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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
361/432

323-休息、2人の皇帝

『……決まりましたね。勝者、ソフィア卿。

円卓の席は、反逆者サイドに1つ明け渡されます』


決着はついた。ウィリアムは致命傷を受けて倒れ伏し、地面に映っていた泉もゆっくりと消えていく。


第一試合、第一席を巡る殺し合いはソフィアの勝利に終わり、新たな序列1位となったのは彼女だ。

つまりは反逆者サイドの一歩リード。


離反した最優の騎士は、剣の突き刺さった胸からドクドクと血が溢れ出していながらも、右手を上げて勝利宣言をする。


高く掲げられた刃は、消えていくウィリアムの太陽の残滓を受けて赤い。ほぼ互角の強者に競り勝った証として、観覧席の面々に鮮烈な景色を焼き付けていた。


「ッ……!!」

「ソフィア卿!?」


第一試合の勝者は、疑いようもなくソフィアだ。

反逆者サイドはもちろんのこと、円卓サイドも誰一人として文句のつけようのない、完璧な勝利である。


しかし、彼女が無事であるかと言えば、当然そんなことはない。最終的にウィリアムが先に倒れはしたが、彼に致命傷を与える直前で既に、彼女は致命傷を受けているのだ。


胸に突き刺さっていた剣は高速移動のせいで揺れ動き、傷口を広げている。全身にも幾度となく熱剣を受けているため、フラフラしたかと思うとすぐに剣を落として倒れてしまう。


アナウンスをしていたエリザベスが樹木を伸ばし、すんでのところで受け止めて難を逃れはしたが……

あのまま地面に倒れ込んでいたら、より深くまで剣が刺さり即死しているところだった。


まだどうにか命を繋げているものの、この後の試合を観戦できるような状態ではない。彼女はウィリアムと共に、樹木によってエリザベスの元へと運ばれていく。


『事前に伝えていた通り、心配は不要です。この森の女王である我が監督している以上、この闘技場内で死者は出ません。即死を防ぐ結界や即時の治療によって……』

「ソフィアさん……」

「本当に、感謝してもしきれねぇな〜。色々と教えてくれて、席も奪ってくれた。無駄にはしねぇぜ」

「そうだね。俺達も続かないと」


瀕死の重傷を負ったソフィア達が治療を受け始めている中。

それを見ていた反逆者サイドの観覧席では、息を呑んで試合を見守っていたライアン達が口々に思いをこぼす。


ローズは心配の方が勝っているが、ライアンやヴィンセントはより強く決意が固まったようだ。

ジッと反対側の観覧席を見つめてから、同じくエリザベスによって直されている戦場に意識を向けている。


「……私からしても、彼女はとても強かったです。

そんな彼女がほとんど相打ちになるとは、思っていた以上に敵は強大なようですね」

「俺もこの国は初めてだから、予想外だったぜ〜」

「作戦会議の時に、少しは話を聞いているけど……最終確認はした方がいいかもね。次はお嬢の出番ですから、敵はたしかルキウス・ティベリウス。差し支えなければ、お二人に説明していただいてもよろしいでしょうか?」


海音ですらウィリアムの強さに驚いていると聞き、闘技場を見つめていたヴィンセントの目は再び反対側の円卓サイドへ。


しばらく視線を彷徨わせていたかと思うと、まだ争奪戦に出ていないクルーズ姉弟に問いかける。


言葉通り、リストにあった円卓サイドの面々については既にひと通り軽い説明を受けた後だ。改めて聞く必要はあまりなく、海音は首を傾げている。


円卓サイドも、変更可能な時点で出場者リストを送ってきていたりと、過剰に情報統制をすることはなかった。

だが、わざわざ知られていない味方の姿を見せに来ていたりもしない。


次の相手であるルキウスを含めて、円卓サイドにいる者達の姿をほとんど知らないため、彼らが聞いた説明と敵の姿とを一致させるというのはかなり困難だろう。


もちろん、どんな姿でも聞いた話に違いが出る訳ではないが……想定のしやすさは段違いだ。


昼寝中のケット・シー勢も塞ぎ込んでいるリューも、明らかに話を聞くつもりなどなかったが、シャーロットはちゃんとその意図を汲み取って笑顔を見せていた。


「うんっ、いーよ! あたしもあんま詳しくはないけどね」

「主にぼくが説明させていただきますよ!」

「あはははは」


いつも通り声を揃えて笑う姉弟に、硬い表情だったローズもわずかに緊張をほぐす。相変わらず、なぜ笑っているのかはよくわからないが……笑顔は偉大だ。


「まず、あそこにいるギラギラした鎧の人が、ローズさんの対戦相手であるルキウス・ティベリウスになります」


ヘンリーが指さした先にいるのは、審判の間に落とされてから長く森の地下を彷徨っていた神獣。

試練のクリアよりも最も輝く存在であることを望み、出会う罪人を尽く殺し尽くした愚王――処刑王の異名を持つ男だ。


人型になって豪華な椅子でふんぞり返っている彼は、説明の通り実に愚かしい。ローズ達に観察されていることにも気が付かず、試合前にワインを楽しんでいた。


試合直前だというのに、いくら観察していても現在の待遇を全力で楽しんでいる様子の愚王を見て、彼らは一様に呆れ顔である。


「……なんか、えらく威張り散らしてんな〜。

円卓の相棒連中に、めちゃくちゃ世話させてんじゃん」

「そうですね、彼は煽てれば扱いやすいですから」

「パートナーって、召使いじゃないんだけどねー」

「そういえば、2人のパートナーはどこにいるの?

