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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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297-族長

チラチラと後ろを振り返り、ちゃんとついてきているか確認しながら案内するポラリスについていくこと数十分後。


のんびり雑談しながら歩くライアン達は、遺跡都市の中でも特に立派な古城のような建物の前に辿り着いた。

族長の元に案内する、というようなことを言っていたので、ここが族長の館かこの国の政府かなのだろう。


どこかからズシン、ズシンという不気味で危険そうな足音が響いているし、古城の中からも戦闘音が聞こえてくるが……

ポラリスも門の前にいた戦士も、特に慌てていたりはしないのできっと問題はない。


ローズは不審そうにしながらも、会話を拒みながらもちゃんと最後まで案内するポラリス、平気で入っていくライアンやキング達に続いていく。


「ここに族長さんがいるの?」

「そうそう、見たら思い出したわ〜。この国って、全体的に遺跡っぽいから覚えるの面倒なんだよな〜。

どれも重要な建物とか要人の城に見えるぜ〜」

「その点、ボクらの国はよかっただろう?

森は違いがわかりやすいから、迷子になんてならない」

「いやいや、お前らのとこはもっと酷いだろ〜。

覚えるどころの話じゃねぇよ〜」

「まぁ、生き方の違いですよね。私もここは疲れます」


もうすぐ族長の元に着くぞという所まで来ても、彼らは特に気負うことなく雑談を続ける。常に先を歩いているポラリスは、置いていかないように気を配っていて大変そうだ。


彼女達はまさに獣人といった姿の人達と多くすれ違いながら綺麗な廊下を進み、やがて立派な扉の部屋に案内された。


「はい、着きました。では」

「お〜、ありがとな〜」

「……別に、ただの取引だから。必要だったのでしょう?」


ライアンから巨大なカバンを受け取るポラリスは、鼻を鳴らして顔を背ける。案内が終わり、取引で運ばせたカバンも回収したとなれば、もう残る理由もない。


ローズにも軽く会釈をし、キング達には手を上げて挨拶をしてからさっさと去っていった。


「んじゃ、友達に会いに行くとしますかね〜」


彼女の姿が完全に消えてから、ライアンは改めて族長の部屋に向き直る。一人旅の時に得た友人らしいので、その表情は目に見えてワクワクとしているものだ。


唯一、ローズだけはケット・シーの国とは違った、ちゃんとした国の長に会うということで緊張している様子だが……

キングやバロンは面識があるらしく、ライアン程あからさまではないものの、ニコニコと彼の隣に立っている。


「ボクも久々だから楽しみだよ。あの坊やに会うのはさ」

「あまり頻繁に会う仲でもありませんしね」

「ま、お前らがいるし協力はしてもらえんじゃねぇかな〜」


安心させるように能天気に笑うと、ライアンは扉を開ける。

すると目の前に広がったのは、建物に合わせてアンティークな調度品で揃えられた落ち着く雰囲気の部屋だった。


しかし、部屋の奥……族長が座っているべき机には誰も座っていない。代わりに、ドアが開いた直後に素早い影が接近し、ドアを開けたライアンと肩を組んだ。


「おーっす、親友。随分と早い再会だな」

「なっはっは! お前はお前で、肩組むの速いな〜クリフ」


その影の正体は、ポラリスと同じで他の獣人とは違って洋服を着ている人物――クリフだった。

やや長い白髪を持っている彼だが、もちろん手足は普通の人と変わらない。完全な人型を取れる獣人のようである。


1人で族長の部屋にいて、それだけの強さを持った獣人。

つまり、どうやら彼がこのアストランという国の族長のようだ。


いきなり肩を組まれたライアンも、特に驚いたり拒否したりすること無く、笑顔でそれを受け入れている。


「やぁ、クリフくん。久しぶり。

いきなりで悪いけど、今世紀の神は誰かな?」

「キング様! 今世紀はケツァルコアトル様ですよ」

「どうりで風が強いわけだ」


ケット・シーの見た目はただの猫であるため、背が小さい。

ライアンと肩を組みながら室内に入っていくクリフも、当然しっかりとした体つきなので視界に入っていなかった。


