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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
38/432

32-ウォーゲーム①

――ブー!!


20分が経ち、けたたましくブザーが鳴る。

時計は見てるからもう少し静かにしてくれ……


そんなことを考えつつ、俺達は立ち上がりゲームへと意識を向ける。

作戦はまず2番と3番に全員を送り込む、だ。


2番にヴィニー、リュー、フー、ロロ。3番に俺、ローズ、ライアンだ。

3番の理由は、巨大ということで俺の運を使って回避率を上げ、ライアンの怪力で張り合う。ローズは一番強いからだ。


2番はヴィニー、ロロペアが撹乱、リュー、フーペアが一掃という感じ。

リューは風でパワーがあるから3番でもいいと思うが、正直言うと3番にライアンが決まったためバランス的に2番だ。


そして次は、ローズ、リューをそれぞれ待機させ墓地の5番に行く。

守りは必須で、拠点の一歩手前を取れていれば安全。

進む戦力も火力のライアン、精密さのフーに地力が高すぎるヴィニーといい感じだ。




-クロウサイド-


ということで、俺と一緒に歩くのはローズとライアン。

初めて戦った時と同じで、今ではとても安心感のある面子だ。


「このメンバーだと、エリスと戦った時のことを思い出すね」


俺と同じく数ヶ月前を思い出していたようで、ローズがしみじみと言う。

彼女は俺よりライアンと一緒にいた期間は短いはずだが、やはり初対面であれだけ気が合っていただけあり、感慨深いようだ。


「そ〜だな〜。でも俺は〜あの時より断然強くなったぜ〜」

「そうだよね。明らかに神秘が強くなってるもん」

「ちなみに、どんな神獣の力を手に入れたんだ?」

「それはお楽しみ〜」


気になる……


そんな会話をしていると、目の前に薄い青色の膜が現れる。

……もう結界みたいになってるな。


「これって入れるのかな?」

「どうだろう? 取り敢えず俺が触ってみるか?」

「何かあっても一番安全だしな〜。頼むぜ〜」

「了解だ」


俺はその膜に向かって歩み寄る。

反対側も、特に代わり映えしない草原に見えるが、おそらく今度もまた景色が変わるのかな?


そう予想を立て、そのまま突っ切るつもりで進む。

すると……


やはり視界が歪む。

つい足を止めてしまうが、どうやら触れただけでよかったらしい。

次の瞬間、俺の目の前に広がっていたのは暗いレンガ造りの迷宮……だと思われる、縦横それぞれ5メートルほどある広めの通路だ。


部屋に飛ばされたわけではなく、いきなりただの通路にいる。

暗さも相まってかなり不気味で、少し埃っぽい。


後ろを振り返ると、そこには変わらず薄い青い膜が。

ニコライの実演した膜は赤かったので、本番だと色が変わるのが封鎖の目印になるのかな?


