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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
357/432

319-円卓の揺らぎ

ククルによって、クロウ達の元にもようやく森の状況や円卓争奪戦のことなどについての情報が届いていた頃。


ライアン達反逆者サイドの面々を村へと案内し、諸々の面倒事は管理者であるジェニファーに任せた円卓一行は、王都――キャメロットの城に集まっていた。


玉座の間にて円卓に座るのは、錚々たる顔ぶれだ。

円卓の騎士は審判の間に落とされたガノ卿以外揃っているし、人型になったパートナーの神馬達は勢揃い。


自称ドルイドの統括である宮廷魔術師アンブローズに、湖の乙女であるヴィヴィアンまで集まっている。


唯一、ガノのパートナーであるネヴァンは、この場にいてもいいのかと思わなくもないが……

クルーズ姉弟やビアンカ、そのパートナー以外は気にしていないし、彼女自身も6人の視線を気に留めない。


騎士達は女王の言葉を待ち、パートナー達は彼らの付き人としてお茶などの給仕をしている。ネヴァンはパートナーを見捨てているので、2人の魔術師の給仕だ。


この円卓のホストであるエリザベスは、何度も相棒のダグザに縋るような目を向けていたが、意を決して口を開く。


「……それでは、円卓争奪戦に向けての会議を開始します」


自室ではダラケているエリザベスだったが、王として話すとなればそんな様子は微塵も感じさせない。ちゃんと普段のだらしなさを隠し切り、威厳ある姿を取り繕っていた。


ダグザはもちろんのこと、他の騎士達やパートナー達、2人の魔術師も素を知っている。だが、せっかく彼女が女王らしく振る舞っているのだから、余計なことは口にしない。


アンブローズだけは見惚れたりニヤニヤしたりしているものの、ほとんどは神妙な顔つきだ。


「進行は私、ダグザが努めさせていただきます。

議題は明後日より始まります円卓争奪戦について。

誰がどの席の奪取に臨むのか、でございます」


エリザベスは何を嫌がっていたのか、結局進行を担当するのはダグザだ。彼はパートナーの隣で軽く挨拶をすると、巨大なラウンドテーブルを見回すように議題を投げかけた。


円卓争奪戦とは、文字通りこの円卓の席次を奪い合うもの。

第一席から順に、両サイドから名乗りを上げた者同士が戦い勝者がその席次を得る。


どの敵がどの席を狙うかも考えないといけないが、最終的には自分達の中から誰がどの席に立候補するかを決める必要があった。


すなわち、本会議で話すのは敵の情報や強さ、席を奪うための戦略予想、各々が望む席についてだ。

直球で問われた質問に、騎士達は口々に話し始める。


「あの、ご飯くれませんか……? お腹空いちゃって」

(わたくし)、今回は武器を持っても良いのでしょうか……?」

「私は彼らに同行していた。情報や戦略予想は任せ給え」

(おのれ)に希望はありませぬ。王のご意志に準ずるまで」

「私はとりあえず1番強い子と戦いたいよ!

