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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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310-いざ、神獣の国へ

ライアン達が帰還したことにより、いよいよアヴァロンへの進撃は動き始める。救援要請は最初から伝達済み。


だからこそクリフはトラルテクトリの対処に動き、ジャルもその他問題となる魔獣の討伐を行った。

同時に、族長達が不在の間には、彼によって進軍するための準備すらも進行している。


まず、商人のポラリスによる長旅の準備……荷車のような台座に丈夫な家を作った、移動要塞ともいうべき代物の建造だ。

これは、増えたメンバーを休みなく最速で運ぶためのもの。


なおかつ、目的地であるアヴァロン国を守る死の森――ブロセリアンを到着してすぐに攻略するため、体力を消耗することなく移動するためのものである。


次に、農家アツィリによるその移動要塞を運ぶ動力の準備……専用の強化トウモロコシ人間の量産だ。

これはもちろん、移動に余計な体力を使わないためのもの。


そして、明らかに高速移動に適していない巨大な移動要塞を、確かなスピードで送り届けるためのものだった。

移動要塞と馬代わりのトウモロコシ人間は、セットになることでようやく効力を発揮し、完璧な移動手段となる。


最速での移動、英気を養うこと。強大な神獣の国を破るために、これら2つは必要不可欠なものだ。

彼女達アストランの神ではない獣神(じゅうじん)の献身によって、アヴァロンを攻める準備は整えられていく。


当然、クリフやジャル、ヌヌースなどの幹部陣が国を空ける間の守りも、しっかり考えておかなければ出発できない。


そのための対策として、そもそもジャルによる訓練が過激化してるし、戦士用のトウモロコシ人間の量産、ポラリスによる一般の戦士の強化なども行われているが……


部外者であり、もうじきこの国を去るローズ達には、あまり関係がなかった。決して無関心ではないが、必要以上に干渉することもまたない。


族長が帰還してから数日後。戦士達が忙しく動いている中、彼女はただ自分にできることややるべきことを。

すっかり出来上がった車輪付きの家に、食料などを運ぶ仕事をしていた。


「ふぅ、乗り込む人数が多いから大変だな」


倉庫に食料を詰めた箱を茨で運び、いつの間にかあった大きな箱の隣に置いたローズは、それに腰掛けながら一息つく。


ヴィンセント達が修行をしていたり、アブカンが火傷を理由に医務室でサボっていたり、キングが堂々とサボっていたりするため、荷物運びのメンバーは少ない。


家は移動要塞と言う割に一般的な造りで、特に入り組んだ道を辿るような大変な作業ではないこともあるが、彼女の他には、ライアンとバロンしか働いていなかった。


全員並んで作業をする訳でもないので、この倉庫にいるのは彼女だけである。移動要塞の外から密林の葉がこすれる音、やや遠くからの喧騒くらいしか聞こえない中。

いよいよ向かうことになる神獣の国に思いを馳せていた。


「……クロウがあの森に入って数週間。どれくらい強い人達が待ち構えているのかわからないけど、ケット・シーと獣人、頼りになる人達が助けてくれる。きっと負けない。

負けないとは思うけど……ちゃんと、間に合うかな」


ローズはアヴァロン国のある太古の森――ミョル=ヴィドどころか、入り口を塞ぐ不可侵の扉――ノーグや死の森ブロセリアンすら体験していない。


リューやヴィンセントの言葉のみで救援を要請しに来たため、想像の中で強さが膨れ上がっているようだ。

過剰な不安などは見られないものの、拭えない不安が表情に張り付いている。


車がアストランの街の外にあり、静かだったこともあって、彼女はより自分の心と向き合っていた。


家の外では風の音が鳴り、アストランの声もかすかに聞こえてくるが、倉庫は静まり返って呼吸音しか聞こえない。


ただし、その呼吸音はローズのものだけではなく、今彼女が腰掛けている大きな箱からも聞こえてくるのだが……


「……うん? この箱の中に誰かいる?」


心なしか大きくなった呼吸音や口を塞がれているようなくぐもった声、誰かがもみ合っているような物音などを聞いて、彼女はようやく異変に気づく。


運んだ覚えのないこの大きな箱の中に、誰かが潜んでいる。

つぶやいてからはガタガタと揺れ始めてもいるので、中に動物がいるのは確定だ。


ローズは慎重に箱から腰を上げ、茨を盾にしながら後ろ向きに下がっていく。箱を抑え込む重しがなくなったからか、警戒態勢に入ったからか、何かの動きは激しさを増していた。


隠れていたのだから、強い敵意を感じなくても警戒しないといけない。十分な距離を取った彼女は、周囲を守る茨の密度をより高めつつ、数本伸ばして箱を開ける。

すると、いかにも怪しい箱から飛び出してきたのは……


「優秀な捕食者は森に潜む! けれどもバレたら潔く!

