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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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343-攻略、怠惰の間

円卓争奪戦2日目が終幕を迎える少し前。

総合で円卓サイドの5勝、反逆者サイドの3勝という結果に、反逆者達が気を落とすなどまだ考えられもしなかった頃。


地下に広がる審判の間に閉じ込められ、地上に広がるミョル=ヴィドの様子をほとんど知らないクロウ達は、ゆっくり休息を取ってから次の試練に挑む。


強欲と憤怒は地上に招集され、フェイによってクリア済みの状態。傲慢は彼らに同行しているため、やはりフェイによりクリア済みの状態。


そして、嫉妬と色欲は昨日クリアしたので、正当な方法で攻略済み。残る試練は、怠惰と暴食のみだ。


万全の状態になっている彼らは、以前は戦いをしようとすることすらできなかった怠惰の間に、今立っている。




「……よし、行くぞ。今回はククルがいる。

風で鱗粉を吹き飛ばせば、きっと戦えるはずだ」


いつものように闘技場のある地下空間の入り口で、俺は周りにいる仲間達に呼びかける。休憩を多く取ったことで少し遅れたけど、怠惰の間を攻略開始だ。


言葉通り、怠惰の間は色欲の間がスライムの海になったように、もう既に鱗粉で埋め尽くされているが……

今回こっちには、風を操る神であるククルがついているんだから何も問題ない。


ラグニアスはスライム……液体やジェルのような真正粘菌で、軟体だから風ではどうしょうもなかっただけ。

カラフルな粉が充満している地下空間は不気味で、とてつもなく恐ろしいけど、粉なんだから吹き飛ばすのは容易だ。


今ならばきっと戦いにも持ち込めるし、そうなれば無気力にするだけの蝶にくらい、簡単に勝てるだろう。

それを証明するかのように、前回は難しい表情をしていた雷閃も柔らかい表情だし、ガノやセタンタは騒いでいた。


「そうだね〜、これなら僕が無理する必要もないかな」

「だーっはっはっは!! そうだぜ、てめぇは静かにのんびり俺様の勇姿を見届けてな!!」

「空回らないといいですねぇ……クククッ。

たとえば、投げた槍がなぁぜか仲間に刺さるとか」

「あぁん!? テメェ俺に何する気だよ、死ねや!!」

「余計なことをしても、私が音で弾くぞガノ君」


バカ共は相変わらず喧嘩してるけど、ちゃんとヘズが注意してくれてるから楽だ。抑え役になれるのって、俺の他には彼くらいしかいないからな……マジで疲れるパーティーだよ。


それに、アーハンカールが混じってなくてよかった。

場合によっては、この3人で三馬鹿になる。


雷閃ものほほんとしてるし、ククルは神らしくあんまり気にしていないみたいだし、みんなろくに止めないから暴走してると本当に辛い。


だけど、この怠惰の間ともう1つをクリアすれば、この地獄のパーティーも地上に戻ってめでたく解散。

ようやく大変な役目から開放される。


ライアン達と合流できると思うと、本当に救われる気分だ。

もしまだ付いてくるとしても、ヴィニー辺りに丸投げしてやる。そのために、さっさと蝶と鯨を倒すぞ……!!


「ふぁ〜あ……なんか面倒くさいし、奥に引かれる」

「おいおいおい、あんたが頼りなんだぞしっかりしてくれ」

「わかってるよー」


俺の意気込みとは裏腹に、ククルは丸くなって空を飛びながら本当に面倒くさそうにぼやいている。


単独で地上の様子を知らせに来てくれ、救援にも来ているはずなのに、唐突に無気力だ。勘弁してほしい。

……うん? 無気力ってことは、もしかしてあの馬鹿でかい蝶――オクニリアの影響か?


いつの間にかガノやセタンタの喧嘩も終わっていて、彼らはぼんやりと怠惰の間に歩き始めていた。

目を凝らして見てみると、周囲の森にはキラキラした七色の粉が散っている。


少しだけ気づくのが遅れたけど、案の定鱗粉が漏れ出ていたらしい。俺は運良く鱗粉の届かない場所にいたようだ。

こんな時には頼りになるな、俺の力。普通に危ねぇ……


「おいククル、何でもいいから今すぐ風起こせ!

