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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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271-力強き騎士

雷閃が太陽に焼かれ、クロウ達がシャーロット達との戦闘を開始していた頃。


同じように隻腕の重装騎士と対峙したセタンタは、彼の獲物である大剣を攻略できず、苦しんでいた。


「どわっ……!? クッソやりにくいなこのデカブツ……!!」


彼が使う武器は基本的に槍であり、大剣をまともに受けることは難しい。もちろん、リーチや手数ではセタンタが圧倒できるが、相手が着込んでいるのは顔すらも守った重装鎧だ。


たとえどれだけ遠くから手数で攻めても、鎧を貫けなければ意味がなく、隙間に狙いを定めようと集中しても、彼の持つ大剣は隻腕が持つようなものとは思えない程に巨大で、中々にリーチがある。


重装鎧による防御力と、大剣の威力と槍に迫る程のリーチ。

それに加えて、重装騎士は巨体に似合わず素早い動きをしているので、手数も案外あった。


相手から連続で巨大な大剣が振り下ろされれば、セタンタはただ避けることしかできない。

ルーン魔術も重装鎧によって無理やり耐えて接近してくるので、どこまでも相性の悪い相手。


今も鎧でルーン魔術を弾いて迫ってくる重装騎士に、彼は隙を探すように距離を取って目を光らせている。


「チッ、槍は刺さらず狙えず、火も岩も風もだめ……

単純に火力不足ってか? ふざけんじゃねぇ!! 死ね!!」


"L.Y."


槍を使って飛び上がったセタンタは、大剣の間合いから逃れながらもルーン魔術によって石を手元に呼び出し、空中から魔術を放つ。


彼が使ったのは、"ラグ"と"ユル"のルーン文字が刻まれた石を砕くことによって生み出された、水と死のルーンだ。

その手からはヘビのように自由自在に動き回る幾筋もの水流と、黒いモヤのようなものが放出される。


しかも、水流は黒いモヤのようなものを飲み込んでしまい、禍々しい水は鎧を包み込もうと重装騎士に迫っていく。


「……」


しかし、彼は隻腕でありながら大剣を槍のように振り回し、鎧に到達させることもなく消し飛ばしてしまった。

若干飛び散った水滴がかかったようだが、そこまで散らされていればセタンタの制御外だ。


少し鎧から煙を出す程度にとどまり、逆に落下してくる彼に向かって巨大な大剣が襲いかかる。


「ぐっ……吹き荒れろ風!!」


"ラド"


空中では逃げ場がなく、槍で防いでも叩き斬られる。

たとえ斬撃を防ぐことができたとしても、体を支えるものがないので吹き飛ばされてしまう。


そんな中、彼が取った行動はもちろんルーンを使うことだ。

再び1つの石を砕いていくつかの石を呼び寄せた彼は、その内の1つを砕くことで風を吹き荒れさせた。


風は地上に向かって吹き荒れ、大剣を弾きながら自らも空高く飛び上がっていく。だが、重装騎士は弾かれてすぐに構え直しており、すぐさま追撃を加える。


「テンメェッ……!! しつけーんだよッ!!

あと、ちょっとくらいなんか喋れや!?」

「……」


再び大剣が向けられたことで、セタンタは堪らず怒鳴りつける。せっかく大剣を弾き飛ばして空を逃げたのに、すぐにまた敵は迫ってくるのだから無理もない。


重装騎士がずっと無言だったこともあり、またしても空から落ちていきながらキレ散らかしていた。


「んの野郎ッ……魔術師モードだ死ねやオラァッ!!」


"デル・フリス"


とはいえ、もちろんキレて終わりなんてことはない。

やはりルーン石を砕いた彼の右手には、今度は新しいルーン石ではなく1本の杖が現れた。


それはエリザベスのものほど立派ではないが、アンブローズが持っていたものと比べても、負けずとも劣らずなしっかりとした杖だ。


彼はさっきまで持っていた槍を蹴り飛ばすのと同時に、杖を輝かせてその周囲を舞っているルーン石を砕いていく。


"ゲイ・ボルグ"


"L.T.B.S.P.(ラグ.ティール)I.N.H.C,K.R.W.(ハガル.ケン.etc)Y."


