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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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278-師弟の奏でるカプリチオ

「どわぁぁぁぁー!?」


空中にいるセタンタが砕いたルーン石の数は、今までにないくらいに多数だ。炎、光、水、風と変わらずいくつもの属性が吹き荒れていることには変わりないが、その属性一つ一つでも何個もある。


炎だけでも、ヘビのように動くもの、岩石のような塊、剣が降り注ぐかのような鋭利な雨、壁のように逃げ道を塞ぐものと何種類もあるくらいだった。


俺はたしかに運がいいけど……こんなに無差別広範囲攻撃をされたら運なんて関係ない。ルーン魔術やそれで巻き上がった砂埃でボロボロになりながら、全力で逃げる。


死ねと叫んだ割に、なぜか死のルーンは使っていなそうではあるけど……どっちにしてもこんな爆撃を受けたら死ぬ!!

しかし、俺と同じくルーン魔術の爆撃に曝されているはずのヴィヴィアンは、焦るどころか楽しげに笑い始めた。


この人が神獣なのか聖人みたいな人の神秘なのかは知らないが、長生きなのは間違いない。トチ狂ってる。


「キャハハっ! いいじゃんいいじゃん、楽しくなってきたじゃん!! 久しぶりに遊んでやりたいとこだけど……」


空中をふわふわと舞いながらルーン魔術の爆撃を避ける彼女は、ニタリと笑うとなぜか地面に降りてくる。


この状況で笑ってられるのも信じられないし、楽しくなってきた、遊んでやりたいとか正気とは思えない。


というか、久しぶりってことは知り合いなのか……?

だったらどうにかしてくれよあいつを……!!


「おい、呑気なこと‥って、なんだなんだ!?」

「今はあんたよりこの子にちょっかいかける方が面白そうなんだよねぇ。ってことで、お手を拝借」


俺がヴィヴィアンにどうにかしてもらおうと考えていると、彼女はなぜかツカツカとこっちに歩いてきて、流れるような動きで俺の手を取る。


もちろん、彼女がそれだけで終わることない。

彼女は俺が動けないでいるうちに腰に手を回し、勝手に優雅なステップを踏み始めた。


……あまりのことに混乱してしまい、遅れて気がついたけど、明らかにダンスをさせられている。


いやいや、さっきも初対面なのにいきなり押し倒してきたし、この人の距離感どうなってんだよ……!? 

バグり散らかしてるだろ、マシで……!!


おまけに、宙を浮いているセタンタから放たれるルーン魔術は10どころか20は超えており、土砂降り状態だ。

そんな中で無傷で近付いて来られたのもどうかしてるのに、さらにダンスだと……!? マジで、トチ狂ってんな……!!


「おいおいおい、待て待て待て!!

なんだ、これは!? おい……なんだ、これは!?」

「ぷくくっ、あんた語彙力ねぇなー。

もちろんダンスだろ、他に何に見える?」


俺が混乱しながらも問いかけると、彼女は足を蹴って力尽くで体勢を低くさせたり、手を引いて体を急回転させてきたりしながら笑いかけてくる。


……そう、ダンスだ。……うん、これは紛うことなくダンスだ。

だけど、それをなんで今やってるんだとかそれよりセタンタをどうにかしてくれとか、そういうことが知りたい!!


多分、ルーン魔術を避けるためという目的もあるんだろうけど、場違いすぎだし心臓に悪いぞ!? あと、自分以外の被弾にも気を配れるとかめちゃくちゃ器用だな!!


その器用さを他に活かしてくれ!!

例えば、さっさとセタンタを大人しくさせるとか、さっきのようなズレたコミュニケーションを取らないとか!!


「……死ね!!」


色々言いたいことがこんがらがった結果、俺の口から出てきたのはセタンタと同じようなセリフだ。

もちろん、本気で死ねって思ってる訳じゃないけどな!!


彼女もそれがわかっているのか、ルーン魔術に注意を払って俺の全身の位置を誘導しながらも、愉快そうに笑っていた。


「キャハハハ、俺と関わるとみんなそうなるなぁ。

あいつもさ、口癖みたいに死ねって言うだろ?」

「あんたのせいかよっ!? ってか、どういう関係だよッ!?」


ここに来て、新事実発覚だ。

どうやら彼らは、知り合いだったどころかかなり深い関わりがあったらしい。


ヴィヴィアンの濃さなら、影響を受けない方が難しそうだとは思うが……あの荒っぽさの原因がこれなら相当だぞ。

お陰でセタンタには散々振り回されたし、ガノとの関係性の悪さにも苦労させられたし……というか死にかけた?


