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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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293-星の如き人

「はへぇ、暇じゃん。どうすっかなー」


やたらと存在感のある男は、どうやら迷子であるらしい。

地図を持っているのに読み方がわからないようで、変な顔をしてそれを丸めてしまう。


だが、それほどのダメさを発揮していながら、彼は情けないなどとはこれっぽっちもおもっていないようだ。

星屑のように煌めく髪を揺らし、薄っすら微笑みながら無駄に輝きを放っている。


ヒラヒラした服は、周りにいるアストランの獣人とは違って民族的な衣装ではない。

もちろん、その肌は獣のような毛に覆われたものではないし、明らかにライアン達と同じような余所者だろう。


おまけに、一度この国に来たことがあるライアンとも面識がないようである。彼を含めて、その男を見た彼らは瞬きを繰り返しながら顔を見合わせた。


「……なんか、すげー濃いのいるな〜」

「あれはボクよりヤベーやつだよ。断言できる」

「私としても、あれよりヤベー判定されるのは遺憾です」


この場に残る男3人は、みんな揃ってとぼけたような言動をしている。友人同士、かなり気が合うようだ。


とはいえ、濃いやつ、ヤベーやつ、ケット・シーよりヤベーやつというだけで話が終わってはどうしょうもない。

このメンバーで最も常識的なローズは、その認識に同意を示しながらもちゃんと必要な話し合いに持っていく。


「いや、そこじゃないでしょ。明らかに私達と同じ他所から来た人じゃん。頼りにはならなそうだけど……

話しかける? それともちゃんとしてそうな人に聞く?」

「あ〜……そういえばこの国の知り合いに、あんなようなやつの話を聞いたことあるな〜。友人にいるとかってさ〜」

「知り合いの知り合いなら、なにか聞けるかもってこと?