俺はそんな考察も交えつつ、2人を呼びぶために再び膜に手を突き出した。




~~~~~~~~~~




2人も迷宮エリアに入り、ひとまず進んでいると……


「シュー‥‥」


蒸気のような音を出しながら、目の前にゴーレムだと思われる塊が現れた。

通路ぎりぎりの大きさで、つい絶対に動きにくいだろ……と思ってしまう。


と言っても、ゆっくりなら進行方向を変えることならできるだろうが……


見た目は、あの自動車というやつが部位ごとに合体したかのような金属製。

剣や茨で貫ける気がしない……


「でっかいねぇ……」

「あっはっは〜でっっかいな〜」

「……そうだな」


ライアンの気の抜ける言い方は置いておくとして……

どうしよう?


広い部屋ならまだやりようがあるが、こう陣取られると近づいたら抵抗できずに潰されそうだ。


「ここだと俺が一番向いてるかな〜」

「やれるのか?」

「さぁ〜? 取り敢えずやってみる、だよな〜」


つまり敵がいるから取り敢えず殴ってみる、と。

まぁ幸運は全員にかけてあるし……任せてみるか。


「んじゃ〜行くぜ〜」


"獣化-レグルス"


彼が身を屈めると、その四肢が強靭な獣のものに変化する。


どうやら獅子のような神獣を食べたらしい。

少し輝きを帯びた、靱やかな手足だ。


「あっちなみに〜、食わなくても力を得られるようになったぜ〜」

「え、すごい!!」

「マジで!?」

「まじまじ〜」


それは……羨ましいな。

あの時は食べるって工程があったから持ちたくないと思ったが、それがいらないとなれば強すぎる呪いだ。

無限に強化できる。


さらに……


「あれ、その槍まだ使ってくれてたんだね」

「そりゃな〜。これ以上いい槍はそうねぇぜ〜」


彼の武器はディーテでローズが作った"災いを呼ぶ茨槍(ボルソルン)"だった。


数ヶ月経っているにも関わらず、未だに禍々しさを放つ魔槍。

仲間内で一番いい武器だよな……


ライアンはそのままゴーレムに向かって駆け出す。

ゴーレムは元々こちらを向いていたので、バレるも何もなく拳を彼に向けてくる。

空気が唸るほどの特大パンチだ。


「んん〜」


その拳に対し、彼は気の抜ける声を出しながら槍を突きだす。


「お、おい折れるだろ!?」


俺はつい声をかけるが、そんな心配をよそにそれらはぶつかり合う。


だがどうやら茨槍は、ゴーレムと張り合える程に丈夫だったらしい。

金属と植物だが、その材質の差はどこに……? と思えるほど拮抗した衝突。


「シュー……」


しばらくはその拮抗が続いたが、やがてライアンが後ろに吹き飛ぶことで決着がついた。

パワーは流石のライアンでも勝てないらしい。


「すげ〜パワーだな〜。なら……」


"獣化-ヴォーロス"


後ろに下がってきた彼が再び屈むと、その四肢は既に人のものに。

それから変化したのは四肢ではなく全身。


骨格が変わる。筋肉が膨れ上がる。手からは爪が伸び、口には牙が生える。

またたく間に、彼の全身は凶暴な熊となった。


「フゥ〜‥」

「すごい迫力‥」

「お、おい何だそれ……」


今の彼は道を遮っているゴーレムと変わらないほどに巨大で、腕の一振りで家一数軒倒壊させられそうなほど。

最初に見たのが小鳥なだけあって、驚きも一入だ。


「ヴォーロスっつ〜熊の魔獣を喰ったんだわ〜」


彼は俺の問いかけに、若干低くなった声で答える。

威厳を感じるな……


「なぁローズ、このゲームやっぱり勝てそうだな?」

「そうだね。これを見ると負ける気がしないよ」


俺達がつい脱力している間に、ライアンはその巨体を揺らしながら進んでいく。

心なしか迷宮自体も揺れており、それが自分の体の震えかのように感じるほどに迫力がある光景だった。


「シュー……」


それに対し、ゴーレムは先程と変わらず腕を引く。

その動きは緩慢だが、その分確かな威力を秘めていた。


そしてライアンが射程に入ったと見るや、それは彼に襲いかる。


その拳はライアンの右肩へと。

迷宮ごと壊してやる、と言わんばかりの一撃だ。


だがライアンは、その巨体からは想像できないほどの俊敏さでそれを躱した。

左肩を後ろへ、右肩を前へ移動させ、ゴーレムの拳はその肩をすれすれに掠めていく。


そして彼はその大きな隙、回避で変わった体勢を利用し右の槍を叩きつける。


槍はギャリギャリギャリ‥と耳障りな音を迷宮中に響き渡らせ、ゴーレムの体を大きく抉った。

真っ二つにこそならなかったが、もうまともに体を支えられないレベル。


「シュー‥」


それでもゴーレムはしばらく体を動かそうとしていたが、やがてバチバチと何やら危なげな音を発しながら沈黙する。


「怪獣決戦だったな……」

「スケールが違うね……」


俺達はもう笑うしかない。

一撃が重すぎて、ただの一振りがもう致命傷……

そこで張り合う必要は無いとはいえ、やはり羨ましい。


「あっはっは、思ったより脆かったな〜」

「それはライアンだけだよ……」


俺とローズは、ライアンの旅の成果をありありと感じたのだった……




