43-下位巨人
雪が吹き荒ぶ中、俺達は巨人を探して雪山を進む。
マックスが言うには、探し方は巨大な足跡を見つけることや揺れを感じること、木々を超えて歩く人のような生物を見つけることだ。
スケールも大きいし、そんなものがこの国で一般的とは恐ろしいもんだ。
絶対に依頼完遂して出ていかなくては。
だがその割には今のところ獣道をただ歩くだけで、巨大な足跡も揺れもない。
今日は様子見の側面が強いとはいえ、1人も見つからないのも困るし不気味すぎる。
さてどうするか……
「このまま歩いていて見つかると思うか?」
「魔人や聖人がこんなに集まって探すのは初めてだからな。
警戒されているのかもしれない」
もし警戒されてたらニコライと同じだな。
複雑な気分だ……
「成果なしは嫌だぜ?」
「別に俺は困らないがな」
「まぁまぁ、丁度6人だし半分に分かれてみようよ」
リューの言葉にマックスが若干煽るような答えを返し、それをローズがたしなめる。
リューはそこまで根に持つタイプではないが、言われた瞬間には食って掛かるので大変だ。やめてほしい……
「……そうだなぁ」
今回はその仲裁がうまくいったので、速くチームを決めてしまおう。
できれば2人は別のチームになってほしいので、彼らを基準にした分け方だ。
「じゃあ……ちょっと待て。マックスの力ってどんなのだ?」
危ない危ない……できることも知らないでチーム分けするところだった。
「そうだな……確かにそれは必要な情報だ。
俺の祝福は"全霊の弓"という。できることは射撃だな」
「なるほど……掩護が得意な感じか?」
「そうだな……けど普段は1人でやってる。主力でも問題ない」
「なら今度俺と模擬線しようぜ!!俺も狙撃技が……」
「断る」
リューは無視、リューは無視……
さて、それを踏まえて考えると掩護にロロとマックスで、非力なロロにはリューをつければ丁度いいな。
ロロ、リューとマックス、フー。
俺とローズはどっちにしとくか……
「ローズ。
ロロとリュー、マックスとフーで分けるのがいいと思うんだけど、どう思う?」
「私もそう思ってた。
マックスの性格とリューの性格は合わないよね」
「だよな。あとは俺達だけど、俺がマックスの方でいいか?」
「うん、やっぱり同性の方が話しやすいだろうしね」
「よし」
俺達は少し後ろに離れてチーム分けをする。
意見が合ったのでスムーズに決まってよかったな。
「俺、フー、マックスとローズ、リュー、ロロで分かれるぞ」
「じゃあローズ、コートに入らせてー」
「いいよ、おいで」
ロロをローズに預けると、俺達は左右に分かれて探索を始める。右に俺達、左にローズ達だ。
見つかるといいけどな……
~~~~~~~~~~
俺達が2つのチームに分かれてから10分ほどが経った。
相変わらず巨人は見つからないが、分かれる前よりは見つかる気配がする。
理由は、少人数になった途端に角のない牛のような聖獣に会ったからだ。
魔獣ではなかったので戦いにはならなかったが、今まで聖獣にすら出会えていなかったことを考えるといい傾向だろう。
バラけてすぐにこれとは……やっぱり集団は警戒されるようだ。
足跡は運がないだけなんだろうがな。
というか、あの牛は巨人がいる地域でよく生き残ってるな……
ふと疑問に思い、マックスに聞いてみる。
「巨人がいるのに普通の聖獣もいるんだな」
「巨人以外の獣が絶滅していたら、やつらも絶滅してる」
うん、正論だ。
だがあの牛……素早くもなさそうだし角という武器もない。
……逃げ足は速いのかな?
「……止まれ」
俺が変な方向に思考を巡らせていると、マックスがそう指示を出してきた。
注意散漫になっていたから、数秒遅れてにらまれる。
やらかしたか……?
「あ、悪い……どうした?」
「微かにだが……揺れてる」
そう言われたので、意識を辺りに向けてみる。
馬に乗っているから確かではないが、揺れている気はするな……
馬の脈拍とは違う震えを感じるし、木々の葉に積もる雪もパラパラと落ちている。
「本当だな……どこからか分かるか?」
「……右前方向だな。ローズ達とはさらに離れることになる」
「数は?」
「少なく見積もっても3人以上」
俺達と同数か……
巨人というからには何メートルもあるんだろうが、このメンバーはそこまで火力がない気がする。
……あれ、俺とローズは逆の方がよかった?
