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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
384/432

346-円卓争奪戦、3日目

クロウ達がいた地下の様子など知る由もなく、ライアン達は鬱屈とした気分のままで一夜を明かす。


現在までの円卓争奪戦の勝敗は、3勝5敗。

目標としては、昨日の試合で全勝し6勝2敗にすることが理想だったので、考えるまでもなくかなりの劣勢だ。


本日、3日目の試合はところどころ捨てているものもあるので、彼らは試合後から今まで、日をまたいでも暗い面持ちでいる。とはいえ、だからといって行かない訳にはいかない。


ライアン達は、ジャルと入れ替わりになるように戻ってきたクリフとクラローテ、試合のために出てきたリューとフー、ヴァイカウンテスと、面倒を見ていたバロンなどを加えた、かなりの大所帯でコロシアムに向かった。


負けてしまったシャーロットやヘンリーなど、円卓勢も勢揃いなので、ここにいないのはジャルとヌヌースくらいのものだ。


もっとも、20人近いメンバーが集まろうと、敗色濃厚である現状ではみんな黙り込み、ほとんど喋らないのだが……

ともかく、この空気に耐え切れず飛んでいったクラローテを除いて、彼らは静かに観覧席に勢揃いしている。


「……いよいよ、始まるな〜」


反逆者サイドは全員が集まったが、円卓サイドはクセの強い神獣も多数引き込んでいるため、そうはいかない。


昨日までのように観戦のみであれば問題ないが、今日は試合に出ることになるのだ。彼らが集まるまでは開幕することはなく、ライアンはどこにもいない獣の姿を探しながら独り言のようにつぶやいた。