~~~~~~~~~~




-ヴィンセントサイド-


ヴィンセント達が迷宮に足を踏み入れ数分後。

それらは姿を現した。


金属が擦れ合う音が聞こえるほどに、ワラワラと群れながら多種多様な武器を構えている人型ゴーレム。


数百機はいるであろう彼らの武器は、剣だったり、槍だったり、弓だったりと本当に何でもある。

中には筒のような形状の、初めて見るものまで。


どれも科学の国でしか得られなそうなもので、彼らにとって貴重な経験になりそうだ。

これが、ガルズェンス側とのウォーゲームでなければ……


「ヴィニー、怖いねこれ」

「大丈夫だよ。リューとフーもいるんだから」


ロロが少し怯えた様子を見せているが、無理もない。このゴーレム達は当然無感情で、道の先が見通せないほどにひたすら群がっているのだ。


ヴィンセントも落ち着いてはいるが、多少不気味に思っているようで、げんなりした表情を見せていた。


「通路でこれってヤバすぎー……」

「……」


しかも、普段楽観的なヴィンダール兄妹までもだ。

敵と向かい合っているため、リューとフーの性格も入れ替わり済みではあるが、どちらも嫌そうにしている。


黙り込んでいるリューも視線が険しく、笑っているフーも少し弱々しい。


しかし、そのおかげで今は暴走せずに落ち着いているようなので、見方によっては悪いことでもなかった。


どちらも黙ってる方が頼りになるため、ヴィンセントは少しホッとした表情だ。


「……」


すると、そんな彼をリューが凝視し始めた。

特に言葉を発したりはしないが、勝手な行動をするつもりはないらしい。


ゴーレムを気にすることなく、黙って彼を見つめ続ける。


「どうする? ってさ〜」

「あ、やっぱりそう言ってたんだ。

そうだね……取り敢えずあれの強度が見たいかな。フーってナイフ飛ばせるよね?

試してみてくれない?」

「オッケー」


"そよ風の妖精(ゼピュロス)"


フーの通訳を受けてヴィンセントが方針を決めると、彼女は元気よく返事を返し、宙に浮かぶ。

そして、その腰のポーチから現れるナイフと共に、ゴーレムの群れへと突っ込んでいった……


「え、突っ込む前の確認なんだけど!?」


結局暴走を始めたフーを見て、ヴィンセントは驚愕してツッコミを入れる。

飛んでいく彼女にはもちろん届かないが、それがわかっていても、つい反射で出てしまったのだろう。


「アッハハハハ……!!」


彼女はもう制御不能な暗殺者として暴れ始めた。

迎撃行動を取る前に群れに飛び込み、間接部に次々とナイフを差し込んで壊していく。


「はぁ……本当に、何やってるのさあの人は……

あー……俺達も行こっか?」

「あ、あいさー……」

「……」

「そ、そんな呆れた目で見ないでよ……

彼女がそんなすぐに突っ込むなんて思ってなかったんだから……」


フーが勝手に突撃してしまったので、もう様子見をしている場合ではなくなった。

彼女だけに任せる訳にもいかないので、彼らも突撃を始める。


しかし、この一瞬でも倒せない相手ではないと理解するのには十分だ。

ヴィンセントは落ち着いて指示を始める。


「ロロは俺とペアね」

「分かったー」

「リューは好きに動いていいから」

「……」


"恵みの強風(ノトス)"


