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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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362-第十三試合、呪いの13位

一部では人の声が染み渡りつつも、どこか儚げな夜が明け、コロシアムには選手達が集まっていく。


既に試合は大部分が終わっているのだが、反逆者はもちろん円卓サイドの面々もなぜかほとんど全員が集まっていた。


例外は、これまでの試合で消耗して眠っている者――ライアンにククル、セタンタのみである。円卓サイドで眠っているのはオスカーとケルヌンノスくらいなので、出場している当事者はほとんどの面子が集まっていると言えた。


しかし、何かしら指令が出ているのか、一般の観客はかなり減っている。流石に0ではないものの、見回してみると座席の空きが目に付くくらいだ。


そのため、両陣営共に人数がとんでもなく多いのに、移動も席の確保も前日よりも楽になっていた。

かなり空間に余裕のある席を進み、自由に席を選び、彼らは今日唯一の出場者である海音に声をかけていく。


とはいえ、昨晩も行っていた上に、海音自身がまったく緊張しておらず迷惑そうなので、そう熱烈なものでもない。

クロウ達であればヴィンセントが、円卓勢であればソフィアが、騒ぐ面々を抑えながら比較的静かに見送ることになる。


当然、ケット・シーの面々は興味なしだ。

こうして落ち着いている集団の中で、同郷の雷閃や中心であるクロウだけが穏やかに声をかける。


「昨日も散々言われてたみたいだから、しつこく言うつもりはないけど……頑張れよ、海音。信じてるぜ」

「はい、任せてください。神殺しは得意です。

1人でやったことはありませんが」

「ここの人達は強いけど、まだ人の範疇だと思うよ。

まぁ、大厄災だった大嶽丸なんかと比べればで、大口真神様なんかと比べれば、ちゃんと神なんだけどね〜」

「悪七兵衛将門よりも弱いのであれば、問題ないですね。

ありがとうございます、雷閃さん。行ってきます」


反逆者サイドの面々からの応援を背に、彼女は闘技場に降りていく。これまでの試合通りだとすれば、反対側からも同じように選手が降りてくるはずなのだが……


女王が出てくる今回に限っては、例外だった。

水中を思い起こさせるような、泡や波っぽい柄の淡い着物をまとっている侍が、凛として戦場の中央に立つ中。


円卓サイドの観覧席からは、宮廷の正面を飾り付けているような階段が伸びてくる。材質は艷やかな白亜。

けが人の回収では樹木を使っていたが、この森の中では万能というだけあって、樹以外も支配できるようだ。


とはいえ、単なる白亜の階段という訳でもない。

手すりには熟練の職人が彫ったような細工が施されているし、そういった部分には金などの貴金属も使われている。


このアヴァロンという国を統べる女王らしく、自称皇帝などとは比べられない程に、綺羅びやかで威厳に満ち溢れた景観だった。


その、紛うことなき王者の道を、エリザベスは宮廷魔術師を伴って降りてくる。もちろん、円卓を囲む騎士達からの歓声はかなりのものだ。処刑王や守護者など、野次を飛ばしている者がいることもあって、神々しく威圧的だった。


「待たせましたね、天坂海音さん」


女王らしくドレス風の鎧を着ているエリザベスは、マーリンにエスコートされて闘技場まで来ると、悠然と微笑む。


彼女はいつも通り魔術師然とした恰好なので、どうして騎士らしい立ち居振る舞いをしているのかはなぞだ。

しかし、2人の美少女には、妙にその雰囲気が馴染んでいた。


並の人間や神獣であれば、その姿を目にしただけで呼吸困難に陥り、息を潜めて平伏することだろう。

もちろん、それは並の存在であればという話であり、海音はまるで意に介さずいつも通りの無表情で言葉を返す。


「これが最終戦なのですから、雰囲気は大事なのでしょう。

貴女は女王のようですし、特に気にしません」

「当然です。もし責めていたら、その時点で殺していたわ」

「黙りなさい。我に恥をかかせる気ですか?」

「見るがいいわ、エリーの神々しく可憐な姿を!!

