表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
56/432

50-休暇

「gxjo許xyc@!!」

「2@Z殺r!!」


スィアチは倒したが、集まった巨人達は帰るつもりはないらしい。相変わらず口々に叫びながら武器を振り回している。

疲れ切っているが、連戦か……


そんなことを考えていると、顔に出ていたようでマックスが俺に声をかけてくる。


「クロウは休んでいていいぞ。俺とフーでどうにかする」

「いや、お前も一発しか撃てねぇような技使ったろ?」

「あたしは喜んで戦うよぉ」

「お前には聞いてねぇ」

「いやいや、君達は全員休んでなよ」


俺達が少し揉めていると、頭上からそんな声がかけられた。

ギョッとして見上げると、俺達を飛び越えていくのは白く光る獅子に乗るヴィニーだ。

レグルスになったライアン……速いな……


「あたしは‥」

「いいから」


ヴィニーは鋭い視線でフーを押し止めると、ライアンの上から掻き消える。

フーは納得していなかったが、驚いて呆然としてしまったほどにいきなりだ。


そして、その隙にライアンも消える。

速すぎだろ……


そして気づいた時には、周囲の巨人は全て地に伏していた。

ライアンはともかく……ヴィニーは聖人に成ったのか?

そう疑いたくなるほどの手際だ。


俺が軽く引いていると、殲滅を終えた彼らは柔らかな表情で歩み寄ってくる。

ライアンも、いつの間にか人の姿だ。


「これが王種?」

「そうだ」

「なのに3人でやっちまうとはな〜」

「俺らも強くなったし、こいつはニーズヘッグほどじゃなかったからな」


もしスィアチが、ニーズヘッグのような硬い鱗を持っていたら絶対に勝てなかった。

それに他の王種も何か特別な力を持っているとすると、こいつ以外に当たってても勝てていた保証はない。

とても運がよかった、ということだ。


「そうだな〜俺はまだよく見てねぇけど〜」

「あはは、強くなってるよ。俺が保証する」

「だといいけどな。それはともかく、今日はこれで終わりか?」

「ああ。巨人の依頼は、1つ目が完了した。今日はもういいだろう」


俺達は、この場に間に合わなかったローズ達に連絡を入れると、メトロへの帰路についた。




~~~~~~~~~~




俺達がギルドに戻ると、室内にいた狩人達は何やら慌てた様子で話し合っているところだった。

俺達が王種の巨人に出会ったように、何か大物が出たのだろうか……


「何かあったのか?」

「……さぁな。おい何があった?」


マックスが、近くにいた狩人に声をかけて事情を聞く。

彼もかなり慌てていたので多少要領を得ない部分があったのだが、まとめるとこうだ。


主にグレードレス近辺で混乱が起きている。

記憶喪失者とも思えるような、そんな者達が突如として続出し、仕事が回らない、約束が果たされない、そんな混乱。

それは、時として暴力沙汰にまで発展してしまっているほどらしい。

何のホラーだよ……


そして丁度俺達が事情を聞き終わった時、奥からギルドマスターがやってきた。

相変わらずの仏頂面だが、今は少し焦燥が見えるように思う。


「マックス。ようやく帰ったか」

「ああ。……事情は聞いたが、まさか俺に何かさせるつもりじゃないだろうな?」

「お前が一番強いだろう?」

「……はぁ、了解した。すまないが明日の依頼はなしだ」


そう言うとマックスは、踵を返してギルドを出ていく。

狩人の仕事には、そんなものまで含まれるのか……?


ギルドマスターも、マックスに頼めたからかさっきよりも落ち着いた雰囲気になっている。

ただの狩人のはずなのに、あいつへの信頼が半端じゃない。


すると、ヴィニーも同じようなことを思ったようだ。

少し訝しげに口を開く。


「狩人……なんですよね?」

「昔は、俺達のような狩人が生活を守っていた。

科学が国を潤しても、その意思は変わらない」


マスターはそれだけ言うと、再び奥へと戻っていった。

……軍隊的な役割もあったってことか?

なんにせよ一日空いてしまったな。


どっか行くかなぁ、とみんなに明日どうするか聞いて見る。

前回はヒマリを除けば1人だったので、是非一緒に回りたい。


そんなことを思っていたのだが、ヴィニーは明日もヘーロンさんのところに行くつもりのようだ。

しかも、ローズもすぐにそれに同調する。


俺は頼まれても行きたくないな。

とするとまた別行動だけど……


「ふーん。じゃあ俺は……街を回りに行こうかな。

お前らも行く?」

「そうだなー‥ローズに連れてかれるのも嫌だし」

「楽しんでたよね……?」


リューは微妙な表情になったローズを見ると、すぐにギルドから撤退して行く。

俺達はそれを見て、苦笑しながら彼を追って宿に向かった。




