35-ウォーゲーム④
-クロウサイド-
迷宮が揺れる。
たまに壁や床がひび割れていくことがあるほどに。
その原因はもちろん、数え切れないほどのゴーレム達だ。
百を超える巨体が一歩を踏み出すたびに、恐ろしい音と共に足場が壊れていく。
やってられない……
しかもその中のいくつかの個体は、金属の弾を打ち出してくるのだ。
はっきり言うと大して効かないが、それでも少し痛いからやめてほしい。
そして何より敵があまりにも大きい。
今いるクリスタルのある大部屋は、目測でおよそ20メートルはありそうなのだが、ゴーレムは8メートルはある。
通路のゴーレムの倍だ。
どうやって斬れと?
真正面から壊しているやつもいるけど……
"獣の王"
ライアンの呪いのその真価。
得た神獣の力を、同時行使できる。
……強すぎん!?
今彼がその身に宿すのは、"ヴォーロス"、"メガロケロス"、"レグルス"の3種だ。
ヴォーロスの巨体、メガロケロスの角の攻撃力と防御力、レグルスの光という、いいとこ取りの合成魔獣と化している。
大きさは先程のゴーレムとそう変わらず5メートル前後だが、目の前の約2倍の大きさのゴーレムを少しずつ粉砕していく。
槍も振るうのだが、今は角。
鹿の角のはずなのだが、頭以外からも生やせるということで腕を鎧のように角で覆っている。
攻守一体のそれは、ゴーレムが殴りかかってきたらその威力を受け止め、攻撃の際には開き、爪のように粉砕していく。
……肉弾戦最強じゃね?
少なくとも俺達の中では勝てるやつはいないだろう。
ヴィニーは分からないが。
そもそもあの巨体であのスピードを出せるのがおかしいんだよな……
俺はそんなことを考えながら、ゴーレムの間を駆け抜けていく。
目的は、もちろん撹乱。
俺がゴーレムの気を引き、ローズが茨で拘束する。
それをライアンが砕くといった手順で、俺達はじわじわと奥へと進んでいた。
頭のおかしい筋力だ。
だが、残念ながらここの面子に索敵できる者はいない。
ローズは全方位に茨を拡げればできると思うが、ゴーレムの中には腕から炎を出すやつなんかもいる。
現状、茨海の維持もできていないくらいだ。
そのせいでクリスタルも自分達の目で探さないといけないのだが……
「ローズ〜まだ見つかんねぇの〜?」
「こんなにうじゃうじゃいたら探せる物も探せないよ」
ローズは茨で体を高く持ち上げて、クリスタルがないかを探している。
だが、エリアの鍵がそんな上空にポツンと浮いてるわけもなく。
地面や小さな台座にあると思われるクリスタルは、ゴーレムの巨体によって隠れ、探すのがままならない現状だ。
「俺も全部壊すのは無理だと思うんだよな〜」
そんなライアンの言葉を聞き、俺も覚悟を決める。
ヴィニーなら限界を超えて神秘を取り込み、血を吐きながらでも斬ってのけるだろう。
このよく分からない世界は神秘が薄いようだが、幸いこの場にはローズやライアンの神秘が溢れてる。
きっと斬れるはず……
「スー‥ハー‥」
目を閉じて、神秘を取り込む。
段々とそれは体に満ち、体中を駆け巡っていく。
廻れ……廻れ……巡れ……巡れ……
「……クロウ?」
「ローズ、剣に茨で鞘作ってくれないか?」
「分かった」
剣も包めば、より神秘を纏わせやすいかもしれない……
目を開け駆け出す。
どうやら茨で守ってくれていたようだ。
それをそのまま茨の道として利用する。
右手に握られた長剣は、長々と伸びる茨の中……これ斬れるか?
「これ、抜けるのか?」
「振ろうとしたら解除して支点にするよ」
「ありがとう」
どうやら上への道を作ってくれたようで、少しずつ視線が高くなる。
目の前にはゴーレムの顔。
だが……
横から炎が向かってくる。急に動き出したから狙われたらしい。
こんな狭い道で、なんてことをしてくるんだ……
避けようがないじゃないか。
ローズが茨で遮ってくれたので、時間を稼いでくれる間にスピードを上げ、無視して進む。
壁は破竹の勢いで燃えてるし、道も保たないかもな……
汗で剣を落としそうになりながらも、ゴーレムに迫る。
そのゴーレムは、おそらくこちらに視線を向けるが……
「おいしょ〜」
ライアンが別のゴーレムを投げた……
は? バカかよ……ありがたいけど。
ゴーレムの視線は、ライアンの方へと。
首を落としたら、止まれよ……?
