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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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40-解放の条件

俺が彼女に連れてこられたのは、バースの中央にある数百メートルはありそうなほど高い塔。

材質からか雪が積もっているからかは分からないが、純白の建物だ。綺麗だな……


そしてなによりも驚いたのが、いくつもの塔の連結したような形状だということ。

ポールのような偽装ではないだろうが、中枢でこの形状は少し……いや、かなり意外だ。各塔の行き来は楽そうだな。


そして内部は、神秘とは違う光と神秘的な光が同居する不思議な空間。物は少ないし、各塔へ移動するための通路しかないので多分ロビーだろう。


ブライスがいるため、俺は案内されるまま受け付けをスルーして、左側……南塔へと向かう。


赤い床の通路を進むと、突き当りにあったのは変な扉のようなもの。それが自動で開くと、中は箱のようになっている。

上階に上がるのにはこの変な箱に乗るようで、どうやら上下移動で運んでくれるらしい。


それに乗ってみると、塔の外側には窓があった。

あの風車よりも綺麗に街が見渡せるな……


やがて目的の階につくと、やはり静かに扉が開く。

その階も一見ロビーと大差ないが、たまにさっき気になった長方形や道を移動していた四角い箱などもある。

こんな訳のわからない物、流出しても誰も使えないんじゃないか……?


