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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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30-来訪

翌朝、俺達が目を覚ましたのは日が昇りきった頃だった。

夜でも外がギラギラと明るく、カーテンを閉めて寝ていたためである。

といっても、相変わらず雪が降っているので他国のような明るさはないが……


気が緩みすぎかもしれない、と少し危機感を持ちながらも体を起こすと、ロロとリューはまだぐっすりと寝ているようで体を上下させていた。

ヴィニーはもういないから、多分ローズのところかな。


俺は細く開けていたカーテンを全開にしてから部屋を出る。




階段を降りて食堂に行くと、ヴィニー、ローズ、フーがテーブル席で寛いでいた。


まだ朝と言える時間帯なので、ローズとフーは卵とレタスを挟んだサンドイッチにサラダを食べている。

フーはもっとガッツリとしたものを食べるイメージなんだがな……少し意外だ。


それを見るヴィニーは給仕をしたそうだが、拒否されたらしく大人しくコーヒーを飲んでいて少し笑ってしまう。


入り口で見ていると、ローズが気がついて笑顔を向けてきた。


「クロウ、おはよう」

「おはよう」


俺も朝食を食べようと思い、オーダーをした後テーブルに向かう。

ヴィニーの隣が空いていたのでそこに座ると、彼が変な顔で俺を見てきた。


「……なんだ?」

「いや? 君がきたらなおさら給仕なんてできないなぁって思ってさ」

「あー‥‥まあ普通はしないだろ?」

「世話焼きはいると思うよ」

「本人が嫌がってるならやめとけよ」


俺は別に多少世話を焼くくらい気にしねぇんだけど、変に意識されてるな……


「ところでライアンは?」

「宿‥‥間違えた、ホテルの中庭で素振りしてるよ。

私達もさっきまで一緒にやってたんだけど、初めて会った時より断然強くなってる」

「へー!」


それなら食べたら行ってみるかな。

中庭がそんな広いとは知らなかったが……楽しみだ。


そんなことを考えていると、注文したメニューが出てきた。

俺が頼んだのは厚切りのベーコンサンド。

運動前だが重すぎないし軽すぎない。

丁度いいボリュームのそれを素早く食べ終わると、俺は早速席を立つ。


「ヴィニーももう行ったのか?」

「うん、行ったよ」

「じゃあもう行かないよな?」

「うーん‥‥そうだね、もういいかな」


残念だが、ライアンまで朝練を終えてしまったら最悪だ。

さっさと行こう。


そう思い食堂を出ようとすると……


「まぁ待ち給えよ少年」


真横から声がかけられた。人、いたか……?


俺が声の方向を向くと、そこにいたのは白衣を羽織った小柄な男。

いや、小柄といっても俺より少し低いくらいで165センチくらいはあると思う。

この国の衛兵や店で見た人達に比べて低い、というだけだ。


その男はカウンター席に腰を下ろし、コーヒーを片手に俺を見据えてくる。


「……俺のことか?」

「もちろんそうだとも。君だ。他に誰がこの道を通っている?」


それはそうだが……呼び止められる理由に心当たりがないな。

そもそもこいつが誰かも分からない。

俺が戸惑っていると、彼は薄く笑う。


「君達は密入国者……もう分かるね?」


彼の言葉を聞き、俺の全身に電撃が走ったかのような痺れが走る。

マジか……バレてた。


さらには彼を白いオーラが包む。

場合によっては殺し合いになるであろう相手、聖人。

俺、いつも気が付かないな……


「そして、君達は魔人だ。そうだね?」


男は立ち上がり、ローズ達にも視線を向ける。

どうにか視線を動かすと、彼女達も硬直したように動きを止めている。

まずいかもな……


「技術を盗みに来たのか? ソフィアから入ってきていたが」

「何で……そんなことまで知ってる?」

「君達が一夜でバレているんだ。考えるまでもないだろう?」


それもそうか……

国に入る前から見られていたってことだろう。

だが、黙認されていたということでもあるはず……


「黙認……確かにそうだが、それは利用価値があったからだ」

「利用価値?」


考えを読まれたようだが、それを気にする余裕はない。

価値があるならどうにか……


するとやはり彼は思考を読んだようで、それも踏まえたことを言う。


「ああ、別に危害を加えるつもりはない。

それに、もうこの国にも悪意が入り込んでいるようだからね。

技術の流出も多少は目を瞑ろう。だからこその黙認だ」


ますます分からない。何でこいつは俺達の元にやってきたんだ……?

