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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
343/432

305-修行の結果は実戦で・前編

「よし、今日はこの辺で終わっておこう」


外とは隔絶された闘技場にも、昼間とは違った冷気や夕飯の香りなどが流れ込んでき始めた頃。

涼しい顔をしたジャルは槍をコツンと地面に突くと、地面に倒れ伏す青年達を見下ろす。


視線の先にいるのは、ズタズタになった翼や鱗から血を流して突っ伏すリューと、角が曲がって仮面もひび割れているが、けがは少なく膝をつくだけのヴィンセントだ。


彼の言葉を聞いたヴィンセントは、気を失っているリューを抱え起こしながら頭を下げる。


「ありがとうございました。今日は……ということは、明日も修業をつけていただけるのでしょうか?」

「ひとまず、俺は族長に会いに行く。おそらくお前達の仲間が行っているだろうが、報告は必要だ。

救援要請についての方針も聞かないとな」

「なるほど。では、明日も一度ここに来ますね」

「あぁ、日の出と共に来い。時間は無駄にするな」


明日の連絡事項を終えると、ジャルは壁際でフー達と一緒に見守っていたヌヌースを連れて去っていく。

彼も丸一日戦い通しだったはずだが、まったく疲れた様子は見せていない。


ヴィンセントですら息を切らしているというのに、完全な人の形に戻っている彼は汗一つかいていなかった。

そんな戦士達の後ろ姿を見送ってから、彼はリューの血で服を汚しながら壁際に向かう。


「えっと、おまたせ。君達もクイーンさんみたいに観光しに行っててもよかったのに。ヴィーさんは寝てるけど……」

「お兄ぃ、待つ。遠く、やだ」

「そっか。じゃあ、明日も一緒に来る?」

「……うん」


クイーンがアツィリとどこかへ行ってしまったように、何もせずに観戦しているというのは間違いなく苦行だ。

しかし、フーはあまり気にしていないのか、無表情のままでリューを受け取っている。


ヴァイカウンテスはずっと寝ていたので、まったく関係ないのだが……彼らは明日の予定を決めながら、外で待機していた戦士に案内されて部屋に向かった。




~~~~~~~~~~




翌朝。昨日よりも輝かしく脈動するかのような太陽が、世界を暖かな優しさで包み込もうと顔を覗かせる中。

一晩ぐっすりと眠り、しっかりと体力を回復させた彼らは、どこか浮かない顔で闘技場へ向かう。


理由は簡単。昨晩ローズ達は帰ってきたものの、ライアン達がまだ帰ってきていなかったからだ。

ヴィンセント達は別行動だったが、古城に帰ってきたローズ達によって一度ここに来ていることは聞いている。


それなのに、ローズ達だけがちゃんと帰ってきていて、ライアン達はまだ帰ってきていないのだから、心配するのも当たり前だった。


ヴィンセントは疲労で寝ている主のことも含めて眉をひそめており、フーは明らかにそれを気にして苛々しているリューを見つめる。


だが、ライアンやローズのことなど、ケット・シー組には関係ない。ローズと一緒に眠っているバロンと不在のキングを除いた、クイーンとヴァイカウンテスの2人は、無理やり同行させられていることもあってただただ面倒そうだ。


(わたくし)、今日もアツィリと観光したかったですわ」

「あたしも寝てたい。あのー何? 戦う場所、うるさいし」

「闘技場ですね。でも、昨日は気にせず寝てたじゃないですか。それに、今日は違うことをするみたいですよ。

なんでも、国の外で魔獣狩りをするのだとか」

「うん、よりめんどくさいよね。

キミ、それがマシになったと思ってるの?」


文句を言い続けるケット・シー達だったが、この場には案内ができるアツィリはおらず、ヴァイカウンテスはおぶわれているので逃げられない。


どうしょうもなく待ち合わせ場所である闘技場へと連行されながら、片や諦め、片や眠っている。

心ここにあらずな者達に注意しつつ、彼らはしばらく歩いて闘技場の扉をくぐった。


