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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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329-全知のお膳立て

円卓と反逆者で、円卓の席次争奪戦を開幕する2日前。

まだ、ライアン達が太古の森――ミョル=ヴィドに突入してからそう時間は経っていなかった頃。


森は来る円卓争奪戦の準備で、いくらか浮足立っていた。

円卓サイドはケルヌンノスやルキウスを筆頭に、かなり我の強い面々を集めたことでそのコントロールに奔走。


反逆者サイドは反逆者サイドで、敵の説明や誰に誰をぶつけるかという話し合い。


また、ジェニファーのような一般の者達や働く人間は、ただ審判の間の者達に怯えたり、いつになく活発な円卓を不安げに見ていた。


従うだけの彼女達は、当然森の行く末を決める一大イベントとはほとんど関わり合いにならないが……

処刑王、凶暴な2人の守護者といった面々が解放されているのだから無理もない。


永く円卓の騎士と騎士王に守られてきたこの神秘の森には、成立してからほとんど初めてと言えるような変化の時が訪れようとしているのだ。


そして、この円卓争奪戦の提案をし、ケルヌンノスを除いた審判の間の神獣を招集した人物……

今回の出来事すべてを招いた元凶は、彼らを王城に案内してから、再び審判の間に戻って来ていた。


「さて、これで円卓が招集するべき面子は揃った。

エリーの招集したケルヌンノスと、僕が招集した4人。

まだ話をしないといけない人、やるべきことはあるけど……」


クロウ達がヴォーティガーンや円卓、オリギーなどから身を隠し、彼との戦闘で負った傷を癒やしている中。


ずっと森の中で暗躍していながら、変わらず小綺麗な格好をしている少年――フェイは、ほとんどの強者が消えた地下空間を朧気な姿で飛んでいる。


まだ4つの間に守護者はいるが、彼らはオリギー達のように外で自由に活動したりはしない。それをよく知っているため、強欲の間に向かう少年はあまり周囲を警戒していなかった。


さり気なく暴禍の獣(ベヒモス)の痕跡がないか探しつつ、樹から樹へと森の外側へ向かっていく。


「ヴォーティガーン、暴禍の獣(ベヒモス)、ガル=ジュトラム。

この森には厄ネタばかりがあるね、まったく。ただ、それもこの時代が最後なのだとしたら、まだ救いがある。

多くの犠牲が出るとしても、それが正しい歴史ならば維持は捨てよう。餌は集めた。後は残り物のお膳立てだけ……」


やがて辿り着いたのは、やや古ぼけて……というより腐りかけているものの、他の間と同じように闘技場のある地下空間だ。


数多のブラックハウンド達が寝転んでいるその中に、彼は霧と共に潜り込んでいく。死んだような静けさは変わらない。

霧によって水分がもたらされたことで、それらは敵意を見せるどころか歓迎すらしているようだった。


辺り一面、黒、黒、黒。崩れかけの闘技場の他には、地下で倒れる枯れ木や天井から垂れる枯れ木の根しかない。

だが、死に絶えていてもここは審判の間の要所である。


フェイが軽く周囲を探せば、普通は試練をクリアした時にしか姿を現さないモニュメントがひょっこりと顔を出した。

それを見ると、彼は速やかにくすんだ証明証の前へ。

流れるような動作で手を伸ばし、どうやってか光らせた。


続く場所は、オリギーが空けた憤怒の間だ……




憤怒の間、そしてついでにアーハンカールが空けた傲慢の間のモニュメントも光らせたフェイは、とある洞窟のある空間上で静止する。


目の前には、療養中のクロウ達一行が。

ヴォーティガーンから受けた傷はほとんど完治した状態で、外からの報せを届けに来たククルと対面していた。


「さて、これで強欲と憤怒の間が空いた。ついでに傲慢の間もね。もちろん、処刑王と魔眼王の邪魔もない。

ここまでお膳立てしてあげたんだ。この先は自力で上がってくるといいよ、クロウくん。どうせ獣神(じゅうじん)くんがほとんど1人で片付けるんだろうけど……」


最初に彼らと会った時と同じように、彼は樹の上から侵入者一行を見下ろしながら、誰にともなく独り言ちる。

守護者の不在、4つの彷徨う神秘、クリア状態になったいくつかの試練。


それらはわざわざ教えるまでもなく、彼らが審判の間を脱出しようとしたならば直に明らかになることだ。

フェイはクロウ達を見つめながら、これからやらないといけないことや、やがて起こることに思いを馳せていた。


「……」


フェイが彼らを見下ろしていると、ふとした瞬間、ククルと目が合う。今回はガノすら気がついていない様子だったのに、風に揺れながら真っ直ぐ彼を射抜いていた。


単独で審判の間に現れたことからも明らかなことではあったが、あの少年が神であるというのは伊達ではないようだ。


とはいえ、彼らはどちらも敵意など持っていない。

地域限定の全知と、この星を満たす風。


お互い、この森林で実際に起きていることならば大抵は知ることができるため、両者の認識は影の立役者といったところである。


彼らはしばらくの間強く視線を交錯させると、余裕の態度で微笑みを浮かべた。それは、ある種の信頼。

表は裏の、裏は表の健闘を祈る行為。


無言で心を通わせた少年達は、すぐにそれぞれの目標に視線を向ける。ククルは試練の間へと。そして、フェイは……


「ひとまず、僕の戦いはもうすぐ終わる。

円卓は揺らぐもしれないけれど……あの子達がいる限り滅びはしない。地上にて強い生命力を示し、この国を、この地球を保障し続けるだろう。あれは乗るかな? この甘い誘惑に」


再び、ミョル=ヴィドの地下に広がる審判の間に。

自由落下しながら霧に飲まれ、やるべきことをやるために姿を消していた。





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