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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
360/432

322-第一試合、序列1位

"湖上の花弁(ランスロット)"


"天上の果実(ガウェイン)"


コロシアム内で激突した太陽と泉は、光を乱反射して全方位に光線を放つ。しかも、日光を弾くのは地面に映る泉だけではない。ソフィアの戦い方は連撃で、泉の上でなら自由自在に斬撃を発生させられるのだ。


ウィリアムを追い込むように、四方八方から水の斬撃が放たれているため、乱反射はより入り組んだ形を見せていた。


もちろん、光源も1つではない。

天に生み出された太陽にプラスして、騎士の剣にも太陽の熱が凝縮されて巨大な斬撃を生み出している。


ソフィアとは対になっている、炎の一撃。

より身近から迸る熱を受けたことで、水の連撃や地上の泉は光り輝いていたのだった。


「君の強さはよく知っているとも!

何百、何千年と私の対極として置かれ、常に私の前に立っていたのだから!! だが、私も長く研鑽を積んできた。最高の一撃は、優れているだけの連撃など容易く溶かすッ……!!」

「っ……!!」


水の連撃は四方八方からウィリアムの元へ。

ソフィアが舞うように回転し、斬り続けていることもあり、布地のようにきめ細かく逃げ場などない。


しかし、巨大な太陽の剣を振り下ろしていたウィリアムは、そのまま炎剣を横薙ぎに振るう。たった一撃、振っただけ。

ただそれだけで、ソフィアの連撃は蒸発して消えた。


「……私も、別にあなたを下に見たことなどありません。

我らは互いに女王様の両腕だった。その上で!

ソフィア・フォンテーヌは貴方に競り勝ちます」


"アラウンドレイク・アロンダイト"


長剣を振り切ったウィリアムは無防備だ。構え直すためにはほんの数秒とは言え時間が必要で、その間は胴体を晒すことになる。当然、技術の最優が見逃すはずもない。


熱波で体制を崩していたソフィアだったが、波紋を生み出しながら泉で舞うと、再度水の連撃を放つ。

それらに発生源などなく、ただ泉の上にいるという事実だけで、必殺の連撃は縦横無尽に標的を斬り裂かんとする。


刹那の一瞬、太陽の騎士は全身に連撃を受け、血しぶきと共に凄まじい量の水蒸気を発生させていた。


「すべてを懸けて、君に挑戦しよう。

私は最高の騎士。王に仕える、彼女の剣」


"ベルテーン・サンティエ"


水の連撃を全身に受けたウィリアムは、網目のような傷から血を流しながらも倒れない。その目は太陽を映して爛々と。

彼自身が太陽であるかのように、周囲の水どころか血すらも蒸発させながら背後に太陽を浮かべていた。


太陽の剣の時点でも、目を背けてしまいたくなるような眩さだったが、彼自身が光れば敵を捉えることなど不可能だ。

ソフィアは水をかき上げるようにして緩和させているものの、顔をそらしたどころかほとんど目を閉じている。


「今はまだ朝だが、私こそが太陽! 日中は終わらず、日は陰らず、最高火力は常に続くとも!!」

「それがある時点で、私が貴方の前にいる訳がない。

我らは火と水。共にこの星の恵みなのだから」


"フォンテーヌ・サンティエ"


ソフィアから見て、もうウィリアムの姿は確認できない。

戦闘において、片方だけが敵の位置がわからないなど致命的だ。


しかし、技術で戦う彼女がその状況に甘んじることもまた、ありえないことだった。最初から地面に映っていた泉の水は、敵の光を反射させる以上に光り輝く。


自ら、明確な目的を持って、辺り一帯が光り輝いて彼女の姿を眩ませる。これにより、2人の騎士はどちらも相手の姿を見失った。


「私は泉。美しく、淡く、儚く、遥かに遠く……どこにもおらず、どこにでもいる。静かに密かに揺蕩う湖上……

さて、私は一体どこにいるでしょう?」

「はははっ! どこにいようと、圧倒的な一撃で!!」


"ルグナサート・ガラティーン"


ソフィアを見失ったウィリアムは、太陽の如き長剣を眼前で縦に構える。天上には彼の生み出した太陽、背後にも彼が身に纏う小太陽、剣すらも熱の凝縮された疑似太陽だ。


いくつもの相乗効果で熱は高まり続け、熱く、力強く、太陽の騎士はそれらの力を全力で開放していく。

泉を尽く蒸発させるかのように、周囲一帯を丸ごと焼き尽くすかのように、全方位へ広がる光線の一撃を放った。


"シュトラールレイク・アロンダイト"