目の前の入り口に向かってな!」

「オッケー、僕に任せなさーい」


俺が声をかけると、膝を抱えて丸まって飛んでいた少年は、無気力になっている割にはちゃんと動き始める。


神だからみんな程の影響を受けていないのか、明らかに口で面倒くさいと言っていただけ。普通にいつも通りだ。

嫉妬の間でもジロソニアを瞬殺していたし、こいつ強すぎるだろ……


空中でくるりと身を翻した彼は、活発で、見方によれば凶暴だとすら感じられる笑みを浮かべる。

その足は大きく振りかぶって後方に。手前の空間には、激しく渦巻く烈風の球が生み出されていた。


「この星のどこにでもある風は今、たしかな力を持つ。

渦巻き、昂り、迸り。いざ、僕らは自由なる空へ。

そう、我らがフライングキャーット、どっかーん!」


怠惰の間から漏れ出していた鱗粉は、ククルの生み出した嵐に飲み込まれて消えていった。それどころか、地下のおどろおどろしい森も、地面も、尽くを吸い込み圧縮し、風は怠惰の間に向かって炸裂する。


"天槍カスティーヨ"


小柄な少年であるククルに蹴り飛ばされた嵐は、見た目以上の威力を以て世界を引き千切っていく。

吸い込んでいた物が吐き出されることで、木々は薙ぎ倒されて地面は砕かれた。


もちろん、尖った三角形のような嵐の槍自体も、余波などに負けてはいない。それは突風を迸らせることで鱗粉を吹き飛ばし、そのまま入り口を破壊している。


風なのに空気すら引き裂き、岩壁を引き裂き、伸び伸びと進んでオクニリアのよろめかせていた。


「ちょっ、おまっ……!?」

「ふにゃあ、クロー……!?」

「むっ、この音は異常」

「ぐおぁぁぁぁっ!? なんじゃこりゃあっ……!?」

「ぬおぉっ!? 他国の神風情が、この(わたくし)を!!」

「おー、すごい風だねぇ」

「ちっ、うっぜ」


おまけに、俺達への被害も尋常ではない。

俺は気力を保ったままずっと見ていたからギリギリ耐えられたが、他のメンバーは大体風に飲まれて吹き飛んでいく。


ロロ、ヘズ、セタンタ、ガノ。

他に無事だったのは、雷閃とアーハンカールくらいだ。

彼らだけは、場違いに風をほのぼの感じていたり、顔をしかめるだけに留めている。


俺は必死に耐えてるっていうのに、強いやつはみんなどうかしてるだろ。それにこの風も、ありがたい限りではあるけどもう無茶苦茶だよ……!! 味方を、巻き込むんじゃねぇ……!!


「おぉ、適当に蹴っただけだけど、蝶々に掠ったね。

惜しい惜しい」

「言ってる場合か! みんな吹っ飛んだぞ!?」

「おれは飛んでないけど?」

「そうだな、手伝え!!」


ここに残っているのは、強いからか妙に飄々としている奴らばっかりだ。風の元凶であるククルはくるくる飛んでいきながら笑い、アーハンカールは暇そうにしている。

どっちも見た目は少年なのに、中身が化け物すぎだろ。


「おれは虫食う趣味はないんだけどな。まぁ、仕方ねーから手伝ってやるかー。俺達を飛ばしてくれ、手羽先」

「あははっ! それ、僕に言ってる? 恐れ知らずだなぁ……

けど、いいよ。元気な2人を蝶の元までお届けさー。

いざ、フライングキャーッツ、がおー!!」

「おいおい、俺もか!?」

「トドメは譲ってやるよ」

「しかも1番重要なとこ!!」


アーハンカールのお陰でククルは舞い戻ったが、彼のせいで神は荒ぶり始める。嵐が拡散して、すっかり穏やかになっていたところなのに、再び風は渦巻いて俺達はその中心に。


ギリギリ目を回さないくらいで抑えられながら、滅茶苦茶にかき回されながら打ち出された。少しだけ鱗粉は残っているが、俺だけは運良くその位置は通らない。

だからこそ、俺がとどめに選ばれたのかも。


そんな思考を置き去りにするように、俺達は突き進む。

岩を砕き、空気を引き裂き、鱗粉を弾き飛ばしながら俺達は巨大な蝶々に肉薄する。


「あっは、久しぶりだねーオクニリア。じゃ、ばいばい」

「……!!」


まずはアーハンカール。未だに少年の姿である彼は、金髪を逆立てながら拳を伸ばし、蝶の羽を消し飛ばす。


花ではあるが、冠を被っていることもあって、煌めく鱗粉に包まれた姿はかなり幻想的で王者らしい。

そんな彼に続くように、俺も剣を振るった。


"運命の横糸"


何の変哲もない斬撃は、今を保つことも未来を決めることもない。だが、斬ったという運命を辿るように、綺麗な軌道を描いてオクニリアを斬り伏せる。


運良く鱗粉が風に巻き上がり、俺から離れていく中で。

目の前には、怠惰の間をクリアしたことを示すモニュメントが現れていた。


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