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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国

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36-ウォーゲーム⑤

-クロウサイド-


この戦場にあって、埃の1つも被らず真っ白な白衣。

ピカピカに磨き上げられた革靴。

どれも異質で、本当に彼がここにいるのかと思ってしまう。


……いや本気でどうしてここに?


ヴィニー達が進んだのは、俺達よりも速く通り抜けられそうなエリア。

ここが制圧済みなのを考えると、彼らは既に5番のエリアに辿り着いているはずだ。まさかこいつに負けたのか?

だとしてもこいつがわざわざ俺達の元に来る必要はないが……


「何でもうここにいるんですか?」

「もちろん他のエリアを突破してきたからだ。

それから、どうせなら全員を観察したいと思ってね。戦いに来た」


ローズが問いかけると、ニコライはそんな理解不能な言葉を返す。

戦闘狂とは違った行動原理で戦闘を望むだと!?

こんなやつ初めて見た……


「それからバンドを見れば分かると思うが、君達の仲間はまだ無事だ。私の部下が相手をしている」


やはりヴィニー達は5番エリアに着いてたか……

それならガルズェンス側と人数は同じ。

ロロは……うん、人数は同じだ。足止めを食らっているのだろう。


「へ〜、あいつらを抑えられるやつね〜」

「ふむ……? なにやら仲間を過大評価していないか?」

「実際あいつらは強いぜ。

1人は神秘じゃないくせに神秘と張り合うくらいだからな」

「彼か……」


クリスタルを壊すのも勝利条件なのに、結局全面衝突とはな……

少なくともヴィニーは負けない。俺達は俺達の戦いをするだけだ。


「3体1でいいのかよ?」

「その覚悟がなければ1人で来るはずがないだろう?」


その言葉と共に、ニコライと俺達の戦いが始まった。




~~~~~~~~~~




戦闘開始直後、ライアンがニコライに向かって突っ込んでいく。

彼は一度呪いを解いていたが、改めて"獣の王(カルノノス)"によって"レグルス"と"メガロケロス"の力を纏っているため恐ろしいスピードだ。目で追えない。

瞬く間にニコライに接近し、彼に殴りかかる。


科学者が光速を捉えられるのか……?


そんな風に思っていたのだが、ニコライは思っていたより遥かに強かった。

目にも留まらぬライアンの拳を、一歩も動かずその場で受け止めている。


あいつのパワーを受け止められる学者って何……?

そもそも角は? 痛くねぇの?


「お〜、強いんだな〜あんた」

「ふふ」


そんな意味不明で呑気なやり取りの後、ライアンはさらにニコライにむけて拳を振るう。

俺にはほとんど見えないほどのスピードで、眩しくて直視しているのも大変だ。


だが、ニコライはやはり微動だにせずに捌き切る。

よく見えないがどうやら笑みまで浮かべているようで、明らかに戦闘向きの祝福を持っているようだった。

俺はあいつを科学者だと認めたくない……



しばらく彼らの強さに戦慄しながら見守っていると、唐突にまばゆい光と轟音が辺りに響き渡った。

たまらず俺とローズが目と耳を庇っていると、ライアンが吹き飛ばされてくる。

何事……?


「な、なんだ今の?」

「痛ってぇ〜」


呑気か!! 焦れ!!

だが彼が痛いと言うなら今の光はニコライの力かな?

音もある光……雷だったりするか?


「おそらく君の想像通りだ。電気……雷の一種だと思ってくれ」


強いやつはみんな心を読んでくるのか……?

それはともかく、雷か。

獣、茨、妖火、運。どれなら勝てるんだ……


俺が思考を巡らせる間に、ニコライは祝福の力を開放していく。


「私も久々の運動だからね。力みすぎてしまったらすまない。

"伝導"開始……"電磁場"展開……」


"氷雪を開く至光(トール)"


