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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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292-獣人の国

ケット・シーの国を出発した彼らは、やはり変わらずリューとライアン、フーとアブカンが交代交代で密林を駆ける。


キングの怠惰、クイーンのわがまま、ヴァイカウンテスの気まぐれな一人旅などのせいで、前回よりも進みは遅い。

だが、援軍を求めてはるばるやってきた彼らは、ついに目的地である獣人の国へと到着した。


より速く大人数を運べるため、今回もノーグを出発した時と同じように、リューとライアンが当番だ。


馬上でわちゃわちゃしていたクイーンとヴァイカウンテスは、目新しい土地に到着するや否や、早速飛び降りて目の前に広がる物珍しい街へとマイペースに向かっていく。


「おー、あれはなんだったかな。四角い箱……

えっと、石でできた箱……の、寝床……」

「あれこそは、人間が暮らす王宮ですわ〜!!

(わたくし)達も向かいますわよ〜、先生!!」

「ほーほー、眠いからおぶって」

「なんですって!?」


もっとも、ここは元々は人間であった獣人の国である。

街も少し風が強く乾燥していたり、全体的に厳かだったりする以外はフラーと同じような普通の街だ。


やはり、神秘の影響で異形に進化していようと、その暮らし方自体は簡単には変わらないのだろう。


国は防壁に囲まれ、チラチラと見えている内部にも所々防壁があるが、あくまでもそれは魔獣対策。獣人という強い種族的にも、平時では特に見張りなどもおらず、普通に素通りできそうだった。


そのため、ローズ、ヴィンセントなどの人間組は、特に新しい反応などは見せずに仲間の暴走にこそ驚く羽目になる。

現地の住人と出会うまでは案内役を務めるライアンも、苦笑しながら懐かしそうに目を細めていた。


「え、ちょ、ヴィーさん!?」

「クイーンも行っちゃったよ。あの子、すごく活発だよね」

「新天地にオレ参上♪ 新イベントはここ会場♪

速攻行動、誘われ暴走♪ 浮足従いオレも向かおう♪」

「アブカーン!」


クイーン達の先行に驚いている間にも、彼女たちに釣られてアブカンが直進を開始する。いつの間にか馬型になっているので、本当に手がつけられない。


道中でケット・シー2人も拾い、3人であっという間に獣人の国――アストランへと向かっていった。

この場に残されるのは、若干手を伸ばしているヴィンセントと他の仲間たち、彼の叫び声だけだ。


「……行ってしまった」

「あっははは、大変だな〜。この国はケット・シーの国とは違って警備とかも割とちゃんとしてるぜ〜?」

「笑い事じゃなくない……? はぁ、仕方ない。彼女達は俺とソンさんで追うから、お嬢のことはよろしくね。

隠れて見てる子は危険ないから」

「任されたぜ〜」

「……? なぜ、私もあれを追うのだろう?」


ほんわかと背後を見ながら笑うライアンに、ヴィンセントはため息をつきながらローズのことを任せる。

相変わらずお嬢様第一ではあるが、やはり家族のことは信頼していてそこまで狂気的でもなかった。


首を傾げているソンに加えて、陰鬱な雰囲気のリューとフーを引き連れて彼女達を追って駆け足で去っていく。


これで、多かったパーティもすっかり寂しく少数だ。

ライアン、ローズ、キング、バロンの4人は、他人事のようにほのぼの笑いながらのんびりと歩き始めた。


「や〜、あいつらどうなるかね〜。

ここの戦士に捕まらなきゃいいけど〜」

「ふぁ〜、クイーンなら自力でなんとかするんじゃない?

