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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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41-狩猟ギルド

俺達が空へ撃ち出されてすぐに、ブライスはこの箱とは別の妙な機械を動かし始めた。

それは元々背中に背負っていたらしく、白衣の下から現れ、彼女の手足とこの箱を抱え込む。


すると、何故かスピードが上がっていく……

 

「あぁぁぁ……!!」

「キャー……!!」

「あっはっは、何だぁこれ〜?」

「ひぃぃ‥クロー‥」


1人マイペースなライアンは大笑いしているが、他の面々は絶叫しており地獄のような有様だ。

別に車でいいだろ……? 何で空を選んだんだこいつ……


「あぁぁぁ……」


なんかもう泣けてくる。

何故か寒さは感じないが、恐怖で体が震えているのでむしろ寒くあってほしいくらいだ。


景色を楽しむ余裕などなく、俺達は目的地まで輸送された。




~~~~~~~~~~




空でも揺れは少なかったが、着地もとても静かなものだった。

ブライスが付けている機械が、風か何かで箱をゆっくり降ろしてくれたのだ。

……そこで配慮できるなら、まず車で連れてきてくれ。


そんなこんなで到着だ。

連れてこられたのは、今までの街と違って雪が深く積もっている小さな村。そう、村だ。


建物はこの国にしては少ないし、石に近いような素材でできている。

他の国で見たものよりはテカってはいるが、反射はしていない。

目に優しい景観だ。


だがその代わりに雪は積もったままだし、村のところどころにある氷が大きいので寒さが厳しい。

寒さも建物に関係あるのか?

雪を取り除くくらいしてもいいと思うんだけどな……


そんなことを考えていると、ガラスの壁は最初と同じように下へ下がっていく。

整備されていない外よりはましだが、十分に冷気が肌を刺してくるな……


そして俺達が地面に足をつけると、ブライスが元気に声を上げた。


「はい、到着だよー。私の拠点のメトロでーす」


箱詰めにされて運ばれるなんて初めてだ……

外へ出た俺達は、ライアン以外疲れた表情でその場に座り込む。ライアンは……


「あっはっは、面白かったぜ〜。また空飛ばせてくれよ〜」

「おお〜? 好評だなんて珍しいな〜。

へへへ、もちろんだよ。また飛ぼう」


珍しいって……不評だという自覚があって飛んだのかよ。

この人の行動には注意しよう……マキナとは違った危なさがある。


「じゃー改めまして、あたしブライス。

これから狩猟ギルドに案内しまーす」

「現地案内人っていう人達か?」

「そうだよ。

魔獣を狩っている人達だから、科学者より地理には詳しいんだ」


え、魔獣の専門家?

魔獣ってそんな簡単に仕留められるようなやつじゃないんだけどな……

だが、ブライスはそんな俺達にはお構いなしに歩き始める。


「クロウはぐれないでね」

「何度もはぐれるかよ……」


どうやら彼女の中での俺は、迷子の常習犯というイメージになってしまったらしい。

言っとくがあれが初めてだぞ? 失礼なやつだ。


……それを聞いたリューやローズも笑っている。

絶対にそのイメージは払拭しなければ。

魔獣をその専門家より狩れればいけるかな……?


俺がそんなことを考えていると、タイミングよくライアンが魔獣についての質問を始める。

……さっきのはみんな気になってたし当たり前か。


「魔獣を狩れるやつって〜そんなにいるのか〜?」

「そうだねぇ‥強力な魔獣じゃなければほとんどの人が狩れるかなー」


ほとんど……!!それはすごいな。

確かにこの国の人はでかいが、それだけで殺せるようなもんじゃない。

科学……か? 


「オイラは魔獣じゃないよ……?」

「分かってるってー。仮想空間で戦った仲じゃん?

後でまた遊ぼうねー」

「ブライスの風はこわいや」

「そっかー」


あんな無茶な移動をしてたらそりゃ怖がられるよな。




そんな会話をしつつ10分ほど歩くと、なかなか立派な建物に案内される。

他よりも透き通った素材で造られており、近くには雪も氷も存在せず心なしか暖かい。

村でも室内には寒さ対策もされているようだ。


「こんにちはー」


その建物に似つかわしくない白衣姿のまま、ブライスは扉をくぐる。

ほんのりと酒や煙草の香りが漂ってくる。臭いな。

木じゃないのにここまで染み込むもんか……?


そんな臭いに顔を歪めて後ろからついて行くと、意外にも室内はかなりガランとしていた。

流石に狩りに出ている人が多いようだ。


テーブルに座っている人も、何やら寝ている様子の人ばかりで、明かりも半分くらいが落ちており薄暗い。

そのせいで、奥の受け付けらしきカウンターもよく見えないほどだ。

ブライスが騒いでいるのが気にかかる……


「おう……なんか用か?」


話を聞ける人がいるのか? と思っていると、奥から声が聞こえてきた。

視線を向けると、そこには髭面の大男が。

こんな強そうな人こそ狩りに出ているべきでは……?


「マスター、連絡来てないかな? 魔人の協力者を連れて行くってさ」

「ふん……連れてきたやつが面倒を見ればいいものを」

「みんなー神秘感じる?」


お互いに話をする気が感じられない……

てか1人だけいるこの人じゃないのか。


俺は、取り敢えず奥に視線を向ける。いなそうかな?


「入り口にいるかも」


俺が他を見ている間に、ロロがいち早く感知してみんなにそう伝える。

……というか、奥じゃねぇのな。

普通こういう場合、奥から連れてこられると思ってしまった。


振り返ると、暗がりにいたのは毛皮の衣服で身を固めた細身の男。

帽子もコートもふかふかでこの村らしい服装だが、それでもこの国の基準からしたらなよなよしくて小柄に見える。

動きにくくはないのか……?


それからどうやら聖人のようだ。

この国に来てからは聖人にしか会ってないな……


視線を向けると、彼はこちらに歩いてきた。


「どうも」


ギルドの人間は職人気質……? 無口そうだな。

彼は立ち止まると、鋭い視線で俺達を見据える。


「あなたかな? 

今日は顔合わせなんだけど、多分明日から依頼を出すから空けておいてね」

「了解です」

「じゃあよろしくねー。あたしは一番北の研究所にいるから、用があればくるようにー」


ブライスはそれだけ言うと、さっさとギルドを後にした。

俺からするとあんまり説明されていない気がするが、全て話しましたと言わんばかりの足取りの軽さだ。

この人の紹介は……?


「えーと……よろしくお願いします」

「うん、よろしく。話は聞いてるから、また明日」


それだけ言うと、彼は踵を返す。

おいおい、名前も聞いてないぞ……


俺達は呆気にとられてしまったが、ライアンは臆さず声をかける。

……ナイス。


「ちょっと待ってくれよ〜」

「なに」


それを受け男は立ち止まってくれたが、やはりぶっきら棒で話しかけにくい雰囲気だ。


「名前も聞いてねぇしよ〜。

あんたが案内役なら、命の危険もありそうだよな〜?

そんな時は信頼関係を作るもんだろ〜?」

「マックス。信頼は……仕事で示す」


マックスは数秒考え込んだ後、そう答える。

堅物だぁ……


だが、ライアンはそんなことで納得しない。

ズカズカ歩いていき、マックスの首に腕を回す。


「よろしくな〜マックス〜」

「っ、離せ」

「そんなこと言うなって〜命を預け合う仲だろ〜?

ほらリューも行こうぜ〜」

「おっし、行こう」

「は? おい待て。俺は馴れ合うつもりは……」


ライアンはリューにも声をかけると、2人してマックスを拘束してギルドを出ていく。

……仲良くなれんのかな? すごい勢いで連れて行ったが。


彼らが去っていくと、空気がさらに冷え込んだ気がする。


「オイラ達はどうする?」

「……暇だな。顔合わせって何なんだってくらい」

「2人はどこに行ったんだろうねぇ」

「あいつらが考えることはよく分かんねぇな」


さて、どうするか……宿を探す?

この村なら建物の区別はつくだろうし、案内はいらないだろう。


「せっかく来たんだし、見て回る?」

「そうですね。

でも俺は観光よりは情報収集したいんで、4人で回ってください」

「ここで情報収集? そんな場所あるか?」

「この国自体面白いものしかないからね」

「俺は観光するつもりもなかったんどけどな……」


俺は観光も明日以降でいいんだが、ローズも何故かテンションが上がっていそうだ。

体を揺らし、ニコニコと笑っている。


ヴィニーが付き合ってくれればよかったが、どうやら無理そうだから仕方ない。俺も行くか……


「いいじゃん、その時々が大切なんだからさ。フーも行こうね」

「…………うん」

「オイラもー」


何かこの村で有名な食べ物とかあるかな……

マスターに聞いて見るか。


そう思い奥を見てみると、彼は既にどこかへ行ってしまったようで姿が見えない。

やっぱ会話する気はなかったらしいな。

あれでギルドマスターが務まっているのか気になる。


「あれ、ヴィニーは?」

「もう行ったよ」

「速い……」




