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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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334-円卓争奪戦、2日目

一晩明け、ライアン達は再びコロシアムへと赴く。

本日は円卓争奪戦、2日目だ。


1日目が五分五分だったことからも、一行はやる気に満ち溢れていた。しかし、かといって全員が集まるかといえば、当然そんなことはない。


自分達の力が通用することがわかり、士気が上がっていたとしても。互角でいられないと意気込む者が多いとしても。

自遊人や暗い感情に気を取られている者達は、まったく気に留めずに観戦を放棄していた。


この場に集まったのは、ライアン、ローズ、ヴィンセント、

海音といった外から来た旅の仲間たち。

ヌヌースと交代したジャルや試合のあるキング、その応援で騒ぐクイーンといった救援メンバー。


ソフィア、シャーロット、ヘンリーといった、今日までに試合がある円卓勢である。


他の者達は、この場にどころか朝すら姿を見せていない。

それどころか、昨日の夜は帰っていないというような者までいる始末だ。


しかも、気持ち的に厳しい状態にある一部を除けば、大体がただのサボりや遊びでいない。


リューとフーは生命力の満ち溢れる森で黄昏れ、クリフたち獣人組は村長の家。ケット・シー組はサボりとそのお守りといった具合である。


とはいえ、いない者を気にしていても仕方がない。

試合がある者達はちゃんと来ているし、問題が起こることもそうそうないのだから、考えるだけ無駄だ。


昨日よりもやや寂しくなった一行は、同じ場所に座りながらやはり同じように闘技場へ視線を向ける。


「さ〜て、今日はいよいよ俺の出番だな〜」

「あたし達もっ!」

「頑張りましょう、姉さん」

「……ダル〜」

「ここまで来て手を抜かないでくださいよ、猫王。

はっきり言わせてもらうが、時間の無駄だ」


今日試合があるのは、ライアン、ジャル、キング、クルーズ姉弟の5人だ。彼らは賑わう円卓サイドの観覧席を見つめながら、口々に思い思いの言葉を述べる。


怠惰な王様だけは面倒くさそうにしているが、概ね士気は上々だった。もちろん、気怠げなキングも逃げ出していないのだから、無関係ではいられない。


勝手にはしゃいでいるクイーンに引きずられて、何だかんだ巻き込まれている。半分がいなくなったが、内容は変わらずに。昨日と同じく、少し離れた位置ではなぞの盛り上がりを見せるお茶会が開かれていた。


ケット・シー以外は参加していないので、2人だけ。

それも、キングはウトウトしているので実質クイーン1人でのお茶会なのだが……やたらと騒がしく、この上なく不思議だ。


横目でその光景を見ていたジャルは、しばらく微妙そうな顔をしてから口を開く。


「まぁ、明るい気持ちにはなる。本人は楽しみ、選手は気が紛れて奮い立つ……効率的だな」

「無理しなくていいと思うよ……?

あの人、間違った人間の文化を学んでるだけだから」

「それより、またお話を聞きませんか?