~~~~~~~~~~




その日の夜、寝室にて……


『明日依頼がなくなったんだけど、ヒマリは空いてるか?』


俺は、昨日と同じように携帯電話でヒマリに連絡を取っていた。

明日はリュー達が一緒だが、それでも街に詳しい人がいた方がスムーズだし、遊びに付き合うと約束もしている。

一日しか経ってないが……まぁ遊べるってなれば喜ぶだろう。


それに、あいつといるのは心地良いしな……


ヒマリの言う通り、俺達はどこか似ている。

彼女の味わった孤独がどれくらいかは分からないが、それでも……同じ話ができる唯一の相手。


そんなことを考えながら、俺がヒマリからの返事を待っていると、リュー達が絡んでくる。

さっきまで騒いでいたのに目ざといもんだ。


「なーにやってんだよぉ」

「友達に連絡」

「友達ができたのか〜よかったな〜」

「ああ。いい出会いだったよ……大事な友達だ」


ライアンは優しい眼差しをしており、それ以上突っ込んでこなかったのにリューはしつこい。

さらに近づいてきて、言葉を重ねる。


「友達ー? マックス以外に作る機会なんてなくね?」

「あいつはお前を嫌ってるだろ……いいからさっさと寝ろよ」


明日は、依頼がない貴重な日。

目一杯楽しまないと損だ……


ピコン。

俺が寝る準備を始めていると、携帯電話が光と音を発する。

どうやら返事が来たようだ。


『やったー!!

