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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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289-飲まず、食わず、寝ず

自粛した方がいいかなとも思いましたが、うちの周囲に影響はなかったのと、見ている配信者さんも今日の12時から解禁みたいだったので、いつも通りにやっていこうと思います。

地下に落とされたクロウ達が、審判の間で奮闘している中。

他国へ向かったライアン達が、仲間集めをしている中。


クロウ達とは違って地上にいて、ライアン達とは違って神秘の森の中にいる海音は、何日も何日も戦い続けていた。


相手は変わらず、オスカー・リー・ファシアス。

円卓の騎士で序列1位である、規格外の騎士だ。

しかも、2人はただ戦っているだけではない。


海音はとりあえず斬って解決する脳筋で、格上であるはずの鬼神(きじん)とも単独で複数人相手にできる超人。

オスカーは兄や姉のように全知全能ではないのに、息をせず寝もせずでも9日は戦い続ける超獣。


この2人は、ただ生きるだけなら飲まず食わずでも問題はない神秘の中でも、明らかに異常な者達である。

そんな彼女達が、普通の思考回路を持っているはずがない。


オスカーの相棒である馬の神獣――エポナが人型になって飲み食いしたり眠ったりしながら見守る中で。

彼女達は飲まず食わずどころか、眠ることや一息つくことすらせずに戦い続けていた。


「はぁ、本当にどうしたらいいんだろうなぁ。

うち、一応オスカーさんのお目付け役なのに、まったく抑えられてないや。森は女王様が再生させてるけど……」


かなり離れた場所で観戦しているエポナは、すっかり諦めた様子でお茶を飲みながら困り顔でつぶやく。


周囲にあるのは美味しそうな香りを漂わせている食べ物。

明らかに、オスカー達を匂いで釣ろうとしていた。


だが、オスカー達はまったく釣られることなく戦い続けている。野生の神獣などはやってくることがあるが、肝心の彼女達はまったく気づいていなかった。


とはいえ、この場合は彼女達が戦闘狂だとかそういうことはあまり関係ない。気づかれていない原因は、大部分が単純に匂いが届いていないからである。


つまり、距離がありすぎる。

オスカーと海音の戦いは、ただ斬ったり突いたりするだけで地形を変えてしまうレベルのものなので、エポナが近づけずにいたのだ。


「これ、後で怒られるのかな?

