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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
359/432

321-円卓争奪戦、開幕

円卓争奪戦の開催が宣言されてから2日後。

エリザベスら円卓勢とライアンら反逆者勢は、全員が揃って決戦の地――闘技場のある街カムランへとやってきていた。


といっても、他の街のように暮らしている人々はいない。

ここは今回のような儀式的な戦いに用いられる場所であり、本体は闘技場なのだ。


周囲の建物には普通の住民などおらず、宿泊や食事に使える場所と店員、争奪戦を見に来た客がいる程度である。

彼らは街を素通りすると、歴史を感じる造りのコロシアムへと足を踏み入れていく。


形だけの受付や準備室等を尻目に、まずは階段を登って2階の観覧席へ。視界に飛び込んでくる、これから戦うことになる広々とした戦場を眺めながら、椅子に座って一息ついた。


「ふぅ〜、いよいよだな〜」

「とりあえず、あたしは出番が来るまで遊びに行くとしよう。アストランに負けず劣らずなコロシアム。

これは血みどろの予感をビシビシ感じるにゃあ。

ケモナーは爪を研ぐ場所を探さねば」


しかし、珍しく大人しくついて来ていたカウガール姿の少女――クラローテは、そう長く座ってなどいられない。

ほんの数秒くらいで立ち上がると、幼馴染みであるクリフの手を取ってどこかへ向かっていく。


当然彼は拒否しようとするが、振り回されるのは普段からだ。ろくに抵抗もできず、引きずられていくことになる。


「おい、何で俺もなんだよ!? 1人で勝手に行ってろよ!!」

「肉食獣は獲物も環境もしっかりと見定めるものだよ。

獅子も、猫も、杓子も」

「いや待て、最後のはちげーだろ」

「ククルんがいない今、あたしと遊んでくれるのは君くらいなのだ!! いざ、ランニングキャーッツ!!」

「おい、お前らも‥」


彼女に気づかず、アヴァロンの中にまで連れてきてしまったのが運の尽きである。今さら追い返すこともできないため、彼はわずかに助けを求める声を残して人混みに消えた。


ライアン達もケット・シー勢も、こちら側についた円卓勢すらも、何も口を挟めずただ見守るしかない。

同郷のアストラン勢だけが、苦々しそうに顔をしかめながら立ち上がっていく。


「……はぁ、念の為俺達も追いかけるか。他国で面倒事は御免だ。その場で対処する方が効率的だしな」

「はー、自分1日目だし、危ういくない?」

「スピード的にも足手まといかもな。だが、暇だろう?

人手があるに越したことはないし、友人たちの手を煩わせるのも申し訳ない。時間を無駄にするな」

「はー、急ぐ急ぐしかないんだぁ」


いつも通り柔らかく拒否しようとするヌヌースも、ジャルに説得されればついていくしかない。のんびりとしているので遅れているが、ひとまず獣人はこの場から去った。


ケット・シーの面々は、少し離れた位置で昼寝をしていたりお茶会を1人で開いたりしているので、残るのはライアン達と円卓勢だけだ。


クロウの現状を聞き、暗い顔でブツブツと呟いているリューをフーがなだめている中。ライアン達は海音やソフィア達と話し始める。


「それで、今更ながらほんとに味方になってくれんだな〜。

海音に強いって聞いてたから、驚いたぜ〜」

「……まぁ、クロウさんとも約束しましたから」

「あたし達は何となくだよっ!

なんか、あのお兄さんは善い人だなって思ったの!」

「仕事は大事ですけど、善人を蔑ろにはできません!」


ソフィア、シャーロット、ヘンリーの3人は、2日前の夕方頃にやってきて顔を合わせたばかりなので、必要もなしに単独行動などしない。


彼らの近くに座り、口々に味方する理由を告げている。

加わった時点でも少し聞いていたが、昨晩まで聞いていたのは主に円卓側の勢力について。


誰がどの席次を奪いにいくかの作戦会議も必要だったので、あまり深く突っ込んで聞いてはいなかったのだ。


とはいえ、3人共にそこまで深い理由はないし、クルーズ姉弟など善い人だったからというだけ。主に思想の話になるので、反発する理由もないが納得自体はしにくいものだった。


実際にソフィアと戦っていた海音の驚きは特に大きく、色々と助けられた上でなお胸の内を吐露する。


「本当に驚きです。中に入れば容赦はしないと言って、実際にあれだけ斬っておきながら、結局味方になるとは」

「私としては、あなたの方が驚きです。オスカー卿と数週間不眠不休で戦い続けたのでしょう? はっきり言って、異常ですよ。だからこそ、あの席を任せるのですが」


なんとなくの流れで受け入れられているソフィアだったが、海音に対してはやや負い目がある。

お互い様ではあるものの、クロウを見定める前だったこともあってかなり手酷い傷を与えていたのだ。


軽く目を泳がせてから謝ると、反対側にいる円卓サイドの面々を見つめながらつぶやく。

クイーンに呼ばれ、セクアナと一緒に渋々お世話をしていたヴィンセントは、戻ってきながら話をまとめていった。


「なにはともあれ、あなたが味方になってくださってとてもありがたいです。戦力はいくらあってもいいですから」

「キングとか、本気でやってくれるか謎だしな〜」

「ふぁ……それは流石に酷くないかなぁ、獅子王くーん」

「しかも、それでもヤバいのが今回の敵……なんだよね?」


寝ぼけ眼のキングが文句を言うが、誰も反応はしない。

今日争奪戦のあるローズが緊張した面持ちで呟き、闘技場の壁に映し出されたマッチング表を見て緊張感を高めていく。


「えぇ。昨日送られてきたリストを見て驚愕しました。

幸いなことに、お互いに入れ替え可能でしたが……」




――――――――――




反逆者サイド       円卓サイド


第一席(一日目)

