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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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342-真なる円卓保持者

遍く悪を裁く光は、影や武具どころか、ラークの鎧にこびりついている血すらも吹き飛ばしながら彼の体を貫く。


直撃した胴体には大きな風穴が空き、あまりの威力によって隣に立つ馬――ミディールの肩辺りも消し飛んでいた。

しかも、それだけでは終わらない。


すべての汚れや土煙を消し飛ばした閃光は、そのままビームのように壁まで伸びている。渦巻くエネルギーに当てられたことで、彼らは回転しながら傷を広げ、壁に激突した。


結界が張られていることによって、闘技場から飛び出ることはない。だが、壁はベコンと派手に崩れ、飛び散った血液が螺旋のように渦巻いている。


その壁に縫い付けられるような形で埋もれているラーク達は、辛うじて意識は残っているようだが満身創痍だ。

貫かれた位置に近い腕は千切れ、馬のままであるミディールなど首も怪しい形になっている。


聖槍によって2人を下したシャーロットは、それを地面に突き刺して体を支えながら、荒い息を吐いていた。


「ふぅ、ふぅ……」

「くふっ……あぁ、(うぬ)らの勝ちだ。(おのれ)は大人しく倒れるとしよう。影も、もう消えるぞ……」


騎馬だった彼らを叩き落としたヘンリーも、なんとか白銀のチャリオットを操って着陸していた。姿を隠すほどの土煙を起こしながら地面を転がっているので、紙一重で墜落だ。


そんな姉弟を見つめるラークは、虚ろになった瞳で忠告をしている。宣言通り、影溜まりは少しずつ消えていく。

武具を影の中にしまいながら、地面が乾いていくように。


闘技場は元の戦いやすい環境に戻り、誰の道をも阻みはしない。そう、たとえドジな少女であっても……


「っ……!! 影が消えるってことは‥」


シャーロットは消耗していながらも、慌てて槍を構えながら倒れている弟の元へ駆けつける。さっきまでは白く輝いていた槍は、既に血のような赤に戻っていた。


そんな彼女の前で、荒ぶる人影が一つ。

もちろん、危なっかしいメイド――ビアンカだ。

ずっとコケまくって汚れていた彼女は、その汚れを弾き飛ばすかのようなスピードで駆け、ヘンリーに迫っていく。


「も、申し訳ありません、ラーク様。助けられたら良かったのですが、影があると難しく……ですが挽回しますので!」


武器を持っていても素手であっても、変わらず危なっかしいとすべての騎士に評されているように。

影があろうとなかろうと、ビアンカは危なっかしい。


急接近しようとしていた彼女はやはりコケ、顔面から地面に突っ伏している。しかし、今はもう邪魔する影がない上に、必ず挽回すると決めているのだ。


彼女はコケながらも横向きに転がり、メイド服のスカートを優雅に広げて向かっていった。動き自体は車輪のようだが、その破壊力は冗談では済まないものだ。


足がつく度に地面が粉砕し、小さなクレーターをいくつも作りながら倒れている少年の元に辿り着く。

仕上げとばかりに飛び上がった彼女は、さらに回転の勢いを増しながらその足を彼に向ける。


"ラウンズクランブル"


「ひぇっ……」

「逃げて、ヘンリーっ!」


ラークの忠告を受けてすぐに走り出したため、シャーロットはギリギリのところで両者の間に割り込むことに成功する。

だが、その一撃を防げるかどうかはまた別だ。


一瞬だけ衝撃を耐え、その隙にヘンリーはわずかに後退して直撃点から逃げることに成功するが、すぐに押し込まれ始めてしまう。


槍の角度でズラすこともできず、膝は折れ曲がっていく。

腕も窮屈に顔と槍との間に挟まり、やがて耐え切れずに頭から地面に叩きつけられてしまった。


「ッ……!!」

「姉さんっ!!」


声もなく地面にめり込んだ姉を見ると、ヘンリーもすぐさま立ち上がる。チャリオットには乗れないまでも、それを浮かび上がらせながら剣を構え、敵の元へ。


これまでずっとドジっていた姿を見ていた経験から、素早く信託を受けて撃破するべく飛び出していった。


"オラクリオン"