なんたって、うちの2番手なんだし。

このやけに強い風に飛ばされなきゃね」

「キング、問題は起こした時点で立場が悪くなるのですよ。

まぁ、だからといって止めるのは面倒なので、別にどうこうするつもりはありませんけど。なるようになるでしょう」


ライアンはこの国のトップと知り合いだからか、たとえ彼女達が捕まっても問題ない、というような雰囲気だ。

むしろ、捕まったら面白そうだとでも思っていそうである。


ここに残っているメンバーも、怠惰なキングにしっかりとはしているもののちゃんとケット・シーのバロン。

なるようになるとして、心から物珍しい他国の様子を眺めていた。


実際、東方の荒れた国でもないのだから、相当なことをやらかさない限り揉めることはないのだろう。

しかし、だからといってわざわざ刺激するようなものでもなく、できるのならもちろん回避したい。


そのため、ライアンのように知り合いがいるわけでもなく、ケット・シー達のように非常識でもないローズは、微妙な表情で口を開く。


「みんな適当すぎ……というか、怠惰? すごく刹那的だけど、知り合いの国だから大丈夫なんだよね、ライアン?」

「ん〜……少なくとも、ケット・シーの国よりはまともな奴らが揃ってるかな〜。族長、参謀、商人、農家……

みんな戦士だけど、ヤベーのは1人くらいだぜ〜」


とことこと歩いていく彼らは、誰に咎められることなく自然に防壁を越え、普通にアストランの中に入っていく。

獣人の国であるここは、そのほとんどが石造りでどこか遺跡のような趣さえあった。


建物の模様、大きさ、人々が着る民族的な衣装、そもそもの人々の多くが二足歩行の動物といった姿であること。

形式は似ているとはいえ、どれも特別で人の生活に慣れないキングはもちろん、ローズすらも興味深げだ。


だが、ヤベー奴ら扱いされたケット・シー組とては、やはりライアンの発言は聞き捨てならなかったらしい。

景色を見回しているローズを尻目に、もうアストランになど目を向けずに彼への不満をこぼしている。


「おやおや、わざわざ加勢してあげているのに、随分な言い様じゃないか。ボクたちへの感謝はないのかい?」

「なっはっは! 感謝はしてるけど、ヤベー奴らに変わりはねぇだろ〜? 2人どっか行ったし、2人ダラケてるし〜」

「別にヤバいやつではないと思いますけどね。

キングは国を放り出してサボりますけど、私は最低限のことはこなす上に個人の範囲です」

「ちょっとちょっと、王様を売るのかいキミは?」

「デュークの手伝いをしていたのは私ですよ?

迷惑を被っていたのですから、当然の権利です」

「おっとっと……まぁいいや。どちらにせよ、戦士の中に商人や農家が混じってるのも相当だと思うよ、ボクは」


話がズレて、味方同士で軽く言い合うケット・シー組だったが、すぐにキングが負けを認めたことで軌道修正される。


チラチラと周りを窺う彼が見ているのは、猫である自分と同じように獣っぽい見た目の人が二本足で立つ姿だ。

おまけに彼らは、流石に全員ではないものの、女子どもでも普通に武器を持っていた。


ケット・シーも同じ神秘そのものである生き物だが、彼らは獣らしくのんびりと生きているだけ。その上でちゃんと武装したり訓練しているのは、なるほど特異に映ることだろう。


店などからいい匂いが流れてくる街の中でも、ちょいちょい視界に入ってくる訓練の光景。それを見て、ケット・シーの身の潔白よりも獣人のヤバさに論点をズラしていく。


「まぁ、たしかに他の国……人間の国と比べても明らかに戦闘民族ではあるからな〜。とはいえ、全員じゃねぇし」

「でも、農家は違うでしょ農家は。

なんで農家が族長と並んで挙がるのさ?」

「なっはっは! うん、やっぱヤベー奴らかもな〜。

ただ、話はちゃんと通じるから安心しろ〜」

「それはもういいんだけど、あの人……」


キングの指摘を受けて、ライアンはついにケット・シーだけでなく獣人もある程度ヤバい人達だと認めた。

しかし、最初にこの議論の原因になっていたローズは、とうに他のことに気を取られている。


彼女が見ていた方に視線を向けると、賑わう街と人々の中でもひときわ異彩を放っていたのは……


「へいへ〜い。ここはマジにいいとこだなぁ!

だけど、ここどこだかわかんないぜ。地図はもらったのに、平面的すぎて見方がわからないんダケド? ……なんでぇ?」


染めた訳でもなさそうなのに星屑のように煌めく髪と、同じように派手で、無駄にふわふわと揺れている服。

それらを十分すぎるくらい目に焼き付けてくる、やたらと存在感のある男だった。




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