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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
326/432

288-全知の望む未来

明けましておめでとうございます!

今年も化心、そしてティエラムンド〜誰かの心の物語〜をよろしくお願いします!

(しれっとシリーズ名を変えていますが、元々ひとまずまとめただけだったこともあって、そこまで変化はなかったりします。〜の中は変わっていませんし。

一応、この名前を出したからには、この先変わることはないと思います)


そして、報告というか告知?です。

約一月の休載があったのと、おそらく3元日は暇だと思うので、少し多めに投稿したいと思っています。


これは起きれないと思うので予約ですが……

まぁ、ぼちぼち頑張っていきます!

「も〜おっ、バカバカバカバカバカヌンノス!!

あいつのせいで無茶苦茶よ! いきなり現れたお兄ちゃんも、なぜかあの人を捕まえちゃダメだーって言うし!!」


クロウ達が黒竜と対峙することになった数日前。

自堕落モードの女王エリザベスは、玉座の間の奥にある自室で大量のクッションをポカポカ殴りながら荒れていた。


周囲で見守っているのは2人の神獣。

相棒の神馬であり世話役執事の男性――ダグザと、ラフな格好をした居候中の女性――フォーマルハウトだ。


常にしっかりしているダグザはもちろん、今は引きこもって円卓の世話になっているフォーマルハウトも、いつにも増して女王らしからぬ少女に苦笑している。


しかし、元々王の仕事などしたくなさそうにしていたので、ここまで荒れてしまうのも無理はない。


せっかく威厳を保って円卓の騎士を引き連れ、罪人を包囲したというのに、ケルヌンノスやフェイによって妨害、撤退させられたのだから。


もちろん、あの獣神は最初から審判の間――ティタンジェルにいる者なので、仕方ないことではあるが……

実の兄にまで邪魔されるというのはまた別だ。

相当に腹立たしいことだろう。


愚痴の内容からある程度起きたことを察した2人は、完全にあやす体勢になって笑いかけていた。


「エリザベス様、フェイ様が動いているのならば、安心して任せても良いのではございませんか?」

「そうだよ女王サマ。仕事嫌なんだろ? 好きにだらけな」

「そーいう問題じゃないでしょ!? せっかくあたしが頑張ろうとしてたのに、邪魔されたのが酷くないかって話!!」


お菓子や飲み物のトレーを持ってくるダグザの言葉に、彼女は顔を埋めたままクッションを投げつける。

どうやら、この対応はお気に召さなかったらしい。


的を見ずに投げられたクッションは、戦闘能力にも秀でている女王の力によって、真っ直ぐ飛んでいった。

とはいえ、彼もプロの執事だ。


山のようにものが乗っているトレーを、まったく揺らすことなくひょいひょい避けて近づいていく。

彼とトレーが近づいたことで、美味しそうな匂いは女王の元へ。ピタリと動きを止めて上目遣いで見上げる。


「えぇ、その通りでございます。ですから、このように私達が労います。結果の心配はいりませんので、気が済むまで」

「あぁ、好きなだけ食べるといいさ。

私も、いくらでも相手してやるから」


ようやく顔を出した主に向かって、彼は食べ物を差し出す。

同意するようにフォーマルハウトも言葉を続け、エリザベスはすっかり機嫌を直してお菓子を食べ始めた。


ダグザは近くに控え、フォーマルハウトは彼女と並んで飲み食いしている。直近に審判の間で大規模な裁きが行われたとは思えないような、どこまでも穏やかな日常だ。


「えへへ〜、仕方ないなぁ。でも、まずはお話聞いて?」

「いいよ。詳しく聞きたいと思ってたところだ」

「暇人だもんねぇ」


宣言通り話を聞くことになったフォーマルハウトは、唐突に攻撃力の高いことを言われて苦笑する。


だが、事実として彼女はほとんどこの部屋から出ずに引きこもりをしているので、何も言えない。

特に反論せずに話を聞く体勢になり、エリザベスも頬を膨らませながら愚痴に入っていく。


「まずさ? あたしはみんなを連れて……」


エリザベスと円卓の騎士達が囲ったのは、ティタンジェルにあるケルヌンノスの神殿だ。しばらく待つと、出てきた罪人達と対面することになり、すぐに戦闘になる。


そこまではいい。裁きのために来た円卓の騎士なのだから、役目通りの行動で望み通りの展開だと言えるだろう。

しかし、戦闘が進むとケルヌンノスが首を突っ込んできた。


これが最初の愚痴である。

彼は単独で円卓の騎士のほとんどをなぎ倒し、エリザベスが罪人を倒しているのも気にせず退路だけを作った。


その後も、ウィリアムと雷閃の激闘の真横でエリザベスとの死闘を繰り広げているのだから、もう無茶苦茶だ。

とてもじゃないが、手がつけられない。


おまけに、散々獣神に手を焼かされた後は、あとからやってきた兄の意味不明な注意を受けることになった。