海音ちゃんと決着をつけたいところだけど、わがままは言わないさ。三獣士クラスの相手ならならオッケー。

姉さんが好きに決めちゃって良いとも」

「私はもちろん第一席を希望いたします。

オスカー様……卿の強さは重々承知ですが、最高の騎士としては任せておけません。ソフィア卿は如何か?」


話すのは円卓の騎士ばかりで、アンブローズはエリザベスを見つめているし、ヴィヴィアンはお淑やかにお茶を飲む。

しかし、騎士も全員が全員、自分の意思を伝えていた訳でもない。


そもそもが会話の苦手なアルム、普段は活発だが会議で気が滅入っている様子のクルーズ姉弟、そして、序列2位……最優の騎士であるところのソフィアは、無言を貫いていた。


中でも、注目を集めることになったのはソフィアだ。

騒がしかった円卓は、下剋上を狙うようなウィリアムに問いを聞き、彼女の返答に意識を集中させる。


話し合いが白熱すれば、もう意識が向けられることはないと高を括ってあくびをしていたエリザベスは、唐突な静寂に大慌てしていた。


そんな彼女とは対照的に、お淑やかで美しい相棒――セクアナを従えた男装の麗人――ソフィアは、凛とした空気をまとって席を立つ。


鋭い瞳が射抜くのは、ギリギリで威厳ある姿を演じることに成功した女王――エリザベスだ。


「そもそもの話、この場に集まった者は、必ず円卓側で参加しなければいけないのでしょうか?」

「……どういう意味でしょう、ソフィア卿。

卿はまさか、我を裏切るつもりなのですか?」


ラウンドテーブルに集った面々は、ソフィアの質問で一度、エリザベスの確認でさらに一度、連続で緊張を走らせる。


騎士達はきっかけになったウィリアムを含めた全員が。

そのパートナー達すらも、無関係なネヴァンを除いた全員が表情を強張らせていた。


女王に見惚れるアンブローズ、必死に女性らしいお淑やかな仮面を被るヴィヴィアンの前で、王と騎士は激しく視線を交錯させる。


「……別に、裏切るとまでは言いません。

ただ、少しだけ彼らの目的に賛同できるだけです」

「それを裏切りと言うのではありませんか?」

「そうかもしれません。しかし、決して貴女様の方針を否定したい訳ではないと、そう言いたいのです」

「では、卿が理想とする方針とはなんですか?」

「円卓は審判を下す。決してガル=ジュトラムを暴れさせないよう、人々を管理し、食糧を管理し、環境を管理する。

それは間違いなく正しいこと。しかし、私は彼らに可能性を見ました。もう一つの大厄災……暴禍の獣(ベヒモス)を殺せるというのなら、私は喜んで彼らの側に立ちましょう」

「ふーん、そっか……貴女は維持ではなく、滅亡を乗り越えた先の発展を望む。そのために、あたしを裏切るのね?」

「ええ、私は貴女に反逆する。貴女と私、どちらが正しいのかはわからない。ですが、それはきっと、片方が折れて決めることではないのです」


2人の討論は終わり、円卓は静寂で満たされる。

窓の外では穏やかに風が流れ、揺れ動く大自然の視線はただ静かに円卓達の決断を見守っていた。


だが、その空気に圧倒されていた騎士達も直に動き出す。

ソフィアと対になるウィリアム、目の敵にされているソン、強さを認めているオスカー。


多くの者は最優の騎士の裏切りに驚愕して目を見開き、2人の少年少女は彼女に同調するように立ち上がった。


「……? シャーロット卿、ヘンリー卿、どうかしたか?

柔らかな土には、澄んだ水が心地よく澄み渡る……

まさか、君達も裏切るつもりか?」

「うん、まさにその通り!! あの子たちはね、とっても善い人たちだったの。善い人は、報われなきゃだめ。

ソフィアさんが裏切るなら悪いことにもならないでしょ?

あたし達は、もう迷いなくあの子たちを助けるよ!」


ソンに問い質されたシャーロットは、何一つ悪いことはしていないぞ、という態度で断言する。

ソフィア達とパートナー以外は全員が信じられない……という目をしているが、決して揺るぎはしない。


幼く細い四肢で円卓の圧力を耐え、小さな胸に絶対の自信を宿し、己が信じた正しさを突き進んでいた。

それはもちろん、弟のヘンリーも同じだ。


隣に立っている彼は、姉とは違って女王の目を見てしっかりと意思表明をしていく。


「すみません、我らが王よ。ぼくたちは彼の善性を見ました。維持が悪いものだとは思いませんが、少なくとも彼らが裁かれるべきだとは思いません。

ソフィア卿に連なって、貴女様に反逆します」

「君達は正直な騎士と純粋な騎士。

以前も見逃していたし、まぁわかってはいたよ。

……別にいいんじゃないかな。否定はしない」


もう完全に素を隠さなくなったエリザベスは、彼らを咎めることなく反逆を受け入れた。序列2位、8位、9位。

3人もの円卓の騎士が離れたというのに、威厳ある態度を取り繕っていた時よりもむしろ余裕そうだ。


ダグザからグラスを受け取り、中身を揺らして弄びながら、食事を始めていた得高き騎士に目を向ける。


無垢な赤槍(パーシヴァル)信託の杯(ボールス)は裏切るそうだけど、君はどうするの? 危難を退ける盾(ガラハッド)――テオドーラ」

「むぐ……僕ですか? 僕は貴女に賛同しますよ。

豊かさを求めるのはいいけれど、それは弱き者を犠牲にした未来かもしれない。僕はこの名に懸けて、弱者を守る」

「うん、わかった。それじゃあ、他に離反者はいない?」


どうやら、もし他に裏切る可能性があるとしたらテオドーラであると思っていたようだ。彼女に確認を取ったエリザベスは、それ以上個人に聞くことはない。


全体に向けて呼びかけ、誰も名乗りを上げなかったことでこの話を切り上げる。


「……いないようですね。ならば、卿らはこのまま円卓を去りなさい。こちらの戦略をすべて明かすつもりはありません」


静かに促されたソフィア達は、礼儀正しく頭を下げて円卓を去っていく。誰も彼女達を咎めたりはしない。

この場にいる全員が3人の選択を尊重し、なおも自らの正義を信じていた。


とはいえ、円卓でも最上位のソフィアの離反は、それなりに堪えるのだろう。姿勢を崩さない騎士達は、王の力や選択を信頼しながらも厳しい表情をしていた。


その鬱屈した気持ちを吹き飛ばすかのように、エリザベスは手のひらを打ち鳴らす。普段のだらけ具合や役目を嫌がる姿からは程遠い、正しく王の姿。


華やかで凛とした威容を見せられた騎士達は、一気に気を引き締めて彼女に注目していく。


「さて、これで3名の騎士が去りました。

元より敵は多く、やや気勢が削がれたことでしょう。

しかし、案じることはありません。減ったのならば、増やせばいいだけのこと。既に行動は起こしています。

獣神はここに。契約に基づき、卿を円卓に招集します」


エリザベスの宣言に応じて、玉座の間には人と獣の中間にあるような二足歩行の鹿――獣神ケルヌンノスが現れる。

去っていくソフィア達の隣を通った彼は、前回とは違って酒の抜けた顔で女王に傅く。


「約束通り、今回はあんたらの側につこう。

獣の神たる儂の力、存分に使うと良い」


太古の森――ミョル=ヴィドの王たるエリザベス。

その地下に広がる審判の間を見守る神、ケルヌンノス。

上下両方の代表格が今、円卓に集った。



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