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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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374-家族のために獣を討つ

暴禍の獣(ベヒモス)はウィリアムとアルムを喰い殺し、セタンタとビアンカにも致命傷を与え、なおも暴れる。


第一陣の戦いに巻き込まれないように、少し離れた位置から見守っていたヴィンセント達は、その光景を見て険しい表情を浮かべていた。


「邪魔にならないように様子見してたけど、これは……」

「大嶽丸より、ヤバい相手だね〜……」


ヴィンセントがあ然とした様子でつぶやくと、見えない傷を治してもらって全快の雷閃は、自国を襲った大厄災と比べて困ったような笑顔を浮かべる。


大嶽丸――八咫を襲った妖鬼族の長、数千年蓄積された、人類への怨嗟を一身に背負った異形の人類。

彼は条件付きとはいえ不死身であり、間違いなくとんでもない強敵だった。


そんな男と比べて、あの獣の方がヤバいと断言したのだ。

リュー達にケット・シー勢と、この場にいるのはあの戦いには参加していなかった者ばかりなので、反応はあまりないが……


この場に集まる面子の中で、唯一大嶽丸と矛を交えたどころか、トドメの一助になったヴィンセントは、将軍様の言葉を聞いてより顔を引きつらせていた。


「当たり前でしょう? あれは現人神が縛った大厄災だよ。

あまりにも強過ぎるから、討伐を諦められたモノ。

それどころか、戦うこと自体が世界を滅ぼすことになりかねないと、禁止されている化け物さ」


とはいえ、暴禍の獣(ベヒモス)の脅威については、大嶽丸のことを知らずとも広く知られている。

むしろ、彼の情報を含めない方が、脅威度を理解するにはわかりやすいとすら言えるだろう。


ケット・シーの王様であるキングは、流石に緊張している様子でシルクハットを押さえ、大厄災について語っていた。

その話を聞いたリューは、再び不安定さをチラつかせながら凶暴な目を敵に向ける。


「そんなやつが、クロウの敵なのか……!!」

「ちなみに、大厄災同士が戦うと間違いなく世界が滅ぶとして、現人神や維持側の大厄災が仲裁に来るらしいですよ。

これらのルールに縛られた4つの大厄災……これが人類から生まれた最初の災い。大嶽丸というのは、多分その後ですね」

「ふぁ〜あ……とりあえずあれは、食べるやつだね」

「ずっと飢えている、獣に堕ちた男ですわ〜っ!!」

「……急に、情報、少ない」

「クイーンちゃんはいいとして、君は森の先生なんだよね?

バロンくんと役割、交代した方がいいんじゃないかな〜?

まぁ、相談役も難しそうだけど〜……」


キングに続いてバロンが説明をするが、本来森の先生であるヴァイカウンテスは眠そうだ。クイーンと合わせて、いきなり情報量が減ったことで、フーや雷閃はツッコミを入れる。


だが、もちろん彼女はそんな指摘を気にする猫物……人物ではない。なおも緊張感の欠片もなくダラダラとしており、彼らは諦めたように目を逸らした。


「ともかく、戦力が減ったからには俺達も参戦しないと。

上にいるクロウ達が巻き込まれる。何より……」

「あいつが1人になった元凶だ、絶対に殺す!!」


死傷者はヴィヴィアンによって回収されているが、餌が減ればその強欲な触手は観覧席へ伸びていく。

それを防ぐために、ヴィンセント達は動き出した。


真っ先に飛んでいくのは、またもや気が動転している様子のリューだ。




「……さて。どうしましょうか、これ」


ずっと戦い続けていたソフィアは、暴禍の獣(ベヒモス)にほとんど攻撃が通用しないことを悟り、思案顔で動きを止める。


人員が減ったことで、触手や捕食空間は既に彼女達以外にも……観覧席にも向かおうとしていた。

しかし、止めようと思っても攻撃は食べられてしまうため、ほとんど意味はない。


最悪の場合、食べた攻撃をそのまま吐き出して返してくるのだ。すぐにまた防ぐために斬り始めるが、完全に手詰まりといった雰囲気だった。


「斬っていればいずれ殺せるでしょう。

考えることも得意ではありませんし、私は斬り続けますが」


そんな彼女に対して、まったく悩まずに斬り続けているのはもちろん海音だ。問題があれば、とりあえず斬れば良い。

普段から実行している通りのことだが、この状況でも完全に割り切って動き続けていた。


人数が減ったことにより、獣の反撃は激しさを増している。

ソフィア同様、時折触手などが掠っているのだが……


彼女の場合はそれすらも気にしない。

手足が飛ぶような欠損ではないので、普通に筋力で傷を塞いで戦い続けていた。


この戦いが終わったら、しばらく眠ることになる可能性はあるものの……大自然の力を行使できる神秘の中でも、間違いなく常識外れの強さでありまさに超人だ。

これには、流石のソフィアも呆れ顔である。


"不知火流-雷火"