彼もラークによって腹部にケガを負っている。

本来ならば、万全のパフォーマンスなどできないだろう。


しかし、薄っすらと金色のオーラを纏った彼は、全自動だ。

多少無茶でも、体が動く限り勝利した未来のための道を辿る。事象すらも捻じ曲げ、その未来に辿り着くのだ。


そのため彼は、かすかに血を散らしながらもメイドに肉薄し、彼女の腕をすり抜けるように剣を走らせた。


「信託は下った。ぼくは必ず、あなたを倒します!」


ヘンリーの体は勝利する未来のために自動で動き、その道を辿る体は敵の防御などすり抜けてでも勝ちを拾う。


事実、ビアンカは致命傷を避けようと腕で胴体を庇っていたが、それをすり抜けて剣は直撃した。

それで、勝負は決まったはずだった。


「ヘンリー様、残念ながらそれは叶いません」

「え……!?」


だが、斬ったはずのビアンカの体には傷一つなく、目を伏せる彼女は申し訳無さそうにつぶやく。それと同時に、なぜか逆にヘンリーは弾き飛ばされていった。


意味のわからない彼は、受け身もろくに取れはしない。

剣を手放すことはないながらも、ボールのように跳ねてボロボロになってからチャリオットに受け止められている。


「信託は下ったはずなのに、一体何が……」

(わたくし)は普段から戦闘には出ませんので、驚くのも無理はないですね。少し前に戦いましたし、あの時の筋力が(わたくし)のすべてだとお考えになったのでしょう。ですが、本質は違います」


呆然とつぶやき、見つめてくる少年騎士に対して、ビアンカは強い決意を秘めた表情を見せる。

足元でシャーロットがピクピク動いているが、意に介すことはない。無視して歩み寄りながら、言葉を紡ぐ。


「かつて、伝承にある本来の円卓では。ガレスという騎士が亡くなったことで、円卓に亀裂が入ったのだと言います。

であれば、(わたくし)が生きている限り円卓は崩れない。円卓が崩れない限り(わたくし)は死なない。

これは一種の概念防御、円卓の騎士最強の盾なのです」


"ラウンズリテンション"


彼女の騎士名は"純白の手袋(ガレス)"……美しい騎士。

その名の通り、決して破れない概念は常に白亜の煌めきを保持し、美しさを世界に刻みつけるのだろう。


もちろん、今までの試合や先程のラークが倒れている以上、どちらもあるからどちらも不滅という、無敵の防御ではないのだろうが……


少なくとも今、円卓の騎士は崩壊していないのだから彼女は倒れない。概念防御を発動したことによって、コケた土汚れすらも弾いて美しい姿になっていた。


「そっか……大昔、そんな話も聞いたことがあったかも。

すっかり忘れてましたよ、ビアンカお姉さん。

貴女は危なっかしいから武器を持つことを禁じられた。

でも、それはドジだからじゃなくて、本当に強いから」

「もしも彼の騎士が生きていれば、円卓は伝承に記される程の崩壊を起こさなかったでしょう。彼の騎士が亡くなったからこそ、円卓はあれほど崩壊してしまったのでしょう。

それが(わたくし)の本質です。ドジも、ありますけど」


ヘンリーの少し手前で歩を止めると、彼女は半身に構える。

その身はひたすらに優美で、前方には薄っすらと円卓のような模様が浮かび上がっていた。


しかし、その円卓は本質の通りひび割れていく。

崩壊する円卓は、現実ではなく伝承として、この世界に描き出されていた。


"ラウンズクランブル"


「ごめんなさい、皆さん。ぼく達も負けました。

だけど……楽しめはしたかな。心配はしていません。

後のことは気にせず、心行くままこの剣を振るいます」


崩れ行く円卓を目前に、ヘンリーは観覧席を見上げながら独り言ちる。この負けを以て、反逆者サイドの負け越しと劣勢は覆しようのないものになるが、力みはない。

チャリオットを御して、白銀の輝きを見せていた。


"グリッター・アリアンロッド"


ひときわ強く輝いたチャリオットは、星座のような軌道を描きながら崩壊する円卓に向かっていく。

闘技場には神秘的な雫が舞い、崩れ行く白亜の城をより幻想的に見せていた。


勝者、ビアンカ。円卓争奪戦2日目は、これにて閉幕。

円卓サイド3勝、反逆者サイド1勝で幕を閉じた。



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