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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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284-傲慢な食事場

「おーい、グリムシープ共!! 玉座を運んでくれー」


傲慢な態度で殲滅を口にしたアーハンカールは、豪華な椅子から立ち上がると、またも羊たちに命令して彼らを動かす。

この場にいないから聞こえない、などというオチはない。


一度は闘技場から逃げ去っていたはずのグリムシープ達は、死に物狂いで戻ってきて玉座を邪魔にならない場所へと運んでいった。


ガノから聞いた話によれば、彼は獅子の神獣とのことなんだけど……こいつ、なんで羊に命令できてるんだ?

オリギーは同じアルゴラシオンという羊の種族だったけど、こいつらは獅子と羊で、言葉通り捕食者と餌なんだよな?


最初のやつとか自ら丸焼きになりにいってたし、どう考えても自然の中で行われるようなことじゃない。

傲慢、獅子としか聞いていなかったが、もしかしたら……というか確実に他にもっと聞くべきことがある。


「おい、俺らに何か教えとくことはないか?」

「能力でしょうねぇ。彼は、遥か東方のタイレンという国に生息している……たしか、シュタリオンという神獣です。

その神獣は本来、鋼の肉体のみで戦うらしいのですが……」


重要な話を先に聞いていなかったことから言葉が強くなったが、俺はいつも通りガノに審判の間の情報を訊ねる。


すると彼は、特に悪びれる様子もなくアーハンカールという神獣について言うべき情報を明かしていく。

正直、彼と会うまでに教えておいてほしかった。


「ですが、何?」

「先程も言った通り、彼は実験体です。いや、彼に限った話ではありませんねぇ。審判の間で守護者をしている神獣は、もれなく全員が実験体です。かつて外からやって来たとある科学者は、彼ら七頭の神獣で実験を行い、彼らに暴禍の獣(ベヒモス)とハーミル、2人の神秘の力を与えました。

今では干渉もなく、彼らもただ守護者という役割に準じていますが、現在まで標点は残り続けています」


なぜか最初からは教えてくれなかった彼だが、一度教えると決めてしまえばかなり詳しく教えてくれた。

アーハンカールも椅子に座り直して聞いているので、改めて俺もじっくりと聞く態勢になる。


しかし、彼が教えてくれたのは、たとえアーハンカールへの警戒を続けていても意識が持っていかれてしまう内容だ。

どっちにしろそうなっていた気がするし、じっくり聞くどころかもうそれ以外考えられない。


オリギーやアフィスティアなどを含めた、審判の間の守護者は全員が科学者の実験体……規模がおかしくないか?


科学者というからには、多分その人物はガルズェンスの人間だと思うけど、生体実験をやっているというのも驚きだし、他国でそんなことをできているのも疑問だ。


かなりグレーな実験内容だろ、これは……

流石にニコライ達ではないよな?


おまけに、全員が実験体というだけでも衝撃的な話なのに、その実験の内容がふざけてる。

ハーミルという名前は初めて聞いたが、暴禍の獣(ベヒモス)は俺が絶対に殺さなければいけない相手だぞ……!?


すべてを理解したとは言えないし、普通に意味の分からない単語もあったけど……少なくとも、確かにこの国には暴禍の獣(ベヒモス)の痕跡がある。


全知だというフェイはいないと言っていたけど、やっぱり可能性は高いんじゃないか……?


「……標点?」

「おっと、話がズレましたね。要するに、彼には種族の能力以外にも力がある。万物を我が糧に(プライド)……

暴禍の獣(ベヒモス)の技と名前を同じくする彼は、目の前のすべてを食物とする。岩を喰らう、風を喰らう、植物であれば毒でも喰らう、動物ならば捕食者としての優位を得る。

さらにその発展なのか、格下ならば命令すらできますよ」

「それがさっきから羊に命令してるやつか……」


アーハンカールの力を知ることができたのは大きい。

だが、俺としては正直、彼を通じて暴禍の獣(ベヒモス)の能力についても知れたことの方が重要だ。


以前戦った時には使われなかったと思うけど、それでも漏れ出た力なのか若干戦いにくかった。

ここで対策を考えられるとしたら、前回よりはまともな戦いになる気がする。


……というか、なってもらわないと困るな。

俺には村が滅びた時の記憶がないし、状況証拠以外では別に暴禍の獣(ベヒモス)が滅ぼしたという確証もない。


比較的盲目的な復讐には囚われていないと思うけど、そもそも意識していると自体がおかしいくらいの薄い関わりだ。


それでも……俺の中にある何かはやつを殺せと叫んでいる。

直近の危機や、単純にみんなと過ごす日々を蔑ろにする程の熱い思いはないけれど、俺はあれを殺さないといけない。


「ところで、君はなぜこの話が終わるのを待っている?