「えーと、このメンバーでも倒せるか?」
「そうだな……多少時間はかかるが、5人前後なら倒せるだろう」
「おし、じゃあ行こう」
「了解。馬は危ないからここに繋いでいく」
マックスの指示で、近場で一番大きな木に馬を繋ぐ。
馬が動けないのも危ない気はするが、そこまで生物もいないし大丈夫だろう。
~~~~~~~~~~
俺達が揺れの発生源に探り探り近づいていくと、5分ほどで6人の巨人を見つけることができた。
彼らも狩りをしているようで、その多くは槍を手にしてい大きな熊を囲っている。
獲物にされている大熊は4メートルほどで、普通の人間とは比べ物にならないほどの大きさだ。
だが、巨人はさらに大きく8メートルはある。
……バカでかい。
「あれを1人につき2人倒すのか……」
「アハッ、あたしが全部やろうか?」
「やめておけ。巨人はあんたが思っている5倍はタフだ」
フーがもう既に戦闘モードで頼もしい。
けどそうか……ゴーレムも硬かったもんな。
あれは機械だったけど。
「なら作戦を練らないとな。マックスは掩護に回るのか?」
「掩護……そうだな、後衛にはなる」
俺やフーが引き付けていればかなりダメージを与えてくれそうだ。
頼もしい。
「じゃあ熊が倒れたら俺とフーが突っ込む。後衛頼むな」
「了解」
作戦がまとまると、しばらくは観察の時間だ。
巨人達のリーチを見極め……意味ないかな?
4メートルの大熊が手玉に取られている。
双方ともに俊敏な動きはしていないので、その体格でほとんど勝敗が決まっているようだ。
熊の振り回す太い腕も噛みつこうとしている牙も、体格差がありすぎて届く届かないの話ではない。
軽く槍を動かされるだけで弾かれている。
参考にはならないな……
少しの間は熊も抵抗していたが、1分もすると、地響きを立てて倒れる。
それを確認すると、巨人達は熊の手足を太い棒に縛り付けて運ぼうとし始めた。
狙い目かな?
俺は2人に合図を出して突撃し、しゃがみ込んでいる隙を狙う。
多少緊張したが、彼らはもうあまり警戒もしていなかったようですんなり近づけた。
ヴィニーの技を使わせてもらおう……
"水禍霧散"
熊に伸ばしていた腕を、長剣で斬り飛ばす。
さっきまで槍を持っていた右腕だから戦闘能力もだいぶ落ちただろう。
「h@0##痛%%」
すると彼は俺を睨み、左腕を振り下ろしてきた。
利き手ではないだろうが、大木のような腕を食らうわけにはいかない。
ヴィニー流受け流し剣術……
"行雲流水"
その腕を斬りつけ、反動で腕に沿って頭の付近まで昇る。
流石に巨人でも首は急所だろう。
回転のまま頸動脈辺りを削り斬る。1人撃破だ。
「w/%何d7t@.!!」
そして彼の断末魔を聞き、周りの巨人達も少し遅れながらも異変に気づいたようだ。
何か叫びながら槍を突き出してくる。
「アッハハハ」
"そよ風の妖精"
"信念の矢"
だが彼らは俺しか見えていなかったようで、フーのナイフの雨、マックスの弓の連射を無防備に受けていく。
ナイフも俺の剣と同じく首を斬り、弓矢は全て頭のど真ん中だ。
「gxjo9hm……」
リーダーだと思われる剣を持っていた巨人も、下っ端と同じように抵抗も無く倒れる。
案外呆気ない終わり方だな……
「これが討伐依頼になるような魔獣なのか?」
「そうだ」
「弱すぎなんだけどー?」
フーは俺とは違い、ただ単に楽しめなかったという風に言う。
強くて時間かかったら、この国出るのも遅くなるんだけどな……
「魔人や聖人を基準に考えるな。
普通の人間が出会えば確実に殺される。それに今日は下位の巨人だ」
「上位種だと手強いか?」
「王種が相手だと、俺でも勝てないだろうな。
あんたらも一対一では無理だ」
「まじか……」
「そりゃあ楽しみだねぇ」
マックスが射手だからかと思ったら俺達も……というか、フーも無理なのか。
だとしたら油断もしないように気をつけよう。
戦闘中のフーとか、普段のリューとか。
「だが、しばらくは戦うにしても上位種までだ。
そのうち王種が出てくるかもしれないが、まだ目はつけられていない」
「その時はライアンとヴィニーが必須だな」
目をつけられるってことは知能も高い種なのか?
この巨体でそれは勘弁してほしいな……
俺達は馬の元へと戻り、それからまた巨人探しを続行した。
俺達はそれから数時間探索を続け、日が暮れ始めるとローズ達と合流することにした。
この森は街より神秘が濃いのだが、それでも神秘そのものであるローズ達はある程度場所が分かる。
少し探すと簡単に合流ができた。
「そっちはどうだった?」
「おう、13人倒したぜ」
「俺達は22人だ。こっちの勝ちだな」
「……多すぎじゃね?」
「こっちにはマックスがいるからな」
そう言うとリューはマックスを見つめ始める。
それに対して、マックスは無視だ。
空気悪いな……
「ふーん、ならしょうがねぇ」
だが、リューは特に何も言わずにそう呟いた。
随分と素直に負けを認めるもんだな……
「ロロはどうだった? 寒かったと思うけど」
「オイラは探しただけだからね。あったかかったよ」
「そっか。ありがとな、ローズ」
「いえいえー。今は消してるけど、妖火は暖も取れて便利だからね」
「えっ!?」
あれは実体ないみたいに聞いてたけど、熱はあるのか……
いや、なければ燃えないか。ローズ万能だな……
ともかく合計35人。
割といいペースで狩れているんじゃないか?
依頼は絶滅させるってことではないんだろうが、だいぶ脅威は減っただろう。
王種……いつ来るかハラハラするな……
俺達は周囲を警戒しながら帰路についた。
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