間話-とある書物の記述➀
クロウ達を見送ったヘズは、彼らの背中が見えなくなると大図書館に戻っていく。
音を聞き、迷うことなくシルの元へと。
そして静かにそばまで近づくと、ヘズの耳に届いたのはいつもよりも分厚い本を開く音。
何年も聞かなかった本の音だ。
「珍しいですね。その本に目を通すなんて」
「そうじゃの……」
ヘズが思わずといった風に話しかけると、シルは悲しげに呟く。
彼女の手にあるのは、彼女が生まれてからの記録。
この世界の、彼女が知る全ての情報。
「覚悟を問うならば、それを読ませればよかったのでは?」
「彼らが求めていたのは力。今は余計なことは言うまいよ……」
シルはそう言うと、そのまま書物をめくり続ける。
パラパラ、パラパラと……
序章
この星のかつての文明が滅びたのは、何故だったのだろうか。
もはやその片鱗すら見せぬ、神話のような大いなる疑問。
そしてそれは、決して解決することのない永遠の謎である。
だがその天変地異の後に、さらに人類が数を減らした理由なら分かる。
それはこの神秘の時代の歴史。
叡智が記録する、可能な限りのすべての記録……
……
私は最古の神秘ではないが、この世界の観察者として、この世界を書き記す。
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一章 創世記
……
現代にも、かつての大厄災の時代を生きた者はいる。
世界にたった数人しかいない、最古の神秘の生き残り。
この時代の創世記以降の、その全てを知るであろう者達。
そんな彼らは数千年前、人を恨む獣と戦っていた。
彼らは人が神秘と成る以前から、いち早く神秘と成った獣達である。
人類は彼らに何をしたのだろうか。
かつての文明の形跡がほとんど失われている現在、推察すらも覚束ない。
だが確かに彼らは存在し、人類に牙を向いた。
彼らは現代にはほとんど伝わっていない。
口にすることすら忌み嫌われた、戒めの獣。
人類の歴史は、まずはじめに彼らとの戦いから始まった……
……
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二章 英雄
……
最古の神秘たる彼の者は、大厄災から人類を守るため、人類の守護者となった。
それは私が生まれるより遥かに昔で、どのような道のりだったのか、実際には分からない。
ただ一つ言えることは、あの者はただひたすらに人類の存続を願っていたということ。
現在の形はどうあれ、あの者は確かに人類を2度目の滅びから救った。故に人類の英雄として、世界の維持を……
……
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……
1人の英雄がいた。かつての大厄災を鎮めた英雄だ。
だが、彼は大厄災と戦った時点で世界を憎んでいたと言う。
何故世界を憎む彼は、世界を救ったのだろう。
彼は何を思って生きているのだろうか……
……
もはや何一つ信じない彼は、救世の英雄。
しかし、彼を知るものはほんの一握り……
……
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……
1人の少年がいた。なんの変哲もない、心優しい少年だった。
だが、だからこそ彼は、本当の意味で聖人だった。
ひたすらに誰かの幸せのために奔走した。
大厄災に、その身一つで立ち向かった。
それは、己を顧みない蛮勇。
共に生きた全ての者を、悲しませた凶気。
彼は、英雄だった。
英雄に、なってしまった。
ただの少年は、誰に知られる訳でもなく、誰に感謝されるでもなく、永遠にその身を犠牲にし続けた……
……
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……
多くの勇士が立ち上がった。彼らは命を懸けてこの世界と戦った。
彼らはみな、英雄と呼ばれるべき素晴らしき先人だった。
だがほとんどの者が命を散らし、後世に残る記録はわずか。
私があと少し早く存在していればその全てを語り継げたが、残念ながらそれは叶わなかった。
せめて、私が集められる限りの彼らの勇姿をここに書き記す……
……
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1人の少女がいた。とても儚い人生を歩んだ少女だ。
だが、その短い一生でも世界を愛していたと言う。
彼女は何を見て生きたのだろうか。
彼女は何を思って人生を終えたのだろうか。
……
もはや誰一人いない世界で彼女は、神話を詠う。
しかし、それを聞くものはほんの一握り。
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支配の国ガルズェンス
彼の国は氷に閉ざされた。氷雪に生き方を支配された。
神秘は万能なれど全能ではない。
その地は何もできずに、ただ凍えた。
それは大厄災すら上回る、この星の神秘……
……
だが、それに抗い始めた者がいる。
かつて文明を掘り起こし、科学の恩恵を再びこの地へと。
万年氷はいずれ溶ける。開かれた国が見るのは恵みか、乾きか。
選択の時は遠くない未来に……
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