彼の体が次第に浮かび、脈打つような火花を散らしながら光を帯びる。

同時に彼を中心として、まばゆく、そして少し痛みを感じる光が広がっていく。

敵ながら神々しく、美しい神秘だった。


「ローズ」

「任せて」


"茨海"


それに対して俺達が出せるのは茨の海。

ゴーレムを押し潰し、ニコライと俺達を遮るように展開されていく。


ニコライのものは実体がないようなので、もしかしたら意味がないかもしれないが……


「ライアン、行けるか?」

「もちろんだぜ〜。こういう場でならあいつより戦えるだろ〜」

「……油断すんなよ。じゃあ、行くぞ」


俺達はバラけながらニコライに接近する。

今回はエリスの時と違って、ライアンを主軸にローズが掩護、俺が隙を伺うといった形だ。

また捌かれてしまうのではという不安もあるが、それでも最善はこの戦い方だろう。


同じ光速でもライアンの速さはあくまでも獣の力。

彼は茨の海、という一見すると森のような戦場で、その真価を思う存分発揮していた。


一瞬でニコライの背後へ近づき、拳を振るう。

それをニコライが受け止めると、その瞬間には視界から消え、また別の角度から接近。再び殴る。


茨がその動きに合わせて足場を作るので、それを延々と繰り返し、まるで嵐のような猛攻を浴びせかけていた。

俺達が手を出す隙もない。


だがやはり捌かれているな……

雷というだけあって、反応速度が尋常じゃない。

それでも茨無しよりはマシのようだが……


「お前、本当に科学者かよ〜……」

「見ての通りだ」


そうぼやきながらライアンが槍に持ち替え刺突を繰り出すと、ニコライは両手を槍の上下になるように構える。

するとその手の間に雷が発生し、その勢いに押されてか、手の動きに合わせて槍が下に逸れていく。


"渦電流"


「ああ〜!?」


ライアンが驚いている間にニコライは両手を構え、彼の顎へと強烈なアッパーを食らわせる。

雷を纏った、致命的な一撃だ。


ライアンは少し動きも鈍っていたのか、避けることもできずに遥か後方へと。


「ライアンー!!」

「くっ」


茨がライアンを柔らかく受け止める。

棘はあるが、地面に激突よりはいいだろう。


だがホッとしたのも束の間、同時にニコライも動いた。

轟音を轟かせながら俺達の方向に移動を始め、辺りに展開されていた電磁場というものが、バチバチと音を鳴らしながら茨を燃やす。


「ローズ!!」

「えっ‥‥」


狙われたのはローズ。

彼女の周りの茨は燃え尽きる前だったが、ニコライの襲来と共に吹き飛ばされており無防備だ。

それでも、追加で生やしたほんの少しの茨を格子状にして防御態勢を取る。


「無駄だ」


それを見たニコライがそう言い人差し指を突き出すと、四方八方から微弱な雷が生まれローズを撃ち抜く。

……接近の意味!!ってそれどころじゃなかった。


俺は急いで駆け寄ろうと駆け出す。

しかし、手加減されていたおかげでまだ無事だった彼女は、俺が通れないほどの茨を瞬間的に生やす。


"咎人を包む世界"


前回と違って隙間はあるが、俺もニコライも動きを完璧に封じられている。


「さっきのを食らって学習しなかったのかな?」

「学習した上で、だよ」


再びローズを雷が撃ち抜くが、彼女は茨で体を支えて倒れない。

さらには、避けられないニコライへ妖火と茨で攻撃する。


"赤茨鎖錠"

"妖火-蛍火"


そもそも実体がない火は、彼の反射神経をもってしても防げない。

小さな爆発が、体中に火花を咲かし燃え上がる。


あまりに多い茨を防ぐのには、彼の手足は足りていない。

茨は雷で多少防げているのもあるが、それでも何割かは燃えながら届き体に突き刺さる。


「くっ‥」

「はぁぁぁ‥‥!!」

「だが‥まだ甘い!!」


"雷轟万華"


ニコライが茨に貫かれながらもそう言うと、空気中に漂う電磁場を通して、全方位に雷が流れる。

それは全ての茨を焼き尽くし全ての妖火を吹き消す、迷宮中に輝く神秘の雷光。


「あぁぁぁ‥‥」


