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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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301-獅子王は陰ながら

ヴィンセント達が突然の修行を受け、ローズ達が半分誘拐されるような形で街の外へ出ていた頃。


族長室で対談していたライアン達は、他の仲間たちには内緒でアストランの外へと出ていた。もちろん、目的もなく出てきた訳ではない。


八咫で暴走してしまってからあまり体調が良くないローズと、ケット・シーの国でアールの人体実験を受けたリュー。

主にこの2人に負担をかけないよう、先んじて獣人からの依頼を少しでも片付けるためだ。


徹底してサボろうとするキングを連行し、医務室にいたソンを巻き込み、彼らは族長のクリフを含めた4人で密林を進む。


「いやぁ、相変わらず頼まれるのは魔獣討伐か〜」


先頭を案内するクリフから一番近いライアンは、密かに依頼を終わらせるつもりには見えないような緩い態度で笑う。


どうやら彼は、前回1人で訪れた時も魔獣討伐に協力していたようだ。おまけに、今回の森を突破するための旅の中でも、ケット・シーの国で魔獣を討伐していた。


さらにその前を含めると、北にある雪国――ガルズェンスでも討伐依頼を受けていたので、多少なりともうんざりしているようである。


「てか、まだ厄介な魔獣いるんだな〜。

どうせなら、まとめて前回頼めばよかったのによ〜」

「あの時は俺達が外に出る予定はなかったろ?

フェンリルは率先して襲ってきてたが、これから討伐する奴はそこまでじゃねぇんだ。危険なことに変わりないけどな」


族長を含めた、多くの実力者が国の外に赴くのなら、国内の危険は排除してからでなければならない。


キングとは違って、すぐに協力を約束したクリフだったが、やはりそこは変わらないようである。

周りの部下たちが頼むか、国の長が自ら頼んでくるか、それだけの違いだった。


そのやり取りを聞いた猫の王様は、怠惰な自分とは真逆の言動に肩を落とす。別に、比べられてはいないのだが……

無理やり連れてこられた上に違いを見せつけられ、それなりにうんざりしているようだ。


理由もわからず連れ出され、とりあえず最後尾で逃亡を防いでいるソンをチラチラ見ながら、文句をたれていた。


「あーあ、討伐になんて駆り出されちゃって、本当に面倒だな。ボクは伝令にでも行きたかったのに。

もしかしたら、クイーンやバロンが思わぬ行動を起こすかもしれない。王様ならやっぱそこ気にしちゃうからね、うん」


無駄に王様を強調しているが、キングが言いたいことは結局面倒だから部下に丸投げしたい……というようなものだ。


ケット・シーの国でやっていたことと、何も変わらない。

今まさに、族長自ら討伐に同行しているアストランの獣人とは、完全に対極の位置にある。


両者を知り、彼自身もよく知っているライアンは、その適当な発言に対してやや挑発的な言葉を投げかけていく。


「何だ何だ〜、お前はバロンがローズを戦場に連れ出すような無能だとでも思ってんのか〜?」

「そんな訳が無いだろう? バロンは有能だとも。

ふざけないでもらいたいね」


すると、その言葉を聞いたキングは、意外にもムッとした様子で反論し始めた。怠惰な王様ではあるものの、だからこそ部下の有能さには自信を持っているらしい。


実際に、好き勝手お茶会などをしていたクイーンはともかく、本当に必要な時は動いたバロンは有能だと言える。


しかし、常に気だるげなキングの反論というのは驚くべきものだ。クリフやソンはわずかに目を丸くしている。

唯一驚かなかったのはライアンは、それすらも見透かしていたらしく、得意げに言葉を返す。


「ほらな〜。だから、伝令なんていらねぇんだよ〜。ほら、みんなに手間かけさせねぇように、さっさと狩るぜ〜」

「そうそう。うちの部下が何を言ってくるかわかんねーし、外堀を埋めておかないとなー。逃げんなよ猫王」

「自然に愛された旅人の元にて勇士は集った。

人に愛された獣の未来、人が獣となった成れの果て。

この星は力を合わせ、新たなる開拓の道筋を示す。

……なぜ、私はここにいるのだろう」


キングを言い負かしたライアンは、ずっと帰りたそうにしている彼が逃げ出す前に戦闘を始めようと足を速める。

親友であるというクリフとは息もぴったりだ。

陽気に同調し、逃れられない雰囲気を作り上げていく。


だが、ろくな説明もなく医務室から引っ張り出されたソンだけは、何一つわかっていない。ポロン、ポロロンと物憂げにハープボウを奏でながら、首を傾げていた。


「何故と言いながら、ボクを逃がす気はないんだもんなぁ。

一応、キミたち円卓を破るための集まりなんだけど」

「別に皆殺しにするつもりはないのだろう?