声をかけられて初めて彼らに気が付き、言葉を交わす。

今世紀の神というものを聞き、若干風が強かった理由を理解したキングは、満足そうに頷いている。


だが、この場で唯一クリフと初対面であるローズは、肩を組んだ彼の反対側にいたこともあってついていけていない。

挨拶を終えたライアンが気づいて目を向けたことで、ようやく前に進み出た。


「それはそうと、この子の紹介はしねぇとな〜。

おい、クリフ。この子はローズ。気にかけてやってくれ」

「ん? なるほど……精霊の気配と暴走の名残り。

たしかに心配だな。俺は族長のクリフ、よろしくなー」


促されるままにローズを見たクリフは、何を感じ取ったのか妙なことを言いながら挨拶をする。笑顔であることは変わらないが、その質は若干変化していた。


だが、彼女にその心当たりはまったくない。

暴走はともかくとして、精霊など縁もゆかりも無いどころか、正確に知っているかどうかも怪しいくらいだ。

少し不思議そうに首を傾げながら、自己紹介を返す。


「私はローズマリー・リー・フォードです。

よろしくお願いします」

「む、リー? 見ただけじゃわからなかったけど、そっちもあんのか……君、相当な苦労をしてるみたいだね」

「そ、そうですか……?」


精霊というものも不思議だが、リーというミドルネームに、他国の彼が反応するというのもまた不可思議だった。


とはいえ、今回は彼女にも自覚があるのか、わずかにハッとした表情をしている。相変わらず肩を組んでいるライアンは、話をそらすように口を挟んだ。


「ま、今回の本題はそこじゃねぇから程々に頼むな〜」

「ん? そういやお前は何でうちに来たんだ?

フェンリルは終わったし、まだその時期でもねぇだろ」

「救援依頼だよ、救援依頼〜。……家族が2人、ミョル=ヴィドに入っちまってな。助けに行きたい」

「な〜るほど、守護者や円卓と争うってのか。

そりゃあケット・シーも獣族も味方にしたい訳だ」


ローズがどこかホッとしたように壁へ寄りかかる中、彼らはようやく本題に入っていく。この場にいるのはアストランの族長であるクリフと、ケット・シーの国の王キング。

その両方と盟友のような関係にあるライアンだ。


国王同士も面識があったということで、軽い調子ながら何かしらの代表として真面目な話が行われている。

壁際にいるローズは、隣に来たバロンと共にぼんやりとその様子を眺めていた。


「ボクは面倒だから、ぜひキミ達に全部負担してほしいな。

これはケット・シーに関わりのない問題だし、アストランはケット・シーとは違って本気で助けられたんでしょ?」

「は〜? お前ここまで来てまだサボりたいのかよ〜」

「たしかに俺達は、フェンリル討伐で助けられた。

サボりたかったあんたとは違って、恩と言ってもいい。

が、丸投げは関係性にヒビが入るぜ?

王様がそれでいいのかバロン?」


国王と族長。それぞれ集団の長を務めている者ではあるが、やはりキングはキングだ。怠惰な王様として、サボりたいという願望を臆面もなく口にしている。


面倒ごとを丸投げされるなど堪ったものではない。

とはいえ、もちろん見捨てることなどできないため、彼は壁際にいるバロンに水を向けた。


「んー、当然だめですよ。帰国後に仕事漬けになりたくなければ、全力で協力してくださいキング」

「くぅっ、キミもクイーン達と遊びに行っていれば……!!」


森の相談役であるケット・シーの答えは、もちろサボりなど許さないというものだ。恩がないことで勝ち誇っていた彼は、途端に崩れ落ちて地面に手をついた。


これで立場は逆転……とまではいかずとも、かなりライアンやクリフに有利となる。数的優位もあって、彼らは勝ち誇った顔で猫の王様を追い詰めていく。


「遊び行ってたらどうだってんだよ」

「命に関わるんだから、逃がす訳ねぇだろ〜」

「さて、私も役目が終わりましたし、我々は先に失礼するとしましょうか、ローズさん。これは長引きますよ」

「そ、そうだね」


3人の話がちゃんと同じ立場での議論になったのを確認すると、バロンは離席を提案してくる。仮にケット・シーの国と同じように依頼があったとしても、まだ先だ。

ローズはすんなり納得し、族長室を後にした。



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