そんなことを考えながら彼女についていく。

やがて奥の扉に着くと、彼女は元気よく告げた。


「はいっもう迷っちゃだめだよ」

「え? ああ、ありがとう」


そうお礼を言うと、キラキラと輝く笑顔を見せる。

眩しい……


「あたしはブライス。

また会うことになるはずだから、その時はよろしくね」

「俺はクロウ。その時は多分またお世話になるよ」

「へへ、じゃあね」


元気な科学者だったな。

彼女の賑やかな足音が消えるまで待つと、気を取り直して扉に向き直る。

赤く煌びやかな、重苦しい扉だ。


俺は、これからどうなるのだろうか? と頭を悩ませながら扉に手をかけた。




~~~~~~~~~~




俺が足を踏み入れたのは、暗くほこりっぽい部屋だった。

この国に入ってからというもの、眩しく感じる物ばかり見てきたのでより一層暗く感じる。


そして何より怪しげだ。

床には紙が散乱しているし、壁際にある機械の中には鉱石のようなものや魔獣のような生物が入れられているものもある。

他にも、どこの景色を映しているのか分からないモニターが100近くもあるし、火を灯しているものも小型の風車が回っているものもある。


そんな機械が多すぎて、どこに行けばいいのか分からない。

ブライス……みんなのところまで案内してくれよ……




そんなこんなでしばらく彷徨っていると、何処からか声が聞こえてきた。

どうやら、声を響かせる機械というのもあるらしいな。


『そこを右だ、少年。その後はB5というところで……』


その指示に従って奥へと進んでいく。

1人じゃ絶対に辿り着けなかったな……

そうしみじみ感じていると、流石に少しずつ辺りが明るくなってきた。

人がいる場所でも暗いなんてことがなくてよかった……




どうやら思っていたより広い部屋のようで、さらに数分ほど歩いてようやく奥へと辿り着く。

そこには、ヴィニー達もヘーロンも勢揃いだ。

……当たり前か。


「やっと来たねクロウ」

「はぐれないでと言ったわよね?」


みんなはホッと顔をほころばせているが、ヘーロンの視線は冷ややかだ。

怖い……後で改めて謝罪に行こう……

きっといつか。機会があれば。


「申し訳ないです……」

「はぁ‥もういいわ。サベタルさん、全員揃いました」


ヘーロンさんは顔つきを真面目なものに変えると、奥の大きな机に向かってそう声をかける。

つられて俺も視線を向けると、まず目に入ってきたのは今までとは比較にならないほど散乱した本、紙切れ、機器。


こんなので研究できるのかと心配になってしまう……


そして、そこに座っていたのは青白い男。

まるで生気を感じないし、目も死んでる。

だがやはり白衣で、背は高いのに不健康そうな印象を受けた。


「……」


……えーと、いつまで待っても気づかない……?

俺がそう不安に思っていると、ヘーロンさんが動いた。


「サベタルさん、無視しないでください」


机に歩み寄り、男の肩を軽く叩く。

すると彼はようやく顔をこちらに向け、声を発した。


「無視……無視か……無視……確かに、そうかもしれない……

だが、今は……手が、離せない……」


男はブツブツと話すのでどうにも不気味だ。

俺達、マジでどうなるんだろ……

だが、ヘーロンさんはそんな様子にも臆さず言葉を続ける。


「ニコライさんが話していたのを見ましたよね?

彼らは出国禁止で研究の手伝いをしてもらうというやつです」

「あの子が、勝手な契約を……したせいで……

好きに……研究できない……」


契約のせいで好きに研究できない……?

何をするつもりだったんだよ……

この人はヤバいな。これが終わったら近づかないようにしよう。


ヘーロンさんも困り顔だ。


「アレクさんに頼んだほうがよかったかしら……

はぁ、私が進めていいですか?」

「解剖……抽出……合成……鉱石……魔獣……うん、好きにしなさい……」


怖い単語が聞こえたな……

ヘーロンさんはそれを聞くと男から離れ、俺達に向き直る。

少し不満げだ。


「取り敢えずこちらはこの国の元首、マキナ・サベタルさんです。政務はニコライさんに委任されているので、どちらかというと王と言った方がいいかもしれませんが……」


王様? 王なんて初めて会ったな……

そして聖人だ。雰囲気は暗いが、白いオーラを感じる。


そしてヘーロンさんはそのまま説明に入る。

ここに来る必要あったのか……?


「では私から契約の内容の話をさせていただきます。

契約書にもありました通り、出国は禁止です。

非人道的な研究はないですが、多少の検査などへの協力、材料集め、魔獣駆除などの依頼を出しますのでそのつもりで。


今日はこれから現地案内人との顔合わせをしてもらう予定です。この先は彼らに従ってください。

依頼の詳細は追って連絡します。


それから、結果を出せた場合は再戦の機会を与えます。

それに勝てば解放、という形です。

何か質問はありますか?」


出られないのは辛いが、魔獣駆除とかなら案外軽いかもしれない。だが、再戦で勝たないと解放してもらえないのか……

悪意がどうの言ってたし、それ以外で何か条件甘くしてくれねぇかな。


俺としては特に質問は無かったが、ヴィニーは手を上げる。


「はい、ヴィンセントさん?」

「結果を出すとは、具体的にどのようなものですか?」

「我が国の最終的な目標は、氷を溶かし生活圏を広げることです。そのための機械を作る助けになった場合や、その障害となるものを排除できた場合……などでしょうか」

「なるほど、分かりました」


ヴィニーとヘーロンさんの性格って似てるよな。

だけどヴィニーは優しい。

……うーん、時間が経てば怖くなくなったり……しないか。

うん。


「では、案内を……サベタルさん、ブライスはまだここにいますか?」

「核に氷煌結晶……入手に巨人……神秘を回路に……」

「サベタルさん」

「ニコライの電流……帰り支度をしている……中央塔……装甲にも使用可能……熱を広げる……」

「ありがとうございます」


ヘーロンさんはもう彼に見向きもせずこちらにツカツカと歩いてくる。

王……様? 


「では行きましょう。ついてきてください」


俺達は、国王マキナを尻目に研究室の出入り口へと向かう。

薄暗いゴチャついた部屋だが、ヘーロンさんの足取りに迷いはない。

……普通に尊敬する。




~~~~~~~~~~




部屋を出ると、そのあまりの差に目が眩んでしまう。

明るく、空気も澄んでいる。素晴らしいな。


そして、今度こそはぐれることのないように周りの物を極力視界に入れずについて行く。

もう怒られたくはない……




やがて連れてこられたのは雷がバチバチと音を鳴らす部屋。

……絶対にニコライの研究室だ。


そこはマキナの部屋とは真逆で、目を細めてしまうほどに眩しいく空気も澄んでいる。

機械も怪しげな物は……俺からすると無く、きらびやかだ。


この街で見た長方形のものや四角い箱などもここで作られているようで、それらが綺麗に整頓されている。

雷……これはこれで別の怖さがあるな。


というか、中央塔?

マキナじゃなくてニコライが使っているのか……

それに、何で他人の部屋にブライスがいるんだ?