じゃあ11時にグレードレスの仮想ドーム集合ね』


「……」


まさか全部決められてしまうとは……

でもどうせ案内してもらうことになるし、別にいいか。

混乱ってのも見れるかもしれないし。


明日の予定に胸を膨らませながら、俺はベッドに潜り込んだ。




~~~~~~~~~~




翌日。

俺達は、言われた通りグレードレスにあるウォーゲームの会場だったドーム前に来ていた。

今の所、暴動の類はない。

運がいいのか悪いのか、俺の視界に入ってくるのは至って普通の光景だ。


そして隣に立つのはリューとフー。

ライアンはメトロの農場を見に行っているし、ロロは相変わらずローズの元なので、この場には3人だけだ。

それからもう1人、俺達をここに集めた本人はというと……


「おっ待たせー、待ったかな?」


時間ぴったりに走って来ていた。

走ってくるくらいなら、もう少し余裕を持って行動したらいいのにな。


「いや、今来たところだ」

「オッケー、じゃあ行こっか」

「ちょっと待て、まずはこいつらの紹介だ」


ウキウキで走っていこうとする彼女を慌てて引き止め、リューとフーの紹介、そして2人にヒマリの紹介をする。

リューもヒマリも明るいのですぐに打ち解け合っているようだ。


まさか今まで以上に振り回されるなんてことはないよな……?

今更ながら少し不安を覚える。


「で、どこ行くんだ?」

「この街を案内するなら、まずは工場だよ」


俺が予定を聞くと、彼女はそう言いニコニコと笑いながら歩き出した。




何故に工場……? と思いつつヒマリについていく。

そんな俺達が案内されたのは、横幅だけでも数十キロもありそうなほどに巨大な工場だ。


駆動する機械達の音や、油のような臭いが物々しく、確かにこれは圧巻……

神秘でできることではないし、どうやってるのかまるで想像できない。すげぇ……


だけどヒマリがこんなところに連れてくるなんて、あんまり似合わないな。

俺はそんなことを考えていたが、もちろんリューは大興奮。

走っていこうとするのを、フーに掴まれ止められているほどだ。


「すげーなこれ!!」

「まぁね。すごい……よね」

「何の工場なんだ?」

「国に流通する、機械や何やらの量産工場。

入れないけど、それでもこの街の象徴だからね」


入れないのか……

まぁ量産ってことは、研究を除けば一番重要なのかな。

だが中からは、機械とは違った音……人の怒鳴り声が聞こえてきた。


ここでも騒動が起こってるのかねぇ‥

などと考えていると、前から声がかけられる。


「あれ? リュー達じゃないっすか」


工場の入り口を見ると、俺達に向かって歩いてくるつなぎの人物がいた。

たしか……ヴィニーが戦ってた人だな。


彼は軽やかに近づいてくると、フーに目を向け不思議そうに口を開く。

どうやら戦闘中のフーを見たことがあるらしい。


「どうもー‥フーさんやけに静かっすね?」

「おっす。フーは普段喋らねぇよ」

「そういえば、ニコライ様が人格障害とかおっしゃっていたなぁ‥」


男は少し戸惑った風に呟いたが、リューの言葉ですぐに納得したようだ。

人格障害……俺はただテンションの振り幅が大きいのかと思ってたな。他人事っぽくなるけど、大変そうだ……


「あっ君ははじめましてっすね?

僕はアレク・ロディンギィンっす。よろしくどうもー」

「俺はクロウ。よろしく」


俺が成り行きを見ていると、彼はそう名乗って握手を求めてくる。うーん、なんと言うか……軽い……


ニコライを様付けする割には、性格は真逆なんだな。

いや別に、それがおかしいとは思わないけど……


尊敬とかしてるのなら、多分似たような性格だったりすることの方が多いよな? 少し驚いた。


しかも、俺が握手に応じると、腕がちぎれそうな勢いで振り回される。コイツマジか……


だが、当の本人はどこ吹く風。

握手を終えると、何もなかったかのように話を続ける。


「今日の依頼は……中止になったんすか?」

「そうなんだよ。マックスがどっか行っちまってよー」

「面倒事が起こって大変っすからねぇ。でもまぁ、そのおかげで3人は観光できてるんでしょうけど」


3人……? と辺りを見回してみると、ヒマリがいない。

マックスみたいに、科学者が嫌いなのかな?


「あっはっは。出国禁止なのに自由って笑えるよな〜」

「あっはっは、ほんとっすね〜」


……うるさい。


「ところでアレク、この工場の見学ってできないのか?」

「今中で揉めてるんすよねぇ‥けど、入り口から少し覗くくらいならいいっすよ」


随分と気のいい人だ……科学者とは思えない。

試しに聞いてみただけだが、許可がもらえたので中を覗いてみる。


だが、正直よく分からないな……

取り敢えず分かるのは、研究塔の機械よりも遥かに大きい機械が稼働しているということ。

アレクが言うには、全自動で色々作っているらしい。


毎日のように改造をしているらしいので、詳しいことは聞けなかったがすごい技術だということは分かった。

……毎日改造って何だ?




「国が落ち着いたらまた来るといいっすよ」

「そんときはよろしくなー」


覗くだけなので、短時間で工場見学は終わった。

けど、ヒマリが消えたからな……どうしよう。

そんなことを考えながら工場から離れていると、後ろから肩を強く叩かれる。


「どうだったー?」

「痛っ‥ってヒマリか。どこ行ってたんだ?」


