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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
390/432

352-第十試合、序列7位

クロウとアフィスティアが互いに宣戦布告したことで、戦いは開始された。ブラックハウンドのボスは例によって手足のように眷属を操り、反逆者達は飛び退いていく。


だが、彼女の隣に立っている騎士――ウィリアムのパートナーであるルーは動かない。濁流のような黒犬の群れが荒れ狂う中、味方なのをいいことに静観を決め込んでいた。


もちろん、彼は元々参戦する予定ではなく、無理に引っ張り出されただけなのだから無理はないだろう。

アフィスティアも不満げに鼻を鳴らしはするが、まだ余裕があるからか咎めることはない。


自分自身は一体化しているので、気にする必要などないのに、彼を巻き込まないよう、台風の目のように空洞を作っている。とはいえ、中心の様子など攻撃的な濁流にはほとんど関係などないのだが……


ルーの静観、アフィスティアの味方への配慮。

さらには、ここがブラックハウンド達で溢れている死の森ではなく、カムランのコロシアムであるという事実。


この場では彼女が操れる黒犬にも限度があるので、反逆者達からするとその積み重なりはありがたい限りだ。

前回よりはまだ余裕のあるクロウは、同じく暴れようとするセタンタを抑えつつ、もう1人の仲間に意識を向ける。


「離せ!! このキモい群れ皆殺しにしてやる!!」

「俺単独じゃあいつに勝てねぇんだから、変なリスクを取らないでくれるか!? どうせ策なんかないだろ!?」

「あるに決まってらぁ、ぶっ殺す!!」

「人はそれを無策と呼ぶんだ、アホが!!」

「おーっほっほっほ、低俗な者らしい安直さですわーっ!!」

「あぁん!? 死ね!!」

「味方殺しは処刑王と同レベルだからな!?

ところで、あんたは強いのか? えっと……クイーン」

「もう、さいっきょうですわ!!

ケット・シーの森の二番手ですもの!!」

「二番手は最強じゃないんだよな……で、策はある?

策じゃなくても、この犬の群れに対抗できる力とか」


地上でも空中でも、アフィスティアの手足となったブラックハウンドの群れが縦横無尽に襲いかかってくる中で。

反逆者サイドに立つ3人は、言葉の応酬を続けながら死物狂いで駆け回る。


クロウは飛び跳ねながら近寄る犬を斬り、彼に軽く引っ張られているセタンタは否応なく背後を守るように虐殺を。

クイーンはうねる茨を従えて、場所や状況、実力、立場に似合わず堂々と立っていた。


とはいえ、彼女の自信も何一つ根拠のないものではない。

他の2人が駆け回っている中、1人だけ回転する茨の中で仁王立ちしているのだ。クロウからの期待は高まり続け……


「ふふ〜ん! まとめてぶっ飛ばす、ですわっ!!」

「同類だ!! こいつら、同類のバカだぁ!! ちくしょう!!」


次の瞬間、即座に崩れ去った。茨の壁がある上に、黒犬達も噛みついているので表情などは見えはしない。

しかし、言葉だけでも十分にわかる。クイーンはきっと何も考えていなそうな顔をしている、アホだ。


その言葉を聞いたクロウは、高波のようにブラックハウンド達が迫っているというのに膝から崩れ落ちていた。

もちろん、セタンタが隣にいるので大事はない。


持ち替えた杖からは雷や炎が放出され、さらには2人の周囲にはクイーンの茨のように身を守る結界が張られる。

薄っすら白く輝く半円の結界は、ぶつかってきた高波をものともせずに立つ。


何も取っ掛かりがないながら、前にいたブラックハウンドは噛みつき、後ろに続く統制の取れた犬は囲み出すが無駄だ。

ヒビの一つも入ることはなく、場違いにもセタンタ達は味方を怒鳴りつけていく。


「俺は犬じゃねぇ!!」

(わたくし)、猫ですけれど知能は高いですわよ!!」

「畜生じゃねぇよ!?

変なとこでちょっと頭使ったっぽい揚げ足取ってくんな!!」


狙ってはいないのだろうが、こんな状況でもまだボケているセタンタ達。外はブラックハウンドの群れで埋め尽くされており、真面目に勝ちを狙うクロウからしてみれば、この状況も仲間の言動も堪ったものじゃない。


堪ったものではないのだが……事実として、今は結界のお陰で安全だ。どうやら、考えなしのセタンタやクイーンは、割と物量で攻めるアフィスティアとの相性がいいようだった。