……謎だらけだな。


「ブライスいる?」

「はいはーい、奥にいるよー」


うわ……本当にいるのか。

だがその返事と共に爆発音も聞こえてくる。

仲間で言うと、ライアンやリューのような性格だったからな……絶対何かしでかしている。


そんなことを考えながら、ヘーロンさんの後から奥の部屋に進んでいく。

すると視界に入ってきたのは、一面の黒煙。

それから素人目でも壊れていると分かる機械達だった。


「あ、さっきぶりだねクロウ」

「あ、ああ。そうだな」


彼女は俺に挨拶をしてくるが、できればスルーしていてほしかったな。

明らかに怒られる直前だ。


そんな俺の予想通り、ヘーロンさんは眉間を押さえて苦言を呈する。

怖いな……


「あなた……何しでかしているのよ?」


そんなヘーロンさんに対して、ブライスはあっけらかんとした笑顔だ。

その心の強さを分けてほしい……


「いや〜ほら、バースに来ることもそうないじゃん?

普段は籠もっているからさ。

せっかくだから色々見てみようかな〜って」

「それで?」

「ちょっといじってたら壊れちゃった」

「あんたね……」


無邪気……恐ろしく無邪気だ……

そしてそれに便乗するのはリューとライアン。

そわそわとブライスが散らかしたのであろう機械に手を伸ばし始める。

ローズの静止もお構いなしだ。


「ちょっと2人共、やめときなって」

「だいじょぶだって〜」

「もう散らかってるしな!!」


俺も正直気になるけどなぁ……これ以上ヘーロンさんを刺激したくない。

だが、2人はそんなことをまるで気にせずに機械を手に取る。


「うわっ冷た」

「ん〜、ビリビリするな〜」


リューが手に取ったのは赤い光を発する球体で、ライアンが手に取ったのは中身の見えない小さな箱だ。

赤いのに冷たいとか気になる……

後で俺も見てみようかな。


「あっはは、それは危ないかもー」


俺がそんな2人の様子を見ていると、突然ブライスがそんなことを言い出した。

なら荒らすなよ……


そう思っていると、ライアンの手からその機械が浮き上がり、ブライスの元へと飛んでいく。

なんの前触れもなく、突然だ。


「は!?」

「うは〜すげ〜」


驚いて彼女を見ると、相変わらずの笑顔だ。

……危険?


「これは没収〜。

で、メトロに連れて行けっていうことでしょ?

もちろん待ってたんだよ」

「後で怒られなさい」

「大丈夫、これを借りにきたら間違えて触っちゃったってことにするから」


ヘーロンさんの目が怖い……

だが、それが爆発する前にブライスはどんどん話を進めていく。

手慣れている……


「アレクはこの街にいるのかな?」

「いいえ。今いるのはマキナさんと私達だけよ」

「じゃあ……どうしよう?」

「はぁ……手伝うわよ。あなた達はこの部屋の外で何も触らずに待っていてね……?」

「は、はい」


そう言うと、ヘーロンさんは俺達に凄みながら追い払い始める。

絶対あの2人のせいだ……




10分ほどすると、彼女達は部屋から出てきた。

特に変化は見られないような気がするが……


そんな俺達の視線を意に介さず、ブライスは研究室の入り口に歩いていく。

すごくマイペースだ。


「じゃあ屋上へ行こー」

「この子の言うことを当てにしすぎると痛い目を見るから注意しなさいよ」

「わ、分かりました……」


屋上……もう既に嫌な予感がするなぁ……




次に俺達が連れていかれたのは、その言葉通り屋上だ。

柵はちゃんと取り付けられている。

だが空が見える場所ということで、正直もうどうなるか分かるな。


「じゃあ使うよー」


ブライスはそう言うと、手に持っていた何かを放り投げた。

どうやらさっきの箱のようだ。

ただライアンが痺れただけのやつ。


だがさっきと違って、それは地面に触れるやいなやその形状を大きく変えた。

まず四方に金属の棒を伸ばし、その後空に向かって円形に板を広げる。

まるで花びらが開いたような形だ。

用途……? 知らない。


「はい、乗って」

「え?」

「乗って」


その笑顔に押され、俺達はこわごわとその科学の花に足を乗せる。

そして、さらに彼女が何かすると、ガラスっぽい板が壁になるように上に伸びて屋根のない部屋に。


……ブライスは入っていない。

何故だろう? と恐る恐る外を見ると、何やら人1人が乗れるくらいの台が付いていた。

まるで誰かさんがここから操縦しますよ〜と言わんばかりだ。


「ゴー!!」


案の定その台に乗り掛け声がかかると、俺達は空へと撃ち出される。

初めて会った時とは比べ物にならないスピードだ。


「あぁぁぁ……!!」

「キャー……!!」


うん、デジャヴだった……


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