神々がその手で創り出したと言われても納得できるほどに、あまりにも完成された芸術的な美しさを!!」

「え、ちょっ……本当に黙ってくれない!?

あたし、威厳が出るからって付き合っただけなんだけど!?」


登場した時は威厳に満ち溢れていた女王と宮廷魔術師だったが、口を開くとすぐにその化けの皮は剥がれた。

マーリンはすぐさまエリザベスへの愛情を語り始め、威厳を取り繕っていた彼女はただの少女になる。


語られた通り、ひたすらに美しかった澄まし顔は、ギョッとしたように崩れてもうまったくの別物だ。

これはこれで別種の可愛さはあるが、初見の者は驚き固まり、既に知っている者も苦笑している。


最初の緊張感など、もう欠片もない。

本当にこれが13席を懸けた最終戦なのか……?と疑ってしまうような光景だった。


「こんなに大勢がこの子の愛らしさを目に焼き付けてしまうのは悔しいけれど……知らないのは知らないで許せないものね!! 世界よ、完璧なエリーの美を焼き付けなさい!!

そして、私達の結婚を祝福するのよ!!

あぁ、愛しているわエリー♡」

「あのさ、勝手に結婚させないでくれる!? あたしはあなたのものじゃないんだけど!? あと勝手に誇らないで!!」

「あの……そろそろ始めてもいいですか?

これ、雰囲気も女王としてもおかしくなってますよね」


無表情のままぼんやりと見ていた海音は、流石におかしいと気がついたのか控えめに提案する。

観客は様々な反応を見せているというのに、当事者でありながらとんでもない冷静さだ。


素を取り繕う余裕もなくで抗議していたエリザベスは、その反応を見てホッとしたように表情を緩めていた。

だが、この言い合いは実質布教だったのだから、マーリンとしては我慢ならない。


それはすなわち、彼女によるエリザベスの素晴らしさや愛情が伝わっているとは思えない、ということになるので……

魔術師は、キレた。


「はぁ? あなた何様のつもりなのかしら?

侵入者の分際で、この森と国を統べる女王であるエリーを崇め奉らないというの? とんでもない厚顔無恥ね?

罪悪感とかないの? わざわざ挑戦権をもらっているのだから、普通ならせめて感謝して然るべきじゃない?」

「……はぁ。私はただの侍なので、頂いた挑戦権を無駄にしないために貴方がたを斬りますが。戦闘開始でいいですか?」

「……コホン。えぇ、それでいいですよ。始めましょう、円卓争奪戦最後の戦いを。いいよね、ロー……マーリン?」


何かあれば、斬ればいい。そんな考え方を持っている侍相手に、キレても無駄だ。海音はまるで意に介さずに話を続け、マーリンは頬を引きつらせる結果となる。


だが、この場にはもう1人いるため、これ以上拗れはしない。

冷静さを取り戻し、女王らしい威厳を取り繕ったエリザベスの言葉に、魔術師は本気で殺意を研ぎ澄ましていく。


「えぇ、任せて。愛する貴女のために、侵入者は殺すわ!!」

「いや……普通に迷惑なんだけど。

ムズムズするし、過激だぁ」


両者の意識は正しく相手に向けられ、戦闘は開始される。

魔術師達の手には長い杖が、侍の手には美麗な刀が。


それぞれ、魔術の行使で先端や周囲に浮かぶ宝石を輝かせ、鞘から覗いた刃に光を映して駆け出し、敵を打倒さんと動き出す。


"花の舞踏会"


直後、闘技場を覆い尽くすのは、桜のようなピンク色を持つ可愛らしい花だ。常春の楽園であるアヴァロンを具現化したような花びら達は、足元すら見せてはくれない。


水中の中であるかのように、闘技場内をピンク色の闇で満たしている。とはいえ、超人や鬼の子と呼ばれるような、百戦錬磨の無双の侍を相手に、そこまでの効果はなかった。


多少は気配を誤魔化せたとしても、武人は突き進む。

水刃が斬り開いた先で、凛々しい剣士と迷いのない瞳の魔術師は激突した。



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