その瞬間、重装騎士には空から雨あられと神秘による攻撃が降り注ぐ。セタンタがつま先で蹴り飛ばした槍は、鋭く分裂し、何十、何百もの槍となって。


杖の周囲を舞っていたことで砕かれたルーン石からは、水、刺々しい金属の破片、植物の槍のようなもの、光、氷、風、雷、炎、岩などといったものが激流のように迸る。


しかも、重装騎士には抑圧のルーンもかけられているらしく動きが鈍くなり、雨のような槍も激流のようなルーン魔術もなぜか彼に向かって収束していた。


1番離れた位置から降り注ぐものでさえ、ほとんど直角に曲がるくらいの動きを見せて彼に向かうという異常さだ。

これほどの物量を前にしては、もはや重装騎士に弾く余裕などない。


死のルーンすら含んでいるその激流は、重装騎士が吹き飛ばすそばから押し寄せて、彼を押し潰さんとする。


「……ヌアザ」


だが、避けて時間を稼ぎつつ少しでも防ごうと大剣を振るう重装騎士がポツリと呟くと、神秘の奔流に飲み込まれかけている彼は突然輝き始める。


それも、彼に押し寄せる激流に含まれた光を、軽く打ち負かしてしまうような強い輝きだ。


もちろんただ光るだけではなく、何もなかったはずの右腕には輝く銀の腕が生えてきていた。


"ベティヴィエール・サウエレイント"


ほんの一瞬のうちに腕が現れたことで、重装騎士は既に隻腕ではない。輝く銀の義手を手にした彼は、それに付随するように大剣をも輝かせ、元より巨大なそれをさらに巨大化させていく。


"イグナイト・アガートラム"


彼が握る大剣は、軽く10メートルは超えていそうな程巨大になり、今ならば山すらもバターのように斬り落とせそうだ。

そんな状態なのだから、ルーン魔術など地面に突き立てているだけで防げてしまっていた。


とはいえ、的にされているのは彼なので、やがて横から押し寄せる激流も出てくる。だが、それも大剣を駆け上り、再び握った大剣を振り回せば次々に消し飛んでいく。


自らの数倍ものサイズになった大剣を肩に担ぐ彼は、足を地面に深くめり込ませながらも揺らがずに立ち、同じように着地したセタンタと向き合っていた。


「あーあー、ようやく本気を出す気になったってか?

戦士の俺じゃ相手になんねーってか?」

「……」


ようやく地面に足をつけられたセタンタは、明らかに苛ついた様子で悪態をつく。だが、どれだけ強い感情をぶつけたとしても、重装騎士は黙ったままだ。


さらに神経を逆なでされたことで、彼は杖をガシガシと地面に打ち付けて獣のように唸っていた。


「魔術師として戦っても、こうやって軽く吹き飛ばすんだもんな? 結局何しても火力不足ってか? 死ね!!」

「……」

「何とか言えよ、ゴラァ!? パートナーを呼ぶ以外何も言わねぇってなんだアルムテメェ!! 円卓の騎士なら、庇護下にある人間にくらい優しくしーろーよーッ!!」

「……いや、仕事中だから私語厳禁」

「じゃあ最後まで貫けってんだ!! 死ねッ!!」


セタンタが駄々をこねたことでついに言葉を発した重装騎士――アルムは、鎧をガチャガチャと鳴らしながらシーっという風に口元に指を当てた。


それを聞いたセタンタは、私語厳禁と言いつつ仕事に関係ないことを話した彼に激怒している。あまりにも理不尽だ。


彼はその言葉通り、直前まで地面に打ち付けていた杖の周りに再びルーン石を舞わせていて、凶暴な殺意しかない。

しかし、アルムはそんなことなどお構い無しで、今まで無言だった分を埋めるようにつらつらと話し始める。


「それからね、君はたしかに火力もウィリアム卿よりないけど、技術もソフィア卿よりないんだよね。

いや、僕もウィリアム卿よりないというか、比べる相手じゃないや。なんと言うか、何もかも中途半端というか、どっちつかずと言うか……力任せが過ぎるよね、うん。僕もじゃん。

まるでさ、味方になる相手を次々に処刑していった処刑王のように脳筋でね。ええっと、何が言いたかったんだろう?

やっぱり喋るの苦手だなぁ。だから私語を禁止されて‥」

「グワーッてやったら敵死ぬだろうが死ねェッ!!」


プルプルと震えながら杖を握っていたセタンタは、ルーンの準備を終えたことで爆発し、その怒りのままに魔術を迸らせる。


今まさにアルムから指摘を受けているというのに、彼が放つのは相変わらず力任せな神秘の奔流だ。

ただ炎や光、風などを激流のように放出していて、あまりにも脳筋だった。




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