39-ゲームオーバー
俺は夢の世界でニコライに殺された後、最初の球体で目を覚ました。
雷による痺れもなく、神秘を取り込んだことで起こった自傷も消えている。疲れはあるがそれだけ。
本当に便利だ……
どうやって出るんだろう?
そう思っていると、外にいた科学者達が入った時と同じく開けてくれる。
促されるままに外に出ると、そこにはライアンとローズではなく、何故か既がリューいた。
「え、お前ももう負けてたのか?」
驚きのあまり、顔を見た瞬間にそう聞いてしまう。
するとリューは、寝ぼけてんのか? 俺が負けるわけないだろ?
というような表情をしてきた。
負けたからここにいるんだろ……?
「負けてなきゃここにいねぇだろうが」
「負けてはねぇよ」
「負けては? じゃあ相打ちか?」
「そうだぜ。そいつは俺と、世界一熱い死闘を演じたんだ」
リューと話していると、後ろから声がかけられる。
初めて聞く声だ……
振り返ってみると、そこにいたのは毎度お馴染み、白衣を着た科学者。
赤味がかった髪で、ヤンチャそうな顔つきの男だ。デケェ……
死闘……ニコライとの戦いの方がキツかったと思うけどな。
「へー」
「信じてねぇな!? マジで熱かったんだぞ!!」
「炎が熱かったなぁ」
「殴り合いも熱かっただろ!?」
「あっはっは」
な、殴り合い……?
普通に地味だが、リューと同じような人種の匂いがする。
強引な感じのやつ……うん、こいつは面倒くさそうだ。
こういうのは関わらないに限るし、すぐに離脱しよう。
「よーく分かった。じゃあ、俺は他の仲間に用があるから」
「そっか……じゃあまた後で話聞かせてくれよ。
お前とニコライさんの戦いも熱かったぜ」
「え?」
彼はそれだけ言うと、リューに組み付き熱心に話しかけ始めた。
リューも首を締めるような動きをし、なかなか盛り上がっている。
見てたのか……?
気にはなったがまた話しかけたら逃してくれなそうだ。
後でニコライに聞こうと思い直し、ローズ達の元へと向かう。
俺が近くの科学者に聞くと、少し奥まった場所にあるガラスの板のような物が取り付けられた部屋に案内された。
板は部屋の壁全体を覆うほどに巨大で面食らう。
だが、それ以上に驚くことが1つ。
そこには……ヴィニー達と科学者たちの戦いが映っていた。
「なんだこれ……」
「これはモニターです。仮想空間の映像を映しており……」
意味が分からない。頭が焼き切れそうだ……
俺が思考を放棄して科学者の説明を聞き流していると、奥から声がかけられる。
ふらふらと顔を向けると、椅子に座ってこちらを見ていたライアンとローズだ。
タスカッタ……
「あっクロウおつかれー」
「お前も強くなってんだな〜」
そんな安心も束の間、ライアンも俺とニコライの戦いを見ていたかのように話す。
ドウイウコトダヨ……
「何これ……」
「他の場所が見られる機械、だって」
他の場所が見られる……? 他の場所……? 他の……?
……あの夢の世界を起きたまま見られるものってことか?
なるほど。
そしてこの金属達は機械という名前。
よし、もう分かった。だが理屈は知らん。
「へー……」
「あっはっは、俺も分かんねぇから気にすんな〜」
「鏡みたいなものだよ多分。何故か遠くを映しているだけ」
鏡って無理がある……いやもういいや。
「取り敢えず、ヴィニー達の様子が見れるんだな?」
「その通りよ」
再び思考を放棄していると、やはり後ろから声がかけられる。
既視感を感じながら振り返ると、そこにいたのは毎度お馴染み白衣の科学者。
青みがかった黒髪で、少し冷たくも感じる顔つきの女性だ。
「あれ? さっきまでヴィニーと戦っていた人ですか?」
「ええ、丁度あの子に負けて出てきたところよ」
丁度負けてもうここにいるのか……?
