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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
362/432

324-第二試合、序列2位

"茨海"


戦闘を開始したローズは、猪突猛進に向かってくるルキウスに対抗して茨の海を作り出す。彼女に武器はない。


彼女の戦闘スタイルは、完全に自身の呪いに頼り切った術師的なものだ。一回戦で地面が泉になったように、闘技場は刺々しい茨に包みこまれ、敵の身動きを封じてしまう。


もちろん、ルキウスも大剣で切り開き、無理やり進んでくるが……切っても切っても立ち塞がり、隙を見て巻き付いてくる茨にだいぶ苦戦しているようである。


その中で自由に動けるのは、操って道を拓けるローズ自身と彼女が放つ朧気な炎だけだった。鋭い茨を壁にして、朧気な炎の球はいくつも彼に襲いかかっていく。


"妖火-蛍火"


茨をすり抜けて進む炎球は、例によって9つだ。

全力を出した時の九尾状態と同じで、それぞれが独立したような自由な動きで敵を追い詰めている。


ルキウスも光を纏った大剣で対抗しようとしているものの、意思を持っているかのような炎球は、そう簡単には叩き落とせない。


彼の光も常に高速をだける訳ではないので、延々と大剣は避けられ続け、遂には全身を燃やしていた。


「グアァァァッ、何なのだこの鬱陶しい炎はぁぁぁッ!?

茨を燃やさずに余だけ的確に燃やすとは、中々のものではないかぁぁぁッ!! あっつぅぅぅぅい!!」

「……その割に、ダメージはあんまり通ってないね?」


大げさな悲鳴を轟かせながら転がるルキウスに、ローズは茨に持ち上げられて空から問いかける。


その様子だけ見れば、明らかに燃えて苦しんでいた。

茨を通ってきた時とは違って、彼を燃やしているため周りの茨にも燃え移っているくらいだ。


しかし、空から冷静に敵を見つめている彼女には、そう映りはしなかったらしい。すると、その言葉を聞いたルキウスも、ピタリと動きを止めると全身から光を迸らせて炎をかき消す。


「フハハハハッ!! もちろんだとも!!

試練のクリアこそできなかったが、これでも余は審判の間を何千年も生き残り続けてきたのだからな!!

タフネスに関しては、あのバロールと同等よ!!」

「私はその人のことを知らないけど、とりあえずもっと火力が必要みたいだねっ……!!」


妖火がまったく通用していない様子の彼を見ると、ローズは再び手を掲げて掌中に揺らめく炎を生み出す。

だが、それが地上に落とされることはなかった。


「喝ーッ!!」

「っ……!?」


ルキウスが一喝したことで、炎は容易くかき消されてしまったのだ。彼はあくまでも、自称皇帝でしかない。

それなのに、永らく審判の間を生き残ってきただけあって、威圧感だけは立派に皇帝である。


凄まじい覇王のオーラによって、様子見に徹していた彼女の力を吹き飛ばしていた。おまけに、周りを埋め尽くしていた茨の海すらも、彼の周囲からは撤退している。


サークル状の空白となった闘技場の真ん中で、皇帝ルキウスは尊大な態度で笑う。体勢を崩しかけていたローズは、何をしてくるのかと必死に彼の動きを警戒していた。


「フハハハハ!! なるほどなるほど。攻撃時以外は実態をなくすことで、この茨を活かしていると、そうなのだな!?」

「……だったらなに?」

「フッハハハハ!! やはり余は賢い!! 愚王どころか賢王である!! ということで、余も真似るとしよう!!」


高らかに笑ったルキウスは、やけに優美な動きで大剣を横に切り払うと、光り輝くその表面から光の粒をこぼす。

それは彼の能力である光であり、彼がローズの戦闘スタイルを元に拡大解釈した新たな使い方。


こぼれ出た光は丸く鋭く、炎球とは違った形をなしていく。

左右に伸びた部分はブーメランのように曲がり、前に伸びた部分は嘴のように尖る。無数の光が形作ったのは、正真正銘の鷲だ。


"フィクショナルイーグル"


「フハハハハ!! これらは実体を持たぬ光の化身!!

余の分身として、余以外の光を喰らい尽くすがいい!!」

「っ……!? まさか同じことを返されるなんて……!!

