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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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273-純粋で正直な美しさ

他の戦場からも、セタンタが重装騎士と、ガノがテオドーラと、雷閃がウィリアムと戦っている音が聞こえてくる中。


俺とヘズ、ロロも、ヘンリー、シャーロット、ビアンカ相手に苦戦を強いられていた。

もちろん、実力的には円卓の中でも下の方である、ということは知っている。


だが、それはそれとして彼等が強い神獣であることに変わりはないので、かなり翻弄されてしまっている現状だ。

小振りの剣を構えているヘンリー、血のように赤い槍を振り回すシャーロット、素手のビアンカ。


予想外にも、その中でも最も厄介だったのは……


「クロウ君!」

「わかって、る!!」


"ラウンズクランブル"


ヘズの呼びかけに応じながら飛び退く俺に振り下ろされるのは、メイド少女――ビアンカの白い拳だった。

彼女の手にはメリケンサックどころか、グローブすらない。


だというのに、唯一素手で戦うという異質な騎士である自分の価値を証明するかのように、圧倒的な威力を見せている。


俺に当たらずに地面に叩きつけられた拳は、彼女の細腕からは想像出来ないような威力で地面を割り、綺麗なサークルを作り出していた。


ほか2人が真っ当な騎士で、ハンマーのような打撃武器でないことも相まって、異質以上に普通に怖い……!!

もしもまともに食らったら、剣で斬らたり槍で突かれるよりも致命的なダメージを受けてしまいそうだ。


「これで序列10位とかバグってるだろ……!!

くそ、さっき言ってた通りってことかよ……!!」


シャーロットが自分で言っていたように、ビアンカの実力はもう彼女達クルーズ姉弟を超えているようだ。

この3人の中で、最も気をつけるべき相手は序列8位でも9位でもなく10位。中々に終わってんな……


「ビアンカお姉さんばっか見てちゃだめだよっ、お兄さん」

「クロー、ごめん!」


しかも、当然敵はビアンカだけではない。

俺がビアンカから目を離さずにいると、さっきまでロロの力で注意を引き付けていたシャーロットが突然向かってくる。


まぁ一応は俺、ロロ、ヘズの3人対ヘンリー、シャーロット、ビアンカの3人ではあるけど、ロロはサポートなので実質2対3なんだから当たり前だ。


その上、ヘズも音を武器に素手で戦っているので、まともにぶつかり合うとしたら俺だけ。


ロロはともかくとして、普通は術師的な戦い方のヘズの方を優先して倒すもんだと思うんだけど……

実力的には俺の方が弱いのだから、順当だと言えた。


予想通り、姉に呼応するようにヘンリーも俺の方に向かってくるので、ひとまず攻撃を受けないように逃げに徹する。

ウィリアムのような圧倒的な能力も、ビアンカのようなずば抜けた力もないので、正直他の相手よりは気楽だ。


「あっ、逃げないでよー!」

「逃げるに決まってんだろ、1対2だぞ。無理に倒そうとして負けるとか最悪だから、俺は仲間が勝つことを信じて待つ」

「他も全滅する……とは考えないのですか?」

「少なくとも、雷閃は負けねぇだろ」


謎に機械的な動きで繰り出される剣閃をいなしながら、俺はヘンリーの問いに言葉を返す。

いくら雷閃の相手が序列3位のウィリアムだとしても、あいつは無理はしない、任せといてと言ったんだ。


たしかに見えない傷は心配だけど、負けることだけはありえないと信じられる。……まぁ、他はよくわからないし、盲信するのもよくはない。


狙える時には狙いたいと思うけどな……!!


"運命の横糸"


「うわっ……!?」


俺が今の能力の劣化版を使うと、眼前に迫っていたヘンリーは表情を変えて飛び退いていく。


横薙ぎに斬り払った俺の剣は、最初からそう辿ると決まっていたかのように綺麗な軌道を描いて彼スレスレを通っていた。


ヘンリーには当たらないけど、それでいい。

クルーズ姉弟が俺の方に来たことで、ビアンカはヘズを抑えに行っている。


ほとんど邪魔するものもおらず、双子のコンビネーションをフルに活かされているので、俺は見ることに集中して攻撃を躱すべきだ。


というか、双子は交互に攻撃してくるせいで、正直さっきみたいな牽制するくらいしかできない。

ただ、それはそれとしてどんな戦い方をせるのかはもう少し知っておきたいところだけど……


「あっはははー! ヘンリーダメダメじゃん! せっかくのチャンスだったのに、もう猫ちゃん来ちゃったよ」

「ごめん、姉さん。だけど、次は合わせてみせますよ。

相手もぼくと似た力なら、出し惜しみはなしです」


"オラクリオン"


シャーロットに笑われたヘンリーは、ふざけた調子の彼女に真面目な反応をすると、やはり剣を構えた。

瞬間、彼がその身に纏ったのは、薄っすらとしていながらも確かに金色に輝いているオーラだ。


俺のモードブレイブバードと同じような、明らかに身体強化や自分へのいい影響をもたらすような雰囲気を感じる。


これは俺も出し惜しみしてる場合じゃないか……?

