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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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348-獣たちの遊び場

ダグザが闘技場が降り立ったことで、固まって黙り込んでいた選手たちも一気に会話から現実に戻って来る。


突然の乱入も無事に認められ、円卓側にもその分の補填がされたことで試合は再開だ。


真っ先に動き出したのは、当然それまで幼馴染みに止められていたクラローテと、餌を求めるアーハンカール。

彼らは神獣と獣人であり、特に同じような存在ではないはずなのだが……どうやらかなり気が合うらしい。


2人揃って舌なめずりをしながら、真っ直ぐ突き進んでいく。

どちらも身体能力のみで向かっているのに、目で追えない位のとんでもない速度だった。


「檻から解放された獣は脱兎の如く。

地を駆け空を飛び、大きなヒューマンに猫まっしぐら!」

「ダグザも来るなんて予想外だ! 術師は苦手だけど……

まぁ、おれだしね。全部薙ぎ倒してあげよう」


試合はもう始まっている。彼らはどちらも武器を持っていないが、実力は折り紙付きなので心配する必要もないだろう。


しかし、だからといって放っておいていいということはなく、また共闘する形なのだから手助けは必要だ。

雷閃は激しく動けないものの、クリフはぼやきながらも彼らを追うような形で駆け出した。


「っ……せっかく援軍が来て喜んだってのに、敵も増えるとか聞いてねぇぞ。しかも、魔眼を持つバロールとは違った……

才能や特性じゃねぇ、熟練のヤバさだ。なのに、こいつらときたら……!! 援軍のガキも同じタイプかよ!!」

「あ、僕は調子悪いから後ろから援護するよ〜」

「助かる!」


雷閃の言葉を背に受けながら、クリフは巨人に突撃していく。獣人コンビは既に獣の本能を解放しているため、その背には雄々しい翼があった。


クラローテ達が地上を駆けているのとは違って、彼が進むのは空だ。それはつまり、その時何が起こったのかを、観客と同じように俯瞰して見ることができたということであり……


「ッ……!? 正気か、これ!?」


いち早く敵に肉薄したアーハンカール達を空から見つめていた彼は、眼下で引き起こされた光景に思わず目を剥く。


彼は3つの戦闘民族――そのうちの1つであるアストランの族長だ。まだ上に長老がいるとはいえ、獣族有数の強者として、普通の立場では見られないようなことも、多く見てきたことだろう。


実際、トラルテクトリとの戦いでも、彼は空中に生み出された新たな星、膨れ上がる大地など、様々なものを見た。

あれも環境をすっかり書き換えており、十分にとんでもない光景だったと断言できる。


それなのに、彼はたかが執事が繰り出した技に驚き、呆然と言葉を失っていた。これは、かなりの異常事態だと言ってもいいだろう。だが、そうなるのも無理はない。


瞳に映し出されたのは、大地を支配し、空から隕石を降らせてきたワニとは明らかに質の違うもの。


まるで全知全能の神が世界を操っているかのような、彼こそが今この世界を創っているかのような、世界の中心であるかのような。そんな、あまりに規格外な世界だったのだから。


"破壊と再生の杖"


"生と死の杖"


ダグザが両手に持っているのは、エリザベスやアンブローズの両手でも扱えるものと比べて、明らかに短い杖だ。


それも、片方はかなり太く、鈍器にすらなりそうな代物である。彼はそれらを駆使し、周囲の一切を破壊し、世界を書き換えていく。


「うっ、これは流石のおれでも危ないやーつ」


破壊の杖で防御されかけていたアーハンカールは、空気どころか伸ばした腕すらも歪み始めているのを見て、すぐに退避する。


直後、彼がいた辺りの地面は木っ端微塵に吹き飛び、向こう側すら見えない虚空が生まれた。もちろん、破壊はその異常な空洞を発生させただけで終わりはしない。


何も見えない虚空は渦を巻き、再びこの世界に戻ってきた時には、さっきまではなかった大樹が生えていたのだ。

幹はミョル=ヴィドの木々に負けないくらい太く、枝にはこの瞬間に生まれたとしか思えないような小鳥が止まっている。


彼の周りでは、生命すらも彼の思うがままにデザインされているかのようだった。


「にゃんと!? 檻から出ると、そこは神の箱庭だった!?

