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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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311-突入、死の森

ヴィンセント達の修行は、大切なものだが必要不可欠なものではない。今は何よりも時間が惜しいのだから、移動要塞に荷物を運び終えるとすぐに出発だ。


一行はポラリスが造った巨大な家の車に乗り込み、アツィリが生み出したトウモロコシ人間に引かせて進行を開始する。

メンバーはライアン、ローズ、ヴィンセント、リュー、フーといったクロウの家族5人。


ソン、アブカンという、本来は円卓側で敵になるべき2人。

キング、クイーン、ヴァイカウンテス、バロンといった森のケット・シー4人。


最後に、クリフ、ジャル、ヌヌースら、獣人の国アストランの精鋭3人だ。もちろんあと2人、密行者の少年少女がいるのだが、彼らはローズ以外に見つかっていない。


1人を除いて誰も知らないのだから、メンバーに含まれないのも妥当だろう。本当に、彼女に見つかった時の迂闊さが、実は嘘だったのかというような潜伏っぷりだった。


こうして、総勢14名……実際は16名は、家の中で修行をしたり英気を養ったり、息を潜めたりしながら、アヴァロンへ進撃していく。


トウモロコシ人間は生物ではないので、止まることはない。

猛スピードで巨大な家付きの車を引っ張り続け、数日後にはアヴァロンの南方――死の森ブロセリアンへと辿り着いた。


「あっはっは、すんごい速かったな〜。

アツィリとポラリスには感謝しねぇと」


真っ先に移動要塞を降りると、ライアンは妙に強い風を感じながら森を見上げる。目の前に広がっているのは、枯れたようにやせ細っている不気味な森だ。


もちろん、実際には枯れていないのだろうが、その森からは生命力を一切感じない。神秘的ではあるものの、悍ましい、おどろおどろしい方面での神秘的だった。


木は生きているはずなのに、多少の動物はいるはずなのに、なんの音も動きもない。数週間前にも見たこの恐怖の森を、頼りになる親友達を伴って見続けている。


「おいおい、この移動要塞の建造は神以外の獣人だぜ?

トウモロコシは完全にアツィリさんのだけど、ポラリスさんに関してはちょっと認めらんねぇなー。あの人がやったの、資金とか材料の提供だろ。それも大事だけどさ」

「ははっ、別にお前らにだって感謝してるぜ〜?

ただ、移動に関しちゃあの2人の方が印象強くてな〜」

「というか、そもそも降りる必要あったかな?

ボク、できれば戦いたくもないし、ずっと乗ってたいよ」


生命力や気配をまるで感じないのに、不思議な引力や視線、敵意などをじっとり発している不気味な森の前で。

家でくつろいでいるかのようにリラックスして話す友人達に、キングは肩に腰を下ろしながら文句を垂れる。


彼らが乗ってきたのは移動要塞。乗ったまま森を突破できるため、別にわざわざ降りる必要はない。

怠惰な王様は、相変わらずサボりたいようである。


しかし、特別必要ではないこの行為にまったく意味がないのかと言えば、そんなこともなかった。


ブロセリアン側から干渉してくることはないとはいえ、攻め込む森の様子はより正確に知っておくべきだろう。

そして、室内の限られた視界でしか見れないのと、実際に風や音を感じながらその目で見るのとは別物だ。


移動の疲れも、自然を感じる方が癒やされるかもしれない。

より確実に目的を果たすためにも、少しでもリラックスするためにも、この行動に意味はあった。


なんとなくの勢いで降りてきたライアンは目を泳がせるが、クリフは肩にいる猫の額を弾いて笑う。


「目を回してたくせによく言うぜ。中の奴らだって、少しは精神を整えたいだろ? それに、まだ戦わねーし」

「そうそう。気晴らしなんだから、深く考えるなよ〜」

「あのさ、こんな禍々しい森でリラックスできるとでも?