これが2つ目の愚痴である。


エリザベスとフェイは兄妹だが、もちろん以心伝心だったり絶対的な理解者だったり、とまではいかない。

自由に森を暴れ回っているオスカーよりかは一緒にいるし、仲もいいが、普通に喧嘩をすることだってもある。


とはいえ、アヴァロンの住人として、同じ目的で動くべきなのは当然のことのはずだ。それなのに、彼はその場に残っていた雷閃やケルヌンノスを捕らえることを許さなかった。


アヴァロン国の女王で、神秘の森――ミョル=ヴィドの主である妹に、その役目である裁きの執行を認めなかった。


もちろん、彼はこの国や円卓に仇なすつもりはないのだろう。明らかにおかしな行動をしているが、それでも。

エリザベスと同じく、リーの名を持つ者なのだから。


だが、それだからこそ彼女をより苛立たせ、愚痴らせているとも言えるのだが……


「は〜、すっきりした! もう何でもいいや。

どうせお兄ちゃんがなにか企んでるんだろうし、なるようになるでしょ! あたしはもう知ーらない!」


好きなだけ愚痴をこぼしたエリザベスは、しばらくしてからようやく満足したように倒れ込みクッションを抱きしめる。


ダグザのお菓子、軽食、飲み物。

フォーマルハウトの愚痴を聞く姿勢、相槌。

それらを存分に堪能したことで、したいように自堕落に生活することに決めたようだ。


彼は執事らしく側に控えているだけで、なにも言わない。

その代わり、ずっと友人として話を聞いていた彼女は、どこか遠くを見つめながら首を縦に振っていた。


「はは、やっぱりあんたは潔いね。

ま、もうしばらくはゆっくりしてていいんじゃないかい」

「そうねー。どうせ前回のメンバーは休ませないとだし、今はヴィヴィアンがいってるし、仕事は丸投げする〜」


女王としてはあまり褒められたことではないが、執事であるダグザはなにも口を挟まない。

暗に二人共からサボりの同意が得られたエリザベスは、後ろ髪を引かれることもなくもふもふに埋もれた。


広々としたファンシーな部屋には美味しそうな匂いが充満し、3人の穏やかな呼吸だけが流れている。

そんな中、外からは騒々しい声と足音が響き始め……


「エリー♡ お疲れ様〜♡ 私もとっても頑張ったわ!

お互いに疲れを癒やすために一緒のベッドで‥」


テンションの高いアンブローズが部屋に飛び込んできた。

彼女はダグザやフォーマルハウトになど目もくれない。

真っ直ぐファンシーな部屋を突っ切ると、迷いなくだらけているエリザベスに抱きついていく。


「嫌に決まってるでしょ!? 静かにしてよローザ!!」

「あぅっ……♡ 連れないあなたも最高に可愛いわ♡

でも、たまにはデレてくれたって‥」

「鬱陶しい!!」


すぐに引き剥がそうとするエリザベスだったが、宮廷魔術師は我を忘れているのか、まったく力負けしていない。

手を掴まれても顔を押し退けられても、ピッタリ愛しの女王に張り付いてじゃれついていた。




~~~~~~~~~~




「森の外で起こっていることはわからないけど……」


神秘の森、ミョル=ヴィドにある特に高い木の上で。

エリザベスの兄である少年は、風に服を揺らしながら眼下の光景を見つめていた。


現在、アヴァロン国で行われているのは、クロウたち罪人による逃走劇と黒竜との対峙、海音とオスカーによる神秘の森の大破壊。


加えて、相変わらず審判の間で暴れ回っているルキウスや、暴走気味のオリギー、バロールが起こす騒乱。

この森の中限定で全知である彼は、目に見える形で行われるすべてを察知し、考えを巡らせている。


「クロウ君は、決して1人でここに来た訳じゃない。

きっかけはきっと、森の外からもたらされる。

もしかすると、その流れを止めるのが僕の役割なのかもしれないけれど……この変化は悪手なのかもしれないけれど……

たとえ全知に近い僕でも、最善なんてわからない。

この千載一遇のチャンスは、ちゃんと動かそう。

あの男の意志ではなく、この僕の意志で。

僕は"楽園を守る棘(モルガン)"。物語の潤滑油」


突然、ひときわ強い風が吹き、彼の髪はかきあげられる。

舞い散る葉は道となり、天上の果実へと続く証だ。

その目はまるで希望への道標となった光を追い、遥か高みを見上げていた。


「君はきっと、夢を見る。

暴禍の獣(ベヒモス)を殺せと説く男の夢を。

暴禍の獣(ベヒモス)から逃げろと懇願する少年の夢を。

惨状を思い出せと叫ぶ男の夢を。

苦しまずに幸せになってほしいと願う少年の夢を。

やつは今、たしかにこの国にはいない。

だが、やつはきっと、もうこの国にいる。

君を見守るのは時の幻想。ターニングポイントは、きっと今だ。幸か不幸か、時計の針は動くだろう。

それが彼らの物語、それが彼女の見た歴史」


言葉を紡ぎながら、小さな紳士は風に乗って落ちていく。

ひらひらと、ふわふわと。たしかな光へと手を伸ばして。


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