馬は嘶き、小鳥は踊る。こんな景色を見てしまったら、獅子やライオンすらも驚いて目玉を抉り出してしまうよ!

解説、もしくは説明を求める!! キャット理解するから」


クラローテが驚いている通り、虚空は彼女達のいる場所だけに留まりはしない。地上、空中ですら問題外だ。


闘技場には至る所で虚空が渦巻き、次々に世界を創り出していく。現れるものは多種多様。木々であったり、岩であったり、時には大量の水が生み出されて川すらできている。


また、先程小鳥が生み出されていたように、動物も多数生み出されていた。どこにでもいるような馬、猫、鳥から、奇妙極まるキメラ、歪に特徴が強調された獣と、対照的に綺麗なペガサス、バロールに似た巨人。さらには、黒い竜……


今もこの星にある現実から、もうほとんど滅び去った過去、もはや物語にしかいない幻想まで、彼のイメージ通りに思うがままだ。


もちろん、生や再生だけでなく、死と破壊の影響だって目に見える形で示されている。破壊はすべて虚空を生む訳でもなく、場合によってはそのまま崩れるだけだったりもした。


そういったものは、無理やり再生されたもののように不自然すぎるくらい綺麗だったりはしない。


ガサついた地面や割れた岩はむしろ自然であり、時には創造されたものの上から破壊され、自然の神秘を表現していた。


彼らの目の前にあるのは、自由自在に創造された森。

環境を書き換えるどころか、この世界を新しくデザインするといった神の御業。それが、ダグザの一存で行われていた。


「私はこれでも、エリザベス様の補佐をしております。

あの子と同じようなことは、一通りできるのですよ。

もっとも、彼女の破壊は概念ではなく物理的なものですし、全能とはいえ無から生み出した生命は空っぽですが」


闘技場を森にデザインし直したダグザは、捻れた岩でできた柱の頂点に立つと、両手を開いて前に掲げる。


2本の杖はその前で浮かび上がり、怪しげなオーラを迸らせていた。服装こそ執事でしかないが、能力から立ち居振る舞いまでひたすらに神だ。


散々破壊と創造に翻弄され、逃げ回ることしかできなかった反逆者サイドは、その神々しい姿をただ見上げることしかできない。


もちろん、すっかり森になった闘技場には、木々や岩、多くの生命が溢れているため、バロールの魔眼から逃れる助けにはなっている。


しかし、破壊されていく森に追われているため、決して近づくことはでかなかった。虚空はダグザに近いほど多いので、むしろ距離を離さざるを得ない。


参戦が決まり、闘技場に降り立った時と同じように。

完全に安全だと言える段階になってから、ドルイドの統括である魔術師ダグザは口を開く。


「それから、バロール殿。私は結界で身を守っております。

魔眼を全力で使ったとしても、巻き込まれはしませんよ」

「……理解。やはり貴公を選んで正解だった。要求。

貴公は魔術で敵を阻み、オレは自由に動けない敵を視る。

確認。これより、全力戦闘を開始しよう」


ダグザと同じく、盛り上がった岩の台座の上に仁王立ちしているバロールは、彼の言葉を聞いて眼帯を外す。


現在の魔眼は1つであり、ただ視界に入れたものが燃え上がるのみだ。既に森は炎上しているし、生みだされた生命体も悲鳴を上げる地獄絵図を作っているものの、まだ足りない。


アーハンカールはもちろんのこと、クリフ、クラローテ、既にケガを負っている雷閃すら、破壊から逃げる中でも視界に収まらずに隙を窺っている。

さらに致死性の高い魔眼を使用しなければならなかった。


「魔眼、限定解除。第二段階を解放。

対象、および世界の鏖殺を開始する」


"バロルの双眼"


ズレた眼帯から覗くのは、生物界最悪の灰燼の魔眼。

木々も、岩も、ガワだけの生命達も、川すらも。

目に入った一切を石化させ、灰燼に帰していく。


これには、炎への耐性があった獣人コンビもただでは済まない。炎上する森の中で、悲鳴を上げていた。


喉を焼く炎には灰が混じり、もはや辛いどころの話ではなくなる。毒となる粒子が蔓延する、より厳しい地獄だ。


敵は高所に。延々と世界が創造され続け、誰も手が出せない中で、魔眼王は最悪の敵として彼らの前に立ち塞がっていた。



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