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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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270-円卓と罪人

「くそっ、ヌンノスは手ぇ貸してくれんのか!?」


一斉に襲いかかってくる円卓の騎士を見た俺は、雷閃が雷で牽制している中、背後のケルヌンノスに助けを求める。

序列1位のオスカーと2位のソフィアさんがいないとはいえ、相手は円卓の騎士だ。


序列3位のウィリアムを筆頭に、俺達よりも大人数。

とても俺達だけで乗り切れるとは思えなかった。


しかし、俺の呼びかけを聞いたケルヌンノスは、あまり興味なさそうにあくびをしながら返事をする。


「いやぁ〜? これもお前らの試練だろ?

オリギーの粘着は度が過ぎてるし、ルキウスは無関係だから止めに入るけど、こいつらならまずは自分でやってみ?

エリザベスも最初は見守るみてーだしなぁ」

「そうかよ!」


彼の返事に怒鳴り返した俺は、今すぐの助力は諦めてこちらを囲んでいる円卓の騎士を見据える。

まずはってことは、最悪の場合は逃がしてくれるくらいしてくれるだろう。


だからって負けるつもりもないが、ひとまず彼の言う通り、勝算が低くても俺達自身でぶつかってみるしかない。

幸いにも、テオドーラはガノが吹き飛ばされていった方向に行っているので、相手は5人だ。


できればウィリアムが行ってくれた方がありがたかったけど、まぁこの場の2番手が消えただけでも良しとしよう。


「ホッホッホ、すまんがわしも戦いはできぬのじゃ。

人数不利になるが、任せてもいいかのう?」

「わかってる」

「ジジイは鹿の後ろに引っ込んでな!!」


レーテーはやっぱり戦闘には参加しないらしい。セタンタに口汚くも配慮が見える言葉をぶつけられると、そそくさと後ろに下がっていく。


彼はケルヌンノスが守ってくれるだろうから、俺達は円卓の騎士を倒さないとだ。相手を選ばせてはくれなそうだけど……多対一にならないだけまだいい。


「牽制ありがとう、雷閃。無理はするなよ」

「あはは。僕の相手的に、それは難しいかもね……!!」


雷閃が牽制を止めると、すぐさま円卓の騎士達は向かってくる。真っ先に来たのは、クルーズ姉弟とウィリアムだ。


犬の神獣であるらしい彼女達は、素早い動きで接近してくると、それぞれ小振りの剣と赤い槍で俺に斬りかかってきた。


槍はヘズによる音の衝撃、剣は俺の剣で防ぐことができているが、ウィリアムの炎剣で斬りかかられた雷閃は、爆発的な一撃に吹き飛ばされていく。


正確に言うと、受け止めてなお勢いが衰えずに、その体勢のまま後退させられて俺達から引き離されている。

確かに一番強いけど、今のあいつには見えない傷があるってのに……!!


「雷閃っ!!」

「大丈夫、無理はしないよ。八咫国将軍に任せといて」

「ほう、貴公が彼の国の王か。

随分な自信、お手並み拝見といきましょう」


もう周りを巻き込まないくらいに離れたウィリアムは、雷閃の素性に目を丸くすると剣からさらに炎を迸らせていく。

全身からも炎が吹き出しており、その火力がすべてパワーやスピードに変わっていた。


"アラウンドサン・ガラティーン"


彼は再び目の前に広がる光景のすべてを焼き斬ってしまったらしく、雷閃が連れて行かれた方向からはとんでもない熱量と光が迸った。


ついさっき、ガノの消し飛ばされてしまった技だ。

いや、テオドーラが追ってるみたいだから、多分無事ではあるんだろうけど。


少し離れているはずの俺ですら、熱に息が詰まって肌も焦げている感覚がある。こんなの、炎の神秘で最上級なんじゃないか……?


「仲間の心配をしている余裕はないですよ、お兄さん」

「なんたって、あたし達が2人を殺すんだからっ!」


打ち合っているヘンリーに声をかけられ、俺は再び目の前の相手に視線を戻す。すると彼は、わざわざ意識が自分に向いたことを確認してから身を屈めた。


わざと俺に押し切らせてから、その力を利用して地面に自分の剣を刺し、その剣を支えに俺の腹を蹴る。

小柄なのを活かしてるな……!!