茨の鞘から剣が飛び出す。
それは神秘を十分に取り込んでおり、ここにはない太陽を反射したかのような煌めきを見せた。
その軌道は綺麗にゴーレムの首へ。
バチバチと音を鳴らしながら、それを胴体から切り離す。
……首まで飛べれば俺でも斬れるな。銅はキツイが。
そのままその胴体を利用し、次のゴーレムへと向かう。
一度その集団に入ってしまえば、あとは簡単だ。
ドミノのように繋がった獲物へと、斬っては飛び、斬っては飛びを繰り返す。
そしてそれを見た2人も、それを真似して戦い方を変え始めた。
ローズは少ない茨でも、より鋭く、より速く。
"赤茨鎖錠"
燃やされながらもどうにか首まで届かせ、少し時間を掛けながらも確実に仕留める。
最初の棘を食らってしまうと、後からくる棘も防ぎようがないからな。届かせてしまえば勝ちだ。
そしてライアン。
彼は最初のやり方でも十分すぎるほど倒していたのだが、どうやら機動力特化でも戦えたらしい。
"レグルス"の肉体四肢での高速移動に"メガロケロス"の角での破壊力。
それを駆使してゴーレムの頭上を飛び回り、頭部を破壊し始めた。
うん、強い。
3人で一気に倒し始めたことで、ゴーレムがその数を大きく減らす。
だが、俺とローズは割と無理をしているので急がないと……
「ライアンも今の戦い方なら探せるよな?」
「おうよ〜。任せときな〜」
一番余裕のあるライアンにも捜索を頼む。
俺は皮膚が割れてきているし、ローズもふらついて茨の勢いを落としている。
それを察してくれたようで、彼は光と見間違えるほどのスピードでゴーレムを砕いていく。
軽く引いてしまうほどに速い……
瞬き一回の間に最低でも2体は破壊されていて、なぜ最初は熊で戦ってたんだろうかと不思議に思う。
最初が狭い道での戦いだったからしょうがないか……
というか、もう俺とローズの出る幕ではないかもしれない。
速すぎて雨のような残骸が降ってくる。
これなら探す手伝いをした方が役に立てそうだ。
マジで強くなってるな……
~~~~~~~~~~
結局、ライアンは全てのゴーレムを粉砕した。
そして、その中の一体がクリスタルを体内に持っていたのでそれを壊して制圧完了。
ローズが探して見つけられない訳だ……
「まさか体内とはな〜」
「ああ、無駄に難易度が高かったな」
「あはは……って、クロウ傷だらけじゃん!!」
「そりゃ多少はな」
気を緩めていると、突然ローズが声を荒げる。
お、驚いた……
以前よりはマシになったが、確かに俺の体は皮膚が裂け、血も滲んでいてボロボロだ。
だが、ロロの力はかけてあるのでじきに治るだろう。
慌てる必要はない。魔人は頑丈だしな。
「多少って……」
「だってすぐ治るだろ? ロロはすげぇやつだからな。
俺も頑丈だし」
「そうだぜ〜。神秘を信じろって〜」
「はぁ‥‥無理はしないでね」
「分かってるよ」
ライアンに感謝だ。
一息ついて傷も治ると、俺達は次の作戦について話を始める。
一応ヴィニーの予定では、俺とライアンが次に進むが……
「お前が一番強いよな?」
「ん〜、そうか〜?」
一番強いから、という理由で防衛に残るのがローズだったのだ。
あの戦闘を見てしまったらその考えは改めなくてはならないし、それなら残るのはライアン。
というわけで俺はライアンにそう問いかけるが、彼は相変わらずふわふわとそんな返事をする。
この数をほとんど1人で潰してて何でそう思うんだろう……
バカなのかな?
それに対して、ローズも俺に同意を示す。
「そうだよ。敵との相性もあるかもだけど、ほとんどの場合ライアンの方が強いと思う」
「え〜? でも防衛戦ならローズの方がいいと思うんだけどな〜」
それも確かにそうだな……
ローズは恐ろしく広範囲に影響を及ぼせる。
体1つで守らないといけないライアンより適任だ。
これは……難題だな。
「これは決めるの大変だな……」
「そうだね……」
「俺はローズを推すけどな〜」
「ライアンもちゃんと考えてよ」
「考えるより〜、ヴィンセントの予定通りにいくのが一番丸いって〜」
「それはそうだけど……」
ヴィニーの予定か……
もしローズが進んだ場合パワータイプがいないな。
広範囲という点でそもそも力の方向性が違うが、やはり彼女はどちらかといえば搦め手。
一撃にライアンほどの重さはないかもしれない。
それが問題になるかは分からないが、いたほうがいいのは確かだ。
予定通りの方がいいのかもしれないな……
「やっぱり予定通りにいかないか?」
「ちなみにバランスの話なら、一撃を重要視したものもあるよ」
「突き刺すのは繊細だけど〜それ以上に重いよな〜」
「確かに……」
下手に殴りかかるより断然重い。
搦め手もある分、対人戦でのバリエーションも増える。
決まらねぇ……
俺の呪いってこういうのにも使えるのかねぇ?
道を占うのと似たようなものではあるけど……
「じゃあここは……」
「おや……? もうゴーレムを全て壊してしまったのか?」
俺が運任せを提案しようとした時、唐突に声がかけられる。
いつもいつも、俺達全員鈍いのか……?
声がした方向を向くと、そこには白衣の男……ニコライが立っていた。
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