でも、あれ近寄ったら普通に死ねるんだけど」


現在地は城や集落から遠く離れ、人気のない森の中。

本来ならば、木が乱立しているのだから木など高いところに登らなければ見通せない場所である。


しかし、彼らが暴れているお陰でクレーターができており、木に登るまでもなく戦闘が見えていた。


その目に映るのは、この世の終わりかのような死闘。

どこからか川が流れ込み、頻繁に崖やクレーターが生まれ、なぜか燃えている中、まったく疲れた様子を見せず斬り合う規格外の戦士達の姿だった。


エポナも神獣ではあるが、あくまでも円卓の騎士の足となる馬の神獣だ。数いる騎士の相棒の中でも、特別戦闘能力に秀でた者という訳でもない。


お目付け役として、オスカーを止めるべき立場にはあるものの、無理したら巻き込まれて死にかねないだろう。

役目と危険の狭間で、彼女の心は揺れている。


「……とりあえず、持っていけるもの持って見に行こうかな。

身軽なままなら、きっと危なくなっても逃げられるよね」


一度たりとも大人しくならない戦場の嵐は、少しずつ彼女がいる場所から離れていく。向こう側では崖が生まれ、手前は段々と再生していき、視界が狭まっていた。


たとえ止められなくても、放置していたら叱られるのは確実だ。かさばらないものを持ったエポナは、短い髪を揺らしながら相棒の元へ向かう。




~~~~~~~~~~




海音が放つのは、神秘の水を纏った世界すら斬り裂く斬撃。

一週間以上経っても、飲まず食わず寝ずでまったく休むことなく戦っていても、常に最高の威力で森を破壊している。


それに対して、オスカーが放つのはただの斬撃だ。

全知全能ではないどころか、特殊な力は何一つとして持っていない彼は、ただその凄まじい身体能力だけで暴れまわり、森を破壊していく。


"天羽々斬-神逐"


「私がー、斬る!!」


ぶつかりあった斬撃は、周囲を飲み込み森を平野に。

崖やクレーターを無数に生みながら、少しずつ移動していた。


「くっ、あなたはどうやったら倒れるのです?

何度斬っても、勝手に治るじゃないですか」


森を八つ裂きにし、オスカーすらも八つ裂きにした海音は、自身の腹に空いた穴を水で塞ぎながらぼやく。

彼女は彼に対して文句を言っているが、自分だって人のことは言えない。


水で包まれた傷は、別に回復の技という訳でもないのに勝手に治っていた。しかし、より異常だという話なのであれば、たしかに相手の方が異常だ。


オスカーは海音の斬撃によって肩口から大きく斬られ、腕が落ちかけていたのだが、そんな状態からでも無理やりくっつけて治している。


神秘の水で覆ったりしてはいない。

単純に、反対側の腕で八つ裂きにされた数カ所の傷をまとめて押さえ、力尽くでくっつけていた。


「あっはっは!! 君だってそうじゃないか!!

その水はただの水だろう? それでも治るのは、私と同じで力を込めているだけに他ならないはずさ」


傷を閉じるだけで治したオスカーは、一度地面に突き刺していた槍を回収しながら笑いかける。

よりおかしいのは彼だとしても、結局どちらもやってることがおかしいことに変わりない。


近づいてきたエポナが料理の匂いを漂わせている中、彼女のドン引きなど気にも留めず会話は続く。


「お互いに、即死レベルの攻撃じゃなければ倒れない……と」

「だけど、お互いにそんな攻撃は防ぐからねぇ。

これは終わらない戦いになりそうだ」

「実際、もう何日も戦い漬けですし」

「おや、お腹空いたのかい? それとも眠い?

降参するなら休んでもいいよ?」

「こちらのセリフです。雨が降ってきましたし、水の神秘ではないあなたの方こそ休みたいのでは?」


エポナは周囲を飛び回り、必死に休憩を誘おうとアピールしているが、彼女達の会話は止まらない。

お互いに強気な態度を貫き、いつの間にか降り始めた雨に手を伸ばしている。


海音が天を斬ることで空には雲一つないのだが、海音が天を斬るせいで空気中には水分が貯まっていたようだ。

天気は一瞬で晴れから豪雨になり、動きを阻害しつつ視界を奪う。


だが、規格外の騎士は異常気象になど動じなかった。

槍で雨を吹き飛ばすどころか、仁王立ちしたまま体温だけで雨を蒸発させていく。


その光景を見た海音は、自分はびしょ濡れになって和服を肌にピッタリ張り付かせながら肩を落とす。


「……あぁ、そうですか。雨も関係ないと」

「あっはっは、もちろんだよ!! 私達は大自然そのものである神秘だからね。たかが雨にどうにかできないとも!」

「……私も、別に視界は問題ありませんし、水ならむしろ戦いやすいとも言えますが、あなた……はぁ。まぁいいです」


休まないどころか雨すら無視する彼に、海音も若干うんざりした様子を見せる。とはいえ、それも一瞬だ。


木から木へと飛び移りながら、雨によって料理の香りがかき消されることに騒いでいるエポナとは違って、すぐ切り替えていた。


仁王立ちしている規格外を前に、侍は刀を斬り払う。

和服に染み込んだ水は刀を伝い、力を込めるまでもなく神秘的だ。


最小限の力で水を纏った刀は、そのまま鞘に納められ……


"天羽々斬-神逐"


一瞬の煌めきの後、天を真っ二つに斬り裂いた。

もちろん、雨などその斬撃の前にすべて消し飛ぶ。

動じないのは、ワクワクとした様子で槍を振るうオスカーだけだ。


「私がー、斬る!!」

「きゃーっ!?」


超人と超獣は再度ぶつかり合い、木々の間を飛び回っていたエポナは吹き飛ばされる。彼女達は決して休まない。

飲まず食わず寝ずで、状況が動くまで延々と戦い続けていた。




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