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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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318-審判の間に届く救援

「ん……? なんか、地上が騒がしいな」


やけに賑やかな地上の様子を不思議に思いつつ、俺は静かに起き上がる。周りにあるのは、いつも通り寝床になっていた洞窟の壁だ。


ここに仲間達は集まっていないし、ただ上が騒がしいだけ。

どういう状況かわからないが、ミョル=ヴィドの喧騒も地下に広がる審判の間には、そこまで大きな影響を及ぼしてもいないようだ。


戦闘が起こっている様子の時は、よく水の斬撃が降り注いできたり壁が崩れたりしていたが……

今回は土煙が舞うことすらない。祭りか何か行われるのか、ただワイワイ騒いでいるだけみたいだった。


それはそれで不思議だけど、まぁ上のことなんか気にしていても仕方がないな。審判の間では定期的に円卓の騎士が裁きに来るし、オリギーやルキウスなんかはしつこく追ってくるのだから。


しかも、現在ではそれにヴォーティガーンまで追加されている可能性がある。ミョル=ヴィドはミョル=ヴィドで、円卓の騎士だらけな気もするけど……地下はそれ以上に生きることで精一杯だ。


俺は喧騒を気にしないことにして、見張りをしている仲間達の元へ歩いていく。出入り口からしか光が差し込まず、暗い自然の寝床から、根の隙間や岩の割れ目から眩しい光が降り注ぐ、明るい地下空間へ。


「腕は……もう完全に元通りだな。

黒竜に消し飛ばされた時は、本気で死ぬかと思ったけど」


朝の日差しに目を細めながら、左手を動かして独りごちる。

ヴォーティガーンから命からがら逃げ出して数週間。

今にも死にそうだった俺達は、運良く雷閃やセタンタ、ヘズと合流を果たしていた。


彼らも霧に惑わされていたみたいだが、雷閃は雷の神秘で、ヘズは音の神秘だ。位置のわかるヘズと機動力のある雷閃によってすぐさま合流がなされ、残る俺達も探してくれていたらしい。


俺は左腕が跡形もなく消し飛ばされ、ガノは全身に重度の火傷、アーハンカールは全身の骨が砕けていたが……

セタンタはルーン石を作れるため、この数週間で既に完治している。


1人、誰かが足りないような気がするけど、とりあえず大勢は整えられた。外に光に慣れた俺の目には、既に完治しいつも通り喧嘩しているガノとセタンタの姿が映っている。


なぜか傲慢の守護者が帰らないのは怖いが、まぁ雷閃もいるからそこまでひどい事態にはならないだろう。

むしろ、しつこく狙ってくる憤怒や処刑王を牽制する役割を果たしているので、ありがたいくらいだ。


さて、これからどうするかな。

審判の間から出るためには、7つの試練をクリアしないといけない。そこだけは変わることなく壁になっているが、俺達はここまで全敗。


アーハンカールが味方になってくれるなら、まだ希望が持てるとは思うけど……彼は多分、食に釣られただけだ。

コーヒーを淹れるヘズの隣で、ずっと何かを食べている。


戦いとなれば話は別だろうし、本当にこれからどうするべきなんだろう……?


「……はぁ、とりあえず守護者の特徴でもおさらいしとくか」

「おーっ、それはとっても気になるよ!

僕にも教えてちょーだい!」

「うえっ!?」


俺がぼんやりと仲間達を眺めながら、今できることをやろうとしていると、突然背後から声がかけられる。


アーハンカールと同じように高く、だがより無邪気な少年の声に驚いて振り返れば、そこに浮かんでいたのは羽のようにふわふわな服を着た少年だ。


柔らかな風に巻かれている彼は、空中を泳ぐようにくるくると自由自在に回りながら、心底楽しそうに笑う。

敵ではなさそうだけど、いつの間に現れたんだよ……!?