圧はまるで収まらないし、何かを頼むって雰囲気じゃないが……

もしかして、その価値は捕らえた後の話か?


「我々の要望は、君達の自由を奪うものだ。

だから、ひとつゲームをしよう」

「ゲーム?」

「ああ、ゲームだ。とてもシンプルなね。

それに我々が勝った場合は従ってもらう。

君達が勝った場合はこの国を自由に行き来していいし、多少の技術を持って出国することも咎めない。承諾してくれるね?」

「内容は?」

「……ウォーゲーム」


ウォーゲーム……戦争? 戦いなら勝てるか?

だが、こいつの神秘は恐ろしく強いな……


「我が国は科学者の国。これは君達の領分だろう?」

「……分かった。それの結果次第ではあんたらに従おう」


ヴィニーも頷いているのを見てそう答える。

多少不安もあるが、こいつの神秘は俺みたいに戦闘向きじゃない可能性もあるし、問答無用で拘束されるよりはいい。


そう思い答えると、彼は一枚の書類を取り出し俺に差し出してくる。

……何だ?


「契約をしてもらおう」

「用心深いな」

「我々は国外の者をあまり信用していない。

特に、教会と接触した者はね」


どこまで知ってるんだ? 

知ってるなら繋がってないと分かってるハズだけどな……


俺はかなりの量の書類を受け取り、みんなの元へと向かう。

そしてこの場にいる面々で確認をしながら署名をしたら彼に渡す。

彼はそれを受け取ると念入りに確認し、その片方を俺に差出してきた。

これで契約完了だ。


「確かに。ではすぐに出発しよう。部屋の仲間を起こしてくるといい」

「中庭にも……」

「もう来る」


そう言うと彼の言った通り、ライアンが食堂に顔を見せた。

頬を上気させているが、疲れは見えず明るい表情だ。


「お、クロウおはよ〜」

「あ、ああ。おはよう」

「ん〜? ……何だぁあんた〜?」


彼は白衣の男を見つけて問いかける。

男はもう圧を発してはいないのに目ざといな……


「私はこの国の聖人だ」

「へぇ〜」

「俺はリュー達を起こしに行ってくるから」

「りょ〜か〜い」


流石に揉めはしないだろう。

揉めたとしてもヴィニーに任せれば安心だ。


俺は2階の部屋へと向かった。




~~~~~~~~~~




「起きろ!!」


部屋についた俺は、声を張り上げて起こしにかかる。

カーテンは開けていったのに、リューもロロも日の光をものともせずに未だに熟睡している。

起こすのが大変だ。……デジャヴ。


「ぐ‥‥ああ?」


まず反応を示したのはリュー。

今がチャンスとばかりに体を揺さぶり、意識を無理矢理引きずり出す。

すると、文句を言いながら体を起こしだした。


「何だよ……1日目くらいいいだろ?」

「それどころじゃなくなった。この国の聖人に見つかってな。

自由を賭けたゲームをすることになったんだ」

「は?」

「自由を賭けたゲーム」


もう一度繰り返すが、彼はまだいまいち飲み込めていないらしい。

目を何度も瞬いている。


目を覚ましたのなら、もう放っといてもいいだろう。

俺はロロを揺り動かす。


「寒い……」


だが、ロロは寒さ的に起きるのが辛いようだ。

なら今は毛布に包んで連れて行くでもいいかな。


「おい、お前は自分で動けよ」

「……聖人と戦うってことか?」

「そうだよ」


やっと飲み込んだのか。

理解したならもう何も言わなくても動き出すな……


予想通り、彼は跳び上がって準備を始める。


そこにヴィニーもやってくる。

いそいそと動くリューを見て呆れ顔だ。


「ん、もう準備始めてるんだね」

「ああ。戦うってなるとな」


少しの間笑い合うと、俺達も準備を始める。

