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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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345-地下からの昇天

暴食の間の守護者――全てを喰らう巨大な鯨ヤーマルギーアは、無事に撃破できた。


戦う必要のなかった憤怒などを除けば、多分1番手強かったと言える守護者があれなのだが……


より手こずったのは、むしろその後。

鯨を袋叩きにしている三馬鹿を止めることだった。


傲慢の守護者で、小柄ながらに同じ守護者ですら餌と見なす金髪の少年――アーハンカール。森の反逆者で、普段から死ねが口癖の治安が悪い男――セタンタ。円卓の騎士でありながら、審判の間に落とされた裏切りの騎士――ガノ。


彼らはそれぞれ、肉、爽快感、血を求めて延々と巨大な鯨をなぶり続けていたので、止めても中々止まらない。

ヘズとククルに手を貸してもらって、ようやく少しだけマシになったくらいだ。


今も地上の誘惑や円卓などのよりヘイトの高い敵、美味しい食べ物などで釣りながら、何とか出口に向かっている。


「なぁ、本当に出られるんだろうなぁ?

ここまで来て嘘だったら殺すぞ」

「嘘な訳がないでしょう? (わたくし)だって出たいのですから。

クククッ、フェイの野郎にはお礼参りに行かねぇとなぁ!!」

「地上の食事はおれにこそ相応しいよな! な?

大昔に食ったことある気はするけど、楽しみだー」


何とか暴れるのを止めさせても、彼らのスタンスは相変わらずだ。出口があるというティタンジェルへ向かう道中、飽きもせずに延々と騒いでいる。


一応、俺達の扱いは罪人のはずなんだけどな。

審判の間に落とされるのは実質死刑だったし、地上に戻っても認識が変わるとも思えない。


だというのに、よくこんなに騒げるもんだ。

目立つのが怖くないのか、単に馬鹿なだけか……

まぁ、セタンタは言わずもがな、ガノも理知的に見せかけてるだけの凶暴な馬鹿だし、多分後者だろう。


万が一の時は、身代わりにして逃げよう。

……というか、アーハンカールは守護者なのに、審判の間から出てもいいのか? クリア状態にはなってたけど、結局あれも意味がわからないし……うーん、謎は深まるばかりだ。


「おや、あれは何かな?」

「君は懲りないな……」

「うぇっ、いたたたたっ!」

「あっはははっ、やっぱり君面白いねー! クーちゃんいなくても楽しいなんて、外の世界は最高だよ!」


もう既にティタンジェルに入っている現在、畏ろしいくらい神秘的な森で、雷閃は色々なものに手を出して痛い目を見ている。


なぜか弾ける木の実、ヴォーティガーンのように噛みついてくる植物、触手を伸ばしてくる植物。

ガノもセタンタも喧嘩中なので名前はわからないが、毎回悲鳴を上げてククルに回収されるまでがセットだ。


たまに俺達の方にも被害が出るから、普通に止めてほしい。

まぁ、ここは地上の森とは違って不気味な神秘的さだから、気が紛れると言えばそうなんだけど……


それはそれとして、見ていてハラハラする。

いくらもう出られるとはいえ、外で戦いにならないとも限らない訳だし。


「お前、いい加減大人しくしてたらどうだ?

もうすぐ外に出るのに、ボロボロの状態で行くのか?