まぁともかく、これは詳しく聞かないと気が済まない。

優雅にステップを踏む彼女に、俺は絶対に答えさせるという意思を込めて強い視線を送り続ける。


「キャハハっ、そんなに熱い視線を向けられると照れちまうぜ。いやぁ、やっぱ俺の魅力には抗えねぇか〜」

「黙れ絶壁!! 勝手にボケ続けてねぇで、質問にはちゃんと求められた答えで返しやがれ!!」

「カッチーン!! んだとテメェ!? こーんなに顔のいい俺にエスコートされてる分際でよくもそんなことが言えたな!?

胸なけりゃ女じゃねーってか!? 貧乳差別だ馬鹿野郎!!」

「女扱いしてほしきゃまずその口調とかやめろよ!?

あと、俺は別に体型気にしてねーって言ってんだろ!?

ソフィアさんとはえれー違いだ、自己中のクソ道化が!!」

「はぁ!? 湖の関係者は男と見分けつかねぇだぁ!?

余計なお世話だ、不幸少年この野郎!!」

「だからぁッ、言ってねぇっつってんだろうがッ!!

話を聞けや、耳まで絶壁なのかお前は!?」


ヴィヴィアンは相変わらずまともに話を聞かないどころか、この一人称や口調で女らしさを強調してくる。


別にまったく女扱いしてない訳でもないし、絶壁って単語も彼女自身が使ったから真似してるだけなのに、腸が煮えくり返りそうだ。というか、もう煮えくり返ってる。


なんか勝手に1人で延々とボケ続けてるし、勝手に自分の体型を気にしてキレてるし、今まで出会ってきた誰よりも面倒くせぇ。


どっかの誰かみたいに問題ばかり起こしたりはしなそうだが、より話が通じてない気がする。

セタンタもこうなるとしたら、マジで同行したくない。

というか、結局こいつらの関係性は何なんだよ……!?


「テメェら、楽しそうに踊りながら避けてんじゃねぇ!!

さっさと死ね!! ここで今までの恨みをバラしてやるぜ!!」


俺がヴィヴィアンと言い合っていると、さっきまでは空中に浮かんでルーン魔術の雨を降らせていたセタンタが、唐突に俺達の真横から怒鳴り込んでくる。


相変わらず杖を持って、その周りにはいくつものルーン石が舞っているが、降りてきた理由は謎だ。

というか、楽しくねぇし俺まで殺しに来てるみたいな発言するしなんか言葉おかしいしこいつは……!!


「楽しかねぇし、積年の恨みは晴らせやボケェ!!

あと、俺は一緒に脱出しようっていう仲間だよな!?

お前一生審判の間にいようってのか!?」

「だーっはっはっは!! 俺に殺されんなら雑魚だろ!!

そんなんがいたところで意味ねーっての!!」

「それはルキウス・ティベリウスの思考だろ!?

そのせいで処刑王はずっとここにいるんだぞ!! アホか!?」

「キャハハ、そんなあなたに朗報です。

師匠はダンスに飽きましたー」

「朗報って殺しに来てるやつに!? え、死にてぇの!?」


もう、本当に何なんだよこいつら……!!

ここまで来ると、もはや怖いよ、俺は。同じ人間……じゃない可能性もヴィヴィアンにはあるけど、同じ世界に生きている存在だと思えねぇ。


セタンタは暴走しすぎだし、ヴィヴィアンはヴィヴィアンだし、殺す殺されるが軽すぎてトチ狂ってるにも程がある。


「えー? あんたが死にてぇならそれでもいいけど、俺は嫌だぜ? ていうか、俺本体じゃねぇから死なねぇけど」

「お前、何なんだよーッ!!」

「キャハハ! やっぱノリが良いねぇ、面白ぇやつだ。

仕方ねぇから、魅力的すぎる美女である俺様がどうにかしてやるぜ。ほれっ、これやるよ子犬ちゃん」


本当にダンスをやめてしまったヴィヴィアンだったが、杖を回して水の鏡のようなものを作ることで攻撃を弾いて防ぐ。

どうやら、本当に死ぬつもりはないらしい。


疲れ切った俺のツッコミで笑うと、どこからか山のような量の果物を積み上げていった。


「よっしゃ、仕方ねぇからもらっといてやるぜ!」


それを見たセタンタは、相変わらずのチョロさを見せて攻撃をやめる。散々ツッコミさせられたが、ひとまずは助かったようだ。



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