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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国

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309-族長の帰還

トラルテクトリとの決着をつけ、ライアン達はアストランへと戻って来る。死者はいない。全員無事だ。

しかし、半分以上が満身創痍だった。


怪物ワニの討伐を主導したクリフは、普段のように完全な人型に戻ってはいるが、獣型で潰れた部分は歪なまま。

他の仲間達と比べれば軽傷で、自分でも歩けているものの、流血や骨折などが酷く、右手などぐちゃぐちゃだった。


それよりも重傷なのが、消えていた5人の中でも最も小柄で、見るからに耐久力のないケット・シーであるキングだ。

後衛だったので安全かと思いきや、ワニ状態では高速スピンで前衛が吹き飛び、人状態では周囲全てが攻撃範囲内。


どんなに気をつけていても巨大な肉体に吹き飛ばされ、荒れ狂う岩石に何度も殴打され、岩の剣に貫かれ、散々翻弄された体は真っ赤になっている。


回復のためか朧気に光っているし、空中を掴んでいるためわかりにくいが、手足も頭も潰れかけているようだった。


1番重傷なのはキングだが、残るソンも無事ではない。

序盤の時点で左腕が折れていた彼は、追加で足が砕けている。傷の程度は見えないものの、折れた部位を糸でぐるぐる巻きにしてライアンに肩を借りて歩いていた。


ここまでが、クリフに連れられて一足早く救援へ向かうための魔獣討伐に向かったメンバーのけが人だ。

残りの2人……最初からずっと最前線で戦っていたライアンと、途中参戦だが前線にいたデネブは、まったくの無傷だった。


「よし、今なら人少ないぜ〜」


彼らのトラルテクトリ討伐は、仲間達に負担をかけたくないため、速やかに救援に向かうため、クリフによって独断専行されたものだ。


結果、ちゃんと討伐できたのだから問題はないのだが……

クリフやキングは満身創痍なので、ジャルやクイーンに怒られる可能性が高い。


特にジャルなど、族長不在の間にその他の討伐や準備などをまとめて管理していたのだから、確実に怒るだろう。

役割的にも、クリフのブレーンで右腕なのだから、もはや怒らないはずがない。見つかるのは、せめてけがをある程度は治してからが望ましかった。


そんな思惑がある一行なので、彼らは無事なライアンが様子を窺ってから密かに街に入る。何人かは気づく人もいたが、様子を察して遠巻きに見守るだけだ。


心なしかざわざわとしている街の中を、彼らは周囲を警戒しながら古城へと向かう。


「わ、悪ぃなー……これだけのメンツがいれば、案外簡単に終わるんじゃないかと、かーなり軽く見積もっちまってたぜ。

ジャルに見つかったら大目玉だ」

「あっはっは、どうってことねぇよ〜。

俺はもう治ってるし、関係ねぇからな〜」

「ボクもクイーンが騒ぎそうだから、気をつけないと」

「私については問題ない。アブカンはむしろ喜ぶからな。

いざとなったら囮にして逃げると良い」


旅人、獣人の王、ケット・シーの王、円卓の騎士。

……ついでに、アストランとは無関係な謎の光り輝く人。


様々な立場の者が集まったかなりチグハグな一行だったが、共にトラルテクトリという強敵に立ち向かい、絆が芽生えたようだ。


息を揃えて街の中を協力して進み、誰かに見つかっても問題ないソンなど、万が一の場合は自らを犠牲にするように進言までしている。


もっとも、それは他種族にも理解を示せるくらいには常識があって、最初から共闘していた者だけだが……


「なぁなぁ、ここはどこって言ったっけ? ていうか、君達は誰だっけ? ポラリスちゃんの知り合いってことしか覚えてないや。ワニと共闘したのに悪いねぇ」


ポラリスを除いて、本当に人のことや街のことなどに興味を持っていない様子のデネブは、まだ浮いている。

普段生活しているアストランの名前も、さっきまで共闘していたライアン達の名前も、覚えていないようだった。


そんな彼に呆れながらも、一行はちゃんと最後まで面倒を見て誘導し、街を歩いていく。


「てかさ〜、この国にすぐ治せるようなやついんのか〜?」

「たしかに、うちはけがなんて勝手に治せ派だけどな。

だからって治療できるやつが皆無な訳じゃないぜ?

