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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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330-攻略、嫉妬の間

フェイが森で暗躍していることなど、ほとんどの者は知る由もない。地上のミョル=ヴィドにいる者達も、地下の審判の間にいる者達も。見えているのは、目の前のことばかりだ。


それは、一連の出来事のキーマンであるクロウ達……審判の間に落とされていながらも、ここまで無事に命を繋いでいる者達だって例外ではない。


円卓争奪戦の1日目が開幕するよりも少し前。

まだ、ヴィンセント達が円卓の強者達に太刀打ちできるのかと、少なからず不安に思っていた頃。


ククルという援軍を得たクロウ達は、7つの試練を突破して地上に戻るべく、嫉妬の間へと赴いていた。




「……まさか、傲慢どころか強欲と憤怒の間までクリア状態になっているとはな。本当に上はゴタゴタしてるみたいだ」


相手の能力を一時的にコピーしてしまう小猿――ジロソニアが待ち構える嫉妬の間を目前に、俺は誰にともなくつぶやく。


この2日間、審判の間をクリアするために動いていた俺達は、なぜか同行しているアーハンカールの間も含め、いくつかの試練の間を巡っていた。


見てきたのは特に印象深いオリギーの憤怒、アフィスティアの強欲など。結果知ることになったのは、どういう訳か既にその3つがクリア状態になっていたこと。

残りの試練は4つだということだ。


正直なところ、オリギーなんかはマジで恐ろしかったから、ありがたいことこの上ないんだけど……

はっきり言ってしまえば、なんで?という感情の方が強い。


アフィスティアはともかく、オリギーは円卓の味方っていう感じではなかったんだけどな。


そんなふうに俺が首を傾げていると、当の傲慢の間で守護者をしていたアーハンカールと情報を届けてくれたククルが、わざわざ近くにやって来る。


「言っとくけど、おれは何もしてないぞ?

なんとなく面白そうだったからついてきただけなんだし」

「僕が教えた情報も、嘘なんかじゃないからね。信じられないなら、この場を制圧して神だと認めさせてあげるけど」


どうやら、彼らもこの状況に少なからず驚いているようだ。

別に何も言っていないのに、やたらと食い気味に各々の主張をしている。


そりゃ、多少の含みくらいはあったかもしれないけど、流石にこの2人を疑う訳はない。


特にククルなんか、こんな場所に1人で来られる時点で実力者だとわかりきってるし、雰囲気も明らかに強いんだから。

うん、疑う訳はないが……


「あぁん!? てめぇこの俺を倒すってのか!?」

「聞き捨てなりませんねぇ。血を見せろや」

「だぁ、うるせぇうるせぇ!! 寄ってくんな!!

これから嫉妬の間に突入するんだぞ、ばか!!」


ククルが自分は神であるという部分を証明しようとしたせいで、セタンタとガノ、荒くれ二人組が騒ぎ出す。

せっかくいい感じの距離感で、辺りを警戒しながら進めていたというのに、一気に暑苦しい。


いやもう、こいつらは本当にいい加減にしてくれ……!!

敵はもう目の前にいるってのに、なんで味方同士で消耗しないといけないんだよ!! ククルもククルで、神であることと情報の正しさは繋がりないだろうが……!!


面倒な火種を放り込んでおいて、自分は満面の笑みとか純粋な質の悪さを感じる。さり気なく離れているし、さぞ愉快なことだろうよ。悪ガキが過ぎるだろ。


しかも、雷閃とヘズは我関せずだ。

少し離れた位置で、のんびり喋りながらバカ共が騒いでいる分まで周囲を警戒している。


やることはやってるし、1人はけが人だから巻き込むつもりはないけど、まったく関係ないみたいな顔されるのは腹立つ。

ロロも直接的な戦闘には参加しないので、あちら側でのんびりしているのが余計に。


「はぁ……!! まぁもういいや。さっさと行くぞ。

敵は嫉妬の間の守護者、ジロソニア。見ただけでこっちの力をコピーしてくる面倒な小猿だ」

「作戦は奇襲かな? 僕が一撃で沈めようか?」

「おい、俺達じゃ勝てないとでも‥」

「だーまーれーよー!!」


話をまとめようとしているのに騒ぐバカ共に、俺はとりあえず上から音量を被せてペースを握る。

チンピラ、不良、悪ガキ、高飛車。面倒なことこの上ない!!


何で俺の周りには、こんなのばっかり集まるんだ……

雷閃とヘズはまともだけど、割とマイペースだから気にしてないみたいだし、負担が俺にしか来ないのがひでぇ。


というか、雷閃もすぐ迷子になるから目は離せないし……

問題児ばっかりだ!! 早く地上に出て、ヴィンセント辺りに押し付けたい。


「正直、クリアできるならなんでもいい。けどまぁ、最初は俺達だけでやるか? 無理そうならククルが一撃で飛ばす」

「オッケー、任せてよ!」

「クククッ、私達だけとは勇ましいことで。

どうするつもりなんですかぁ?」

「セタンタのルーンはコピーできないだろ? 石いるし。

様子見で前に出てもらって、変な能力を持ってなさそうならガノが後ろから斬り倒せばいい」

「ん? 俺が突っ込んでぶっ殺せばいいんだな!?

だーっはっはっは!! 任せとけ!! 派手に殺るぜ!!」


アホみたいにうるさいが、とりあえず作戦は伝わってくれたようで何よりだ。彼は石を砕いて杖を呼び出すと、身体能力を高めて闘技場に突っ込んでいく。

……派手さは求めてないんだけどなぁ。


術師には冷静なイメージがあったけど、あれはもう猪武者でしかない。後方支援っぽいのに、脳筋すぎる。

1人で突っ込んでいったけど、多分問題ないだろうし。


「あと、ヘズの音も見えないなら多分コピーされないよな?