ヴィンセントがリューにそう言うと、やはり彼はすぐに風を纏って飛んでいく。


暴禍の獣(ベヒモス)に食べられてからしばらくは素手だったが、今彼の手にはイーグレースで新調した大剣が握られている。


流石に一品物ではなかったのだが、素手じゃないだけで安心感が違った。

向かう先にはフーがいることもあって、ヴィンセントにはもうはげんなりした雰囲気はない。


「じゃあ、念動力よろしくね」

「あいさー」


彼は、リューの後ろ姿を眺めながらロロに頼むと、念動力の補助を入れてもらう。

普段なら無理して神秘を取り込んでいるところだが、ロロの回復にも限度がある。


治癒力を高めるだけなので、聖人との戦いまではできるだけ温存しなければいけなかった。


「はい、かけたよ」

「ありがとう」


ロロの補助を得たヴィンセントは、彼を肩に乗せてゴーレムの群れへ向けて駆け出していく……




リューとフーが荒らし回る群れの中。

森のように巨大な機械群に、彼らも乗り込んでちっぽけな神秘で戦い始める。


その時点で大分ゴーレムの統率は乱れていた。

しかし、個の力もそれなりにあるようで、思ったよりも倒れない。


そもそも体が硬いということも原因だと思うが、剣技や槍技も思ったよりレベルが高かったのだ。


リュー達も吹き飛ばしはするも、一度迎撃行動を始めたゴーレムが相手だと、その全てを破壊できてはいないし反撃も食らっている。


そして、何より飛び道具のゴーレムが厄介だった。

近接武器を装備したゴーレムより若干数が多く、全方位を気にしなければならない。


特に金属の塊が飛んでくるものなんかは、少し気を抜いていると手遅れになりそうな速度で飛んでくる。


それは何故か、リュー達にはあまり効いていなかったのだが、ヴィンセントには致命的だ。

余力を残しながらの戦いではあるが、それだけは全力で避けている。


「手強いね……」

「ちょっとぉ!! あんた手ぇ抜いてるだろ!!

金属が飛んでくるやつはともかく、剣とかはあたしらも危ないんだから減らしてくんないと」


そんなふうに、彼が弾丸のみに全力を出して戦っていると、フーが飛んできて文句を言い出した。

普段通り、自由にに暴れているのに珍しく。


それに違和感を覚えた様子のヴィンセントだったが、現在の戦い方はたしかに手を抜いていて否定はできない。


神秘にも慣れてきて、反動も少なくなってくる頃だろう。特に反論することなく、彼女の言葉に同意した。


「ごめん、君達よりも消耗激しいからさ。

でも……うん。この相手は得意な部類だし、もう少しやるよ」

「ほんと頼むよ〜?」


するとフーは、軽い調子で笑うと、再びゴーレムに向かって飛んでいく。

どうやら彼女も、少しは協調性を持ったようだ。


「じゃあ、オイラももっと出力上げるね」

「うん、ありがとね」


彼はロロの補助と合わせて、神秘を取り込む。

それは、自身の筋力以上に力を発揮できるようになる強化だ。


今回はまだ戦う相手がいるので、余力を持って少し抑えめに。だが、それ以上に……


(あれ? なんか少し、普段よりも辺りの神秘が少ないな……)


周囲にある神秘は、いつもよりも少ない。

取り込んだことでそれを理解したヴィンセントは、不思議そうに目を細める。


しかし、それでもゴーレムなら十分だろう。

脚に、腕に、剣に控えめに神秘が宿る。

これならば、目の前に迫る剣も……


彼が降ってくる剣を素早く弾き、同時に斬ると、ゴーレムはバチバチと音を発し始める。


やはり丈夫で、一撃では倒れないゴーレムだったが、さらに2〜3度斬ると倒れて沈黙した。


どうやら彼は思考しない相手が得意のようで、そのよどみのない手際は鮮やかだ。

安定して倒すことができそうだったので、いつものように2人の様子も伺う。


リューは風だけだと無事な個体があったが、大剣に纏わせれば一撃で倒せているようだ。


フーも最初と同じように、人で言うところの関節部分に的確に刺すので、かなり倒している。


まだ殲滅とまではいかないが、ようやく倒し始めたヴィンセントと比べれば、どちらもしっかりと役割を果たしていると言えた。


いつもよりも協調性もあるようなので、今足を引っ張っているとすればヴィンセントの方だろう。

ついさっきも、同じことをフーに言われたばかりだ。


全身の神秘を強めるのは消耗が激しいが、剣だけならまだ少し余力がある。

そのため彼は、剣に纏わせる神秘だけを強めて、群れを突っ切っていく。


「んー……」


素早く動けば、動きのとろいゴーレムには捉えられることはなく見切りも全力。

ゴーレムに感知される前にひたすら斬り続ける。


(そういえば、クロウに戦い方の名前はないのかって聞かれたっけ……観察を終えれば、流れるように斬るし……)


"行雲流水"


彼は剣技に名前をつける。

それは力の方向性。願いの形。


見た目に大きな変化はないが、彼の剣技はどんどん加速していった。


(俺は神秘ではないけど、確かに何かが固まる気がするね。目の前に溢れるゴーレム。

その全てに流れが見える気がする)


剣閃は回る。

スムーズに、無心で行う作業のように。

流れるような動きに、攻撃も勝手に逸れていくように外れる。


彼の体全体が流れそのものかのように……


その景色はとても美しく神秘的で。

そこには、神秘でない身でありながら、神秘を体現する者がいた。

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