「あっはは! そんなに驚かなくてもいいじゃん。

敵じゃないことはわかるでしょ? まぁでも、たしかにその情報は後でもいいね。僕はいいニュースを届けに来たグッドバード! 早速本題に入るとしよう!」

「本題ってなんだ……? てか、そもそも君は誰なんだ……?」


どうやら少年は、俺に用があってここに来たらしい。

風を地下空間全体へと広げていきながら、胸の前に風の球体を作り出してリラックスしていた。


心当たりはまったくないし、審判の間にいていいニュースなんてあり得ないと思うけど……


多分ここで問題になるのは、彼がどこから俺の前にやってきたのかという部分だ。もし騒がしい地上から来たのだとすれば、その理由が俺達に有利なものなのかも。


「僕が何者か? ……たしかに、そのことを知ってた方が理解が早いかもだね! じゃあまずは自己紹介、いっきまーす!

僕はククル。獣人を守護する者であり、大陸の西方に広がるアストランを作った4人の長老のうちの1人。そして、またの名をケツァルコアトル。今世紀の神である獣神(じゅうじん)さ!」

「は、はぁぁぁぁっ!?」


空を飛ぶ少年――ククルの名乗りを受け、俺は思わず叫んでしまう。完全に予想外だし、あまりにも情報量が多い!

ちゃんと話は聞いていたけど、全然理解が追いつかないぞ!


「〜♪」

「すぅ〜、はぁ〜……」


ククルはご機嫌そうにくるくると回り始めており、明らかに俺が落ち着くまで待ってくれる体勢だ。

その好意に甘えて、思考をまとめていく。


まず、アストランって国を作った長老。

この時点でアヴァロンとは無関係、全然敵じゃない。


んで、神な。今世紀の神っていうのはよくわからないけど、獣神(じゅうじん)で長老ということは、大嶽丸と同等なのだろう。


彼のように普通の人間を恨んでもいなそうだし……

とても頼りになる!! 審判の間に入った以上、彼も出るためには試練をクリアしないといけない。

戦力が増えたのは間違いないと言える。


ニュースは聞いてないが、彼が俺の目の前に現れたこと自体がとんでもない幸運だ。マジで、神。文字通り、本当に神。

救世主すぎるぞ、この子は……!!


「ふぅ、落ち着いた。ニュースってのはなんだ?」

「オッケー、周りの子達も落ち着いてるね。じゃあいよいよ本題だ。さっきも言った通り、僕はアストランの民。

本来ここにいるべきじゃない。なのに、僕はここにいる。

その理由はライアンが縁を頼って来たからさ」

「ライアンが!?」


風に乗って周囲に流れながら紡がれた名前に、俺はつい途中で言葉を遮ってしまう。

風のボールに乗る少年はにっこりと笑い、優しく撫でるくらいのつむじ風で風の環を広げていた。


「ケット・シーと獣人。この2つの種族を引き連れて、彼らはこの太古の森にやってきた。目的は君……クロウくんの救出。

同時に、暴禍の獣(ベヒモス)の討伐を果たすことだ。

アヴァロンへの敵意はないけれど、当然円卓は受け入れられない。両軍はぶつかり、己の正義を主張し合う。

つまりは、円卓争奪戦の開幕さ。この国の行く末は、新たな円卓の多数決によって決められる。その席を奪い合うんだ。

その勝敗によっては、君達は試練をクリアすることなく外に出ることができるよ! これが僕のもたらすニュース!」


渦巻く風の中心にいるククルは、俺達を順繰りに見つめながら最高のニュースを口にする。ライアン達が来た。

それも、彼のように頼りになる仲間を引き連れて。


振り返ってみると、同じように見上げて話に耳を傾けていた雷閃達も、希望に満ち溢れた表情をしていた。


だが、神の言葉はまだ終わりではない。

羽のような服をはためかせる少年は、なおも神々しいオーラを放ちながら言葉を紡ぐ。


「もちろん、君達はこのまま待つこともできる。

でも、助けられるのをただ待つつもりはないでしょ?

これまでは、もしも抜け出せても円卓の待つミョル=ヴィドに出るだけだった。けれど、今なら仲間達と戦える。

希望が見えれば力が湧いてくるものさ!

君達は、迷いなく全力で試練に臨むことができると思うよ!

さて、君達の選択はどっちかな?」


地下空間中に広がっている風は、ククルの声を届ける以上の意味を持ち、俺達を絶え間なく包み込む。

まるで、安心させるように、俺達を鼓舞するかのように。


風の中心にいるのはまさに神。あんな情報を聞いて、ここまで来て、逃げるなんてありえない。

俺達の選択は、当然……


「試練をクリアして、円卓を奪う!!」


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