積極的に戦う必要はないけど、サポートよろしく」

「ふむ、任された」


ククルによってライアン達の救援、円卓争奪戦の開催を知らされてから2日。いよいよ審判の間をクリアする時だ。


セタンタを追って、血の気の多いガノやアーハンカールなんかはもう勝手に突撃しているけど……

とりあえず、これより嫉妬の間の攻略開始だ。




俺達が嫉妬の間の闘技場に入ると、視界には早速セタンタが炸裂させているルーン魔術の嵐が目に飛び込んでくる。

炎、水、風、雷と何でもありだ。


目論見通り、石を彫れないことでコピーができない小猿が逃げる中。彼は凶暴に笑いながら、飛び回って魔術の豪雨を降らせていた。


「おいおい、ここは地獄かよ……」

「ひとまず、追い詰めてはいるな。私も加勢するとしよう」


"音振苦痛"


闘技場の中では、まだククルやガノが手を出していないにも関わらず、ジロソニアが何もできずに逃げ回っている。


一対一でこれなら、おそらく厄介な能力はコピーできていないのだろう。ただ走り回っていた小猿は、ヘズの音波攻撃も受けて倒れた。


これだけの人数が集まれば、流石に試練の間の守護者が相手でもあまり手こずることはなさそうだ。


それどころか、明らかに俺は戦う必要がない。

指示だけしてれば、そう時間をかけずに勝手に終わってそうである。


こうして実際に圧倒しているのを見ると、処刑王ルキウスの愚かさがより一層際立つな。処刑なんかせず、こうして仲間を集めていれば簡単に脱出できていたのに。


まぁ、今さらそんなことはどうでもいいか。

ここにもいないし、そもそも敵だし、今はさっさと守護者を倒してクリアしないと。


「アーハンカールはどこだ? 同じ守護者に手を借りるのもおかしな話だけど、あいつも身体能力だけだし‥」

「あれ、なになに? おれも手を出していいの?

じゃ、遠慮なくぶん殴るぜー」


俺が傲慢の名前を呼ぶと、案外近くにいた彼は真っ直ぐ敵に向かっていく。強靭な肉体を持つ彼は、ただ殴るだけで脅威となる凶器だ。小猿は腹部を殴られたことで、派手に吐血して吹き飛んでいる。


「ルーン、音、打撃……やっぱり見えなきゃコピーはできないんだな。無能力であることも確定だし、変なもんコピーされる前に倒そう。ガノ、やっちまえ!!」

「ハッハッハ!! ようやく出番ですねぇ……死ねやオラァ!!」


"ディスチャージ・クラレント"


血の翼を生やして空から強襲したガノは、土煙を引き裂くように血を放出した斬撃を振り下ろす。

ちゃんと視界には入れられないように、宙を舞っていた小猿の背中から。それは逃げ場のない獲物に食らい付いていく。


「ウギィーッ!!」

「はぁ!?」


だが、たとえ使える能力を持っていなくとも、それは嫉妬の間の守護者である。散々ボロ雑巾のように吹き飛ばされていたジロソニアは、ここに来て最後の悪あがきをした。


空中で身をひねると、紅い剣の横を弾いて斬撃を逸らす。

自身も勢いをつけて着地した小猿は、ガノの血をしっかりとその目に映してギラついた光を見せていた。


"無害なるモノの意地(エンヴィー)"


「ウキキキ、ウキィィィッ!!」


何もできなかった直前までとは違って、その小さな体からは血が吹き出す。目から、口から、耳から。

穴という穴から流血する姿は、完全にホラーだ。


しかも、ジロソニアの場合はそれだけでは終わらない。

腕や脚が引き裂けて血が溢れ出す、頭も割れたように赤く染まる。それだけしか能力がなく、俺達に打ち勝とうと必死な小猿は、暴走したように真っ赤になっていた。


「ちょっとちょっと、私でもここまではしませんよ!?

いくら他に手がないとはいえ、正気じゃないですねぇ!!」

「殺し損ねたテメェの落ち度だ!! 責任持って死ねや!!」

「殺せの間違いじゃあねぇのか、駄犬ゴラァ!?」

「ばーか、どうあれおれのご飯だよ。

血抜きが楽になっていいじゃない」

「ウキャァァァッ!!」


協調性のない問題児共が騒ぐ中、ようやく能力をコピーしたジロソニアは、吹き出す血によって体を固めていく。

一切油断することなく、円卓の騎士顔負けの装備に翼や鋭い爪、刺々しい槍まで造っており、とんでもない警戒具合だ。


ここまでなすすべなくやられていたのだから、無理もないんだけど……こっからどうするかな。


喧嘩を始めていることもあるが、ルーンは弾かれ、血や拳ももう通らない。音だけは関係ないとしても、決定打にはならないだろう。雷閃も今は無理をさせられないし、また時間を置かないとだめか……?


「はーい、みんなお疲れ様ー。

無理そうだから、僕が一撃で飛ばすよー」

「っ……!?」


俺が若干諦めかけていると、空から涼やかな少年の声が聞こえてくる。反射的に天を仰げば、そこにいたのはもちろん軽やかに飛んでいるククルだ。


彼は羽のようにふわふわした服を揺らしながら指を鳴らし、それだけでとんでもない威力の竜巻を生み出した。

大地を突き刺すように降り注いできた嵐の槍は、あっという間に小猿を飲み込み、容赦なく押し潰す。


やがて嵐が収まった頃。闘技場からは放出されていた血が完全に消し飛び、ジロソニアが気絶して転がっていた。



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