ツッコミを入れたことで荒い呼吸をしていたものの、すぐに深呼吸をひて落ち着かせると、冷静に分析を始める。

前後左右上下、どこを見ても犬たちの毛皮や牙しか見えないものの、少しでも状況を見ようと見回しながら。


「ふぅ……まぁ、どっちも守りに関しては負けてないみたいだな。攻撃は敵の物量を突破しないとだから、別だろうけど」

「はぁ? 俺を舐めてんじゃねぇぞ!! ふん!!」


セタンタとしては、たとえ攻撃面だけでも、敵に負けているかもしれないというのは受け入れ難かったようだ。

何の気なしにこぼれた言葉を聞くと、反射的に周囲でルーン石を浮かばせている杖を掲げる。


すると、張られていた結界は少しずつ広がりを見せ、ぺたりと張り付いていたブラックハウンド達を押し退け始めた。

黒い濁流に飲み込まれていた闘技場も、当然隙間なく犬たちが敷き詰められている訳では無い。


空中だったり、移動するためにある最低限の隙間だったり、そういった部分に空白はあるので、力尽くで領土を拡大していく結界によって、群れは押し潰されていった。


予想外の事態だが、もちろんクロウとしては万々歳だ。

広くなった安全地帯に、感心したような声を漏らしている。


だが、自力で簡易な砦を作って立てこもるクイーンは、結界の外にいるのでむしろ追い詰められていた。


そう離れてもいなかったことで、茨が見えるのにそう時間もかからない。あっという間に茨が現れ、ジリジリと押し退けてアフィスティアがいると思われる方へ押し込まれていく。


「ちょっと、荒くれ者さん!? (わたくし)も外にいるのですからやめていただけませんこと!? 壊れますわ!!

それに、キング様に良いところを見せないといけませんの!! 手柄を取ろうとなさらないで!!」

「あぁん!? そもそもてめぇは誰なんだよ!?

俺はあの犬っころを殺してぇんだ。邪魔すんなら、テメェも猫だしついでに殺すぞ!?」

「何殺そうとしてんだ、仲間だよ!! 話聞いとけよ、味方を殺そうとするとか何しに来たんだお前は!?」


クイーンは騒ぎ、セタンタも呼応して殺意を覚えてしまう。

間に挟まれるクロウも含め、安全地帯の内側ではあまりにも場違いな揉め事が激化していた。


結界はなおも広がり続けているが、茨が抵抗していることもあって、すぐには直接的な攻撃には結びつかない。

ブラックハウンド達はただ押し退けられ、高くなった半円の上から転げ落ちていく。


それを離れた位置から見ていたアフィスティアは、変わらず黒犬を手足として操りながらも、決して届かない敵に痺れを切らしていた。


「ちっ……あの子は変わらず運が作用しないような物量に無力なのに、今回は防戦もできる子がいるのね。

威力が足りないから、あたしじゃ突破できそうにないわ。

……ねぇ、ルー? 残りの騎馬全員は流石に許可できないっていうから、あたしはあんたを選んだのよ?

この強欲を満たすため、ちゃんと働いてくれない?」


手足として纏わりつくブラックハウンドを操りながら、彼女は隣に立つ騎士を脅すように睨みつける。


彼は序列3位――ウィリアムのパートナーであり、騎馬の中では指折りの実力者だ。同時に、ウィリアム同様に礼儀正しく、騎士の中の騎士であると言えた。


そんな彼なので、流石にここまで強く言われれば無下にはできない。たとえ守護者の助けになるとしても、片手に輝かしい槍を呼び出しながら言葉を紡ぐ。


「ふむ、そうだな。些か信用のならない者ではあるが、今は紛れもなく円卓の一員。以前より、我らの利になる存在ではあったことだし、ここは大人しく手を貸すとしよう。

太陽神の名の下に、我らが王に勝利を捧げる」


召喚された槍は、都市すら溶かす光熱の槍。

迸る熱波は群れるブラックハウンド達をドロドロに溶かし、長たるアフィスティアをも苛んでいた。


しかし、もちろんそれが食い破るのは敵のみだ。

あまりの熱気により、彼の一挙手一投足で空気や黒い濁流が揺れ動く中、辺り一帯を溶かし消す槍は放たれる。


"アラドヴァル"


その槍を前にして、ブラックハウンドの群れなどなんの障壁にもならない。黒い波は真っ二つに裂かれ、何も無い空気の中を進むかのように、一切威力が落ちることなく結界に炸裂した。


しかも、光熱の槍は激突するだけに留まらない。

当たり前のような顔で、セタンタの結界を泡でも突き破るかのように突破すると、そのまま彼自身すらも貫いてしまう。


胴体に突き刺さった槍は、その威力だけで彼の体を二分にし、熱で傷口をドロドロに溶かしている。血すら外気に触れさせない苛烈さで、セタンタという狂犬を致命的に機能停止に陥らせていた。


「っ!? セタンタ!!」

「何、だと……ルー、テメェッ!!」

「すまないな、セタンタ。君の面倒を見ていた時期もあったが……ここで死ぬことはないから、許してくれ」


セタンタの負傷により、既に穴が空いていた結界は神秘的に解けていく。茨は術者が無事なので再生していくが、結界によって守られていた2人は無防備だ。


溶けかけているブラックハウンドの群れは、アフィスティアの手足として再び彼らを囲んでいた。



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