"魔弾-フーガ"


"風鬼の舞-神眼"


"流浪楽章"


"運命の添え木"


そんな中、絶えず動き回る彼女達の背後からは、援護をするようにいくつもの攻撃が放たれる。


目にも止まらぬ速さを持った、雷の居合い切り。

不安定さが不規則な荒ぶりとなっている、強風を渦巻かせた無数の弾丸。


狐の仮面を被り、鬼人の力を宿した執事によって放たれる、かまいたちのように鋭い風の連撃。

あらゆる属性を持つ音符のような玉を操り、強弱やリズムを変えて攻撃を飲み込んでいく王の指揮。


餌に食らいつこうとする触手に添えられ、さり気なく喰らうという運命を逸らしていく木。

より国際色豊かな第二陣による、実に頼もしい加勢だ。


"女王のファンタジー"


"パァン"


"シールパラム・シュタッヘム"


また、加勢に気がついた海音達が退避した直後。

初撃からは少し遅れて、より範囲の広い攻撃がいくつか繰り出された。


女王の威厳を体現したかのような、目を逸らしたくなる輝きを秘めた炎の波。単に面倒だからと、やたらめったらに尻尾を振って撃たれてある氷の弾丸……もとい散弾。


元は弱いそよ風でありながら、力を溜めることによって確かな威力を秘めて放たれる、刺々しい風の波。

2人の剣士が飛び退った後には、これら広範囲攻撃が雪崩込んで触手や捕食空間、地面を砕く炎などを制していた。


もちろん、中心で涙と涎を流している獣には届かない。

元凶が無事なのだから、すぐに触手なども勢いを増して巻き返してくるだろう。


だが、手詰まりに近いとはいえ、そもそもの手が増えれば獣の守りを突破できる可能性は高まる。


今まで邪魔をせず見守ってきたヴィンセント達が、後ろからやってきたことで、ソフィアは表情を改めて敵に向かっていた。


「助かります、皆さん。先程は後衛があまりいませんでしたし、隙を埋めれば直接合間に斬撃を放てるかもしれません。

ケット・シーの皆さんには、是非後方支援を」

「オッケー、ボク達は術師タイプだからね。

大船に乗ったつもりで任せておいて」


ソフィアが迷わず指揮を執ることができている通り、第二陣として集まったメンバーはなかなかにバランスがいい。


加勢を戦闘に組み込んだ上で猪突猛進に突っ込んでいく海音と、指揮を執りながらも前線で飛び回るソフィアはもちろん前衛。


第二陣では、雷閃、ヴィンセント、リューが前衛。

キング、クイーン、ヴァイカウンテス、バロン、フーが後衛だ。ちょうど5-5であり、完璧なバランスである。


単純な戦闘能力であれば、当然序列3位であったウィリアムや7位アルム、10位のビアンカにセタンタまでいた第一陣の方が高かったかもしれないが……


キングやヴィンセントなど、彼らに張り合うどころか勝てるような戦士もおり、決して戦力不足だなんてことはない。

何より、パワーに寄った彼らが勝てなかったのだから……


「あの獣には、単純な威力――力任せでは勝てませんでした。

私の対になる騎士が落ちたのです。もう、並大抵の火力では勝てないと見ても良い。であれば、次は技術で攻めます。

幸い、あなた方も技術で戦う戦士でしょう?」

「はい。少し荒っぽいのもいますが……それでもパワーに振り切れてはいませんから。俺も、目を開放します」


ソフィアとヴィンセントは、撃破よりも攻略の目線で戦場に立つ。風は吹き荒れ、猫は唱う。

そして雷鳴は、きっと道を切り開くだろう。


彼らを束ねるは最優の未来。望む結末へと手を伸ばすため、すべてを見据えた戦いの始まりだ。


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