「っ……!!」

「クロー!」


俺は腹を蹴られて吹き飛ばされるが、ヘンリーはウィリアムと違って子どもで小柄だ。少し浮き上がって後ろに飛ばされるだけで、すぐにロロの念動力に支えられた。


「2対2……ロロくんを入れれば2対3ということか。

いや、君達ともう1人もセットと……そう言われていたね?」

「ひえっ……」


音で周りの様子をすべて察知しているはずのヘズは、俺の方を見ながらシャーロットを音の衝撃で押し潰し、もう1人接近してきていた少女――ビアンカに耳を向ける。


シャーロットを助けようと背後に迫っていたらしい彼女は、いきなり顔を向けられて頬を引きつらせていた。


(わたくし)、気配殺していたと思うんですけど……」

「……太陽の巻き起こした轟音は凄まじかったが、それでも私は音の神秘だ。妨害ではなく環境なら、なんとかわかる」

「きゃあ……!?」


ヘズに音を飛ばされた様子の彼女は、衝撃で髪を揺らしながら倒れ込む。だが、シャーロットとは違いまだ移動していたからか、抑え込まれることはない。


よくわからない動きでヘズの足元に転がり、そのままの勢いで拳を振るった。危なっかしいメイドのビアンカは、武器を持たずに素手で戦う。


見た目にはそぐわないながら、その事実には見合った怪力によって、ヘズが立っている地面は破壊され、シャーロットも解放される。俺はロロの念動力で浮かんでいたので、影響はなしだ。


「っ……!!」

「うわぁ、何事!?」


……どうやら、別に自分の意思で拳を振るったという訳ではないらしい。周囲の地面を砕いたビアンカは、自分が引き起こした出来事に目を見開いて驚いている。


おまけに、パンチの衝撃で巻き上がった岩も彼女に降り注いでおり、悲鳴を上げながらヘンリーに助けられていた。


「……音は聞こえるのに、予測が難しい」

「序列は1番低いはずなんだけどな」


ヘンリーがビアンカを救出して態勢を整えている間に、俺もロロに降ろされてヘズの隣に立つ。

今のうちに周りを見てみると、少し離れた先ではセタンタが重装騎士と戦っていた。


あの3人が他の仲間と戦っているということは、俺達の相手はヘンリー、シャーロット、ビアンカで確定だ。

一応、序列で言えば1番低い者達が揃っているということにはなるけど……


彼の言う通り、この中でも最も序列が低いはずのビアンカが、最も予測不能な相手な気がする。

細腕に見合わない怪力は……まぁ、神秘による身体能力の強化が得意だったりするんだろう。


「へー、円卓の騎士の序列について気になるの?

なんなら教えてあげよっか、お兄さん」

「シャーロット……」


俺達が敵について相談をしていると、ヘズの音から解放されたシャーロットが槍にもたれかかりながら声をかけてくる。

前回見逃してくれたように、今回も命令で戦うだけで、別に敵意がある訳ではないようだ。


一度ヘンリーが態勢を立て直していることもあって、完全に雑談モードになっていた。

この子の性格的に、いきなり奇襲してきたりはしないだろうし……


「そうだな、気になるよ。君らの中じゃ、1番ビアンカが厄介な気がするけど、序列は低い。どういうことだ?」

「それはだねー。大きな格差があるのは、序列の上位と下位みたいな区切りの違う騎士同士くらいだからっ!

序列1位は規格外、2位、3位は別格、4位、5位、6位は最上位とも頑張れば張り合える強者、7位以下は普通に強い!

同じ序列帯にいる騎士同士にそこまで大きな差はないよ!」

「なるほどな」


つまり、俺がウィリアムとガノに感じたのは正しかったわけだ。3位と4位で隣り合った序列だけど、ウィリアムは1つ上のランク帯とも言うべき位置づけだから、圧倒された。


無事であれば、今はテオドーラが相手だから……同格、だな。

雷閃も別格の3位と戦うことになったし、あの2人は大丈夫か……?


「あとあと、ビアンカお姉さんに限って言えば、もう私達より強い気がするのっ! 多分決闘する気さえあれば、もっと序列を上げられると思うんだよねっ!」

「……なんか、やけに楽しそうだな」


俺がクルーズ姉弟のことを信用してしばらく考え込んでいると、シャーロットはさらに言葉を続ける。

ちらりと女王の方を見てみれば、明らかに戦っていない俺達をジッと見つめているのに、気にせず楽しそうだ。


しかし、俺がそのことについて指摘すると、彼女は変わらず笑いながらも槍を引き抜いた。

俺の視線から、エリザベスの様子にも気がついたらしい。


「まーねっ! だって、お兄さん達は善い人だから!

それに、戦いってワクワクするじゃない?」

「いい人なら殺し合いは勘弁してくれよ……」

「それは無理ー。命令だし、ここは審判の間だから。

ほら、ヘンリーの準備も終わったよ。戦おっ」

「……わかった」


赤い槍を向けてくるシャーロットに、俺も剣を構える。

前方には双子の姉、背中合わせになったヘズの前には双子の弟。


要注意人物であるビアンカの動きをロロに注意してもらいながら、俺達は円卓の騎士3人との戦闘を開始した。


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