茨じゃ対処できないから、炎でなんとかしないと」


幻想の光鷲達は、空白となった闘技場を突っ切って茨の海へ。炎の球と同じようにすり抜けて、なんの影響も受けずにローズの元に殺到していく。


炎のように燃えることはないが、鷲の嘴は鋭く、それだけで危険だ。彼女は茨の土台を持ち上げたり、手を引いて移動したりと逃げながら、再度手の中に炎を灯す。


「私は国を繋ぎ止める鎖なんかじゃない。

私は、裏切りを恨んだ炎。世界を燃やす傾国の意志」


"玉藻の残り火(タマモノマエ)"


炎は全身に広がり、光から彼女を守る鎧になる。

数羽が溶けたことで鷲は突撃をやめ、周囲を旋回して様子を窺い始めた。


「フハハハ、ハ……? 何なのだ、それは?

さっきから思っておったが、貴様は茨以外にも心があるな。

強さが変わったということは、本質はそちらなのか?」

「知らない、知らない、知らない、知らないっ……!!

お遊びの皇帝が、私の道を阻まないで!!

私は、あなたみたいに適当に生きている訳じゃないんだ。

お気楽に皇帝だなんて肩書を、名乗るなっ……!!」


ローズマリー・リー・フォードを形作るものは2つ。

国や一族の役割に責任を持つ花の女王(ティターニア)

国の扱いや一族の役割を恨む玉藻の残り火(タマモノマエ)


メインを後者に切り替えた彼女は、より強い恨みと共に業火を爆発させる。周囲を覆っていた茨を燃やし尽くし、なおも炎を世界に広げ、中央にそびえ立つのは炎の柱。


腕を振って柱を弾き飛ばした彼女の背後には9つの尾が生え、髪が銀髪から黒銀色に。頭上には炎の輪っかを浮かべ、爪は狐のように鋭く尖り、炎のドレスを身にまとっていた。


"呪神モード-玉藻前"


怒りを、恨みを、悲しみを、苦しみを。

これまでに感じたあらゆる負の感情を爆発させ、ローズは彼の前に立つ。


それは、呪い。それは、恨み。

今対峙している皇帝に対して、これ以上ないくらいの感情を向けていた。


「ちょっと待て、余は‥」

「もう、喋らないで。あなたの言葉なんて聞きたくない」


何事かを口にしようとするルキウスに、ローズはまるで聞く耳を持たず一方的に断ずる。言葉を遮り、燃える茨で牽制し、その隙に9つの尾から吹き出すのは大文字の大火だ。


間には茨と炎の海があるが、それらと比べれば日に当たって温まった屋根かなにかでしかない。どこにあるか一目瞭然の業火は、わかっていても防げない数とスピードでルキウスに襲いかかっていく。


"大文字"


「グアァァァッ……!? こ、これは余の守りを……!!」


輝く鎧に身を包んでいるとしても、炎はその内側にまで熱を通してダメージを与える。光、鎧と二重の守りを持っていたルキウスだが、火達磨になりながら今度こそ苦悶の声を上げていた。


「あなたの強さは、よく聞いてる。私達はクロウを助けて、ベヒモスを殺す。私はあなたみたいな皇帝を認めない……!!」


しかし、それを見てもローズの手は休まらない。

宙に浮かぶ彼女は手のひらを空に向け、挑発するかのように指を軽く折り曲げる。


直後、既に火達磨となっているルキウスの周囲に生み出されたのは、さらなる熱を加える炎の柱だ。

やはり9つの柱は、燃えながら向かってくる皇帝を追いかけることで囲い続け、段々と狭めて責め立てていく。


"封神炎儀"


ローズは薔薇の神秘であり、炎の神秘でもある。

完全に無効ということはないだろうが、少なくとも自分の炎でダメージを受けることはない。


暴れ回るルキウスは彼女に肉薄し、その動きに連動した炎の柱も触れることになるが、結果は逆に火力を上げただけだ。


抵抗虚しく、ルキウスはローズに生えた9つの尻尾で弾き飛ばされ、闘技場に叩き付けられる。炎は消えず、神すらも封じる炎柱は最後まで彼を溶かし続けた。



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