ソフィアさん程ではないけど、ギリギリで負けるのもアウトだ。


「神託は下った。このままの状態で邪魔さえ入らなければ、ぼくはきっとあなたを倒すことでしょう」

「っ……!!」


やはり機械的な動きで向かってくるヘンリーは、ロロの念動力など物ともせずに俺に迫る。

むしろ、動かを止めようとするその力を利用し、自分の体を弾き飛ばしているくらいだ。


シャーロットも弟と息を合わせて接近してくるので、これは本当に手に負えないかもしれない……


"モードブレイブバード"


このままの状態で邪魔さえ入らなければ。つまり、俺がより強化されて邪魔も入れば、全然勝てるということだ。

まぁ、ロロの念動力では邪魔にはならなかったみたいだけど……それなら俺自身がやるしかない。


右の碧眼に意識を集中させると、俺はヘンリーと同じように全身にも青いオーラを纏わせた。


2日連続でノーリスクに運を選べるかはまだわからないので、ひとまずは身体能力だけ。向かってくるクルーズ姉弟の動きをよく見ながら、剣を構える。


「ロロはシャーロット!」

「あいさー!」


今のヘンリーはロロの念動力では止められない。

ヘズが援護で放ってくれた音も、まるで予測していたかのような動きで避け、またもその衝撃を利用しているのだ。


並大抵の力ではどうしょうもないので、潔く諦めて少しでもシャーロットを足止めできるように頼む。

しかし、彼女もまたロロより強い人型になれる神獣なので、やはりそこまでの足止めにはならなかった。


ほんの少しだけタイミングがズレた程度で、ほぼ影響のない彼女達は順々に俺に刃を向ける。

今の俺なら、身体能力は負けていない……


シャーロットはまだよくわからないが、少なくともヘンリーの力は身体能力を上げる感じ……

それならやはり、取るべきはどうにか攻撃をいなすこと。


"水の相-行雲流水"


剣に御札から吹き出した水を纏わせた俺は、ヘンリーの攻撃に合わせて流れるような動きで回り、いなす。

若干弾かれたが、その勢いを殺さずに回転したことで追撃は簡単だ。次に迫ってくるシャーロットに向かって……


「っ……!?」


"オラクリオン"


機械的な動きから放たれる攻撃を受け流した俺が、そのままの勢いでシャーロットに剣を向けた瞬間。背後からは、ありえない軌道で再びヘンリーが俺に向かってきていた。


ちゃんといなして来たのに、まるで最初からこの状況だったかのような自然さで、不自然さだ。さっきよろけていたのが嘘のようで、意味不明すぎる……!!


背後からの攻撃とあっては、流石に俺の流れも止まらざるを得ない。急に流れを止めたことで若干体勢を崩しながらも、どうにか彼の剣を受け止めた。


「は……?」

「……神託は下りました。ぼくの体は勝利の未来に動く」

「クローっ!!」


だが、ちゃんと受け止めたはずのヘンリーの剣は、気がつくともう俺の剣から離れていた。それも、防御をすり抜けたかのように剣の内側に……だ。


力強く打ち合っていたはずなのに、力の動き的にありえないはずなのに、彼の剣は俺の腹部に優しく添えられている。

もう、動けない……


"ペシュール"


さらには、俺の腹に剣が添えられたのとほぼ同時に背後からも硬いものが当たる感覚があった。

先端が尖っているので、振り返るまでもなくシャーロットの槍だろう。


彼女とは直線上にはいなかったはずなのに、こんなにも完璧にタイミングを合わせてくるものなのかよ……

斬られて、貫かれて、それで終いか。


「……斬らないのか?」


しばらくしても斬られないので、思わず問いかける。

すると、目の前で俺の前方移動などを抑制している少年は、申し訳無さそうに背後に視線を飛ばした。


振り返るまでもなく、後ろにいるのは赤い槍を突き立てているシャーロットのはずだけど……?


「……えーっと、シャーロット?」

「ん?」

「俺が言うのもなんだけど、刺さないのか?」

「えっとねー、この槍は罪人を裁くんだ。

正当防衛とかを抜きにした、ちゃんとした悪人をね」

「つまり……」

「あなた、やっぱり善い人だねっ!」


"暗雲に差す炎雷(ホノイカヅチノカミ)"


"天上の果実(ガウェイン)"


おそらくはシャーロットが笑顔で俺を褒めてくれた瞬間。

俺達から少し離れた先では、雷閃とウィリアムが引き起こしたであろう灼熱が炸裂する。


木々を一瞬で炭にし、地面を何十メートルも抉り、水面のように波立たせるような、圧倒的な威力の大爆発だ。

あまりにも唐突だったから、肌が焦げるどころか息もまともにできない……!!


「いッ……!?」

「うにゃあー!?」

「ウィリアム卿っ……!!」

「はぁ!? すっごいいい感じだったのに……

爆発オチなんてサイテーっ!!」


動きを止めていた俺達などひとたまりもなく、ほぼ無抵抗に吹き飛ばされてしまった。



急なパロディで草

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