。


「話せないなら問い詰めねぇよ」

「そうだな……今はあの方を煩わせたくもない。

では今日はお開きにしようか。ヴィンセントくんも帰ってきたことだし」


そう言われて入口を見ると、ボロボロのヴィニー達がお互いに肩を貸し合ってギルドに入ってきたところだった。

特にヴィニーは、顔を苦痛に歪ませていて辛そうだ。


俺達は、手を貸そうと慌てて駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「なんとかね……」

「治癒力あげるよー」

「ありがとう」


ロロがいつものように力をかけてくれる。

表情が和らいだが、それでもすぐに治る訳ではないし痛手だな……


「最近は大怪我してないからすぐ治るよ。というか、何故かもう大体治ってる。神秘にも慣れてきたしね」

「それでも明日は寝ててね」

「そうですね。ニコライさんとの再戦もありますし」


ローズの言葉だったこともあって素直だ。

……明日で治るといいけど。

ひとまず安心して一息ついていると、ライアンが成果を報告してきた。


「そんなことより〜、王種討伐したぜ〜」

「おお!! これで巨人の依頼は完了だな」

「そっちも倒せたんだね」

「不死者で危うかったけどな……」

「魔獣の神秘ってのはすごいねぇ……」

「そんなことは休んでからでいいでしょ。宿行くよ」


話に花が咲きかけると、ローズがそう言って俺達を押し始める。確かに回復優先だ。


俺達は早く話を再開するため、宿へと急いだ。


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