~~~~~~~~~~




それから俺達は村を回ってみた。

バースやグレードレスのような見慣れないものばかりの場所ではなかったが、ゴチャついていないし俺としてはこっちの方が好みだ。


建物の間にある白く彩られた木々も、雪と同じようにどこにでもある巨大な氷も幻想的で美しい。

ここまでの雪景色も珍しいしな。


そして食べ物だが……


「氷菓子……」

「つめたーい!!」

「少しずつ食べたら大丈夫だよ」


他の国ではすぐに溶けてしまいそうな氷菓子が、のんびり食べられる。

薄く儚げなものから、乳製品をふんだんに使用した満足感のあるものまで様々で、それだけでも飽きない。

さらに冷たいだけでなく、何やら弾けるような感触を与えてくれるものもあるので、楽しさすら与えてくれる。


しかも、飲食スペースには例の冷気を抑えるような機械があるので快適だ。

他にも冬国ならではの乾燥食品、鍋料理など冷えた体によく効くものもある。美味い。


「景色もいいけど、俺はやっぱ食べ物だな」

「…………」


変わらず無口だが、どうやら隣のフーもご満悦だ。


「オイラもねぇ、景色よりおいしいものがいいなー」

「食欲を満たすっていうのは、幸せに直結するからね」

「生きてるって感じるなぁ……」


ライアン達はどこにいるのかねぇ……

マックスには同情するが、仲良くなってくれたらありがたいな。


形だけの同情を胸に、俺達はのんびりと観光を楽しんだ。

出国禁止だけど……なんとかなるだろ……


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