本気なら頭がおかしいと思うね。あまりにも呑気だ」

「ははっ、別に森は森だろ。アストランの南方とか、もっとヤバいぞ? 沼地の奥は瘴気に満ちてる。

ここはただ不気味なだけだから、全然マシだぜ」

「まぁ、雪山みたいに過酷な環境ではないよな〜。

敵気にすりゃいいだけだし、休憩しやすいぜ〜」


どこまでも呑気で朗らかな青年2人は、各々の経験を踏まえてキングに反論していく。目の前の森だって、死の森と呼ばれるくらいに危険な場所なのだが……環境自体は枯れかけの森でしかないため、そもそもの前提や認識が違うようだった。


こうなってくると、もう手間を掛けてズレを直さないと話が通じることはない。何を言っても動じない友人達に、キングはやれやれといった風に肩をすくめて見せる。


「付き合ってらんないね、まったく」


彼らとは違ってリラックスできないキングは、さっさと話を切り上げると空を飛んで車に戻り始める。

2人だって休憩できるかという話しかしておらず、油断もしていないのだから、食い下がるだけ時間の無駄というものだ。


しかし、ライアン達はその無駄を体現するかのようにダル絡みをしていく。肩を掴まれ、無理やり近くに引き寄せられた王様は、心底嫌そうだった。


「とか言って、ちゃんと付いてきてくれるくせによ〜」

「だよなー。キングさん、サボり魔の割に付き合いはいい。

トラルテクトリの時も、結局最後までサポートしてくれてたし案外面倒見もいい方だろ。ずっと引きこもってて、あんまアストランにも来ねーから最初緊張したけど」

「いや、勝手なこと言わないでくれる? クイーンに絡まれるのと比較して、こっちのがマシだと思っただけだから。

あの神獣との戦いも、脅されてたからその状態から悪化しないためだよ。ボクはより楽な方を選んでるの」

『キング様ーっ!? どこにおりますのーっ!?』

「……」


ため息を付きながら理由を説明していると、タイミングよく室内からクイーンの声が聞こえてくる。

おそらく、ずっとキングのことを探していたのだろう。


さっきまでは遠くにいたようだが、時間をかけたことで近くに迫っている様子だ。現在もライアン達に絡まれている彼には、その声は新たな面倒事の前触れでしかない。

森の王様の苦難は、まだまだ続くようだった。




~~~~~~~~~~




ブロセリアンの真ん前に到着して数十分後。

ヴィンセント達が修行をしていて暇だったローズは、念の為到着を密行者に伝えるために倉庫にやってきていた。


だが、今回は彼女1人だけではない。

移動中に様子を見に行く時も、約束通りバラさずにいたものの、到着した後どうするのかまで自分で判断するというのは無理がある。


そのため、密行者が属している獣人ではなく、かつ頼りになると信頼できる者――バロンが一緒に来ていた。


「この箱のどれかに隠れてたんだけど……」

「はは、まさか密行者がいるとは思いませんでした。

あの少女――クラローテさんならば納得ですが」


何度か箱を変えているため、場所がわからず探し回るローズの後ろで、バロンは苦笑しながらそれを手伝う。

これからどうするのかは不明だが、少なくとも密告するつもりはなさそうだ。


ひとまず本人から話を聞くべく、無数の箱から正解を見つけ出そうと探し続ける。


当然、普段ならばローズの前には姿を表すのだが……

昼寝でもしているのか他の人がいるからか、彼女達は一向に姿を現さないので自力で見つけるしかない。


食料、消耗品、暇をつぶすためのもの、衣類、日用品、予備のタオルなどなど……様々なものが詰まった箱を探し回り、最終的に予想より小さな箱の中で目的の人物を見つけ出す。


「いました……けど」

「あれ? クラローテちゃんだけ?

もう1人のあの子、クーくんは?」


箱の中で丸まって寝ていたのは、カウガール姿のクラローテだ。密行者は2人いたはずなのに、彼女1人だけがこの箱の中で眠っている。まだ幼い少年は影も形もない。

倉庫に潜んでいたという痕跡すら、何も残っていなかった。


「……とりあえず、この子はどうしたらいいかな?」

「戦力としてはかなり頼りになります。

もう突入も始まったみたいですから、ドサクサに紛れて族長さんを説得し、同行を許可してもらいましょう」


一度停止していた移動要塞は、彼女達が倉庫中を探し回っている間に準備を整え、今再び動き出していた。


少年の行方は不明だが、一行がやるべきことは変わらない。

森に入った家族を助け出すために、死の森ブロセリアンへと進行開始だ。



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