振り返って見ると、満面の笑みを浮かべたヒマリ。

痛ぇんだけど……


「隠れてた」

「ふーん……なんで?」

「えー? ……私科学者あんまり好きじゃないから」


軽い気持ちで聞いてみると、彼女は少し暗い表情を浮かべてそう答えた。

科学はともかく、科学者の話になると毎回こうだな……


だけどマックスもヒマリも、何で科学者嫌いなのに科学の国にいるのかねぇ……

ふと空を見上げると、雪はいつの間にか止んでいた。

まるで天気にも休みを満喫しろと言われているみたいだ。


「よーし、じゃあ次行ってみよー」


そんなヒマリの掛け声を聞き、俺達は少し観光しやすくなった街を歩きだした。




その後も何ヶ所か周り、昼食後に案内されたのは、ウォーゲームをしたのと同じような仮想世界へ入るような遊技場。

今度はヒマリらしい、遊ぶための場所だな。


少し安心して、その人気のない建物に入る。

そこは一昨日行ったようなゲームセンターと似た作りで、室内には無数の箱型の機械がたちならぶ。

そのうちのいくつかはゲームセンターと同じく画面があるものだったが、そのほとんどは人が入るような機械だ。


そんな機械に入り、俺達は……


「おいしょー!!」


仮想空間でスポーツをしていた。


俺達がしているのはテニス。

俺とヒマリ、リューとフーでのチーム戦だ。

戦闘ではないので、リュー達の性格は入れ替わっていない。


「はっ」

「甘いぜ〜」


リューのスマッシュをヒマリが余裕で打ち返し、それをさらにリューがスマッシュで返す。

それは俺の側のコートギリギリを狙ってきていて、リューらしからぬ戦略性だ。


「危ねっ」


だが俺も……打ち返すだけなら。

そしてつい打ち上がってしまったボールを、フーがさらにスマッシュ……きつい。


「ほいっ」

「げっ」


負けた……

そう思ったが、ヒマリはネットギリギリを狙って打ち取る。……やはりヒマリもスポーツが得意なようだ。


「マジかー!!」

「あはー、勝った勝ったー」

「2人共すげぇな」


正直ヒマリとリューの独壇場だった。

俺とフーはほとんど援護しかしていない。

……まぁいい気分転換になったな。


「テニスは昔やってたんだ」


確か学校で……部活だとか言ってたかな?

仲間とワイワイ活動するのは楽しかった、とかいう話を聞いた気がする。


そんな経験を語るヒマリに対して、リューは堂々と初体験であることを告白しだした。


「俺は感覚だ!!」

「おおう……すげぇな……」


感覚でこんなに強いなんてのには勝てねぇ……

そう若干諦めていると、リューはまだまだ体力が有り余っているぞという風に喋りだす。

恐ろしく元気だ……


「で、次どうするよ」

「俺はもう満足したぞ。疲れた」

「じゃあ……何か食べよっか」

「そうだな」


ヒマリの提案にありがたく乗っかり、俺達は仮想空間から出ることにする。

壁際の機械をいじればあら不思議。

俺達は箱の中で目を覚ました。


そしてそのまま騒がしい街中を案内され、食事ができる店へと向かう。

今回はサンドイッチではなく、パンケーキの店だ。

カラフルに装飾された外装・内装は、目にも楽しくテンションが上がる。


それに、運動後に甘い物は染みるな……

素早くカウンターで注文し、座席に向かう。


「うめぇ~」

「ね〜」


俺達が注文したのはそれぞれいちご、ミックスベリー、ぶどう、キャラメルバナナ。

最後のもの以外はクリームがたっぷり、とてもボリューミーだ。ふわふわで甘々……良きかな。


みんなで分け合ったので、4種の味の移り変わりもとても楽しい。

ぶどうなどは甘味の方が強かったりするのだが、他で酸味を得ることでバランスがよくなる。

単品でも食べられるが……やっぱり適度に酸味があると飽きがこないな。


「染みる……」

「…………甘い」


うん、とても満足だ。


「ごちそうさまー」


外を見ると、日が建物にかかり始めている。

遊んでいると時間が経つのは速いな。

帰る時間も含めればそろそろ帰らないといけない。


俺は、名残惜しく思いながらヒマリにそう伝える。

すると彼女は何か考え込む素振りを見せたが、その口から出てきた言葉は予想の斜め上。


なんと「わたしはもう少し食べたいな」などと言い出したのだ。これにはリューもドン引き。

珍しく戸惑ったような表情をしていた。


「お、おう……じゃあまた今度な」

「ばいばーい」


パンケーキ1つ食べたというのに、まだ食べるのか……と少し呆れながら店をあとにする。

暴動は……なかったな。


明日からはまた魔獣との死闘……

だけどリフレッシュはできたし、王種でも何でも倒してやる。

そんな決意を固めながら、俺達はメトロへの帰路についた。




~~~~~~~~~~




その日の夜。

俺は再びヒマリと携帯電話でやり取りをしていた。

明日も依頼だから長くは話せないけど……


お互いに家族がいない。

お互いに故郷がなくなった。

それでも、いい出会いがあった。

リューやフーには振り回されてばっかだけど、この当たり前が嬉しい。


覚えてはないけど、村でもこうだったのかもな……

そんな……仲間に話していいのか分からない話を。

俺達は、小さな箱に詰め込んだ。

よければブックマーク、評価、感想などお願いします。

気になった点も助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