それに対して、ソフィアが繰り出すのはやはり技の連撃だ。

同じく相手を見失っていながらも、フィールドを覆っているのは彼女の泉。


揺らめく地面からは無数の水滴が浮かび上がり、溢れ出る斬撃と共に光を凝縮して光線を放っていく。


ウィリアムの放射状の光線と比べると、焼け石に水としか思えないが、こちらは量で勝負。折り重なった光は盾となり、同時に一点集中で敵を穿つ矛となる。


流石にすべては防げず、ソフィアの全身は熱線に打ち付けられるが、致命傷は避けていた。


「火は傷を焼き、水は傷を癒やす。

少しだけ力を借りますよ、セクアナ」


致命傷を避けたとはいえ、ソフィアの全身を叩いたのは反射ですらないむき出しの光線だ。パンツスーツに包まれた体は焼け爛れ、目も潰れている。


気力で持ち直すにしろ、神秘で素早く治すにしても、何かしらの対処は必要だった。彼女は双剣を掲げて水を湧き上げると、操った水で癒やしの聖所を形作る。


"フォンテス・セクアナ"


「ふふっ、君がパートナーの力を使うなら、私も使うまでだよ! 卑怯だなんて言ってくれるなよルー!!」


聖所から流れ出る水により、ソフィアの傷は治っていく。

それを見たウィリアムも、長剣――ガラティーンを目の前に突き立てて水をせき止める壁にすると、パートナーの名を呼んで力を借りた。


彼の周囲で泉は燃え上がり、炎のサークル内で太陽の騎士は両手に神秘的な武器を持つ。


片や、都市すら溶かす光熱の槍――アラドヴァル。片や、思念によって自動で動き、敵を必ず穿つ剣――フラガラッハ。


己とパートナー、今使うことのできるすべてがここに揃い、両者の戦いもいよいよ最終局面である。


「神々の大地に私は立とう。ここは太陽の見守る楽園。

泉の向こうに敵はいる。すべてを溶かし、到達せよ神槍!」


"アラドヴァル"


ソフィアは傷を治しながらも、無数の波紋を描いて水の斬撃を生み出している。ガラティーンによってある程度は蒸発しているが、その事実は変わらない。


ウィリアムと彼女との間には、おびただしい量の水が立ち塞がっていた。その斬撃の壁を、癒やしの泉を、槍は穿つ。

沸き立つ水蒸気すらもドロドロに溶かし、神槍は彼女の足元に到達していた。


「湖で私は踊りましょう。ここは幻想なる白鳥の湖。

聞きしに勝る、神鳥達のワルツ」


視界が晴れると同時に放たれるのは、太陽の剣による最高の一撃――世界を焼き切るような巨大な炎剣だ。

当然、今の状況では確実に命中することだろう。


おまけに連撃は、既に何度もかき消されていた。

全快してはいるが、まず無事で済むことはない。


それでも、第一席を反逆者サイドに捧げると誓ったソフィアは、凛とした態度で双剣を振るう。

現れ出るは、水で作られた白鳥たちの舞い――白鳥の湖。


すべてがアロンダイトと化した水の化身達は、湖上にいる敵に襲いかかって死に物狂いで踊らせる。


"トートワルツ・アロンダイト"


「君は技、君は水、君は連撃。たとえ手数で負けていても、威力で負けはしない! 呼応し応酬せよ、フラガラッハ!!」


白鳥たちの舞いに踊らされ、ウィリアムの一撃は狙いを定められなくなる。炎は突飛なところに炸裂し、すべてが水の泡だった。


だが、彼が相棒から借り受けたのはアラドヴァルだけではない。回答者、または報復者である剣――フラガラッハ。

まだ鞘に収まっていたそれは、ウィリアムの声によって自動で抜かれ、敵の攻撃に反応して薙ぎ倒す。


白鳥たちは尽く霧と化し、数多く現れる水の斬撃も次々と貫かれていく。最終的に、到達するのはすべての攻撃を放っているソフィアの元だ。


必中の剣は彼女の胸に突き刺さり、その口からは赤い雫がこぼれ落ちる。男装の麗人は、終わりすらも優雅だった。


「ッ……!!」


ソフィアの体はゆっくりと倒れる。しかし、その身が完全に地面に……揺れる泉に浸かることはなかった。

ぼんやりとしていた瞳を唐突にキッと強めると、彼女は足を踏み出して体を支える。


双剣は未だその手に。渦巻く泉はウィリアムへの道を示すかのように流れを作っていた。


"流れ行くセーヌ"


その流れに沿っていくように、ソフィアは舞いながら急接近していく。ウィリアムも太陽の剣で最高の一撃を繰り出すが、水の連撃によって無理やり相殺、受け流されていた。


最優の騎士はまったく足を止めることなく進み続け、やがて最高の騎士の間近に。くるりと回転するようにフェイントをかけ、背後から双剣を振るう。


「っ……!! 美しい剣だが、軌道はわかりやすく‥」

「それはそうでしょう。これも、フェイントですから」


"アラウンドレイク・アロンダイト"


双剣を受け止めるウィリアムだったが、それを防御したことによって手は塞がった。

アラドヴァルは遠くに投げており、フラガラッハもソフィアの胸にあるので、そもそも他に武器もない。


泉の上にいることで、水の斬撃は虚空から無数に放たれる。

それを防御する手段のない彼は、手足どころか、胴、顔、首すらも斬り裂かれて泉に沈んだ。


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