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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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333-初日を乗り切って・後編

宿に泊まる者は宿に戻るが、そもそも朝からずっと別行動をしていた者達はそれすら知らない。


咎められないのをいいことに、闘技場どころか太古の森自体も走り回り、やがて人の集落――コーンウォールへと辿り着いていた。


円卓関係者は大体カムランに集まっているので、ここにいる中で立場が高いのはジェニファーくらいのものだ。把握している者まで含めると、フェイも知っているだろうが……


結果として、ミョル=ヴィドの面々のほとんどに知られることなく、彼女達は村長の家の扉を叩く。


「野生の勘に従って、密かにお姉さんはやって来る。

そう、すなわちシークレットリィキャット、がおぅ。

未知も暗闇も、遠い縁すらもわんこの道を妨げることは叶わず。ここ掘れわんわん、何にも代えがたい宝があるぞよ」

「いや、知らねぇよ……こんなところまで連れてきやがって。

怒られたらどうしてくれるんだ。明日はジャルも試合があるんだぞ? というか、なんでこの家に来たんだよ?」


クラローテの言動は相変わらず無茶苦茶で、遠く離れた地まで連れ出されたクリフは、流石に疲れ切った様子でぼやく。

しかし、彼女は完全スルーだ。まったく聞く耳を持たない。


同じく引っ張り回されて来たジャルも、すっかり諦めてなるようになれといった雰囲気である。ただし、クリフよりかは幾分乗り気のようで、探るような目をコーンウォール村長の家に向けていた。