デネブお望みのポラリスや農家のアツィリは、多少の‥」

「あっ、見つけた!」

「……!?」


今すぐけがを取り繕うべく、居場所がわかりやすいアツィリに会うため畑に向かっていると、いきなり声がかけられる。

声は背後からまっすぐ彼らにかけられており、『見つけた』というセリフからも、追われていたのは確実だ。


ライアン達は声の主が誰なのか確認することもなく、ソンを身代わりにして逃げようと走り出す。

提案通り囮にされたソンは不思議そうに、ボロボロの体で走るクリフは辛そうにしていた。


「ちょ、なんで逃げるの!? 待ってよライアン!!」

「音は葉を揺らし、森をざわめかせる危険の証。

警戒し、神経を研ぎ澄ましていた者には刺激が強かったな」

「ソンさん!? 何に警戒してたの!?」


ポロロン……と悲哀を漂わせながらハープボウを奏でる狩人に、声の主であるローズは堪らず問いかける。

だが、逃げるライアン達の足は止まらない。


ぼんやりとしたフーの腕の中でクイーンが騒いでいることもあって、迷いなく逃げていた。少女達はケット・シーを抱いているため、その差はみるみる開いていく。

少なくとも、両者の差は間違いなく開いていくものの……


「獣の聴覚には限りなく! どんな声もばっちりキャット!

ちょっと待っての雫を捉え! 再び登場お姉さん!」


空からは突然、聞き覚えの在りすぎる声が響く。

バッと視線を上に向けてみれば、そこにいたのは案の定上着を広げて飛ぶカウガール――クラローテだった。


ローズの声を聞いてきたらしい彼女は、靭やかな肉体をフル活用して地上に降り立ち、彼らの逃げ場を奪う。


族長という、神の長老を除けば1番位が高い立場である上に、幼馴染でもあるはずのクリフは、少女の姿を見てなぜか悲鳴を上げていた。


「ぎゃあ、クラローテ!?」

「実に甘美なスクリーム。その血の香りに釣られ、野獣は涎を垂らしてやってくるぞ、がお。けれどもその実、あたしはただの幼馴染み美少女なのだった。傷ついちゃうなー」

「嘘つけぇ!! お前はお茶しに来たとかいって俺にかじりつき、遊び行こうとか言って放置して、空腹だとか言ったくせに食事を無視して空を飛ぶようなクレイジー野郎だ!!

こんなことで傷つくはずがない!! そんなまともな感性なんか、絶対に持ち合わせてないだろうが!!」


クラローテの標的はクリフだけで、血だらけだからか、近くで浮かんでいるキングをモフることもない。


近くにいるライアン達も、少し離れた位置にいるローズ達も、周囲の全員が尽く呆気にとられる中。少女は裏表のない笑顔で、独特な言い回しの会話を続けていた。


幼馴染みとして、幼少期からずっと振り回されてきたクリフは堪らず怒鳴るが、気にした様子はない。

逆にこれまでずっと振り回してきたのだから、いつの間にか生えたケモミミや丸い尻尾を動かしながら身を乗り出す。


「だいじょーぶだいじょーぶ、いくら血の匂いを撒き散らしていても、あたしは獣ではなく獣人なのでぇ。

別に好んで生肉なんて食べやしないから……ガブリンチョ」

「あまりにも早い手のひら返し!!」

「え? あぁ、ごめん。何となくかじりたくなって」

「空腹ですらないただの気分!! もう嫌だこいつ……

怒られていいからジャル助けてくれよ……」


直前の言葉をすぐに破り、首筋にかじりついてくる幼馴染みに、クリフはツッコみつつも涙ながらに助けを求める。

慣れているとはいっても、やはり傷だらけの状態では相当に堪えるようだ。


いや、むしろ普段から振り回されているからこそ、もう耐えられないのかもしれないが……どちらにせよ、彼が右腕の名を呼んだことに変わりはない。


その発言の直後、近くの壁に寄りかかっていた顔の細い男は歩み寄り、少女にまとわりつかれている彼の肩を叩いた。


「言質は取ったぞ。帰ったらすぐに説教だ。

もちろん、けがを治しながら。効率的にいこう」

「ぎゃあ、ジャル!? なんでいるんだよ!?」

「……お前が呼んだんだろう?」


再び悲鳴を上げるクリフに、ジャルは苦笑を禁じ得ない。

呆気にとられていたローズ達も、目の前で繰り広げられる愉快なやり取りに笑みを零し、近くまで来ていた。


隠れながら進んだ努力も虚しく、クリフはジャルに叱られ、キングはクイーンに詰め寄られることになる。

案内を終えたことで、少年はとっくに姿を消していた。


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