「おはようございます、ジャルさんはいますか?」

「おう、時間通りに来たな。名前は誰かに聞いたか。

……では、早速向かおう。連絡は受けているな?」


闘技場に入ると、真っ先に視界に飛び込んできたのはやはり真ん中で部下を叩きのめしているジャルの姿だ。

時間を無駄にせず修行をつけていた彼は、ヴィンセントの声を聞くとすぐに目の前にやってくる。


かなりの距離がある上に、間には多くの戦士達が集まっていたというのに、相変わらずスピードが凄まじい。

その風を受けて、ヴィンセントの髪はさわさわと揺れているしクイーンなどはよろめいていた。


「はい。族長がいないということですよね?

実は、うちの仲間も何人か帰ってなくて」


返事をするヴィンセントを尻目に、ジャルはさっさと闘技場の外へ出ていってしまう。どうやら、歩きながら説明をするつもりのようだ。効率的すぎる気がしないでもないが、置いていかれては堪らないので、一行はその後ろに続く。


「だろうな。あいつは救援に向かうため、既に国のゴタゴタを片付けに向かっていたらしい。方針の決定や指示もせずに、実に勝手なことだ。速やかに行動するため、我々はこれより実戦ついでに魔獣狩りへ向かう。最初に言っておくが、俺は戦わない。メガネが壊れかねんからな。同行し、指示は出すので、時間を無駄にせずさっさとクリアするように」

「はぁ? テメェ昨日俺らを叩きのめしただろうが。

あんだけ動いてたくせに、今日はサボんのか?」


古城の廊下を早足で進む彼の言葉に、気が立っていたリューはキレ気味に問いかける。眼鏡を理由にしていながら、昨日は普通に戦闘で自分をボコっていたのだから無理もない。


しかし、当の本人は攻撃的な言葉などまったく気にせず受け流していた。眼鏡を押さえてカチャっと鳴らしながら、落ち着いた目を向ける。


「訓練と実戦は別だ。命の取り合いとなれば、メガネを気にする余裕などない。これは他国から取り寄せた貴重品だぞ?

壊れたらどうしてくれる」

「どうもしねぇよ。また買えばいいだろ? というか、お前戦わねぇなら何なんだ? 戦士じゃねぇの?」

「俺はクリフの野郎に代わって頭を使う方面で戦う。

訓練以外ではただの文官……もしくは参謀だ」

「……!! 文官如きにボコられたのか俺は」


本職の戦士ではないとの宣言に、リューはビキビキと目元を引きつらせている。無表情のフーがポンポンと肩を叩くが、落ち着かせるどころか逆効果だ。


もっとも、実際は戦士団の中の参謀なのだろうが……どちらにせよ、普段から前線に出る立場ではないのは変わりない。

これには流石のヴィンセントも苦笑していた。


「風と予知能力か……まぁ、使われても負ける気はしないな」

「戦えよテメェ」


追い打ちのように告げられた言葉に、リューは静かにキレながらツッコむ。これぞ、3つの戦闘民族の1つである獣族ならではなのかもしれないが……指摘自体は実にもっともだ。


彼らは言い合いを続けながら、合間にこれから討伐するべき魔獣についてや分担の説明を受ける。


先導はジャルなので、その間も足を止めることはない。

最短距離で街中を突っ切り、時間を無駄にすることなく密林に突入した。




~~~~~~~~~~




ジャルが指示したのは、効率的に4種の魔獣を討伐、または数を減らすための役割分担だ。


実戦訓練という意味もあるが、今回は効率重視である。

チーム分けはヴィンセント、リューとフー、ヴァイカウンテス、クイーンの4つとなり、ジャルは修行をつけていた2人を均等に見るため間に待機。


まず最初に見守られることとなったヴィンセントは、体感では単独でとある魔獣の討伐に向かっていた。


「とりあえず、アストランの族長が一緒なら、心配する必要はないかな。手早く出発するため、俺も俺の仕事を……」


討伐する魔獣の生息域は、もちろんジャルから聞いている。

多くの蟻やジャガーが駆け回る、深い密林の中。

彼の目の前には、全身にきのこを生やした巨大な熊が唸り声を上げていた。



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