「諦めろ、クリフ。こいつには何を言ってもしょうがない。

それに、これで案外無意味なことはしないやつだ。

無駄に言い争わず、効率的に行こう」

「わかってるよ……でも、お前は帰れ。明日試合だからな」

「……まぁ、この散歩の結末を見たらな」


ノックする音に反応し、中からは少女の声が聞こえてくる。

ここに住んでいるのはもちろん村長――マークだ。

獣人の精鋭を前に、進歩の扉は開かれる。




~~~~~~~~~~




ミョル=ヴィドにやって来た者達が、地上でそれぞれの時間を過ごしていたのと同じように。地下に広がる審判の間でも、罪人達は思い思いの時間を過ごす。


ある者は外で星空を眺め、ある者はけがをしているため早くから就寝し、またある者はその看病をしていた。


「……1つ、聞きたかったのだが」


雷閃の看病をしていたヘズは、見た目に似合わず起きていたククルに声をかける。彼はまだ見張りの時間でもないのだが、目はぱっちりと冴えているようだ。


ずっと何かを食べているアーハンカールの隣から、深夜とは思えないくらい元気に言葉を返す。


「聞きたいこと? 僕に? 何かな」

「君はこの森の外から来たのだろう?

叡智の都――イーグレースのことは何か知らないか?」

「……君、音の神秘でしょ? 自分で聞けないの?」

「残念ながら。ぽっかりと空洞になっているかのように、何一つ音が聞こえない。ここに来た記憶もないしな」

「ふぅん……」


ヘズの問いを聞いた少年は、アーハンカールから間食をぶん取りながら興味なさそうに視線を遠くに飛ばす。

寝床にしている洞窟の外で、風は心地よい音色を奏でていた。


「僕もサポートより戦闘の方が得意だから、よくわからないけど……とりあえず君は、既に託されたんじゃないかな」

「託された?」

「あれ、もしかしてそこも記憶が……いや、これは他人がどうこう言うことじゃないね。とりあえず僕ができるアドバイスとしては、思い込みはなくしたらってことかな」

「……?」

「昔と違って、この時代なら回復特化の神秘の力があれば目は治る。それでも見なかったのは、君の選択でしょ?

好きにしたら良いよ。心のままに生きるのが1番だから」


盲目の司書は、神の言葉を噛みしめるように黙り込む。

なぜ彼はここに来たのか、どうやって彼はここに来たのか、どうして記憶が欠落しているのか……


罪人として追われ、試練をクリアするために奔走し、激動の日々を過ごしていたヘズは、今ようやく自分と向き合い始めていた。


そんな彼を尻目に、ククルは隣で怒りながらもむしゃむしゃと食べ続けている少年に視線を向ける。


「ついでに、僕からも君に1つ聞こうかな」

「はぁ? おれの飯を奪うだけに飽き足らず、自分の疑問を解消するために人の時間を奪おうっての?」

「そうだよ。生物はただ生きているだけで他の時間を奪っているんだから、気にするだけ無駄さ。

まぁ、後で何か狩ってきてあげてもいいよ」

「ふーん、ならいいぜ」

「君は、なんでクロウくんについてきてるのかな?」


案外すんなり受け入れたアーハンカールに、彼はついでにしては重要そうな内容を聞く。しかし、彼にとってはそこまででもなかったようで、問いかけられた本人も不思議そうだ。


「……? それ、理由がいるのか?」

「あった方が喜ばれはするだろうね」

「別に、面白そうだったからだけど?

ヴォーティガーンとも共闘したし、さっさと食料にするにはもったいない。まぁ、非常食ってところかなぁ」

「へー」

「興味ないなら聞くなよ」

「あはは、なくはないさ」


寡黙な司書がジッと考え込んでいる中で、洞窟の中には笑い声が花開く。その声は地下空間にも響き、すぐ近くなら地上にすら届いていた。




「ふぁ……あいつら、寝てねぇなら代われよな」


ククル達が特に理由なくが笑っている中。

その声を聞くクロウは、一緒に見張りをしているセタンタの横で、彼らへの文句を口にする。


とはいえ、もちろんそこまで強い感情を持っている訳ではない。表情は柔らかく、すぐに他の話題に移っていた。


「俺達、結構この森を逃げ回ってた気がするけど……

いよいよ地上に戻れるな」

「そうだなぁ。上の奴らを殺すのが待ち遠しいぜ」

「おいおい、治安悪いな……何事もなく出れるんだから、別にいいじゃねぇか。俺は割と楽しかったぜ」

「……はっ、俺の方が楽しかったな!!」

「どこで張り合ってんだ」


彼らはミョル=ヴィドの入り口付近で出会い、ここまでずっと円卓からの逃避行をしてきた。

そこには確かな絆があり、脱出を目前にして穏やかな空気が流れている。


「天井の切れ間から見える空も、見納めになるな。

ここからでも、結構いい景色だ」

「それはよくわかんねぇ」

「はははっ、知ってる。……あいつらもこれ見てんのかなぁ」


視線は木の根や岩の向こう側で広がる空に。

地下に広がる審判の間でなければ、そうそう見ることのない景色を目に焼き付けている。




~~~~~~~~~~




地上と地下。その違いがあれど、見上げれば視界に飛び込んでくるのは同じ空だ。ここは、円卓争奪戦の会場であるカムランにある宿屋。


その屋上という、施設の中でも最も星空がよく見える場所にいたローズは、意図せず同じ行動をしながらつぶやく。


「負けちゃったの、悔しいな……」

「気にすんなって〜。代わりにヴィニーが勝ってくれたろ?

俺も、明日頑張るしな〜」

「そうだね。相手は序列1位、円卓の騎士最強の騎士だけど、きっと勝ってね、ライアン」


席を奪えなかったことを悔しがる少女だったが、自分の執事が奮闘したこともあって、そこまで思い悩みはしない。

髪を押えながらキラキラした目を隣の青年に向けて、優しく微笑みかけていた。


「任せとけって〜。

……クロウにもこの空、見せてやりてぇしな」


彼女の鼓舞を受け、同じように星空を見上げていたライアンも決意をより強く固める。


2人の間には、それ以上言葉は出てこない。

ただじっと寄り添い、家族と同じ星空を見上げていた。





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