科学ってやっぱりすごいのかもしれない……
「流石ヴィニーだね」
「あの執事がこんな強いとはな〜。考えてもみなかったぜ〜」
「本当に恐ろしいわ……」
「しれっと入ってんなあんた……」
科学者ってのは癖が強い人種なんだな……
「あら、ごめんなさい。もう邪魔はしないわ」
そう言うと彼女はすぐさま踵を返し、去っていく。
切り替えはや……
気を取り直してモニターに意識を向ける。
今映っているのは、ヴィニーが……え? 2人と戦っているところだ。
無謀すぎる……
だが、血だらけになりながらもニコライに迫る様は鬼気迫るものがある。
痛々しいが、参考になるな……
ヴィニーは2対1の状況で数分耐えたが、ついに倒れた。
ゲームは俺達の負けだ。
これ、どうなるんだろ……
決着を見届けた後、1分もするとニコライ達がこの場に現れた。
やはり傷一つなく出会った時のままだ。
「ゲームは我々の勝ちだ。従ってもらうぞ?」
「ええ、でも非人道的な行いは無しなんですよね?」
「もちろん。ではまずは首都にお越しいただこう」
そんなやり取りの後、俺達は再び外へ連れ出される。
外へ出ると、目の前には来た時と変わらず電気自動車が。
またこれで移動か……快適で助かるな。
そんなことを考え今度は自分達から乗り込むが、何故かニコライは動かない。
「どうしたんだ?」
「ん? いや何、用事ができただけだ。
白い雪……吹雪がやってくるので、私が抑えに行かなくては」
彼はそんなことを言いながら、遠くを見つめている。
その視線を追ってみると、彼が見ていたのは遠くに見える山だった。
四方を山に囲まれているこの国でも、一番高く見える山。
そしてその上空には、厚い暗雲が立ち込めている。
……ニコライが言っていた、この国に大きく影響を及ぼしている冷気なのだろうか。
確かに一雪降りそうだ。
「すまないな。案内は別の者にさせることになる。
しばらく待っていてくれ」
「分かった」
ニコライはそう言うと、轟音と共に空へ飛んでいく。
ウォーゲームの時のように雷を纏っているようで、恐ろしく速く、まばゆい。
……すげぇ。
それからしばらく待つと、さっき声をかけてきた女性が現れる。少し気怠げな様子だ。
「こんにちは。案内を頼まれました、ヘーロン・アルベールです」
挨拶を終えると、彼女はそのまま助手席に乗り込む。
……この人がまともな人であることを願おう。
そう思っていると、ヘーロンはぶっきら棒にこんなことを言ってきた。
「……私の本職は科学者なので、あの負けは仕方がないものよ」
「分かってますよ」
どうやら負けず嫌いなようだ。
変人っぽくはないかな……?
~~~~~~~~~~
それから凍てつく街道を2時間ほど車に揺られ、連れてこられたのは首都バースだ。
建物の特徴はグレードレスとほとんど同じだが、街中で何かの機械が動いている。
人型のものもあり、見慣れていない俺にとってそれは少し不気味な光景だった。
それに地面には一部変な道のような物も取り付けられていて邪魔……もとい不思議だ。
歩きにくいだろうな、などと考えていると車から降ろされる。こっからは歩きなのか……
「少し歩きますから、はぐれないでくださいね」
「分かりました」
足元を四角い機械が通っていく。
空を羽のような物が付いた機械が飛んでいく。
時折、何処からか風を切るような音も聞こえている。
首都というだけあって、人も多いようだ。
かすかな機械音を塗りつぶすような喧騒が聞こえてくる。
すごいところだな……
「……あれ?」
ふと辺りを見回してみると、この場には俺以外誰もいない。
……しまった、はぐれたか?
仕方がないので、俺は取り敢えず高い所に行くことにした。
迷ったら動くなっていうのが鉄則だろうが、神秘なら近づけば分かる。
だが目的地は分からないから、上から見て気になったところに行ってみようというわけだ。
運もいいし、そうそう面倒なことにはならないだろう。
そんな軽い気持ちで歩いていく。
「近場で一番高いのは……あれか」
どの建物も大きいので少し迷ったが、丁度頭一つ抜きん出た建物が目についたのでそこに行くことにする。
街の構造は理路整然としているので、一度目的地を決めてしまえばそこに向かうのは案外楽だ。
足取り軽く、目的地へ向かう。
「でっか……」
5分ほどで辿り着いたのは、バカでかい風車とそれに付随した施設。
どうやらこれらは丘の上にあったから目についたようだ。
といっても風車や施設も想像より大きい。
遠目で見た時は他より少しでかく見えただけだが、近くで見るとこの国を囲む山以上に大きく感じる。
……何でこんなにでかいんだろう?
まるで人口全ての小麦粉を作ります、と言わんばかりだ。
首が折れそうになったので、風車を見るのをやめてこの街を一望する。
科学の街か……
仕組みは意味不明だし用途も想像できない物ばかりだが、便利な物ではあるんだよな。
上から見て特に気になった物は、長方形が瞬きの間に光速で移動する機械だ。
あれも意味不明だが、絶対にニコライが関わってるだろ。
一体何をする機械なのやら……
なんか不思議と心惹かれるな。
……ニコライか。
彼が向かったと思われる山の方に視線を向け……
「おいーっす、君が迷子の子だね?」
「え? まぁ迷子といえば迷子……だな」
景色を楽しんでいたのに邪魔されてしまった。
俺の後ろにいきなり現れたのは、やはり白衣の科学者。
もうこれ以外考えられないほどお馴染みの光景だ。
「どこから現れたんだ?」
「空!! この神機ヴィンドで飛んできたの」
「へー、空を飛べる……」
彼女が見せてきたのは、背中に背負った大きな機械。
科学ってのは人も飛べるようになるのか。
便利というか……羨ましいな。
「そう!!だから捜し物にはうってつけ〜。ってことで」
「え?」
彼女はそう言うと、俺の返事も待たずに腕をわしづかみにしてきた。
っていうか、腕にもその機械付いてたのかよ!?
「ちょっ‥‥」
「ゴー!!」
「うわぁぁ‥‥」
ああ、デジャヴ……
俺はいつだかのように、俺の意思とは関係なく猛スピードで運ばれた。
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