というか、ライアンって向かうべき場所わかっているの?」

「ん〜、族長のとこだろ? まぁ、一度行ったことはあるぜ〜? ほとんど外で狩りしてたから、ぼんやりとな〜」

「じゃあ、あの人に聞きましょ。道案内は頼めなそうだけど、族長さんがどうしてるとかくらいわかるんじゃない?」

「オッケーオッケ〜」


テキパキと話をまとめたローズにより、のんびりダラダラと歩いていた一行はあの男性に話しかけることになる。

キビキビという形容が似合う対応を受け、怠惰なキングはあからさまに嫌そうな表情だ。


そんな彼とは対照的に、ケット・シーらしくサボるがしっかり者ではあるバロンは拍手をしていた。


とはいえ、実際のところケット・シーの2人がどう思おうが、この旅はライアン達が加勢を頼むもので、選択権はない。

肩を落とそうが拍手しようが関係なく、彼らはまっすぐ綺麗な動きで歩み寄るローズ達についていく。


「こんにちは、お兄さん。少しお話いいですか?」

「ほへぇ? これはこれは麗しいお嬢さん。

オレっちに一目惚れしちゃったのかい?」


ローズが友好的に話しかけると、男は自然と煌めく不思議な髪を揺らして微笑む。開口一番で早速色目を使っていた。


しかし、当然そんなことを許すライアンではない。

彼女の執事であるヴィンセントに頼まれたという建前もあるので、目を細めてすぐさま庇うように前へ出る。


「おっと、悪いがこの子の隣は予約済みなんだ。

そういうのは他をあたってくれ」

「ちょ、ちょっとライアン……」


ライアンの発言に、ローズは服の裾を彼の引っ張りながらほんのりと頬を染める。ケット・シー組は後ろにいるとか関係なく、その言葉の意味を正確に理解できていない様子だ。


しかし、2人のやり取りを見た男はちゃんと理解したようで、それ以上踏み込んでいくことはない。

野暮なことは言わず、妙にキラキラしたオーラを抑えながら自分から話を戻した。


「おーやおや。これは失敬、やっちった。

まぁ、それなら別件か。オレっちに何か御用?」

「あんた、デネブだよな〜? ポラリスの友人の」

「はへぇ、ポラリスちゃん有名人だねぇ。

そして、彼女経由でオレっち有名人かな?」

「あんた個人は知らねぇよ〜」

「うんうん、それはなによりだ。

変に噂が立つと困るからね」

「そう思ってんなら、無駄にキラキラしてんじゃねぇよ〜」

「いやいや、これはオレっちにはどうしょうもないことさ」


無駄に輝きを放っている男――デネブは、妙なキラキラを多少抑えながらもまだ煌めきながら言葉を交わす。


ローズのことやポラリスという人物のこと、彼自身のオーラのことと、かなり鋭い口撃を受けているのだが、言葉の割にまったく気にしていなそうだ。


色恋沙汰には無関心、無名宣告はむしろ歓迎、キラキラしたオーラに関してはすっかり諦め、再度輝きながら髪を揺らしている。はっきり言って、話が進まない。


紛うことなきヤベーやつに、キングやバロンは心底嬉しそうだった。すっかり彼のペース飲み込まれていたライアンは、咳払いをしてから話を戻していく。


「別になんでもいいけど、とりあえずポラリスの友達なんだよな〜? 彼女が今どこにいるか知ってるか〜?」

「おいおい、オレっちが迷子なのを見てなかったのかい?

現在地すらわからないのに、彼女のいる場所なんてわかるもんか。他の人に聞きなよ、そんなこと」

「じゃあ、族長は最近どうしてる〜?」

「はぁ? 族長って何? オレっちはポラリスちゃん以外は知らないぜ? 興味ないからね。てか、君ら誰よ?」

「族長やポラリスの友人だぜ〜。久しぶりに来たから道案内を頼みたかったけど、無理そうだからやめとくわ〜。

じゃ、また会うことがあったらよろしくな〜」


散々コミュニケーションを取ってみた結果、収穫なし。

アストランにいながら、族長の様子どころかその存在すらも知らないという彼に、ライアンも呆れて話を切り上げる。


だが、デネブはまだ切り上げるつもりはないようだ。

何も知らないと白状したばかりだというのに、キラキラした服を揺らしながら引き止め始めた。


「待った待った、まだ話は終わってないよ?

ポラリスちゃんに会うんだろ? オレっち、星図は読めるけど地図は全くなんだ。ついでに連れてっておくれ」

「は〜? まぁ別にいいけどよ〜……俺達も案内頼みたい立場なんだってこと忘れてないか〜?」

「大丈夫大丈夫! 君はただ、オレっちに地図で今いる場所を教えてくれたらいいだけから」

「どういうことだよ〜……」


意味の分からないデネブの要求に、ライアンはうんざりした様子を見せる。とはいえ、決して無茶な頼みではない。

急ぎたいという思いはあっても、緊急事態とまではいかないこともあって、素直に地図を受け取って見始めた。


「俺達が入ってきたのが、多分ここで……

周りにある店の感じから……あ〜、ここじゃねぇか〜?」

「ほうほう、こんなところにいたのかオレっち」

「これで案内できるのか〜?」

「いやいや、案内はできないさ。ついでにガルズェンスって国と八咫って国の方向も教えておくれ」


地図で場所を把握する必要はあったのか、ただの気まぐれで読み方を習おうとでも思ったのか。

胡乱げなライアンに、彼はやはり案内できないと胸を張って宣言する。どこに誇る要素があるのか、理解不能だ。


しかし、一緒にポラリスを探すとなったのだから、今さら要求を拒否する理由もない。肩を落としながらも、何となくの感覚で求められた情報を伝える。


「多分、ガルズェンスがあっちで〜」

「八咫はあっちだよ」

「ほうほう。じゃ、天動だ」


ライアンとローズが指さした方向を見て、デネブは満足そうに頷き笑う。瞬間、彼の身を包むのは髪や服と同じく星屑のような眩い輝きだ。


しかも、その輝きは彼だけでなくライアンやローズ、他の2人に加えて、周囲の獣人にまでも影響を与えていく。

国民は慣れているのか誰も驚かずにいるが、今日来たばかりの一行はそれぞれ驚きの声をあげていた。


「なんか、ボク光ってるのなにこれ? めんどーだな」

「はははは! これまたアールが喜びそうな神秘ですね!

私としても、新しい物事を知れるのは興味深い」

「俺はレグルスで慣れてるけど、ローズは平気かー?」

「う、うん。少し驚いたけど、体調もだいぶ良くなったし」


驚く一行を気にせず、デネブは腰に手を当てて指を打ち鳴らす。光はより一層輝きを強め、世界は回転した。



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