敵を知ることは大事ですから、復習しておきましょう」


やや緩んでいた空気は、ヴィンセントの言葉によって直ちに引き締まる。激戦区は3日目で、1日目も今日より層が厚い。


だが、2日目は現在の円卓の騎士達で固められており、堅実だ。肩の力を抜くことも大事だが、それ以上に油断せず敵に備えることも必要だった。


おまけに、3日目は捨てている場所も多いので、ここは全勝を目指さなければならない。視線はソフィアに集中し、彼女は反対側で対象者を探しながら言葉を紡ぐ。


「あの人は聞いていなそうですし、オスカー卿とテオドーラ卿についてですかね。……ふむ。オスカーを一言で言うとするならば、やはり規格外というのが妥当でしょう。

女王様の近くにいる道化じみた騎士がそれです。具体的な話は海音さんに聞いた方が早そうですが……」


彼女が指さしたのは、言葉通り女王――エリザベスの隣だ。

ウィリアムも側に控えているが、昨日の初戦を飾った相手なので間違えることはない。


それに、オスカーはクイーンと若干似たタイプのようで、1人で勝手に曲芸などを披露しており楽しそうだった。


人型になったパートナーの馬達が、給仕など選手や主の世話で歩き回っている中。ボールやクラブ、帽子、布、棒などを放り投げたり変化させたりして散らかしている。


たまに小鳥が出てきたりナイフが千切れたりもしているので、本当にカオスだ。何度も物をぶつけられるエリザベスは、心底うんざりしているようだった。


それを見ていたライアンも、困惑を隠せない。

しかし、見慣れているであろうソフィアは動じていないし、クルーズ姉弟に至っては歓声を上げている。


「どうやら彼は、ひたすら楽しみたいだけのようです。

なので、自分のポテンシャルを活かせる戦闘に目がない。

海音さんと数週間ずっと戦い続けたように」

「とりあえず、ヤベー奴ってことはわかったぜ〜。

視覚的にも、やたら悪目立ちしてるしな〜」

「楽しみたいだけだから、芸も適当なのかな……?

散らかしすぎていて、パートナーの人達忙しそうですね」

「あの人、本当に円卓最強なの……?

やってることが愉快すぎるし、なんかアホっぽい」


反逆者サイドから見たオスカーの評価は散々である。

戦闘狂というのは危ない特徴なのに、愉快で間抜けな道化という部分が強すぎていた。


ライアンはすっかり気を引き締めるのを諦め、ヴィンセントは同じ使用人的な立場の神獣達に思いを馳せる。

ローズなど直接的に罵倒しているし、もはや円卓最強という事実すら疑っているほどだ。


「……そこは否定しません。強い馬鹿という認識でいいのでは? ライアンさんは、一瞬たりとも気を抜かないように」

「お、お〜」

「続いてテオドーラですが……彼女は底が知れません。

序列は5位でしたが、戦い方次第では私達とも正面から戦えたことでしょう。性格は底なしに良い人。利他的な奉仕者。

今もパートナーと一緒に働いていますね。

あちらにいる背が高い女騎士……彼女がそうです。

能力は霊的な力、聖杯の如き生死の祝福」

「なるほど、端的だな。効率的だ」


好き放題していてツッコミどころの多いオスカーと違って、テオドーラは言ってしまえばただの働き者だ。

対戦相手であるジャルも特に強い反応を示さなかったため、実際に敵を見ての説明はすぐに終わった。


第一試合と同じように、その日最初の試合は選手次第。

話を聞き終わったライアンは、茨の種を槍のサイズに戻しながら立ち上がる。


くるくると優雅に槍を回す姿は、熟練の猛者そのものだ。

痩せているからこそ、どこか舞踏のように。

周りの何に影響を与えることもなく、金髪を逆立てながら闘技場に飛び降りていく。


同時に、反対側ではボールやトランプなどの小道具が撒き散らされる。元凶は当然、さっきまでそれらで遊んでいた規格外の騎士――オスカー・リー・ファシアスだ。


ほぼ身体能力のみで円卓のトップに立つ騎士は、靭やかな肉体を駆使して着地すると、爽やかに笑いかけながら反逆者と向かい合った。


「あははは、海音ちゃんとの決着がつけられないのは残念だなって思っていたけど、君となら楽しめそうだね!

騎士名"清らかな剣(ケイ)"……伝承に語られ紡がれ続けるような、真に見事な勝負を約束しましょう。とことん楽しむために!!」

「呪名獣の王(カルノノス)。別に楽しむつもりはねぇけど、俺がこれまで得てきたすべてに懸けて、あんたに勝つぜ」


規格外の騎士と、旅の中で規格を拡張していく戦士。

共に身体能力をメインに戦う彼らは、それぞれの槍を構えて全身に凄まじい力を溜めていく。


"野生解放(リベラシオン)-カルノノス"


どちらにも、体自体に目に見える変化はない。

今までは獣の姿に変身していたライアンは、ただ光や氷、炎などを周囲に迸らせているだけだ。


しかし、オスカーに至ってはそれすらもなかった。

揺らめく火のようなオーラを纏う彼に対して、その身一つで突っ込んでいく。


ここに、第五試合の火蓋は切られる。

円卓争奪戦、2日目の開幕だ。


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