(序列2位、最優の騎士) (序列3位、最高の騎士)

ソフィア         ウィリアム



第二席(一日目)

(回帰する花々の女王)  (愚かなる処刑王)

ローズ          ルキウス



第三席(二日目)

(不滅の獅子王)     (序列1位、規格外の騎士)

ライアン         オスカー



第四席(三日目)

(自由奔放な獣性)    (停滞せし魔眼の王)

クリフ          バロール

クラローテ




第五席(二日目)

(不戦を貫くメガネ)   (序列5位、得高き騎士)

ジャル          テオドーラ



第六席(二日目)

(怠惰な猫王)      (序列6位、自由な騎士)

キング          ソン



第七席(三日目)

(間違った人間の知識)  (強欲の守護者)

クイーン         アフィスティア



第八席(三日目)

(科学製の歪風)     (憤怒の守護者)

リュー          オリギー

フー




第九席(三日目)

(無知なる森の先生)

(森の相談役)     (獣神)

ヴァイカウンテス     ケルヌンノス

バロン




第十席(二日目)

(序列9位、正直な騎士) (序列10位、美しい騎士)

(序列8位、純粋な騎士) (序列11位、気難しい騎士)

シャーロット       ビアンカ

ヘンリー         ラーク



第十一席(一日目)

(穏やかな兇鎧)     (湖の乙女)

ヌヌース         ヴィヴィアン



第十二席(一日目)

(未来を視る執事)    (序列7位、力強き騎士)

ヴィンセント       アルス


第十三席(四日目)

(神を殺す鬼の子)    (神森を統べる王獣)

             (自称ドルイドの長)

海音           エリザベス

             アンブローズ




――――――――――




「正直言って、敵の層が厚すぎだと言わざるを得ませんね。

全部の席を狙うような組み合わせにはできませんでした」

「その辺はしょうがねぇよな〜。俺の知り合いもこれ以上はいねぇし、あんたらが加わったことを喜ぶぜ〜」

「ちなみに、ソフィアさんが思う1番手強い人は?」

「そうですね……」


ローズに問われると、ソフィアは顎に手を添えて考え込む。

今回円卓が揃えてきた面子は、元より強者だらけの円卓の騎士の大多数に守護者、審判の間を生き残ってきた怪物達だ。


問われてすぐに答えられるものでもなく、彼女は長々と敵を比較していた。時間はゆっくりと流れ、ヴィンセントの給仕が終わった頃になってようやく彼女は答えを出す。


「強さで言えば、円卓の上位勢に獣神、処刑王や魔眼王、2人の守護者など尽く挙げられますが……手強いとなると、やはり女王様や花の魔術師、それから私の母親でしょうか」

「母親?」

「はい、育ての親ですが……あの人です」


ソフィアに促されて、ローズ達は反対側の席を見やる。

すると、そこにいたのは魔術師然とした2人の女性だ。

しかし、その仲はあまり良くはないようで……


「あらあらあら〜? どうしたのかしらヴィヴィアン?

そんなお淑やかなフリなんてしちゃって」

「何のことかしら。(わたくし)は普段からこうですわよ?

想い人と時間を過ごせないからって、当たり散らさないでいただけますこと?」

「ふーん、そういうこというんだ?

取り付く島もないわね〜、絶壁だけに」

「あぁ!? 俺の胸に捕まる膨らみがねぇってか!?

余計なお世話だ馬鹿野郎!!」

「うっふふふ、貴女はそっちの方がお似合いよ〜」


テーブルを広げて優雅にお茶を楽しんでいる淑女2人は、遠目にもわかるくらいに言い争っていた。

その様子を見たソフィアはため息を付き、気落ちした感情を流すかのように軽やかに立ち上がる。


「まぁ、見ての通り残念な人ですが、実力は確かです。

少なくとも、私は処刑王や魔眼王よりも当たりたくないですね。11席はおそらく奪われるでしょう。

どちらにせよ、私は私の仕事をするまでです。

開幕一回戦、第一席は貴方がたに捧げましょう」


余裕の態度で宣言した最優の騎士は、双剣に手を添えながら美しい動作で飛び上がる。同時に、反対側からは力強い太陽の如き輝きが。


闘技場に降り立つ両者は水と炎。

真逆の荘厳さを以て、戦場に神秘的なアーチを作る。


技と力、連撃と一撃、最優と最高。

あらゆる面で対になる騎士達は、今こそ決着をつけるべく剣を抜いた。


「昔から、君とは白黒つけたいと思っていたんだ。

お互い真面目で、これまで機会はなかったけれど……

幸か不幸か、私達は対立した」

「そうですね。道を違えた今こそ、私の方が強いのだと証明する時だと言えます。対になるのは、もう終わりです」


彼女達の足元には、ユラユラと花を浮かべる泉が揺らめき、頭上では眩い太陽が天上の果実のように圧を放つ。

最優が握るのは双剣、最高が握るのは長剣。


技と力、連撃と一撃、地と天、水と炎。

長らく対になっていた円卓の騎士は、ついに雌雄を決する。


「魔剣、疑似解放。淡く、儚く、私は未来を変えていく」

「聖剣、疑似解放。強く、確かに、私は今を肯定する」

「名を借りよう。獣には不要なれど、変わらず願いを保つ力の名を。我は湖の騎士。禁忌を守護する誓いの泉」

「名を借りよう。獣には不要なれど、変わらず願いを保つ力の名を。我は太陽の騎士。禁忌を守護する信仰の灯火」


"湖上の花弁(ランスロット)"


"天上の果実(ガウェイン)"


円卓、反逆者、あらゆる強者が見守る中。

コロシアムでは太陽と泉が激突し、世界を塗り替えるような輝きを放った。


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