というか、ケガはどうしたよケガは?」

「いやぁ、物珍しいもんでね……うわっぷ!」


俺が注意をしても、雷閃は変わらず。まるで懲りずに不気味な植物に近寄り、きのこが吹き出した胞子を真正面から顔面に受けている。


前回来た時は毒だったのに、どうして近づく勇気が持てるのか……凄まじい強さと反比例しているかのように、恐ろしいくらいに警戒心がない。


しかし結果として、そのきのこは毒ではなかったようだ。

胞子を被った彼は、特に苦しむ様子もなく速やかに前方に倒れ込み、突っ伏してしまう。

息は穏やかで、これは明らかに……


「……おい、急に寝たぞこいつ。ネムリダケ的なやつか?」

「あっはははっ、そうみたいだね。僕達も眠っちゃまずいから、まずは風で避けてっと……よし、このまま運ぼう」

「いよいよ脱出って時にこれか? あいつらも喧嘩ばっかで迷惑極まりないし、最後までとんでもないパーティだな」

「どちらにせよ、もうすぐ出口だ。前回訪れた場所には、今ケルヌンノスはいないようだが……例の獣の音は聞こえる。

出口はあちらのようだね。彼らはまだ喧嘩中。

案内は期待できないし、このまま突き進むとしよう」

「了解だ」


眠ってしまった雷閃をククルに任せ、俺達は進む。

喧嘩をしているセタンタ達も、騒ぎながらもちゃんとついてきているので問題はない。


7つのモニュメントが輝いている大きな空洞を見つけ、自然のままといった趣の、地味な土の階段を登っていく。


ジェニファーに聞いていた通りなら、この道は食料を供える時に使われる道だ。どれだけを一度に運び込むのか、縦も横もかなり広い。


やはり案外普段から使われているようで、歩きにくかったりもしなかった。出口から流れ込んでいる、地上の光や爽やかな風を感じながら、長い道をひたすら登り……


「っ……久しぶりの、外だ」


地下に広がる審判の間に落とされていた俺達は、ついに神々しい森が広がる地上に戻ってきた。




~~~~~~~~~~




円卓争奪戦に参戦することになり、試練はクリアした状態にされた憤怒、強欲。クロウ達に同行していたことで、やはりクリア状態にされた傲慢。


その3つを除いた、暴食、怠惰、嫉妬、色欲。

審判の間に落とされていた、もしくは迷い込んでいた面々は、それらをすべてクリアした。


これにて、審判の間の試練は終了。

罪人は見事、自由を手に入れることとなる。


もちろん、ルキウスのような未達成者もいるが、彼らは尽く円卓争奪戦に駆り出されたので、現状の罪人は0名だ。


それすなわち、試練の間を守護する守護者達も、果たすべき役割を終えたということであり……


「さて、少しお話をしようか。かつて、円卓に制圧されて任に就いた懲役囚。罪人に敗れた守護者たちよ」


クロウ達が去った後のティタンジェルにて。

すっかりケガの治療もされた神獣達は、恐ろしい森にら似つかわしくない小さな紳士――フェイの前に集められていた。


「……」


風穴を塞がれた鯨、羽を再生してもらった蝶々。拡散していた体を再び繋ぎ止められるようになったスライム、砕けた体を癒やしてもらった小猿。


皆一様に、逆らえないだけの罪と恩がある彼らは、ここまでの盤面をすべて操っている小さな少年を前に、無言を貫く。

それを一通り眺めると、フェイは愉快そうに微笑みながら口を開いた。


「無言は肯定と捉えよう。では、改めてこんにちは。

負けてしまった気分はどうだい? 今なら僕の話を聞いてくれるかと思ったんだけど、どうだろう? まさか、負けといて王族の命令など聞かない、なんて言わないよね?」

「……此方(こなた)は、聞こう。ただし、聞くだけ。

考えるつもりはない、働くつもりはない」


フェイの呼びかけによって、巨大な蝶々はやたらと響く声でつぶやきながら、儚げに輝き始める。

光が収まった後、そこにいたのは優美なドレスを身に纏った女性。妖精の女王であるかのような風格の美女だった。


「ありがとう、オクニリア。君達はどう?

拒絶するなら、彼女だけを迎え入れて残りは殺すけど」

「あぁ、それはズルい。1人だけが得るなんて耐えられない。

おいらもその立場が……ひひっ、欲しい!!」

「ラグニアスも同意するんだぁ〜。けど、ラグニアスは別のもの。その美しさが、羨ましいんだぁ〜」


すぐには応じなかった者達も、脅して急かされると口々に変化していく。小猿だったものはギラついた目をした少年に、スライムだったものは、オクニリアを模したベトベトの人型に。それぞれ自分の見た目を変える。


とはいえ、2人共完全な人型になったかといえば、そんなことはない。前者は完全な人の姿をしているが、後者はあくまでもスライムが人の形に整えられているいるだけ。


見た目を真似されたオクニリアは、面倒だからか何も言わないものの、一瞥してすぐ気持ち悪そうに顔を背けていた。


「君には聞くまでもなかったかな?」

「ふん。わしは空腹じゃあ。

さっさと出番は来るんじゃろうなァ?」


この場に集められた、最後の一人。

最も手強かった守護者――巨大な鯨だったヤーマルギーアは、いつの間にか既に人の姿だ。


他の3人を乗せてもまだ余裕のありそう巨体で、小首を傾げているフェイに応じている。そんな彼の言葉に、黒幕たる少年も真剣な表情で言葉を紡ぐ。


「あぁ、答え合わせは明日行われる。

望む結末になるかはわからないけれど、終幕の時は近いよ」


反逆者側についていった傲慢は例外だが、すでに引き込んだ憤怒、強欲に続き、残る守護者も尽く彼の麾下につく。


それも、今回はエリザベスに知らせることもなく、密かに。

ほぼ直属と言ってもいいような関係性だ。

審判の間にいた強者達は、強い意志を持って歩き出すフェイに続いて立ち上がる。


「さぁ、今こそこの世界のルールを覆す時だ。

たとえ、この国を揺るがすことになっても……」


守護者の中でも害獣と目されるような、手に余る凶悪な者共すら引き連れて、少年は悍ましき地下より起つ。


楽園を守る棘(モルガン)たる彼の目的は、一体何なのだろうか。それはまだ、誰にもわからない。



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