「そう、だね。私達はもう負けちゃってるから、何もできることはないけど……明日まで持ち越せるかは、今日決まる」

「加勢に来た方々ばかりで、申し訳ないですね。

できることなら、余裕のある状況で任せたかったです」


そのつぶやきに応じるのは、ローズとヴィンセントの2人だけだ。これから試合がある者達は緊張した面持ちで黙り込んでおり、既に負けた者も深刻な表情で固まっている。


勝っているキングなどは興味なさそうにくつろいでいるし、ソフィアは姉弟騎士に気を配っていた。

反応は様々ではあるものの、総じて言えるのはあまり明るく雑談をする余裕などはないということ。


大半はあくまでも助けに来ただけではあるが、この戦いは円卓の奪い合いという、ある意味国を懸けたものなので無理もない。


3人以外はたいてい目の前のことでいっぱいいっぱいで、ただ彼らの話を聞いているだけなのだった。


もっとも、何事にも例外というのは存在している。

試合はまだこれからであるはずの海音は、なぜか余裕の表情で髪を風に揺らし、凛とした態度で前を見据えていた。


ライアン達のように深い関係でもないが、クリフ達のように加勢に来ただけでもないので、別におかしくはないのだが……

はっきり言って、かなり浮いていると言えるだろう。


余裕のない者、緊張している者、興味がない者、気を配る者、なぞの自信を見せる者。様々な顔を見せる仲間達を背景にして、主従の会話は続く。


「ヴィニーは勝ったからいいじゃん。私なんて‥」

「お嬢様を否定する輩は殺しますのでご安心を」

「すごい食い気味。安心する要素がどこにもないんだけど」

「ここからさらに落ち込む心配がないというのは、それなりに安心できる要素だと思ったのですが……ふむ。であれば、私が別の仮面でもつけてお嬢様の分を勝ってきます」

「ズルはだめだって、1人で2席も取ったらバレるんだから」

「その場合、気付いた者を始末すれば良いだけで‥」

「もう、話がどんどんズレていく! これ何の話なの?」

「……お嬢様が誰よりも価値のある方だという話でしょうか」

「あっはっは、やっぱ慣れねぇな〜。俺はすぐ別行動してたってのもあるけど、この面はかなり新鮮だぜ〜」


さも当然のように首を傾げるヴィンセントに、ローズは堪らずため息を吐き、うんざりした表情を見せる。

そのやり取りと彼の本心、彼女の反応などを見たライアンは、場の空気に似合わず明るく笑っていた。


しかも、主従のコントじみたやり取りによって、他の面々も少しは気が紛れてきているらしい。円卓勢は控えめに笑みを浮かべ、クリフは肩の力を抜いている。


まったく落ち着きがなかったリューも、心なしか表情を和らげているようだった。


ヴァイカウンテスなど、雰囲気が少し軽くなっただけで空気を読むのをやめ、昼寝を始めている程だ。お前は今日試合があるだろう……?と、きっと誰もが思ったことだろう。


さらには、彼らが落ち着くタイミングを待っていたかのように、円卓サイドに審判の間出身の獣達が集まってきた。


より正確に言えば、獣の姿のままでやって来た者はどこにもおらず、皆場所に応じて人型にはなっていたのだが……

彼らからすると、何の違いもありはしない。


結果としてアナウンスはなされ、円卓争奪戦3日目は開幕の時を迎える。


「あ、向こうも準備が整ったみたいだ。

皆さん、準備はいいですか?」

「おう。3日目の初戦は俺だな」


ヴィンセントに呼びかけられると、クリフは槍を片手にすぐさま席を立つ。その姿はアストランの族長に相応しく、実に勇ましいものだ。


しかし、お互い心を通じ合わせている盟友としては、なにか感じ取れるものがあったらしい。

重い空気を緩和しているライアンは、ほんわかとした雰囲気のまま笑いかけていく。


「なんだよクリフ、ずいぶん緊張してんな〜?」

「はは、思いの外責任重大な役割になっちまったからなぁ。

正直に白状すると、かーなり気が滅入ってんよ」

「……俺も負けといて悪ぃけど、こうなってくると気にせずにとは言えねぇぜ〜? 絶対に勝ってきてくれ」

「ふぅ、獅子王殿は随分と無茶を言いやがる。

だがまぁ、問題ないさ。俺は獣王である以前に、1人の男。

獣人クリフは、決して1人じゃあねぇからなぁ!!」


獅子王の激励を受けた獣王は、太陽の如き輝きを見せる槍を突き上げながら手すりに立つと、天に声を轟かせた。


空は晴れ渡り、青空に浮かぶ影は日輪を背にして産声を上げる。生命力の化身かのような物体が放っているのは、雪山に溶岩が流れるような、異質すぎる存在感だ。


「俺はこの世の誰よりもお前が苦手だ!!

しかし、だからこそ誰より信頼している!!

我らアストランの民、太陽の化身たる四神に従う者として、共にこの星を巡る友の道を切り開かん!!」


カンカンと槍で手すりを打ち鳴らし、長めの白髪をなびかせながら、猛るグリフォンの獣人は闘技場に降り立つ。

その隣に並んだのは、彼よりもさらに上空から降ってきていたカウガール――クラローテだった。


「呼ばれて惹かれてひょひょいと登場!

鵜の目鷹の目に負けず劣らず、お気にを見張るはにゃんこの目! いざ行かん、より楽しいものを求めて!!

フライングキャーッツ、ガオー!!」


突然、大仰、騒々しい。これらは変人の代名詞。

それらすべてを網羅したような少女は、いつの間にか生やしたケモミミをぴょこぴょこと動かしながら、幼馴染みの隣でポーズを取る。


目の前にいるのは、眼帯で顔の大部分を隠した三眼の巨人。

一瞥で生命を刈り取る、死神が如き魔眼王。

審判の間で生き残り続けた古強者、バロールだ。


「乱入、不快、大仰、矮小、耳障り。

無価値なものは、尽くを焼き尽くそう。

獣は火を恐れるもの。オレの邪魔を、させはしない」


運命の3日目。

序列4位を懸けた第9試合は、ここに幕を開けた。




~~~~~~~~~~




『我らアストランの民、太陽の化身たる四神に従う者として、共にこの星を巡る友の道を切り開かん!!』


よく響く声を聞きながら、俺達はコロシアムの階段を駆け上がる。ついにやってきたカムラン、落ち着いた雰囲気の町、物珍しいコロシアム。


色々なものに気を取られたせいで、到着はギリギリだ。

ギリギリセーフか、多分アウト。


どっちにしろセタンタ達も延々と喧嘩繰り広げていたので、余裕を持って来るのはむずかったけど……

ずっと地下にいて、最終局面でも出遅れるとかヤバすぎる!!


「ククル、結局ここでやってんのは何だ!?」

「国の中枢――円卓の13個の席を奪い合う戦いだよー」

「そしてその3日目のようだな」


怒鳴るように問いかけると、質問に答えるのは名指しで呼びかけたククルとヘズだ。どちらも感知能力に長けているからって、普段通りに涼しい顔をしている。


ククルなんて、風で空を飛べるから階段を登る必要もない。

名前通りくるくると回りながらついてきていて、正直かなり羨ましかった。


こっちはちっぽけ……でも今はないのかもしれないけど、それでも若干受動的な運しかないってのに、本当にズルいだろ。

探知だってロロ頼りで、この森じゃ神秘が強すぎて精度がかなり悪いってのに……


「これ、乱入すんだよな!?」

「そうそう。今回の対戦相手は魔眼のバロールだね。

ちなみに、この試合は僕の出番じゃないかなー」

「どっちにしろ他の敵がわかんねぇから、俺には判断材料がまったくねぇよ!! とりあえず誰か飛び込んでくれ!!

明らかにもう始まりかけてる音だろ、これ!!」

「あ、じゃあおれ行くぜ。筋肉ダルマは望むところよ。

魔眼なんか、走り回ってればいいだけだしね。

勝っても食えなそうってのが残念な大会だよなー」

「それなら僕も行っていいかな〜? やっぱ体調悪いから、流石に1人はキツいや。申し訳ないけど、お守りとかも……」

「何でもいいから、速く頼む!!」

「おっけぃ」

「んー、頼まれてやるんだから、後で肉寄越せよ?」


残ってる敵が誰かもわからないが、今はそんなことを言っている場合じゃない。特に何かを考えることもなく、名乗りを上げた2人に出撃許可を出す。


ケガを考慮しなければ、今いるメンバーではククルと並んでトップスリーに入るアーハンカールと雷閃。

彼らは、それぞれ身体能力と雷を纏ったスピードで駆け出し、闘技場へと飛び込んでいった。


そんな2人に遅れて、俺達の視界も一気に開ける。

耳朶を打つのは、騒々しい歓声と応援の声。


視界に飛び込んできたのは、闘技場で対峙している巨人と2人の戦士に加え、乱入していった俺の仲間たち。

そして……


「ライアン、ローズ、ヴィニー、リュー、フー!!」

「っ……クロウ!?」


固唾を飲んで観戦している、俺の家族達の姿だった。




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