であれば、私は別段勝敗になど興味ない。怒られはするが、そこは仕方がないので受け入れる。なるようになるだろう。

そもそも、君達に彼女達が負けるとも思っていないしな」

「愉快な小鳥だなぁ、まったく。凄い刹那的思考と信頼だ」

「私ほど面白みのない男はそうそういないぞ」


流れに身を任せるソンに、キングは足を止めることを許されないながら脱力する。彼は「魔獣討伐に行くぞ」としか言われていない。


聞いているのは、魔獣討伐にいくらしいということやこの場で行われた会話の内容くらいだ。

それでも、彼は緑の外套を揺らしながら風のように前進し、最後尾から猫王の逃亡を防いでいた。


向かう先もわからず、クリフ以外は具体的な姿や強さなども知らずに、一行は討伐目標を探して彷徨い続ける。


「部下と言えばさ〜。さっきクラローテが突撃してきたけど、あれは結局放っておいて良いのか〜?」

「んー、まぁいいんじゃね? 流石に国を壊すような真似はしないだろうし、どっか行ったとしても死にゃしねーよ。

あいつは無茶苦茶な奴だが、実力は確かだ」


討伐目標……クリフ達戦士が、救援のためアストランを離れた場合に気がかりとなる魔獣は、なかなか見つからない。

槍で邪魔な草を払いながら進む一行は、しばらくするとまた暇を持て余して雑談を始めた。


話題は街でボヤ騒ぎなどを起こした犯人で、既に通報する気をなくし、ただ模擬戦をしにきたカウガールについてだ。

撫で回されていたキングは顔をしかめ、心当たりのあるソンは興味深そうに言葉を紡ぐ。


「バロンが有能だとしても、あの少女を止められるとは思えない。放置とは、彼女が誰を見つけどこへ連れ出そうとも、一切干渉しないということだ。本当にいいと思うか?」

「……急ぐか」

「そうだな〜」


ソンはクラローテという名前を知らないものの、アストランで唯一のヤバいヤツということで間違えるはずがない。


クリフはお互いの思い浮かべている人物が合致しているのかを確認することもなく、スピードを上げる。

キングは途端に嫌そうな表情になるが、同意したライアンに抱えられて離脱を防がれた。


とはいえ、移動中は楽になるので実質サボりだ。

尻尾をゆらゆらとご機嫌に揺らして、運ばれるがままに討伐目標へ近づいていく。


「近くなってきたな。正確な位置はわかんねーが、奴は沼地の中にいる気配がするぜ。気をつけろ」


さらにしばらく進むと、木の間からはチラチラと巨大な沼地が顔を覗かせ始める。そこに突入する直前で、クリフは槍を横に伸ばして一行を静止した。


「ん〜、泥の中にいんのか〜?」

「あぁ、これから討伐すんのはトラルテクトリ。

ほとんど暴れることはないが、うちの長老達と同格レベルに強く、かつては対立していたというワニだ」

「……それ、君達で言うところの獣神(じゅうじん)ってこと?

そんなのと戦わされるの、ボクは?」

「君1人ではない。私も連れ出された。

むしろ、私こそ無関係だと言えるだろう」

「ははっ、悪いな。このレベルの面子が集まんねぇと討伐に乗り出せねぇもんで。正直、殺るべきかも判断つかないところだけど……長老達はほとんど表に出てこない。

不安の種は潰さねぇと、救援になんて行けねぇんだ」


ようやく討伐対象の情報を聞き、キングとソンは口々に文句を言い始めた。しかし、獣人という戦力を確保するためには必要不可欠であり、今さら引き返すのも無理だ。


ソンは立ち止まれば巻き込まれないかもしれないが、キングは友人に捕まっているのだから。

変わらずほのぼのと笑うライアンは臆さず直進し、小脇に抱えたケット・シーの王様に呼びかける。


「ま、そういうことなら討伐しとかねぇとな〜。

泥の中ってことなら、先陣は頼むぜキング〜」

「はぁー……面倒だけど、わかったよ」


彼の腕の中から飛び出たキングは、風をまとって沼地の上に。シルクハットを押さえながらステッキを掲げると、頭上で巨大な火の玉を作り出して泥を乾かし始めた。



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