元々そよ風で運べる程度しかないが、それでも一夜で散らばっているので真面目に詰めなければいけない。


それを終えると食堂へと戻る。

俺達が食堂に行くと、ローズ達女性陣やライアンも既に準備を終えて待っていた。


科学者の男も、変わらずその場に。


「準備ができたか」

「ああ」

「では付いて来てくれ」


男に言われ、俺達は食堂を出る。

すると表には、大きな四角い箱があった。


下部には何やら柔らかそうな素材の車輪が付いているので乗り物なのだろうか。

だが、馬車よりも大きいし重そうだ。動くのか……?


「荷物も含めて全員乗れるはずだ」


男はいくつかあるドアの1つを開けてそう言うと、乗るように促してくる。

中は家のようにふかふかな座席があり快適そうだ。

だけど、少し変な匂いだ……乗るしかないが。


「分かった」




全員が乗り込むとその乗り物はスムーズに動き出す。

馬車よりも遥かに快適だ。

科学ってのは思っていたより断然便利だな……


「では改めて、私はニコライ・ジェーニオ。

この国の未来を切り開く科学者だ」


動き出してすぐに、男はそう名乗った。

国の未来を切り開く……? 随分と大それたことを言うな。


俺達の名前はもう知っていそうだが、一応名乗り返したあとそう聞くと、彼も自覚はあるようで笑いながら答える。


「自分でも思うよ。

だがこの国の氷は、それほどまでに生活に影響を及ぼしている。私はそれを変えたい」

「だから科学なのか?」

「その通りだ。普通の人間に、極寒を抑える神秘など使えないからな」


確かに、神秘に成ったやつでも、自分の能力以外だと大して大きな力を使えないしな。

科学がどれくらいのものかは分からないが、神秘と合わせた結果がこれなんだろう。


科学のお陰で国が開かれるなら、彼の言うことはあながち間違ってもいなそうだ。

……俺達の利用価値って何だろうな?


「じゃあ〜これ何ていうんだ〜?」

「電気自動車だ」

「電気〜?」

「電気とは、電荷の移動や相互作用によって……

いや、すまない。分かりやすく言うと、雷だ。」


ニコライは質問をしてきたライアンどころか、俺、ローズ、ヴィニーも含めた全員が意味がわからない、という表情をしているのを見て説明をやめる。

雷……雨の日に空に轟くあれが、この車を?


みんなもやはり同じように思ったようで、ローズが話しかける。


「やっぱりよく分からないんだけど……」

「分からなくてもいいさ。別に科学を深く学ぶ必要などない。

そういう物があることを知り、使えるのならばそれで十分だ。

ともかく、応じてくれて感謝する。

我々が勝った後も、非人道的な行為は行わせないから安心してくれ」


閉鎖的な国とはいっても、まともな人間はいるんだな。

どうやらまともじゃない人間もいるみたいだが……


ニコライの提案に乗らなければ、そんな聖人に問答無用でやられてたかもしれない。

こいつに見つかってよかった……


「負ける気はねぇぞ」

「ふむ……威勢がいい子だね。リューくん、だったかな?

確かに私も君達の方が慣れてはいると思うよ。

だが、それは勝敗に直結しない」


あとでリューには油断しないように釘を刺しとこう……

ニコライの他にどのくらい聖人がいるかも分からないしな。


それよりも、どこでやるんだろうな……


馬車とは違い、ガラス張りの窓があり外が見える。

そこから見える景色は、整えられてはいるが雪や氷に覆われた過酷そうな大地。


闘技場でもあるのだろうか……

想像を膨らませながら、俺達はまだ見ぬ会場まで運ばれていった。



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