情報の共有など、君にとっては不利益しかないだろう?」


ガノがアーハンカール及び守護者についての話を終え、俺がその内容について考え込んでいると、すぐ戦おうとしていたセタンタを抑えていたヘズが問いかける。


俺も話に集中するために気にしないことにしていたが、話が終わった今となっては見過ごせない。

もちろんありがたくはあるけど、単純に不気味だ。

パッと視線を玉座に向けて、彼の答えを待つ。


「んー……不利益? もしかしておれに勝つつもりでいるの?

あはは、それは無理だよ。きみ達じゃあおれに勝てない。

勝てないんだから、別に待っても不利益にはならない。

不利益にならないんだから、せめてもの慈悲として?

まぁ、仲良くお喋りする時間くらいはあげるべきじゃん?」

「あはぁ、オリギーより大人しいのにちゃんと傲慢だな〜。

ちなみに君は、僕にも勝てるの?」


アーハンカールの言葉を聞いて騒ぎ出すセタンタだったが、いつの間にか前に出ていた雷閃を見ると、すぐに黙り込む。

後ろを確認してみると、直前まで彼と一緒にいたレーテーは、1人で闘技場の入り口付近に立っていた。


……あの人、なんであんなところにいるんだ?

雷閃と一緒にいた時はもっと入り口から離れていたし、もう少し俺達にも近かったはずだけど……


「じゃあ、逆にきみは自信ある? おれに勝つ自信がさ」

「負けない自信はあるよ」

「あははは、おれもー。残念ながら、あんたに負ける気はしないんだよな。結局のところ、おれにはおれ自身の身体能力しか敵を打ち倒す力はない。だから変にしぶとい能力を持つやつとか、物量で攻めてくるような相手は苦手なんだよ。

けど、あんたは違うでしょ? 同じ土俵なら負けはないね」


雷閃の答えを受けて笑う彼は、やはり傲慢だ。

オリギーみたいな重圧がある訳じゃないのに、彼という存在がもう傲慢を体現している。


つらつらと苦手な相手を明かすという余裕、負けないと断言できる自信、一対七でも変わらない落ち着き。

あらゆる方面で静かな傲慢さを発揮していた。


多分彼は、俺達の全員に捕食者として優位を得るんだろう。

羊たちみたいに逃げられないなら終わりだけど……


ほとんどは格下として命令されるとしても、雷閃ならそうならないという確信があった。俺も運はいい。実際に彼の強さだけ体感してから、運良くでもなんでも逃げ切ってやる。


「まー、だからそこのきみ達は嫌いなんだけどさ?

普段のルキウスとは違って、面倒な集団が来たもんだよ」


"インパクトボイス"


俺達の後ろを見てつぶやく彼に、俺が反射的に振り返ると、そこにはレーテーへと襲いかかっていく、影から飛び出してきた人物の姿があった。


だが、当然音で察知していた様子のヘズはその手に握られていたナイフを音の振動で弾き、レーテーへの襲撃を防いでいる。


ボロ布を被っただけのような、実に身軽そうな黒装束を着ている襲撃者――ミディールも、ナイフを失うとすぐに離脱していく。アーハンカールが嫌がる相手……か。


「あらら、どっちかだけでも死ねばよかったのに。

まぁいいや。始めようって言ってから時間経ったね。

流石にそろそろ食べていいかな? 例えばそう、きみを」

「……!?」


レーテーの無事とミディールの撤退を見たアーハンカールは、再び椅子から立ち上がるとその姿をくらませる。

次の瞬間、彼は俺の目の前で拳を振りかぶっていた。



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