朝まではいたよね? セクアナさんはソフィアさんのところに行っちゃったけど、さっきまで働いていたし」

「えーっと……」


ソフィアのパートナーであるセクアナを引き合いに出され、シャーロット達はわかりやすく視線を泳がせる。

質問自体に他意はなく、話の流れでなんとなく気になったことを口に出した程度だった様子なのだが……


当の本人達は、やや後ろめたい部分があるようだ。

あからさまに怪しい態度を受け、ライアン達は苦笑しながら白状するように促していく。


「今さら裏切りの心配とかしねぇから、素直に言いな〜」

「そうだよ、私達はただ心配なだけだから。

特にアリアンロッドさん、誰かに騙されてない?」

「ひ、否定できないです……姉さん?」

「わかったわ……あのね、あたし達とあの2人は性格まで似てるんだけど、やっぱり大人と子どもじゃない?

一応保護者的な人達だし、あたし達と違ってクロウお兄さんと直接話してないし、今回の離反はかなり心配されちゃったんだ。特にアリアンロッドに。

だから、アイネに連れ出してもらってるの」


シャーロットの告白を受け、ライアン達は堪らずあちゃーと天を仰ぐ。空に輝く本来の太陽は、彼女やアイネのように明るく活発に動いていた。


「たまにヘンリーくんが迷ってる時があるとは思ったけど、まさか不安が伝染していたとはね」

「たしかに万全の状態で戦ってほしいですけど……」

「でしょ? だけど、アイネも正直だから聞かれたら嘘つかずに答えるんだー。そのうち戻ってくるかもねー」


打って変わって堂々とした態度の少女に、彼らはもう笑うしかない。パートナーは基本的には争奪戦へ参加しないので、影響もほとんどなかった。


「ちなみに、連れ出したのはどこへです?」

「レオデグランスにあるドルイドの里!

回復のルーンが必要になるよって言ってもらったよ!」


円卓争奪戦は本気で殺し合うため、たしかに回復の手段は必要になるだろう。しかし、この場にはドルイドの統括であるダグザやアンブローズ、エリザベスがいるのだ。


わざわざ貰いにいかずとも、この場でいくつでも量産されるに決まっている。実際に、瀕死のソフィア達はエリザベスによって治療中なのだから、完全に無駄足だった。


もちろん嘘ではないが、真実でもない。正直な騎士らしく、真っ当に相手の善性を信じたあまりにも正直な詐欺である。


『闘技場の整備が終わりました。これより、第二試合。

円卓の第二席を賭けた試合を執り行います。

ルキウス・ティベリウス、ローズマリー・リー・フォードの両名は闘技場に上がってください』


彼らが談笑している間に、ソフィア達の治療や闘技場の修復は終わったようだ。再びエリザベスによってアナウンスがなされ、ローズは再び顔を強張らせて下に降りていく。


その背後からは、一回戦と同じように仲間達の声援が。

どっしりと構える円卓とは違って、温かな気持ちが溢れ出していた。


「無茶はするなよ〜。だけど、悔いは残らねぇようにな〜。

いざとなったら、俺が助けに入ってやるから」

「あはは、試合中は安全って言われてたでしょ」

「ルキウス・ティベリウスは強いです。屈強な体躯に光の力、皇帝であるという心の強さ。どれをとっても一級。

見えない傷を与えてくる斬撃には要注意ですよ!」

「わかった。ありがと、ヘンリーくん」


茨を使って闘技場に降り立つ彼女からは、既に緊張の色はない。光の速度で落ちてきて、大剣を片手に威厳があるように振る舞うルキウスと、真っ向から対峙していた。


「フハハハハッ!! まさか、リー・フォードとは!!

これまた余の輝きを晦ませかねん強者よ!!

こんなところにも王者がいるなら、余が処刑せねばなぁ!!」

「私はただの田舎貴族だよ。しかも、既に没落してる……ね」


大剣を輝かせているルキウスに対して、ローズは足元から無数の茨を生やしていく。生命力に溢れたその植物は、眩い炎を纏って綺羅びやかに。彼が言った通りの輝かしさだ。


一回戦とは違って同種である2つの光は、エリザベスが見守る闘技場で激しくぶつかり合った。



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