俺もローズも為す術なく、ニコライの雷に撃ち抜かれた。






「う‥‥あ、あれ?」


気づくと俺は、茨が燃え、地面が岩山のようにボロボロの迷宮に1人で倒れていた。

雷は迷宮中を破壊し、俺の元へも殺到したはず。

ふっ飛ばされはしたようだが、何で無事なんだ……?


「ライアン!?ローズ!?」


周りを見回してみると、ニコライが立っているのは見えるが他の2人の姿はない。

まさか……?


「心配はいらない。ここは夢の中のようなもの、彼らは現実世界に戻っただけだ」


俺がそんな心配をしていると、ニコライがそう言いながら歩み寄ってきた。

燃えていたはずの白衣は未だ形を保っているし、体に刺さった茨や傷も、雷で焼かれ塞がっているようだ。


2人の全力を食らってこれとは……

大厄災ではないだろうが、十分に圧倒的な存在感を感じる。


無事なのはよかったけど……これは勝てないな。

せめて時間は稼がないと。


「ふぅ‥‥君は運がいいのだね」


こいつも運を認識するのかよ……


「そうだな。

あんたの攻撃が俺を殺すようなものなら、運良く外れる。

仲間がクリスタルを破壊するまでの時間稼ぎくらいはさせてもらう」

「ふむ……確かに先程の攻撃は外れてしまった」


"伝導"


彼はそう言いながら、ライアンの時のように再び雷を纏う。

あの攻撃を捌かないといけないのか……


そう思った瞬間には目の前に。

うん、見えない。


「ぐっ‥」


容赦なく腹に拳を叩きつけられ無様に吹き飛ぶ。

その上地面は抉れた石畳なので、転がるたびに体に血が滲む。


「死なないのならなんの問題もないか……

先程の回避は、流れ弾だったからかな?」


俺が立ち上がってニコライを見ると、そんなことをつぶやきながら観察をしている。

俺はまずこの攻撃を目で捉えられるようにならなければ……


ニコライの神秘の方が強いので、運には頼れない。

なら、辺りの神秘を取り込むしかないか……


「はぁ……はぁ……」

「うん? 目が充血しているが大丈夫か?」

「問題ねぇ。夢なんだろ? たとえここで失明するとしても、俺はあんたを止めて見せる」


ニコライが敵のくせに余計な心配をしてくる。

仕方ないじゃないか……誰も彼も、俺より強い神秘だ。

犠牲を払わなければ、まともに相手にならない。


ヴィニーがあれだけ無茶をしているのに、俺が簡単に倒されるわけにもいかないしな。


「目はここを出れば治る……だが、それは途轍もない苦行だろう。

すぐ楽にしてやる」


ニコライがそう告げると、電磁場がより一層輝き出す。

死にそうだけど……これは現実じゃないから避けられないんだろうな。

せめて、一矢報いる……!!


ニコライ、ライアン、ローズ。

この場にいたのはきっと、大厄災を除けば世界でもトップクラスの神秘だろう。

そんな存在が撒き散らした神秘を取り込むのだ。


絶対に後に繋げて見せる……


俺は、荒れた石畳を吹き飛ばしながらニコライに接近する。

限界を超えた速さだが、きっと防がれるのだろう。

それでも……


廻れ……巡れ……


「あぁぁぁ……!!」


防がれても、躱されても、俺は延々と剣閃を繋げ続ける。

たまに振るわれる拳も受け流し、止められる攻撃も次に繋げ、廻る。


だが……


「充電完了。交流を開始する」


その言葉と共に、電磁場全体が鼓膜を破らんばかりの轟音を鳴らし光る。

特に俺達の左右の二点からは、太陽と見紛うほどの光が。


「は!? どこいった」

「ここだ」


気づくと彼は、迷宮の天井近くに浮かんでいた。

信じられない。攻撃は途切れさせていないのにこれか……

もう決して彼に近づくことはできないだろう。


"雷霆ミョルニル"


呆然と見ていると、彼は振り上げた腕を下に降ろす。

次の瞬間、俺の視界はただただ真っ白に。

世界は、雷に包まれた。


ああ、なんて神秘的な……


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