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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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272-得高き騎士

セタンタがアルム相手に苦戦を強いられていた頃。


ウィリアムの太陽によって吹き飛ばされていたガノは、全身を燃やしながらも地面を転げ回ることで、なんとか消化しようと試みていた。


だが、彼に向けられたのは目の前の一帯がまとめて斬られるような規模の炎だ。

今も何十メートルにも渡って燃え続けているので、炎の上で炎を消そうとしているような状態である。


地面に押し付けることで自分の炎も森の炎もまとめて消えても、反対側を消そうと転がればまた炎がつく。

延々と彼は燃え続けていた。


木々も焼け倒れていて、地面も大炎上していて、彼にはどこにも逃げ場がない。円卓の騎士が裁くまでもなく、苦しみは終わらず彼を苛んでいた。


「アガァァァッ……!! んの野郎ッ……!!

ガチで、殺す気なのかよッ……!! クッソ、熱いッ……!!」


いくら転がっても炎が消えないと理解したガノは、しばらくしてからどうにか立ち上がる。

ウィリアムの斬撃を受けた時点でガノの肌は焼かれており、さらに燃え続けているのだから、もう彼の体はボロボロだ。


いくら神秘が丈夫でも、相手もまた強大な神秘でありこの炎も尋常ではない力なので、もちろん軽症では済まない。

血に染まった騎士服も大部分が燃え落ち、彼の肉体すら焼け爛れてしまっていた。


とはいえ、反逆の騎士がこんなことで倒れることはない。

彼は剣の先端を自分に向けると、赤黒い閃光を自らに放出して力技で炎を吹き飛ばしてしまう。


「ゴホッゴホッ……!! 回復のルーン、持ってたか……?」


全身を血だらけにしながらも、どうにか消火に成功したガノは、そのまま周囲にも剣を向ける。

また自分に燃え移ることのないように、最低限の炎を消し飛ばした。


「おお、あったな……流石に」


森を消火しながら懐を探っていた彼は、やがて1つのルーン石を取り出す。それは"ヤラ"のルーン文字が刻まれた、回復のルーン。


それをすぐさま握り砕くと、彼の全身は優しい光に包まれて段々と再生していく。体が回復したことで、燃え落ちていた服もある程度元に戻っていた。


「……はぁ、備えあれば憂いなしってな。ギリギリの状況すぎて思い出す余裕もなかったが、俺が備えてねぇ理由がねぇ。

チッ、どうせなら許可のルーンも貰っとけばよかったぜ」


森と自分の炎を消火して一旦落ち着いたガノは、剣を地面に突き刺して座り込む。ケガは回復したが、やはりダメージは溜まっているようだ。


しかし、ウィリアムによって遠くに吹き飛ばされた彼にもまた、セタンタ達同様に円卓の騎士が向かわされていた。

それを察していた様子の彼は、一呼吸おいてから前を向いたまま背後の騎士に声をかける。


「ふぅー……それで? あなたは何をしにここへ?

やはり、(わたくし)を殺しに来たのですかねぇ?」


彼が呼びかけると、その背後からはカチャカチャという軽い鎧の音が聞こえてくる。岩の陰から現れたのは、かなり背が高く力強い目をした女騎士――テオドーラだった。


ウェーブした髪を揺らしながら歩み寄ってくる彼女は、表情の薄い真面目くさった表情で口を開く。


「……ガノさん」

「何ですか」

「何か食べ物を持っていませんか? お腹が空いて……」

「フン……そう言うと思ってましたよ。どうせ行き倒れていたところを叩き起こされたのでしょう? まぁ少しなら持っていますがねぇ……許可のルーンと交換ならいいですが?」


