33-ウォーゲーム②
-ヴィンセントサイド-
殲滅を開始してから、数十分間が経過した。
かなりのペースで倒しているが、あまりの数に中々進めない。
おそらくまだ全体の半分もいってなさそうで、倒しても倒してもきりがなかった。
ずっと黙々とゴーレムを斬り続けていたヴィンセントが、少しうんざりしたように口を開く。
「2人共、風で無理やり道開けられない?
俺、通路より広い部屋の方が戦いやすいんだよね」
「おっ、あたしもそっちのが得意だよ。気が合うね〜、じゃ……」
ヴィンセントが2人に提案してみると、フーがそう同意を示し風を循環させ始める。
恐ろしい即決だ。
彼女は空をプカプカ浮かびながら、自分達で散々引っ掻き回した空気を使って渦巻かせていく。
それに対してリューは、ただシンプルにその強風を大剣や拳に乗せて放つだけ。便利だ。
溜めがいらないこともあり、元の風は明らかにリューの方が強力だ。しかしフーも、循環のおかげで張り合えているらしい。
とはいえ、硬くて倒しにくい今回の敵が相手でも、取り敢えず退かせればいいので短時間の溜めだ。
すぐにリューの風と共に、ゴーレムを吹き飛ばし始める。
そして最終的に辿り着いたのは、この夢の世界に入るために案内された建物くらいの広さの部屋。
細かく言うと、縦横最低20メートルはありそうなだだっ広い部屋だった。
しかし、正方形ではなく少し縦長だ。
その中で、吹き飛ばされたゴーレム達が立ち上がろうとしている。
「ヴィニー、なんか他と違うのいるよー」
「え、どれ?」
「一番おくの右がわにかくれてるあれー」
ヴィンセントがロロの言う方を見てみると、少し鈍い光を放っているゴーレムがいた。
パッと見た感じ、それが装備している武器は、金属を飛ばしてくるもののようだ。
彼にとってもっとも相性の悪いタイプなので、方針はすぐに決まる。
「ほんとだ。リュー、フー、あれは2人のどちらかに任せるよ」
「アハッ、ありがと〜」
「ボスの近くにクリスタルがあるかもだから、よく見ておいてね」
「りょ〜かい」
彼が頼むと、フーは無邪気な笑顔でボスゴーレムの方向を向く。心なしか、空気の流れもおかしくなってきているようだ。
その原因は、おそらくフーの循環。
無意識にか意識してかはわからないが、かなりやる気があるようだ。
そのためヴィンセントも、道を開くのはもう少し頑張ろうと覚悟を決める。
"行雲流水"
改めて気合を入れ直し、さらに回転の勢いを増す。
一回転ごとの斬撃で数体を屠り、だが勢いは殺さずその回転はさらに力強く。
ここまで一方的に薙ぎ倒していると、まるで暴風のようだ。
「リュー、あの弾出しなよ。
あたしが誘導するからさ」
「……」
ヴィンセントがゴーレムを薙ぎ倒し始めたからか、フーがリューにそんな指示を出し始めた。
どうやら負けん気と、速く戦いたいという気持ちが溢れてしまったようだ。
あの魔弾は単品で使われると仲間にも当たりかねなかったが、彼女が操るなら精度は完璧。
風を風で操れるのであれば、ではあるが。
ヴィンセントとロロも、一抹の不安が拭えず様子を見ていたが、彼は当然返事をしない。
しかし辺りには、既に数十の風の弾丸が形作られていた。
返事はなくとも、やはり同意の意思があるようだ。
2人は多少ヒヤヒヤしながらそれを見守る。
一つ一つが唸りを上げているそれに、フーのそよ風が指向性を与えた。
下手をしたら弾け飛びそうな振動を見せていたが、今のところは無事操れているようだ。
「ほら、発射ぁ」
「……」
"魔弾-フーガ"
"そよ風の導き"
フーの合図と共に風の弾丸が撃ち出される。
模擬戦で見せていたような無軌道なものとは違う、フーの意志により進む弾丸。
パッと見では同じく無軌道だが、それはボスゴーレムまでの道を塞ぐゴーレムを的確に貫いた。
ナイフと同じように関節部分を狙っているし、貫いた後も次の標的を目指すという凶悪な仕様で、次々とゴーレムを屠っていく。
「アッハハハハ」
弾丸自体はリューの風。
しかし、それを実際に操っているのはフーのそよ風であるため、普段とは違った破壊力に彼女はご機嫌だ。
今までより少し協調性があったのだが、結局はいつも通り、狂ったように笑い出す。
そして、弾丸が一通りゴーレムを潰し道ができると、フーはボスらしきゴーレムへ、リューはクリスタルへと向かう。
一掃できそうでも、フーはボスゴーレムを放っておく気はないようだ。
彼らは瞬く間に標的に接近すると、攻撃を加える。
リューはただのクリスタルなので拳を一振り、"恵みの強風"で砕く。
フーは"そよ風の妖精"で操った数多のナイフ。
少しばかり過剰ではあったが、彼女はゴーレムの全身を自由自在な剣閃でズタズタにする。
主に間接部を狙っているとはいえ、ゴーレムは金属でできているというのに軽々と。