うさぎは可憐に愛想を振りまくのさ! にゃーにゃー。

相手が君だからこそ、だけどね!」


いつものように空からではないものの、やはりカウガール姿で騒がしい少女――クラローテだった。

飛べないなりにジャンプして出てきた彼女は、またも生やしたケモミミや丸い尻尾を動かしながらポーズを決める。


一応は家の中に潜んでいたはずなのだが、恐ろしいくらいに堂々とした態度だ。全力で可愛らしいポーズを決めており、まったく悪びれる様子がない。


おまけに、箱の中からはまだ人が出てくる。

自由奔放なクラローテに促されて出てきたのは、数日前にも彼女と一緒にいた少年――ふわふわとした羽のような服を着た自称クーくんだった。


彼は服と同じようにふわふわの髪を揺らすと、風に乗っているように舞い上がり、隣の箱の上に立って笑う。


「やっほーローズ。面白そうだから密行者になってみたよ。

できれば、クリフには密告しないでほしいな。僕は粘れるかもだけど、彼女は確実に追い出されるからね。もう一度言うよ。連れ戻されるんじゃなくて、追い出されるから!」

「問題児でも旅をしたい。そんなお年頃なのでした。

つまりはトラベルキャーッツ! がおぅ。見つけた小動物は愛でるべし。決して告げ口することならず。……怖い怖いよ。

あの男はあたしに一切容赦がない。僻地でも平気で捨てる。

君はこんな美少女を飢え死にさせようというのか」


やたらと過激な表現を強調した少年の言葉に、クラローテも全力で乗っかって密告を阻止しようとする。


この段階でバレれば国に戻るだけなのだが、追い出されるだの遠方で飢え死にするだの、内容が内容だけに圧が凄い。

今が出発前だということを忘れさせるような異様さで、彼女の申し訳無さを掻き立てていた。


相変わらずセットで現れた通り、ものすごい息の合いようだ。まるで姉弟であるかのようなコンビネーションを受け、ローズは瞬きを繰り返す。


「えーっと、あなた達は同行メンバーに選ばれなかったんだ? ジャルさんが何も考えていないはずないし、それなら選ばれないだけの理由があると思うんだけど‥」

「キャーット!! 君は絶対に負けられないのだろう!?

であればあたしの強さは必要だとも!! うん、絶対に!!」

「君は彼女の強さを見たよね? 僕もよくポラリスの商隊に潜んで遊びに行くんだ。邪魔にはならないさ!」

「たしかに強かったけど、それを踏まえても‥」

「キャーット!! 後悔のない選択をせよ、人の子よ!!

君はあたしから迷惑を被ったと言えるのかしらッ!?」

「……あー。まぁ、別にお好きにどうぞ?」

「わーいっ」


彼女達を同行させない理由はいくらでもあるだろうが、2人はとにかく勢いが凄まじい。猛獣顔負けの圧力で延々と言葉を遮ってくるため、ローズもすぐに諦めて黙認を決める。


決して歓迎している訳ではない。あくまでも見過ごすだけだ。とはいえ、幽霊の魔獣すらも瞬殺してしまうクラローテの実力は確かなので、間違いなく価値はあった。


消極的に密告しないだけの彼女も、その後のやり取りを見て前言撤回しないくらいには、頼りにしているようである。


「あたし達の勝利だ、相棒よ!! この子は実にチョロい!!

便利だからやり過ぎないよう注意しないとだワン!!」

「外国で君と一緒……うん、実に楽しそうだよ!

えへへ、退屈しない日々の幕開けだ」

「チョ、チョロい……」


あまりにもあけすけな発言に、ローズも微妙な表情だ。

茨で体を浮かせて別の箱に座り直しながら、天井を見上げてつぶやく。


部屋の外からは荷物運びをしている他の仲間の足音がするが、ぼんやりと遠くを見るだけで全て見逃している。

はしゃいでいたせいで気づくのが遅れた2人は、いたずらっ子のようにニヤニヤしながら隠れ直していた。


「あれ、ローズどうした〜?

疲れたなら、古城に戻って休んでてもいいぞ〜?」

「大丈夫だよ、ライアン。私はもう、十分休んだから」


倉庫に入ってきたライアント゚入れ違いになるように、ローズは次の荷物を運びに外へ向かう。荷運びは順調。2人の密行者を連れた移動要塞は、もうすぐ出発だ。



第四幕完


次回からはいよいよラストの第五幕です。

視点はまだ変わらないというか、五幕でも何度か変わるんですけど、まぁクロウが審判の間から出るため、ベヒモスを討伐するための戦いの始まりです。


人の国、人と神獣の国、神獣の国。

3つの国を巡り、彼らの冒険はようやく歴史に名を残す。

さぁ、覚悟を決める時だ。数千年間不動だった時計の針は、ついに動き始めるのだから。


第一幕 クロウのミョル=ヴィド冒険(地上の森)

第二幕 ライアンの仲間集め・その一

第三幕 クロウの審判の間冒険(地下の森)

第四幕 ライアンの仲間集め・その二


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