真面目な態度をしている彼女から飛び出してきたのは、地上の森でクロウ達が助けた時と同じく、空腹を訴えるものだ。


どうやら、彼女が行き倒れになるのはいつものことらしい。

気の抜けるような要求を受けたガノも、振り返りながら慣れた調子で交渉に移っていく。


しかし、当然許可のルーン石というのは、この審判の間では何よりも重要なキーアイテムである。


彼を裁きに来た円卓の騎士としても、自分が出られなくなるという事実を前にした彼女自身としても、そう簡単には受け入れられるようなものではなかった。


盛大にお腹を鳴らしながらも、苦悶の表情を浮かべて悩み苦しんでいる。


「それは……流石に釣り合っていないです。

女王様に怒られますし、ここから出られなくなります。

ここには人民はいないのだから、僕が助けるべき者も‥」

「あーあー、偽善なんてもんはどーでもいいんですよ。

こちらは食料、あなたは許可のルーン石。それ以外では交渉に応じません。決裂したら奪うだけです。あなたも得るか、あなたはただ奪われるだけか。選べや、利他的な偽善者」


この取引は釣り合っていないとして抗議していくテオドーラだったが、ガノはそれを遮るようにして取引を突きつける。

彼女の信念を偽善と吐き捨てると、淡々と食料とルーン石の交渉を推し進め、最終的に睨めつけて脅していた。


だが、相手は円卓の騎士……それも、ガノと同じ序列帯である序列5位に位置するテオドーラだ。

自分が勝つと信じて疑わないガノに対して、困惑したような目を向けている。


「うーん、利他的なのは否定しないけれど……」

「んだよ? 言いてぇことがあんなら聞いてやるぜ?」

「なんで君は、自分が負けることを想像できないのかな?

僕は多分、君に勝てるよ?」

「ほーう……!?」


挑発的に話を促したガノだったが、テオドーラもまた挑発的に笑いかける。余裕の表情を浮かべる彼女に、ガノも凶暴な笑みを浮かべて剣を地面から抜いた。


ガノの序列は4位であり、テオドーラの序列は5位。

単純な順位であれば彼の方が格上なので、彼の反応は当然だ。


とはいえ、序列帯という部分で見れば、2人は同じ場所に位置しているので実力に差はほとんどない。

限りなく対等に近い立場だと言える。


そのためテオドーラも、剣を向けてきた彼に臆することなく剣を抜き、中央に血の十字架が描かれた白い盾を顕現させた。


「"危難を退ける盾(ガラハッド)"の騎士名が示す通り、僕は君という苦難を退けよう。反逆の騎士に天誅を下す」

「ククッ、ちゃあんと騎士の仕事をしていたのに落としたのはそちら側でしょう? 扱いにくいから審判にかけるだぁ?

その苦難も反逆も、原因が俺だけだと思うなよ偽善者ッ!!」


血十字の盾を構えたテオドーラは、ウィリアムよろしく騎士の規範となるような威厳のある態度で裁きを宣言する。


すると、彼女の言葉を受けたガノは、凶暴に歯を剥き出しにしながらフェイを発端に起こった自らの苦難に怒りを見せた。


両手で握った剣からバチバチと赤黒い閃光を迸らせており、ボロボロになった騎士服にも纏わりつくようだ。

それに対して、テオドーラは血十字の盾を神秘的に輝かせながら右手の剣を構えて接近していく。


「僕にご飯を恵んでくださーいっ!!」

「ルーン石を寄越しやがれーっ!!」


"ディスチャージ・クラレント"


お互いが主張を怒鳴り合う中、ガノの剣からはいつものように赤黒い閃光が放出された。それは血のように赤く、しかし血よりも禍々しく怒りに満ちていた。


燃え朽ちている木々を押し流しながら、テオドーラを飲み込んでいく。


"血十字の盾"


だが、神秘的に輝く血の十字架が描かれた白い盾を構えているテオドーラは、ビーム状の剣閃など物ともせずに突き進んでいく。


輝き弾き、すべての悪意を遮断して、怒りの元凶であるガノの目前へとみるみる迫っていた。


――グギュルルルル〜!!


「うるせぇーッ!!」

「き、聞かないで〜っ!?」


テオドーラのお腹から空腹による音が轟く中、彼らは赤黒い閃光の中心で激突した。




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