魔人にもなると、気軽に飛ばすナイフでも十分な殺傷能力の神秘だ。
「あー楽しかったぁ」
「よかったね……?」
「…………うん」
クリスタルを壊したことで無事だったゴーレム達も動きを止め、2人の戦闘モードも終わったようだ。
すっきりして笑っていたフーは、ヴィンセントが声をかけてすぐに無表情になる。
そして、今度はリューがうるさくなった。
ばしばしとヴィンセントの肩を叩きながら、満面の笑みを浮かべて急かしている。
しかし、もちろんヴィンセントが誤魔化されることはない。彼の行動を受けて、少し不思議そうな表情をしながらも静止し始めた。
「ほら、さっさと次行こーぜ」
「いやいや、君は防衛だよね? 大人しく待っててよ。バンドで反応が消えてたら好きに動いていいからさ」
「え、居残り……?」
事前に打ち合わせをしていたはずだったが、どうやらリューは忘れていたらしい。
彼はヴィンセントを叩いていた手を止めると、あ然とした表情でつぶやく。
「よろしくね」
「分かったよ……」
少し申し訳無さそうにしながらも、ヴィンセントが続けて促すと、ようやく彼は同意した。
チラチラと文句ありげに見ながら離れていき、堂々と座り込むと、一応は辺りの警戒を始める。
それを見届けたヴィンセント達は、彼を残して次のエリアへと向かっていった。
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次のエリアは、5番……墓地が広がる場所だ。
辺り一帯が黒い霧のようなモヤに覆われ、いたる所に設置されている墓石の合間を、小さいが凶暴な犬達が徘徊している。
迷宮と違い、平坦な場所なのでそうそう迷うことはなさそうだが、その代わりモヤが迷宮よりも視界を奪う。
そんな、死の香りが漂っているエリア。
迷宮も見通しは悪かったし、ゴーレムが絶え間なく襲ってくるので厄介だったが、ここも大概だ。
これではもしクロウ達がやってきても、合流するのも難しいかもしれない。
だが、ここを選んで良かったこともある。
ここは3つのエリアの真ん中なのだが、どうやら3番から行けるのはこの5番と下の6番だけらしい。4番には進めない。
それがどのルートもそうならば、どちらにも進めるこのエリアは相手からしても一番楽なルートだろう。
ここを先に取れたとしたら、少しは優位に立てると思われた。
④
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⑦ ②
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⑨ ⑤ ①
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⑧ ③
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⑥
彼らは自分達の選択を自信を持って、臆することなく先へ進み始めた。
モヤで迷ったり、犬に襲われて時間を無駄にしないよう慎重に。
しかし、いくら慎重に進んでも、モヤや墓石に紛れて犬たちが襲ってくる。
小型なのでゴーレム程に脅威ではないが、その分すばしっこく荒々しい。
とはいえ、フーがそよ風で、ロロが念動力で受け流していくため、探索自体はスムーズだ。
先頭に立つヴィンセントは、油断することなく周りに目を配りながらも、クリスタルのことに意識を集中できているようだった。
犬がいなくなった瞬間を見計らって、ロロにクリスタルの場所を聞いている。
「ロロ、クリスタルの場所は分かる?」
「うーん、クリスタルは分からないけど……聖人がいるかも」
「もういるんだ……同着くらいなのかな?」
「ちがう……かな? モヤのせいで少しせいどが悪いんだけど、真ん中に近そうだし、大きな何かと戦ってるみたい」
ヴィンセント達のペースも、決して遅くはなかった。しかし、科学者たちはもっと早くからここに辿り着いていたらしい。
ロロは少し自信はなさげだったが、科学者たちはいち早く到着し、エリアの制圧すら始めていたと判断する。
もし感知の精度が落ちていたとしても、いることに変わりはないので確かだろう。
ヴィンセントは予想外の出来事に眉をひそめていた。
「予想以上に強いんだね……
何なら少し劣るかな……?」
「どーするー?」
「ん……スルーした方がいいのかもしれないけど、流石にリュー1人じゃ荷が重すぎるよ。
このまま進もう」
「あいさー」
一瞬迷っていた様子を見せる彼らだったが、すぐに迷いを振り切って方針を決める。
そして、緊張した面持ちでエリアの真ん中に向かっていった。
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